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深海勲章  作者: 伊阪証


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第一部「ノーティス・ノーチラス」後編

仕方ないじゃん一部だけで字数制限引っかかると思ってなかったもん。(12万字)

縦の先端が入口みたいに向きを変えたまま、毛布の上の空気を測って揺れている。揺れの幅が、横たえられた体の浅い呼吸と揃う。揃うたびに粉の粒が沈み、沈んだ輪郭が縦の根元を太らせる。太くなった根元は盛り上がらない。床の模様だけが消えていく。消える溝が一本増えるたび、狭い区画の幅が目に見えないところで削られていく。

毛布の縁はすでに黒く沈んで固定されていた。引こうとすると布の繊維がきしむ前に、引く指の腹の感覚が薄くなる。薄くなるのに痛くない。痛くないまま指だけがそこに置かれる感じがして、指が動きを止める。止めた瞬間、縦の先端がほんの僅かに下へ角度を作り、布の上の空気の重さが一段増えた。

誰かが医療箱からハサミを取り、刃を毛布の端へ当てようとして止まる。止まったのは恐怖だけじゃない。刃先の白い粉が、触れていないのに一列だけ消えた。消えた粉の下から暗さが覗き、覗いた暗さが刃の影をなぞって毛布の縁へ回り込もうとする。回り込む前に、ハサミが引かれる。引かれたハサミの金属の反射が赤い光の中で一段沈み、沈んだ反射の端が床の消えと同じ死に方をする。

操作台の下、床の点々が一拍遅れて列に揃い始めた。列はまっすぐではない。人の足元を避け、避けたつもりの場所へ先回りするように曲がる。曲がった列が毛布の縁へ寄り、寄ったところで粉が沈む。沈んだ粉の中心から黒が覗き、覗いた黒が毛布の沈みと繋がり、繋がった分だけ毛布の固定が強くなる。

外で泡が爆ぜる。艦が微かに揺れ、天井の配管の継ぎ目が短く鳴る。鳴りの直後、配管の影の下で黒い点が一つ落ちた。落ちた点は跳ねずに床へ張り付き、張り付いた瞬間に縦の根元へ細い筋を一本伸ばした。筋が繋がると、縦の輪郭が赤い光の中でも鋭くなり、鋭くなった先端が布の上の空気へ、いよいよ降りる手前の角度を作る。

「動かすな」

声は小さい。だが言い終える前に、横たえられた体の胸が一拍止まった。止まった胸の上で毛布は動かない。動かないのに、縦の先端が止まった呼吸の「穴」を測るように揺れをやめる。やめた揺れの代わりに、先端が静かに下へ降りた。降りる速度は遅い。遅いのに確実で、確実さが嫌だった。

毛布の上に、黒い沈みが一点だけ生まれる。生まれた沈みは染みではない。布の反射がそこだけ死んだ。死んだ反射の点から、布の繊維の向きに沿って細い線が伸びる。伸びる線が縫い目を拾い、拾った縫い目が一列だけ見えなくなる。見えなくなった縫い目の下で、横たえられた体の胸がもう一度だけ上下しようとして、途中で止まる。

止まったところで、誰かが毛布の上へ掌を置こうとして、置く前に引っ込めた。引っ込めた掌の中心が痺れて白い。白いのに粉が付いていない。白さを見た本人が目を逸らし、逸らした先が窓へ向く。窓の外灯は黒に食われたまま、白い泡だけが薄く走っている。走った泡の切れ目で、太い影が一瞬だけ跳ね、長い腕がほどける。ほどけた隙間にクジラの頭が突っ込み、突っ込んだ瞬間に外板へ硬い振動が来た。

振動が来た瞬間、縦の先端が一度だけ揺れた。揺れの幅が呼吸の幅ではなく、外から来た揺れの幅に合わせて大きくなる。大きくなった揺れで、毛布の沈みが一拍だけ薄くなった。薄くなった一拍を逃がすように、二人が横たえられた体の脇へ腕を差し込み、体ごと毛布から引き剥がそうとする。引き剥がすと粉が舞う。舞った粉の粒が一斉に沈み、床の列が太る。太った列が人の膝へ寄ろうとして止まる。止まったところで、縦の根元がまた濃くなる。

それでも体は動いた。動いたのは毛布ではなく、体の方だ。毛布は床へ貼り付いたまま残る。残った毛布の沈みが一点から広がり、広がりが布の中央へゆっくり進む。進む暗さは、布の下に何かを閉じ込めるみたいに見える。閉じ込められる側の体は、毛布から離れた瞬間に胸が一度だけ大きく上下した。上下のあと、呼吸が戻る。戻った呼吸の音が喉で鳴りそうになって、鳴る前に飲み込まれる。

「次だ」

短い声。次の隔壁へ向かう。床は粉が薄い。薄い粉の下で模様の消えが点々と続き、その点々が列になりかけている。列の向きが隔壁の足元へ揃う。揃う前に取っ手へ手が伸び、伸びた掌が取っ手を掴む。冷たさが来ない。痺れだけが来る。痺れが指の力の感覚を抜き、抜けたまま回す。回るはずの音は出ない。出ないのに、床の列が一拍だけ脈を打つ。

隔壁が開く。空気が流れ込み、粉が引かれて舞う。舞った粉の隙間で、さっき残した毛布の暗さが奥で一段濃くなったのが見えた。見えた直後、こちらの床の点がまた一つ沈む。沈んだ点の中心が縦へ伸びる気配を作る。気配が立つ前に体を滑らせて隔壁を越える。越えるとき、切り口を押さえる手首が一瞬だけ震え、震えた指から粉が落ちる。落ちた粒が縁で沈み、縁の反射が死にかけて止まる。

