出会い
舞台裏――。
前の団体の演奏が終わる。
鳴りやまない拍手。
「どうぞ」と係の生徒が言う。
舞台に入る。
周りを見渡せばいろいろな制服を着た生徒がせわしなく動く。
席に着く。
照明がつく。
とっても熱い。
アナウンスが入る。
「プログラム14番 青海高等学校。 指揮は金木浩史です。」
顧問が入ってくる。
見渡す。
先生が手を挙げる。
僕のすべてをかけた7分間が始まった―――――。
その3カ月ほど前。
僕はこの学校の吹奏楽部に入部した。
仮入部と呼ばれる楽器体験で始まった僕の吹奏楽ライフは、
入部3カ月でBチームとして夏のコンクールに出ることになってしまった。
4月。
中学入試に合格しこの学校に入学した僕は、初めから吹奏楽部に入ろうと決めていた。
そこで、仮入部初日から、吹奏楽部が活動する芸術校舎へ足を運んだ。
比較的大きな通りが北にあるこの学校は、南にいくほどうっそうと緑が覆っている。
だから、この学校で一番南にある芸術校舎は、新入生には近づき難い雰囲気を
放っていた。意を決して入ってみると、いきなり「こんにちは!」
と挨拶をされた。何と返せばよいのか分からないままおどおどしていると、
「何?仮入?
それならまず2階に上がって、」
と案内されるうちに、分厚い木の扉の「音楽教室」と書かれた部屋に着いた。
案内されると教室の一番奥――右端に整然と並べられた椅子があった。
「あっ、待って。ここに名前を書いてね。」
扉の横の机の上に置かれた、ルーズリーフには、学年、名前、経験楽器を書く欄があった。
「で、あそこの椅子に座ってね。」
といわれ、音楽室にいる先輩たちの目線を受けながら、椅子に座った。
音楽教室の中では、ジャージを着た先輩や、制服姿の先輩がいた。
どの先輩も、まじめに練習しているようで、サボっている姿はみられない。
ただ気になるのは、2重窓という密閉空間が生み出す……
「ちょっと臭いかも……」
とつぶやいた。
初めは空席が目立った椅子も、次第に埋まってきた。
周りを見渡すと、男子の姿はほとんどなく、女子がほとんどだった。
「はい。では、共同講義室へ移動してください。」
何が「はい」なのか分からないまま、先輩に言われるままにその『共同講義室』へいった。
――芸術校舎の2階は、音楽教室を含めて、4つ部屋があり、
西から、音楽教室とそのそばの楽器庫、廊下の準備室、横長の共同講義室がある。
さらに奥には、書道室があった
――が、先輩によって、強制的に共同講義室へ連れてこさせられた。
共同講義室には、さまざまな色のジャージやシャツを着た先輩達と、楽器がずらっとあった。
「これから、仮入を始めてください。」との声のもと、先輩達がおしかけ、自分のパートへと
勧誘していった。
――仮入部、通称「仮入」は、この吹奏楽部の場合は、4月~5月の間行われ、
ゴールデンウィ―ク後の最初の活動日に、晴れて入部することが出来る。
仮入は、15分ごとのローテーションで、4:00~5:00の1時間行われた。
コルネットを経験していた僕にとって、仮入の段階で金管楽器を吹くことに、
苦労はしなかった。だが、経験していて楽器であるはずのトランペットは避けた。
―もうあんな思いはしたくない。
あの日のことを思い出すと、今でも体も心も重くなる感じがする。―
気持ちをきりかえ、
僕は、トロンボーンを手に取った。思ったより、楽器は軽く、すぐになった。
「この楽器イイかも」とおもった。夢中になって吹いているうちに、15分が経ち、
次の楽器へ向かった。
――部屋の壁沿いに立てかけてある銀色の楽器。ユーフォニアムだ。
そして、その横には、女子の先輩が座っていた。
自分の本能のが僕にささやいた。
「かわいい。」
そんな気持ちになったのは初めてだった。
顔を赤くし、緊張しながらすごした。
「はい。これ。こうやって持つんだよ。」
言われた通りに吹いてみると、意外と音が鳴った。
―――これが僕と、ユーフォニアムとの出会いだった。
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