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月聖  作者: 深谷 さかな
始まりの夜
2/8

ある日の夜2

 聞いたことをまとめると。

 オレの腕は生え換わるため、勝手にとれてしまい。その前後の記憶がないのは、オレ自身が記憶を消したからであって。そんな両腕がなくなって、公園で血だらけになっていたオレを彼女は自宅まで自分一人で運び、手当をしてくれて。その代償として、オレのアパートの部屋を売り払って、彼女の金にしたそうだ。

 ……納得できるわけがない!

 大体その話を聴く前に、顔を合わせたのだがオレの知らない顔だった。少女の方も、公園で見かけるまでオレのことは見たこと無かったそうだ。そんなお互い知らないのに、言っていることを信じろと言っても無理がある。

 と思っていたのだが、彼女の顔に免じて信じて見ようかなという、自分がいるのも然り。

 だってオレの好みだし、なにより可愛過ぎるんですよ?

 キメ細かな白い肌に、銀髪セミロングのストレート。所々にある内巻きがまた、たまらないアクセントになっていた。背丈も大き過ぎず小さすぎずの、160センチくらいだし。極めつけには、あの黒い瞳。もしかしたら、日本人とのハーフかもしれない。

 といった具合に、性格さえ除けば見た目申し分のない少女なのだ!

「で、あなたの名前は?」

 オレはベッドの上で。セツナは椅子に座って、紅茶を飲みながら会話をしていた。

「そういや、オレはまだ名乗って無かったか。此伊(これい)

(よい)、でしょ。今どき珍しい名前よね。それに、此伊なんて名字聞いたことないし」

 紅茶を啜る、セツナ。実に美味しそうだが、両腕のないオレは飲めないし、今はそんなことどうでもいい。

「なら聞くな……ってなんで知ってるんだよ」

「なぜって、私はアナタの保険証とかを見て、家を売り払ったのよ?

 知ってて当然でしょ」

「……」

 二の句も無い。何が悲しくて、アカの他人に家を売られなきゃいけないわけ?この国の不動産管理の杜撰さに、心配になってくるわ。

「だから次からアナタ、じゃなくて、宵って呼ぶから」

「そんなもん、好きにしてくれ。オレもセツナって呼ぶし」

 紅茶がなくなったのだろう。セツナは席を外すと、少し離れたポットを取りに行った。戻ってくるとカップと共に、ミルクも持って来ていた。ミルクの量は、ペットボトルのキャップほど。

 そのミルクを回し入れ、マドラーでくるくる。おしやかに一啜り。

 喉が渇いてきたな、オレ。

「ちなみに宵は、腕が無くなる前までの記憶はどこまであるの?」

「詳しいことは何にも覚えてないな。強いて言うなら、10月10日にカレンダーを見た記憶ならある」

「そう、私が宵を拾ったのは10月11日になったばかりの、午前1時頃よ。今日が18日だから実質1週間ほど寝ていた、てことになるわね」

 まあ私立大学の1年生として、華やかなキャンパススクールを送ってる歳なのだが、なんせ金がないわ、両親がいないわ。学校側からしたらやっかいものだし、親族は死んだり、連絡先を知らないおかげで、こんなに寝ていたとしても、誰からも心配されていないのだ。

 その証拠に。

「この1週間で、宵の携帯に連絡が来たのは1回。それも大学からの、授業料払わないなら退学メールだけ。そこまでくると、正直可哀そうに思えてくるわ」

 とか言って、クスクスと笑ってるし。事実だから、反抗しようがないんだよな。

「ほっとけって、それより今何時なんだ?この部屋に、窓がないから夜か朝かすらわからん」

「えっとね、宵の携帯を見る限り、23時よ。私、時間を気にして生きてないから、時間という概念がないのよね」

 だって、体内時計が優秀だから、とか何とか。理由としては、ちょっと常任じゃない感じがするが気にしない。そういえばコイツと話をしてるうちに、傷口のイタみは引いたみたいだ。

 少しずつ飲んでいた紅茶を一気に飲み干す、セツナ。それでもお淑やかに。

「それはそうと、宵。お腹は空いてないの?」

 考えてみれば、1週間も食事を摂ってないわけだ。それはもちろんお腹が空いているはずなのだが。

「いろんなことが有りすぎて、そんなこと思わなかったな」

 言われて初めて、脳が食事を摂れと、促してくるのがわかった。急に腹減ってきたな。

「何か作ってくれるのか?」

「まさか、私はこう見えて料理は一切できないの。だから、外まで買いに行きましょ」

 いやいや、見た目通りですから。

 席を立つと、セツナは着替えることもなく、丸テーブルに置いてあったポーチだけを持って暗闇に消えて行った。

 ……と思ったら戻ってきた。

「宵も一緒に、行くのよ」

「えー、オレ両腕ないんだけど」

「今に始まったことじゃないわ、それと、着替えも買わないといけないから」

 いや、待て。おかしいだろ、それ。

「オレの家にあった服は?結構あったけど、どうした」

「それらも全て売り払って、私のポケットマネーに」

 なんだコイツ。顔は可愛いのに、中身が汚すぎる。ギャップ萌えみたいな言葉を聞く事があるが、ここまでくると萌えない。

 こうなってしまっては仕方なので立ち上り、玄関があると思わしき暗闇の方へ歩いていく。

「それと、私が座っていた椅子の後ろに上着があるから、それを羽織るといいわ。両腕がないヒトなんて深夜とはいえ、気味が悪いわ」

「そりゃ、ご親切にどうも」

 少し戻って、その上着を取りに……。

「おい、セツナ。腕がないからとれないし、着れないぞ」

 数秒後、暗闇から現れたセツナさん。ホント、腕が無いって不便だね!

 面倒くさそうな顔をしながらも、仕方なくオレに上着を着せてくれた。

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