隔壁を閉める。閉まる途中でぎりと鳴り、縁がほんの僅かに戻った。戻った隙間へ何かが薄く入ろうとして、入る前に外の衝撃が艦を揺らし、縁が一瞬だけ狭くなる。狭くなった一瞬で薄いものが挟まれ、挟まれたのにちぎれない。ちぎれないまま震えて、震えが縁の黒い沈みに伝わる。沈みが脈を打つ。脈のあと、薄いものが引き戻されるみたいに消え、粉だけが縁に残った。

次の区画は、窓がない。代わりに小さな覗き窓付きの扉が並び、床の溝が整っている。扉の一つに、古い金属の札が付いていた。札の表面は傷が多く、赤い非常灯の光がそこで歪む。歪んだ光の中で、刻まれた文字が見える。ネモ。文字の溝に白い粉が入り込み、粉がそこだけ沈み、沈んだ粉の下で文字の反射が死ぬ。

覗き窓のガラスは曇っていた。曇りの向こうに、椅子の背と、背に沿った影が見える。影は動かない。動かないのに、艦の揺れと同じタイミングで影の輪郭だけが濃くなったり薄くなったりする。濃くなった瞬間、椅子に座った何かの胸の高さが、こちら側の呼吸の高さと揃う気がした。揃った気がしただけで喉が締まり、誰も息を吐けなくなる。

その沈黙の中で、床の粉の粒が、扉の前でだけ一列沈んだ。

観察明け、最初の軽いトレーニング再開。

扉の前でだけ、粉の粒が一列沈んだ。

沈んだ列は札の下から始まり、床の溝を拾って扉の下端へ向かう。向かうのに盛り上がらない。盛り上がらないまま、溝の光だけを殺していく。非常灯の赤が当たっても色が変わらず、赤の中でそこだけ輪郭が鋭い。

札の刻みの中に入っていた粉が、さらに沈む。沈んだ粉の下で「ネモ」の溝の反射が死に、文字が一段暗く見える。暗く見えるだけで、削れた傷の深さは変わらない。変わらないはずの金属の匂いが、ここだけ薄い。

覗き窓の曇りは取れない。取れない曇りの向こうで椅子の背が見え、背に沿った影がある。影は動かない。動かないのに、艦が揺れるたび輪郭だけが濃くなったり薄くなったりする。濃くなる瞬間、影の胸の高さがこちら側の呼吸の高さへ揃う気がする。揃った気がしただけで喉が締まり、息を吐けない。

吐けない息を、誰かが飲み込んだ。飲み込んだ喉の鳴りは小さい。小さいのに、扉の下の沈んだ列が一拍遅れて脈を打つ。脈のあと、列が一センチだけ太る。太った縁が扉の下端を舐めようとして止まる。止まったのは、扉の前にだけ粉が厚く残っているからだ。だが厚い粉が沈む。沈む速度が遅いのに確実で、その確実さが嫌だった。

外で泡が爆ぜる。鈍い衝撃が艦に届き、床が微かに持ち上がって戻る。戻った床の粉が滑り、滑った粒が扉の前へ集まる。集まった粒が沈む。沈む中心から暗さが覗き、覗いた暗さが列を延長する。延長は床だけじゃない。扉の下端の塗装の反射が、そこだけ死に始める。

取っ手は古い。握りの部分に削れた溝があり、溝に粉が付いている。付いている粉が指跡の形ではない。丸い粒がただ溝へ集まって、集まった粒が沈んでいる。沈んだ溝の縁だけが黒く見える。黒く見えるのに、表面は乾いている。

誰かの手が取っ手へ伸び、途中で止まる。止まった指の先が震え、震えが粉を落とす。落ちた粉の粒が扉の前でだけ沈む。沈んだ粒の中心が、扉の下の列へ引っ張られるみたいに寄っていく。寄った分だけ列が太り、太った列が今度は扉の継ぎ目へ向けて縦に細く伸びる気配を作った。

気配が立つ前に、艦がもう一度揺れた。揺れは短い。短い揺れの瞬間、覗き窓の曇りの向こうの影が、ほんの僅かに前へずれたように見える。ずれたのは影ではない。曇りの膜の濃淡が揺れただけだ。そう思おうとした瞬間、取っ手の反射が一段沈んだ。沈んだ反射の中で、自分の指の形が映らない。

伸びかけた手が引かれる。引かれた手首の内側が痺れ、痺れが指へ走る。走った痺れが指の力の感覚を抜く。抜けた感覚のまま手を握り直すと、握っているのに握っていないみたいに薄い。薄さの上で、口元が勝手に息を吸おうとして止まる。

止めた息の穴を、覗き窓の向こうの影が測るみたいに輪郭を濃くした。濃くした瞬間、扉の下の列が一拍だけ脈を打つ。脈のあと、扉の継ぎ目の粉が一列沈み、沈んだ線が取っ手の根元へ向けて伸びる。伸びる線は扉の上を這わない。塗装の模様だけを消し、消えたところから反射が死んでいく。

「……開けるな」

声は小さい。言った口が乾いている。乾いた舌が上顎に貼り付く音が混じる。混じった音に反応するみたいに、取っ手の根元の沈みが一段濃くなる。濃くなった沈みの中心が、縦に細く伸びる気配を作る。気配の先端が、こちら側の胸の高さへ揃う。

外で、また硬い振動が来た。骨に直接来る圧。艦のどこかの金属が鳴りそうになって、鳴る前に音が消える。消えた代わりに、覗き窓の曇りの向こうで椅子の背の輪郭が一瞬だけ鮮明になる。鮮明になった瞬間、椅子に座った何かの肩の位置が見える。肩はある。顔の位置は曇りに溶けて見えない。見えないまま、胸の高さだけがこちらへ揃う。

扉の下端の沈みが、粉の層を押し分けるみたいに前へ進もうとして止まる。止まったところで、床の粉がさらに沈み、沈んだ輪郭が扉の前に小さな点を作る。点の中心が縦に伸びる気配を作り始める。気配はまだ立っていない。だが立つ手前の角度だけは出来ている。

