4
相変わらず、誤字脱字が多いです
場所は都心のとあるビルにある、おしゃれな喫茶店。紅茶が1杯900円とか、頭がイカレてると思ったが一口飲めば、値段に見合う気品の良さが口いっぱいに広がったので、払うかいがあるなと思った。
ちなみにさっきの少女の分も払うのだが、彼女はここの店が行きつけらしく。
店員に「いつもの」と一声かければ、お望み通りのものが運ばれた。後に会計で思い知らされるのだが、彼女の一杯はオレのほんの3倍ほどの値段だったことは、今のオレには分からないことである。
カップを持つと彼女はハッとしたように、オレの手元を眺めていた。
「先輩、その包帯、どうしたのですか」
「うんまあ、やけどしちゃってね。手の甲をやっちゃったから、全体に巻いてるわけさ」
「しかも、両手って。不幸なことが続いたのですね、可哀そうに」
「あは、はは……」
もはや苦笑いしかできなかった。
やけどしちゃったという嘘はもちろん、その場の思い付きだ。今日は適当にふらついて、帰ってこようとしたのに、まさかのイレギュラーな出会いがあったのだ。雅のことがあったばかりだから、あの時の教訓は生かされたと言えるだろう。
「でもって、オレを探していたって何の用事だよ、三守?」
そう、目の前にいる知的で美人系後輩の名前を喫茶店に入って思い出したのだ。
名は、三守蛍。
綺麗に整えられた前髪に、後ろの髪は束ねてあり、何より赤いフレームのメガネが知的さを感じさせるものがある。道理で見たことあるなと思ったのは顔のことであり、私服である彼女の姿を見たことがないからなかなか思い出せなかったのだ
「実は私事何ですが……」
また高校時代の後輩であり、彼女は校内一の優等生でもあり、剣道部のホープでもあった。
そんな優等生な彼女と、全く冴えないオレとの出会いは二年前のこと。剣道部の部員が集団インフルにかかって、その時の試合に出れなくなってしまうという理由で、当時帰宅部だったオレを友人が「二週間だけ頼む」と土下座してきたので剣道部に短期入部した時のコトだ。
運動も勉強もやればそこそこできるようになる、通称「器用貧乏」なオレに、当時新人戦で全国ベスト8に入った三守が指導してくれたのだ。思い返せば過酷な話である。一週間しか練習期間がなくて、そのあと休日もないまま試合に出させるというスケジュール。しかも剣道初心者だったオレに三守は容赦しなかった。
『先輩、その動きはホモサピエンス以下です』
『先輩の危機反応能力はゼロなんですか?もし、刀でやってたいら死んでますよ。ほんと、竹刀で叩かれるだけでよかったですね』
『私も剣道やり始めたのは高校に入ってからですが、その時の私の半分以下しか戦えてませんよ。何のために私は先輩に五日間教えてたのでしょうか』
など、罵倒の言葉は数えきれないほどに。
てか、私は高校に入ってから剣道やり始めたとか言ってたが、後で調べてみたら中学から全国クラスだったことがわかったから、腹立たしい。
試合は初戦敗退だったが、唯一男子団体戦で勝ち星を挙げたのはオレだったため、三守からは試合後に謝ってもらえたのだった。
「まあ、言ってみてよ」
「はい、では、人が燃えて消えるという事件をご存知ですか」
真直ぐ見つめる瞳は、冗談で言ってるわけではないようだ。その証拠にオレはこの眼差しを一度みたことがあり、それが剣道を指導してくれてる時であった。
「いや、ここ最近はテレビも新聞もロクに見てないから知らないな。けどそんな話があるなら、もっと町で噂になってるよな」
「ええまあ、何というか……。こんな話を信じてくれるのですか?」
「そういわれると心外だが、そうだな。少なくとも三守は冗談から話を持っていくタイプでないからな。現実離れした話だと思うけど、科学的に証明できそうだし」
闇とは関わりのない話だと思うが、人が燃えて消えるというのは十分興味がある話である。
「そうですか……」
紅茶を口に含み、軽く深呼吸をする仕草を見せた。
「この事件は一ヶ月前に起きたものです。被害者は私の両親。帰宅した私の目の前で、父と母は黒っぽい炎に包まれていました」
「……」
