第12話 それから
それから一ヶ月後、ぼくは正式に軍所属の治癒師として働いていた。
ぼくの持つ希望、『治癒の輪』はその後の調査で正式に治癒魔法の一種として認められ、かつ効果の高さを見込んでぼくには特例で治癒師免許が与えられた。
『治癒の輪』は現状、あらゆる負傷を完治させる。
病気などは元から治癒魔法による効果を受けないため、その点は変わらないけど……反面、負傷であれば全て治すことができた。
擦り傷、切り傷、骨折、靱帯の断裂…‥果ては四肢の欠損に至るまで。内臓の損傷だろうと体表の損傷だろうと、そこに区別は一切なく。
ぼくが一言、『治癒の輪』と呟くだけで、あらゆる怪我は最初から無かったかのように消え去る。
これは魔晶獣掃討作戦の最中に、アクシデントに見舞われた戦闘員を治療した時に分かったこと。思えば重症者に『治癒の輪』を使ったのはその時だけかな。
そして現在ぼくが『治癒の輪』を使っているのは、ついさっき魔晶獣との戦闘を終えた戦闘員全員に対して。
これは怪我の程度関係なく全てを治せるから……ではない。あらゆる負傷を治せるからといって全部ぼくが治療してしまえば、他の治癒師が経験を積めなくなる。そのため『治癒の輪』の使用に関しては一応の決まりが設けられた。
だからこの空間にいる戦闘員さんたちは、全て治療を終えた後。
そして肉体的に健康である人に『治癒の輪』を使っているのには、もちろん理由がある。
それはこの能力が治癒魔法の中で唯一、肉体だけじゃなくて、精神体も治癒することができるから。
肉体の損傷はなくても、ここにいるのはつい先ほどまで戦っていた人たち。戦闘に際して魔力を消耗している状態。
そう、精神体を治療できるということはつまり、そこに流れる魔力にも作用するということ。
戦いに魔力を使わないということはあり得ない。遠距離から魔法で攻撃するのを得意とする人もいれば、近接戦闘を好む人も肉体に魔力を纏って戦うから、必ず魔力を使うことになる。
というわけで魔力を消耗した戦闘員と、その治療に当たっていた治癒師の両方に、魔力を回復させるために『治癒の輪』を使っている。
それにぼくの『治癒の輪』は肉体と精神体に作用するからか、疲労も治すことができた。
……なんというか、雑に便利な能力だね。まあすごく助かるんだけどさ。
とはいえ希望と呼ばれる異能は、どれも現代の魔法技術を上回る性能ばかりなため、ぼくの能力だけが特別というわけでもないんだとか。
それこそセルムの町にいる人の中にも、希望所有者はいたりする。
「お疲れ様です、リリィさん」
「ルードくんもお疲れ様」
ぼくに親切にしてくれるルード・アルファニウス隊員も希望持ちの一人。
ちなみに敬語はやめてほしいとのことで、フランクな話し方にしている。
あと、彼が初対面なのにぼくのニックネームを呼んだことに関しては、普通に勘違いだったらしい。
小さい頃にお世話になった銀髪の女性もリリィと名乗っていたため、見た目がすごく似ているのもあって間違えてしまったのだという。
考えてみればそれが当然か。なんなら日本人のぼくにリリィなんてあだ名が定着している方がおかしいし、この世界ではリリィという愛称の女性も少なくないんだと思う。
というかこの町にも銀髪のリリィさんという女性は、探せばいるだろうし。
それとルードくんはぼくのあだ名以外なにも知らなかった。むしろぼくの方が質問されたし、本当に昔会った女性と似てただけなんだろう。
(……思い出のお姉さんと似ているぼくが、元は男だと知ったらショックだろうな)
ルードくんにはぼくの元の性別がバレないようにしておこう。何より彼のためにも。
そんなことを考えていると、ぼくとルードくんに通信が入る。
この世界の技術力で作られた、スマホのような多機能型魔道具……現代魔法学としては魔道具じゃなくて魔器というらしいけど、なんか可愛い響きだよね。女の子の名前みたい。
ともあれぼくとルードくんの多機能型魔器が変形して、ミム大隊長の声を受け取った。
「重要な話があるから、司令室へ急ぐように」
短い言葉に、二人してどんな用事だろうかと首を傾げながら、ぼくたちは治療室から出て、指定された場所へと向かう。