誰かが後ずさろうとして、足を上げない。上げれば粉が舞う。舞えば点が増える。滑らせて距離を取る。滑った靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が扉の前の点へ寄る。寄った分だけ、扉の継ぎ目の縦の気配が太く見える。

覗き窓の曇りの向こうで、影が動いたように見えた。動いたのは体ではない。椅子の背の影の境目が、一拍だけずれただけだ。ずれただけなのに、扉の取っ手がほんの僅かに下がった。下がった音はない。音がないまま、取っ手の反射だけが死に、死んだ反射の中で取っ手が「動いた」ことだけが分かる。

誰も触れていない取っ手が、元の位置へ戻らない。

戻らないまま、扉の下の沈みが一拍遅れて脈を打ち、脈のあと、扉の継ぎ目の縦の気配が、ほんの僅かにこちらへ傾いた。

傾いた縦の気配は、倒れずに止まったまま、扉の継ぎ目の上で奥行きを増やす。増えるほど、そこに「立っている」感じだけが濃くなる。濃くなるのに影は伸びない。赤い非常灯の光が当たっても、黒は赤に染まらない。染まらない黒の縁で、粉の粒だけが沈む。沈んだ粒が線になり、線が継ぎ目をなぞって上へ上へと伸びる。

取っ手は下がった位置のまま戻らない。戻らないのに、誰も触れていない。触れていないことを確かめるように、視線が全員の手に走り、走った視線がまた取っ手に戻る。戻った瞬間、取っ手の根元の塗装の反射がさらに死んだ。死んだ反射の中で、金属の輪郭だけが浮いて見える。浮いて見える輪郭の下で、取っ手の影がわずかに太り、太った影が床の沈みと同じ方向を向く。

覗き窓の曇りの膜が、一拍遅れて薄くなる。薄くなるのは拭われたみたいではない。曇りの濃淡が均一になっただけだ。均一になった一瞬、椅子の背の線がはっきりする。背に沿った影の肩の位置もはっきりする。肩はある。腕の位置もある。だが顔の位置は曇りに溶けたまま、ただ胸の高さだけがこちらへ揃う。揃った高さが、いま息を止めている胸骨の裏へ圧として乗る。

誰かが歯を噛んだ。噛んだ音は出ない。出ないのに、頬の筋肉が動いたことだけが分かる。動いたことに反応するみたいに、扉の下の沈みが一拍だけ脈を打つ。脈のあと、扉の下端の粉が一列沈む。沈んだ粒の列が床の溝を拾い、拾った溝が一列だけ消える。消えた溝の線が、扉の前に出来ていた点へ寄る。寄った分だけ点が太り、太った点の中心が縦へ伸びる気配を作る。

「……閉める」

声は小さい。閉めると言ったのに、誰も動かない。動けば粉が舞う。舞えば点が増える。増えれば縦が立つ。立てば呼吸が測られる。その連鎖を、全員が同じ速度で想像してしまう。想像した瞬間、胸がわずかに上下する。上下に合わせて、継ぎ目の縦の気配の先端が一拍だけ揺れた。揺れの幅が、その上下の幅と揃う。

外で硬い振動が来た。骨に直接来る圧。艦のどこかの金属が鳴りそうになって、鳴る前に音が消える。消えた音の代わりに、取っ手の金属の中で痺れだけが走った。触れていないのに走る。走った痺れが指の腹の感覚を薄くし、薄くなった感覚のまま、伸ばしたい手が伸ばせない。

覗き窓の曇りがまた揺れる。揺れの瞬間、椅子の背の影の境目が一センチだけずれ、ずれたぶんだけ椅子の脚の位置が見えた。脚は床についている。床の上に粉が乗っている。粉は白い。白いはずなのに、その椅子の脚の根元だけ粉が薄い。薄い粉の下で床の模様が消えている。消えが一本ではない。脚の根元から継ぎ目へ向けて、床の消えが細い列になっている。列がこちら側の床の沈みと同じ方向を向いている。

取っ手が、もう一段だけ下がった。下がる音はない。音がないまま、取っ手の影だけが長くなる。長くなった影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ縁の中心が黒く覗き、その黒が継ぎ目の縦と繋がろうとして止まる。止まったのは粉の層がまだ厚いからだ。だが厚い粉が沈む。沈みは遅い。遅いのに確実で、その確実さが嫌だった。

誰かが消火器の噴口を扉の下端へ向ける。向けた動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が扉の前でだけ沈み、沈んだ粒が下端の沈みを太らせる。太った沈みの縁が、扉の下端の塗装の模様を一列だけ消していく。消えた列が継ぎ目へ上がり、上がったところで縦の気配が少しだけ濃くなる。

「……違う」

短い声。何が違うか言わない。言えば確定する。確定した途端に、黒がそこへ寄る気がする。寄る気がするだけで、喉の奥が乾く。乾いた喉で唾を飲み込むと、その飲み込みが覗き窓の向こうの胸の高さに揃ってしまう。揃った瞬間、継ぎ目の縦の先端がほんの僅かにこちらへ傾く。

扉の継ぎ目が、髪の毛一本ほど開いた。開いた音はない。開いた隙間から空気が流れ込む感じもない。ないのに、粉の粒だけが隙間へ吸われた。吸われた粒が沈み、沈んだ中心から黒が覗く。覗いた黒は液体ではない。垂れない。落ちない。落ちないまま、隙間の形に沿って薄く伸び、伸びた薄さが取っ手の根元へ向けて進む。

進む薄さは、床を這わない。扉の塗装の上を滑らない。塗装の模様だけを消しながら、そこに奥行きを作る。奥行きが増えたぶん、扉の面が一枚減ったみたいに見える。減った面の向こうで、覗き窓の曇りがさらに均一になり、椅子の背の影の輪郭がまた濃くなる。濃くなった輪郭が、こちら側の息の高さへ揃う。

