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月聖  作者: 深谷 さかな
始まりの夜
3/8

ある日の夜3

これでプロローグみたいなのが終りです。

次回は1章「黒い炎の魔法使い」というタイトルで投稿したいと思っています。

これからも不定期投稿ですが、読んで頂けたらと思っております


 辺りは暗闇。腕が無いため壁を伝うことはできず、代わりにつまさきが物に当たった感覚を元を頼りに、階段を上った。いくら目が慣れたとはいえ、こんな暗さじゃまともに歩けやしない。何より1週間飲まず、食わずの身。エネルギーを全く使わずにいたとしても、やはり身体自身は悲鳴を上げていた。

 上り終えた頃には、精神がボロボロになっていた。次いで、自然と漏れてくるため息。

「ふぅ、にしてもここは……」

 辺りは普通の一軒家が立っていた。ビルは無いがマンションが幾つか、ここから見渡すことが出来る。しかし、オレの知らない街であることに変わりはない。で、振り返ると普通の一軒家が建っていた。木造2階建てで、深夜だからかカーテン越しに明かりはない。

「オレは確かに階段を上ってきたはずだ。なのに、出てきたところは知らない家の玄関から。意味がわからんな」

 秋だというのに肌寒いのは、冬の訪れを感じさせる。夜空には中途半端に三日月な月と、星々が輝いていた。もし半袖のまま外に出てたら、鳥肌もんだよ、コレ。と、身震い。

「それは、その家が偽物だからよ。偽物というのは格安物件みたいじゃなくて、家そのものがフェイク、みたいな?」

「何がみたいな?だよ!

 ようするにオレ達がいたのは地下室であって、あの家は地下室があることを隠してるってことだろ」

「ん、そよこと」

 話してて思うが、コイツ、小動物みたいなところがあるよな。見た目は可愛いのに、懐いてくれないみたいな感じだ。

「じゃ、どこに行くんだ?見たところオレの知らない土地みたいだし。右に行けばいいのか、左に行けばいいのか、さっぱりわからん」

「そうね、じゃあ右から行きましょう」

 言ってすたすたと独りでに歩いていく。

 む、意外に歩く速さがあるな。

 まるで盲導犬のように、先陣を切ってオレを案内する。といっても目的地に連れて行くだけで、会話はなかったから盲導犬そのものと言える。だからオレは知らぬ街の夜景を見つつ彼女の背中を追い、彼女は前だけを見て歩いていた。

 深夜だというのに店はどこも開いていて、どこも客で埋まっている。サラリーマンから大学生まで、老若男女。酔っていて、周りを気にすることなく店に居続けていた。

 どのくらい歩き続けたんだろう。結構歩いているのに、店に入ろうとしない。先程からコンビニや、ファミレスなどあるのにだ。それこそ店に客がいないところだってちらほら見えてるのに。

 別に疲れたとか、お腹が空いて倒れそうという理由で店に入りたいのではない。

 ただ、ここにいる人たちが放つ見えない何かが、この街を汚している気がしている感じがして、気持ちが悪いのだ。淀んでいる感じがするけど、澄んでいる感じもする。例えるなら臭い匂いに、甘い匂いが混じっているような。

「おーい、セツナー。そろそろ目的地に着いてもいい頃なんじゃないか。てか、何処に向かってんだよ」

「もう少しよ」

 雑音の間から聞こえる声は、近くにいるのにほとんど聞き取れなかった。だからオレも黙ってついていくだけ。

 ほどなくして。路地裏みたいなところに行きついた。

 さっきまでの雑音はなく、静まり返っていた。その代わりにオレの嫌なあの空気感がさらに増したのがわかる。最初のうちは気のせいだと思っていたが、ここまでひどいと何かが原因であることは間違いなさそうだ。

 セツナは歩みを止めると、くるりこちらを向いた。

「なに、愛の告白でもしてくれる感じですか?」

「ええ、そういったところね」

 冗談で言ったつもりが、スルーされてしまった。

「愛の、ではないけれど……ねぇ、今ここにいてどう感じてるか感想を聴かせてくれないかしら。告白はその後よ」

「まあ、気持ち悪い雰囲気ですよね。路地裏だからとかじゃなくて、もっと根本的に淀んでいて澄んでいて、矛盾した感じが嫌なんだよ。あ、無秩序って言う言葉がしっくりくるかも」

 思いつきで出たその単語は、本当にこの感じにピッタリだった。気分はもうリバースしそうだというのに、自然と蒼い表情でドヤ顔。

 出るモノは体内なかにないけどね!