絶句。
唐突に語りだされた話は、あまりにも重い話。
彼女の瞳には、憤怒が。愁哀が。そして、少しの希望の色が伺えた。
「両親の前には見知らぬ女子高生と思う人が立っていました。けれど私にはそんなことよりも、燃えているのに全く熱がらない両親に駆け寄っていました。
お母さん、熱くないないの?お父さん、熱くないの?と。私はその得体の知れない黒い炎に触れることができず、消火しようともせずに、ただただ両親の名を呼んでいました」
悔しそうに、悲しさを押えるように、自然とカップを握る手に力が込められてるのがわかる。
「私の呼びかけに、父も母も微笑んでくれました。けれど声は私の耳には届きません。口は動き、何か伝えようとしてるのはわかるのに、何を言ってるかわからない。そんな感じで時間が過ぎていきました。
そして幾分か経ったとき、両親の身体が透けているのに気付きました。顔を見ているのに、後ろにあるはずのタンスとかが見えてるんです。その時私は、母の顔に触れようとしました。けれど……」
感情を押えられずに、大粒の涙がこぼれる。
第三者から見れば、女の子を泣かせてるように見えなくもないが、そんなことはどうでもいい。これは間違えなく、事件の臭いがする。
「まるで、雲のようでした。その時にはもう実体はなくて、触ることさえできずに消えてしまったのです。そして気づいた時にはもう、その女子高生の姿は見当たらなくて……」
言いたいことを言い終えたのか紅茶を一口、口に含む。
時刻は正午になろうとしていた。喫茶店は主婦やOLの痴話話などで、盛り上がっていて三守の話を聞いてた人はいないだろう。
けれど、この話を聞いて聊か疑問が残った。
三守の精神状態が落ち着くのを見計らって、彼女に話しかけた。
「それは、なんというか、気の毒に……。けれどよう、三守。そのことは警察に言ったのか?」
「いえ、その時は気が動転してしまって……。一応明日、捜索願を出そうかなと思っているのですが、その前に先輩に話しておこうと思いまして」
「は、はぁ」
彼女はもう、いつも通りのペースに戻っていた。
「私、聞いたんです。高校時代先輩は、アルバイトで探偵じむ……」
「わわ、な、何でそのことを知っている!?」
慌てて彼女の口をふさごうとするも、テーブルを挟んでいるので差し出した手はそのまま宙に残った状態になる。
その話はちょっとした黒歴史だというのに。まあその話を知っているのはとある友人だけなので、犯人はそいつでちがいないだろう。
「そういう過去の武勇伝を知ってるので、私は先輩を探したんです。ねえ先輩、この話を信じてくれたのでしょう?だったら、その女子高生を探し出して欲しいんです」
三守は懇願する。助けてほしいと。
三守は訴える。これは、復讐のためではないということを。
その真意を、目で見て感じ取ったのだ。
オレはどうしたらいいのか、一度視界を遮断する(ブラックアウト)。
彼女は自分の手でその女生徒を探し出そうとしている。警察の手を借りるのではなくて、しかもオレの手を借りて。
うーむ。
「せ、先輩?」
「うん?なんだ」
「その、唸ってますよ。だから、その……、唸るのだけはやめてください」
「わ、悪い。考え事をしてたんだ、オレは三守の話を聞いて逃げていいのかとね。聞く限りじゃこの世の話ではない現象が起きていることが分かる」
まあ、考え事をしてたなんて嘘だ。彼女の両親がいなくなったと聞いた時点で、この話を無かったことにできる程、心がダメになっているわけではない。問題は俺一人の力で、どこまで調べられるかだ。
「三守の真意は受け取ったつもりだ。だから、協力しようと思う」
「わ、わわ、ありがとうございます」
机に頭がつきそうになるまで、頭を下げた。髪の毛で隠れているが、真面目な彼女だからほんとうに頭をつけているのかもしれない。
その光景を見て、微笑ましいなと思っていると
「自称コナン・ドイルの再来、でしたっけ。期待してますよ」
「それ黒歴史の一部だし、当時間違って名乗ってたけど、ホームズの間違いだから!」
その笑い顔は引きつったまま、違う意味での笑い顔となってしまった。