横たえられた者の胸が、毛布の上で小さく上下した。上下の直後、喉が鳴りそうになって止まる。止まった喉の「穴」を測るみたいに、継ぎ目の薄い黒が一拍だけ揺れた。揺れのあと、取っ手の下がりが止まり、代わりにラッチの金属の位置だけが変わった。変わったのに音がない。音がないまま、扉の下端の隙間がもう少しだけ広がる。

広がった隙間の暗さが、床の沈みと同じ死に方をしている。死んだ暗さの縁で粉が沈み、沈んだ粒が細い列になる。列は床の溝を拾い、拾った溝が一列だけ消える。消えた溝の線が、いま立ちかけている縦の気配の根元へ集まっていく。

誰かが後退しようとして、足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になり、点が列へ寄る。寄ったぶんだけ床の列が太り、太った列が扉の隙間へ向けて伸びる。伸びる先で、扉の下の薄い黒が、今度は確かにこちら側へ入る角度を作った。

入ってくるのは早さではない。確実さだった。

入ってくるのは早さではない。確実さだった。

扉の下端の隙間から伸びた薄い黒が、床へ落ちないままこちら側の粉の層へ触れた。触れた瞬間、粉の粒がそこだけ沈む。沈んだ粒の輪郭が細い列になり、列が床の溝を拾って伸びる。伸びるのに盛り上がらない。盛り上がらないまま、模様だけが一列ずつ消えていく。消えた溝の先端が、いま立ちかけている縦の気配の根元へ寄る。寄ったぶんだけ根元が太く見え、太く見えたのに影が増えない。奥行きだけが増える。

取っ手は下がったまま、金属の位置だけがわずかに変わる。変わるのに音がない。音がないまま、ラッチの噛み合いが一拍遅れてほどけ、ほどけたところから扉の継ぎ目が髪の毛一本ぶんだけ広がる。広がった隙間へ粉の粒が吸われ、吸われた粒が沈み、沈んだ中心から黒が覗く。覗いた黒が隙間の形に沿って薄く伸び、伸びた薄さが取っ手の根元へ向けて進む。進む途中で塗装の模様が消え、消えたところの反射が死ぬ。死んだ反射の帯が扉の面を削っていくみたいに広がる。

覗き窓の曇りがさらに均一になった。均一になった一瞬、椅子の背の線がはっきりし、背に沿った影の肩の位置が見える。肩はある。腕の位置もある。だが顔の位置だけは曇りに溶けたまま、胸の高さだけがこちらへ揃う。揃った高さが、息を止めている胸骨の裏へ圧として乗り、乗った圧のせいで喉が鳴りそうになる。鳴らないように唾を飲み込むと、飲み込んだ動きに合わせて継ぎ目の薄い黒が一拍だけ揺れた。揺れのあと、床の列が一センチだけ前へ進む。

誰かが後退した。足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になり、点が床の列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列の端が人の足元を避けるように曲がる。曲がった列が扉の前へ戻り、戻った列が扉の下端の薄い黒と噛み合い、噛み合ったところから隙間の暗さが一段濃く見えた。

消火器の噴口が、扉の下端へ向けられた。噴く前に、握る指が滑る。滑った指先が粉の上で止まり、止まった指の腹の感覚が薄い。薄いままレバーが握られ、白い粉が短く噴いた。噴いた粉は扉の前に積もる。積もった粉がすぐ沈む。沈む粒の中心が黒を覗かせ、覗いた黒が粉の下を回り込み、回り込んだ先で床の列と繋がる。繋がったところから粉の沈みが速くなる。速くなる沈みの輪郭が扉の下端の隙間を太らせる。

扉の向こう側で、椅子の背の影が一拍だけ濃くなった。濃くなった影の肩の位置がわずかに前へ出たように見え、見えた瞬間に覗き窓の曇りがまた均一になり、均一の膜が肩の輪郭だけを残して顔を消す。顔が消えたまま、胸の高さだけがこちらへ揃い続ける。揃い続ける高さに耐え切れず、誰かが息を吐きかけて止めた。止めた瞬間、扉の下端の薄い黒がこちら側へ入る角度をもう一段作った。

薄い黒は床へ垂れない。床の上で広がらない。粉の粒の隙間へ入り、隙間の形を消し、消えた隙間のぶんだけ床の面を薄くする。薄くなった面の上で、白い粉の粒が沈みやすくなり、沈みやすくなった粒が列へ集まる。集まった列が、人の膝の下へ寄りかけて止まる。止まったのは粉の層がそこだけ厚いからだ。だが厚い粉が沈む。沈む速度は遅いのに確実で、その確実さが嫌だった。

横たえられた者の胸が小さく上下した。上下の直後に喉が鳴りそうになって止まる。止まった喉の穴を測るみたいに、覗き窓の向こうの胸の高さが一拍だけ揃い直し、揃い直した瞬間に床の列が脈を打つ。脈のあと、列の先端が縦に細く伸びる気配を作り、気配の先端が横たえられた胸の中心へ角度を合わせた。

「……離せ」

声は小さい。言った口が乾いている。乾いた舌が上顎に貼り付く音が混じる。混じった音に合わせて、扉の継ぎ目の薄い黒がまた一拍揺れ、揺れのあと、取っ手の下がりが止まった代わりに扉の面そのものがわずかに内側へ押されたように見えた。見えただけで、空気の流れはない。ないのに粉の粒だけが隙間へ吸われる。吸われた粒が沈み、沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒がこちら側の床の列と繋がる。

外で硬い振動が来た。骨に直接来る圧。艦全体が微かにしなり、扉の蝶番の金属が鳴りそうになって鳴らない。鳴らなかった代わりに、覗き窓の曇りが一瞬だけ薄くなり、椅子の背の影の腕の位置が見えた。肘が曲がっている。手の形の影が肘の先にあり、その手の影が椅子の肘掛けを押しているように見える。見えた瞬間、こちら側の扉の取っ手がもう一段だけ下がった。下がる音はない。音がないまま、ラッチの金属の位置だけが変わり、扉の下端の隙間が指一本ぶんだけ広がった。