「なら宵は、私たちの仲間ね」

「私たちの仲間入り?それって組織的な意味なのか」

「いいえ、単体的な意味よ。正確には生物的な意味」

 セツナは表情一つ変えない。むしろ無表情で、冗談で言っているようにも見える。

「単体的ってなんだ?」

「モノ分かりが良いかと思ったけど勘違いみたい。ホント、宵って面倒くさいわ」

 無表情が、心底面倒くさそうな顔に。本人目の前にいんのに、失礼な奴だな。

 ……とは言えず、こちらとて気持ち悪いから早くここから移動したわけだ。ここは我慢して彼女の言葉を聴き入れる。

「良い?単体的っていうのは、ヒトとか、猫とか、生物学上に分けられたことをここではいうの。だからさっき、生物的とも言ったんだけど。

 宵は今人間じゃなく、ヒトになったの。ようは、ただの人間じゃなく進化した人間になった、とでも言っいておきましょうか。フフっ、その証拠にほら。腕を見てご覧なさい」

 何かと思いつつも視線を腕の方へ……。

「う、腕が生えてる。な、なんで……」

 驚きながらも、本物かどうか見ても分かんないから確認するように両腕を触る。肌の感触。人の体温。確かにホンモノだ。

 確かに無くなった後も腕があるという感覚が残っていた。セツナの言葉にイラッときた時とか、手が無いとわかっていながらも、拳を握っているイメージはあった。自分には腕がまだ生えている。けれど実際はないという感覚が嫌で、見ないようにしていたがホント、いつの間に!

 と喜んでいるのも束の間。暗くて良くわかんなかったけど、生えてきたのは普通の腕ではなかった。

「でもさこの腕、黒くね?黒人とかの黒さじゃなくて、ザ・黒みたいな色合いな感じ」

「はぁー。それが進化した人間になった証拠。宵はもう普通じゃないの。アナタの腕は、進化する過程で闇に呑まれたのよ。この空気感が嫌なのも、ソレが原因」

「は?闇に呑まれただって?バカ言ってんじゃねぇよ。

 何、闇って。セツナ、頭の病気じゃないのか?あんな地下室で住んでるんだろ。そりゃ頭も病んじまうよな」

「バカにしてきたから、後の説明はテキトーにやるから。闇はこのさい、進化したからおまけに付いてきた能力が備わった、て思ってくれれば良い」

 改めて五体満足になった感動を覚え、何も考えられない。何か言ってるのは分かったけど、おおまかな内容しか頭に入ってこない。

「ふーん、じゃあオレみたいのが他にもいるわけだ」

 闇に呑まれていようと、腕が生えてきたという事実は素直に嬉しかった。

「無秩序って言ってたけど、私はソレを宵が感じるかどうか知りたくて、ここに連れてきたの。それで、お願いがあるのだけれど……」

 セツナは背を向ける。背からは、緊張感が感じられた。

 無秩序の中に、張りつめた氷のような空気がここを漂う。

 きっと大切な頼みごとなのだろう。それこそが本題である、告白。

 ここは薄暗い路地裏。道は狭いし、ゴミ箱があって臭いもする。一歩進めば、人々が蔓延るオレの苦手な空気が漂い始めるだろう。人がいないということ以外、告白には向いてない場所だ。

「アナタ、さ」

 月に照らされた綺麗な銀髪が、振り向きながらなびいた。

 ホント、この周りの淀んだ空気に似合わない、一輪の花のような美しさ。

「この無秩序で淀んだ世界よるを変えてみない?」

 聞いたとたんに感じたのは何か。

 今までに感じたことのない、鳥肌が立つようなこの感覚は何だろう。

 決して強い口調で言ったわけでない。ただ彼女は普通に言っただけ。なのに、一言一句が身体のしんまで響いてくるような感覚。

 嗚呼、きっと彼女のためにオレは選ばれたんだ。

 今までのオレに力がある様には思えない。けれど今は、闇がオレを呑みこみ力を授かった。どんな力かは分からないけど、彼女の為にある力なのだろう。

 目を閉じる。

 ……彼女の言葉を信じてみよう。彼女の言う世界よるを変えて、新しい世界よるを見てみたい!


 ここまでがコトの始まり。

 闇の世界で生きていく理由となった序曲はじまりだ。

 演奏は始まったばかり。ここからが本当の人生きょくの盛り上がりなのだから。

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