広がった隙間の暗さが、こちら側へ入る角度を確実に作った。

床の粉が、隙間へ向けて滑った。滑った粒が沈む。沈んだ粒が列になる。列が扉の前で太り、太った列の中心が縦に細く伸びる気配を立てる。気配の先端が胸の高さへ揃い、揃ったまま、ゆっくりと下へ降りる手前の角度だけを作った。

誰も走れない。足を上げれば粉が舞う。舞えば列が増える。増えれば縦が立つ。立てば呼吸が測られる。測られる高さが、覗き窓の向こうの胸の高さと揃う。揃ったまま、扉の隙間がもう少しだけ広がり、広がった縁の反射が死んでいく。

扉の向こうの椅子の影が、一拍だけ濃くなった。

濃くなった影の肩の位置が、こちらへ向けて、ほんの僅かに傾いた。

傾いた影の肩の位置は、そのまま止まった。

止まったのに、扉の下端の隙間だけが広がっていく。広がりは一気ではない。髪の毛一本ぶんずつ増える。増えるたび、粉の粒が吸われる。吸われた粒が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が隙間の形に沿って薄く伸びる。伸びた薄さが扉の面の反射を殺し、殺された帯が扉を一枚薄くするみたいに広がる。

覗き窓の曇りは、均一のまま戻らない。均一の膜の向こうで椅子の背と肩の輪郭だけが残り、顔の位置は最後まで溶けたままだった。溶けたまま、胸の高さだけがこちらへ揃い続ける。

誰かの喉が鳴りかけて止まり、止めた息の穴に合わせて床の列が一拍だけ脈を打つ。脈のあと、列の先端が扉の隙間へ寄る。寄った先で粉が沈み、沈んだ粒の輪郭が隙間の暗さを太らせる。太った暗さが、こちら側へ入る角度をもう一段作る。

扉が、音を出さずに動いた。

動いたのは取っ手ではない。扉の面そのものが、内側へ押されたみたいに撓み、撓んだ分だけ隙間が広がる。広がった隙間の奥から、冷たいものが出てくる。風ではない。匂いでもない。鼻の奥の感覚だけが尖り、尖ったまま痺れる。痺れに合わせて、床の粉の粒が沈みやすくなる。

扉の前に残っていた白い粉が、いきなり沈んだ。沈んだ中心が黒を覗かせ、覗いた黒が床の溝を拾って伸びる。伸びた線が靴底の下へ潜り込もうとして止まり、止まったところで靴底の感覚が薄くなる。薄くなるのに沈まない。沈まないのに、足首の上だけが重くなる。

「……下がれ」

声は小さい。小さい声の湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈みやすくなる。沈みやすくなった床が、扉の前で一段速く暗くなる。

後退は滑らせるしかない。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になり、点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が人の足元を避けるように曲がる。曲がった列が扉の前に戻り、戻った列が隙間の暗さと噛み合う。噛み合ったところから、隙間の黒が一段濃く見えた。

濃くなった黒は、垂れない。落ちない。落ちないまま、床の粉の粒の隙間へ入っていく。入った隙間が消える。消えた隙間のぶん、床の面が薄くなる。薄くなった面の上で粉がさらに沈み、沈んだ輪郭が扉へ向けて列になる。列が太る。太った中心が縦へ伸びる気配を立てる。

縦の気配の先端が、胸の高さへ揃った。

揃った高さに、横たえられた者の浅い呼吸が重なりかけて止まる。止めた瞬間、先端が一拍だけ揺れ、揺れの幅がその止めた上下の幅と揃う。揃ったまま、ゆっくりと下へ降りる手前の角度だけを作る。

外で泡が爆ぜた。艦が短く揺れる。揺れの瞬間、覗き窓の曇りが一瞬だけ薄くなった。

薄くなった一瞬で、椅子の肘掛けと、その上に置かれた腕の輪郭が見えた。手の形は影だった。指の節の位置だけが濃い。濃い指が肘掛けを押しているように見え、その押す形に合わせて、こちら側の扉がさらに撓む。撓んだ分だけ隙間が広がり、広がった隙間の縁の反射が死ぬ。死んだ縁が黒く沈み、沈んだ縁がこちら側の床の列と繋がる。

繋がった瞬間、扉の前の粉が一斉に沈んだ。沈みの中心が縦に立つ。立つのに盛り上がらない。奥行きだけが増えていく。増えた奥行きの先に、肩の位置だけが濃く浮く。顔はない。胸の高さだけが揃い、揃った高さがこちら側の胸骨の裏へ圧として乗る。

その圧の下で、扉の面がさらに開いた。

隙間から見えたのは部屋ではない。狭い区画の奥に、椅子の背がある。背の周囲だけ空気が白く濁っている。濁りは霧ではなく、細い粒だった。粒が光を返さない。返さない粒の下で、床に透明な液体が溜まっている。溜まっているのに揺れない。揺れない液面の上で、赤い非常灯の反射だけが歪み、歪んだ反射が途中で途切れる。途切れた境目が、床の沈みと同じ死に方をしている。

椅子に座っているものは動かない。動かないのに、艦が揺れるたび、その周囲の白い粒だけが万華鏡みたいに舞い上がる。舞い上がっても椅子に触れない。触れないまま、粒が扉の隙間へ流れ込もうとして止まり、止まった粒がこちら側の粉の上で沈む。沈んだ粒が列になる。列が扉の前で太り、太った列の中心がまた縦へ伸びる気配を立てる。

誰かが隔壁用の工具を探すみたいに手を動かし、動かした指から粉が落ちる。落ちた粒がすぐ沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が工具の影をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、掌の痺れだけが強くなる。

扉の向こうの椅子の影の肩の位置が、もう一度だけ傾いた。

傾きは大きくない。だが傾いた先が、こちら側の息の高さをまっすぐ見ている感じだけがした。

見ている感じだけがした。

覗き窓の縁の金属が、赤い非常灯の中でさらに沈んで見える。沈んで見えるだけで触れていない。触れていないのに、指の腹の感覚だけが薄い。薄い感覚のまま、息を吐こうとして止める。止めた瞬間、扉の前の列が一拍脈を打ち、脈のあと、扉の隙間の黒がこちら側の粉の層へもう一段深く触れた。

白い粒が、扉の隙間の向こうで舞っている。舞っているのに風ではない。風なら粉は舞う。だがこちら側の粉は舞わず、沈むだけだ。沈む粒の輪郭が床の溝を拾い、拾った溝が一列ずつ消える。消えの先端が、扉の前の縦の気配の根元へ集まる。集まった根元が太る。太っても影は増えない。奥行きだけが増える。

隙間から見える透明な液面は揺れない。艦が揺れても揺れない。揺れないのに、赤い反射だけが歪んで途切れる。途切れた境目が、床の模様の消えと同じ死に方をしている。目がそこへ吸い寄せられ、吸い寄せられたまま戻らない。戻らない視線の端で、椅子の肘掛けに乗った影の手の節の位置だけが濃く見える。濃い節の数が、こちら側の指の節の数と揃う気がして、指を握る動作が止まる。

誰かが工具袋を床へ置こうとして、置く寸前で止めた。止めた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が扉の隙間へ向けて曲がる。曲がりは直線じゃない。人の足元を避け、避けたつもりの場所へ先回りするように曲がる。曲がった列の先端が、横たえられた者の胸の高さへ一度だけ揃い、揃った瞬間に胸の上下が浅くなる。

「……離すな」

誰に言ったか分からない声。言い終える前に、扉の面がさらに撓んだ。撓みは音を伴わない。音がないまま隙間が増え、隙間へ白い粒が流れ込もうとして止まる。止まった粒がこちら側の粉の上で沈み、沈んだ粒が細い列になり、列が床の溝を拾って伸びる。伸びた先が、扉の前の縦の根元へ集まる。集まるほど縦の気配が濃くなる。濃くなるのに形がない。肩の位置だけが濃い。

誰かが隔壁の取っ手を探すように壁をまさぐった。まさぐる指が粉を払う。払われた粉の隙間で床の模様の消えが覗き、覗いた消えが指の影をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、まさぐった指の痺れだけが強くなり、強くなった痺れが指の感覚を抜く。抜けた感覚のまま壁を掴むと、掴んだのに掴めていないみたいに薄い。

外で泡が爆ぜた。艦が短く揺れる。揺れの瞬間、扉の向こうの白い粒が一斉に舞い上がり、舞い上がった粒が椅子の背の輪郭を一瞬だけ隠す。隠した一瞬で、椅子の影の肩の位置がこちらへもう一度傾いた。傾きは大きくない。だが傾いた先が、今この場で息を止めている高さへ、まっすぐ合ってしまった。

合った瞬間、扉の前の縦の気配の先端が一拍だけ揺れた。揺れの幅が、止めた呼吸の上下の幅と揃う。揃ったまま、先端が下へ降りる手前の角度を作る。角度だけが出来た瞬間、床の列が一センチだけ前へ進む。進んだ先は扉の前ではない。横たえられた胸の中心へ向かう溝だった。

誰かが横たえられた体を引こうとして、足を上げない。滑らせる。滑らせた動きが遅い。遅いほど粉が舞わない。舞わないように力を掛けると腕が震える。震えが粉を落とし、落ちた粒が床の列の上で沈む。沈んだ中心から暗さが覗き、覗いた暗さが列を太らせる。太った列の端が、今度は膝の下へ寄りかけて止まる。止まったのは粉の層が厚いからだ。だが厚い粉が沈む。

扉の隙間の向こうで、透明な液面の端に小さな輪が出来た。輪は広がらない。広がらないまま、輪の反射だけが途中で途切れる。途切れた線が、床の模様の消えと同じ方向を向く。向いた瞬間、こちら側の扉の下端の黒が床へ落ちるふりをして落ちない。落ちないまま粉の隙間へ入り、隙間の形を消し、消えたぶんだけ床の面を薄くする。

薄くなった面の上で、粉が沈みやすくなる。沈みやすくなった粉が、扉の前の縦の根元へ集まる。集まった根元がまた太り、太った中心が縦に立つ手前の角度を保つ。立つ前の角度だけが、胸の高さへ揃っている。

扉の縁の反射が、さらに死んだ。死んだ縁が黒く沈み、沈んだ縁が床の列と噛み合う。噛み合った瞬間、扉がもう一段だけ開く。開いた隙間から白い粒がひとつだけ落ちた。落ちた粒は床で跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が列と繋がる。繋がったところから、縦の先端が一拍だけ揺れを止めた。

止まった揺れの代わりに、覗き窓の向こうの影の手が、ほんの僅かに持ち上がったように見えた。持ち上がったのは手ではない。肘掛けの影の境目が一拍ずれただけだ。ずれただけなのに、こちら側の胸骨の裏へ乗っていた圧が一段増え、息を吐けなくなる。

吐けないまま、扉の前の縦の気配の先端が、ゆっくりと下へ降り始めた。降りる先は床ではない。横たえられた胸の中心の高さへ、角度だけが確実に合っている。

先端が降りる先は床ではない。横たえられた胸の中心の高さへ、角度だけが確実に合っている。

降りる速度は遅い。遅いのに、止まらない。止まらないのに、風がない。風がないまま、胸の上の空気だけが重くなる。重さが皮膚へ触れる前に、胸の上下が一拍だけ止まる。止まった穴を測るみたいに、先端の揺れが消えた。揺れが消えた瞬間、床の列が一センチだけ太り、太った縁が膝の下へ寄りかけて止まる。止まったのは粉の層が厚いからだ。だが厚い粉が沈む。

誰かが横たえられた体の脇へ腕を差し込み、差し込んだ肘を床に擦らないように浮かせる。浮かせたぶん肩が震える。震えが粉を落とす。落ちた粒が列の上で沈む。沈んだ中心から暗さが覗き、覗いた暗さが列を太らせる。太った列の中心が縦へ伸びる気配を強め、強めた気配が先端の降りる角度をもう一段だけ確かにする。

「……動くな」

声は小さい。小さい声の湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈みやすくなる。沈みやすくなった床の上で、先端はまだ降りる。降りる途中で止まらない。止まらないまま、胸の中心の上の一点へ影も作らずに近づく。

扉の隙間の向こうで白い粒が一斉に舞い、舞った粒が椅子の背の線を一瞬だけ隠す。隠した一瞬で、透明な液面の端の輪がもう一つ増えた。増えた輪は広がらない。広がらないのに、反射だけが途切れる。途切れの線が床の模様の消えと同じ方向を向き、向いた瞬間、扉の下端の黒がこちら側の粉の層へさらに深く入った。入ったのに垂れない。垂れないまま、粉の隙間の形だけを消していく。

消えた隙間のぶんだけ床の面が薄くなり、薄くなった面の上で粉が沈む。沈みが列になる。列が縦の根元へ集まる。集まった根元が太り、太った奥行きの先に肩の位置だけが濃く浮く。浮いた肩の高さが、いま息を止めている胸の高さへ揃ってしまう。

先端が胸の中心の上、指二本ぶんの距離で止まった。止まったのに揺れない。揺れないまま、そこにあるだけで空気が痺れる。痺れが皮膚の産毛を逆立て、逆立った産毛の根元が熱くなる。熱くなるのに汗は出ない。汗が出ないまま、胸の中の呼吸だけが見えない壁に押し返される。

横たえられた者の唇がわずかに開き、開いた隙間から息が出そうになって止まる。止まった喉の穴に合わせて、先端が一拍だけ下へ角度を作った。角度が作られた瞬間、床の列が脈を打つ。脈のあと、列の先端が胸の中心へ向かう溝を拾って伸び、伸びた溝の模様が一列だけ消えた。消えた線が胸の中心の真下で止まる。

誰かが手を伸ばし、伸ばした掌を胸の上へ置こうとして置けない。置けないまま指が空中で止まり、止まった指の腹の感覚が薄い。薄い感覚のまま指を引くと、引いた指の白さだけが残る。白いのに粉が付いていない。

外で硬い振動が来た。骨に直接来る圧。艦が短くしなり、扉の蝶番の金属が鳴りそうになって鳴らない。鳴らなかった代わりに、覗き窓の曇りが一瞬だけ薄くなった。薄くなった一瞬で、椅子の肘掛けの上の影の手の節がまた濃く見え、指の形がほんの僅かに変わったように見える。変わったのは手ではない。影の境目の濃淡が一拍ずれただけだ。だがその一拍で、胸の上の先端が揺れた。揺れの幅が外の衝撃の幅に合わせて大きくなり、大きくなった揺れで降りる角度がわずかに外れた。

外れた半拍で、二人が横たえられた体を滑らせた。足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が胸の真下を追いかけるように曲がる。曲がりながらも速度は変わらない。速くないのに確実だ。

体が半身ぶん移動したところで、先端が降りるのをやめた。やめたのに消えない。消えないまま、降りる先の高さだけを探すみたいにわずかに左右へ傾く。傾きは転倒ではない。目印を探す傾きだった。傾いた先が、移動した胸の中心の高さへまた揃う。揃った瞬間、降りる角度が作り直される。

扉の隙間が、音を立てずにもう一段だけ開いた。開いた隙間から白い粒が二つ落ち、落ちた粒は跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列と繋がる。繋がったところから列の沈みが速くなり、速くなった沈みの縁が扉の前の縦の根元へ集まっていく。集まるほど、部屋とこちら側の区画の境目が薄くなっていくみたいに見える。

誰かが扉の縁へ工具を当てようとして、当てる前に止めた。止めた瞬間、工具の影の縁で粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が工具の影をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、掌の痺れだけが強くなる。

先端が、また降り始めた。今度は迷いがない。迷いがないのに速くない。遅いまま確実に、移動した胸の中心へ角度だけを合わせ、角度のまま距離を削っていく。

削られていく距離の中で、覗き窓の向こうの椅子の背の影が一拍だけ濃くなった。濃くなった影の肩の位置が、こちらへほんの僅かに前へ出たように見えた。見えた次の瞬間、扉の下端の隙間の黒が床の粉の層へさらに深く触れ、粉の粒が一斉に沈んだ。沈みが列を太らせ、太った列がいま滑らせている足元の外側を回り込もうとして止まる。

止まったのは粉が厚いからだ。だが厚い粉が沈む。沈みは遅いのに確実で、その確実さのまま、先端は胸の中心へ近づいている。

沈みは遅いのに確実で、その確実さのまま、先端は胸の中心へ近づいている。

距離が削られていくほど、空気の方が先に痺れた。痺れが皮膚へ触れる前に、産毛の根元だけが熱くなる。熱くなるのに汗は出ない。汗が出ないまま胸の内側の呼吸が、見えない壁に押し返される。押し返された息が喉へ戻り、戻った喉が鳴りそうになって止まる。止めた穴に合わせて、先端が一拍だけ揺れを消し、揺れが消えたぶんだけ降りる角度が確かになる。

横たえられた者の胸が、途中まで上下し、途中で止まった。止まった胸の中心の上、先端が髪の毛一本ぶんの距離で止まる。止まったのに揺れない。揺れないまま、そこにあるだけで胸骨の裏が痛くないまま重い。重さのせいで唇が開き、開いた隙間から息が出そうになって止まる。止めた瞬間、床の列が脈を打ち、脈のあと、胸の真下の溝の模様が一列だけ消えた。

誰かの指が、胸の上へ置こうとして置けない。置けないまま空中で止まり、止まった指の腹の感覚が薄い。薄い感覚のまま引くと、引いた指だけが白い。白いのに粉が付いていない。白さを見た本人が喉を動かし、動かした喉の穴を測るみたいに、先端が一拍だけ下へ角度を作った。

角度が作られた瞬間、胸の中心の皮膚が光を返さなくなった。血が引く白さではない。濡れていないのに、濡れた金属みたいに反射が死ぬ。死んだ反射の点が、胸の中心に留まったまま広がらない。広がらないのに、そこだけ「奥」が出来る。奥が出来たせいで、先端は触れていないのに触れたことになる。触れたことになった瞬間、横たえられた者の胸が一拍だけ沈み、沈んだ分の空気がどこにも出ていかない。

外で硬い振動が来た。骨に直接来る圧。艦が短くしなり、扉の蝶番が鳴りそうになって鳴らない。鳴らなかった代わりに、扉の向こうの白い粒が一斉に舞い上がり、舞い上がった粒がこちら側へ流れ込もうとして止まる。止まった粒が床の粉の上で沈む。沈む粒が二つ、縦に並ぶ。並んだ中心が奥行きを持ち、奥行きの先に肩の位置だけが濃く浮く。

その浮いた肩が、今の胸の中心の高さと揃った。

揃った瞬間、先端の「狙い」が胸だけではなくなった。胸の中心の死んだ反射の点から、薄い線が扉の隙間へ向けて引かれる。引かれる線は床を這わない。空気を切らない。切らないまま、扉の面の模様だけを消しながら伸びる。伸びる線の途中で、取っ手の根元の反射がまた死に、死んだ帯が扉を一枚薄くする。

「動かせ。今だ」

声は小さいが長い。命令というより、手順だった。二人が横たえられた体を滑らせる。足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になり、点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が胸の真下を追いかけるように曲がる。曲がりながらも速度は変わらない。速くないのに確実だ。

胸の中心の死んだ反射の点が、ついてくる。皮膚の上に留まったまま、滑らせた分だけ位置がずれるのではなく、胸の中心と一緒に移動している。移動しているのに痛みがない。痛みがないのに、胸の中が空洞になったように軽い。軽さに慣れた瞬間、軽さが急に重さへ変わり、重さが喉を塞ぐ。

先端が降りるのをやめた。やめたのに消えない。消えないまま、胸の中心の点に向けて距離だけを削り直す。削り直す間、扉の隙間の黒がこちら側の粉の層へさらに深く触れ、粉の粒が一斉に沈む。沈みが列を太らせ、太った列がいま滑らせている足元の外側を回り込もうとして止まる。止まったのは粉が厚いからだ。だが厚い粉が沈む。

扉の向こうから、椅子の肘掛けの影が一瞬だけ濃くなった。濃くなった境目が、腕を上げたように見える。見えた次の瞬間、扉の面が音を立てずにさらに撓み、隙間が増える。隙間が増えたのに風がない。ないのに白い粒だけがこちらへ落ちる。落ちた粒は床で跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列と繋がる。繋がったところから列が太り、太った列の先端が胸の中心の真下の溝へ揃う。

誰かが工具袋を投げた。投げた動きが小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈み、沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が袋の影をなぞる。なぞった影の縁で袋が止まり、止まった袋が胸と先端の間へ滑り込む。滑り込んだ瞬間、袋の布の反射が死んだ。死んだ布の点が広がらずに留まり、留まった点が奥行きを持つ。持った奥行きのせいで、先端が袋へ向けて角度を変える。

変えた角度のまま、先端が布へ降りた。降りたのに触れた音はない。ないまま、袋の中の金属工具の位置だけが一拍遅れて沈む。沈むのに重さが増えない。増えないまま、工具の影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、列が扉の隙間へ向けて伸びる。

胸の中心の点が一拍だけ薄くなった。薄くなった一拍で、横たえられた者が息を吸った。吸った息が喉で鳴りそうになって、鳴る前に咳になる。咳の音は出ない。出ないのに身体だけが震え、震えた分だけ粉が落ちる。落ちた粒が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が袋の奥行きと繋がり、繋がったところから先端が袋へ固定される。

固定された先端は、胸を追わなくなった。

追わなくなった代わりに、扉の隙間の黒が一段濃くなり、椅子の背の輪郭が白い粒の向こうで一瞬だけ鮮明になる。鮮明になった瞬間、椅子に座ったものの胸の高さがこちらへ揃い、揃った高さが今度は袋の奥行きと噛み合う。噛み合ったところで床の列が脈を打ち、脈のあと、扉の前の沈みが一センチだけこちらへ進んだ。

進んだ沈みの縁が、足元を避けて曲がる。

曲がりながら、確実に。

曲がりながら、確実に。

沈みの縁が足元を避けて回り込み、避けたはずの先で待っているみたいに床の溝へ揃う。揃った溝の模様が一列だけ消え、消えた線の上で粉が沈みやすくなる。沈みやすくなった粉がまた列へ集まり、集まった列が太る。太るほど、床が薄くなっていく感じがした。薄くなるのに沈まない。沈まないのに、靴底の感覚だけが薄い。

工具袋へ向けて落ちた先端は、袋の上で揺れない。揺れないまま、袋の布の反射の死んだ点が留まり続けている。留まった点の周囲で金属工具の影だけが床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、列が扉の隙間へ向けて伸び、伸びた先でまた隙間の暗さと噛み合う。噛み合うたび、扉の縁の反射が一段ずつ死んでいく。

横たえられた胸の中心に残っていた死んだ反射の点は、薄くなったまま戻らない。戻らないのに広がらない。広がらない点がそこにあるせいで、胸の内側が空洞になった感じだけが残る。空洞の軽さに慣れた途端、軽さが重さへ変わり、重さが喉を塞ぐ。塞がれた喉で息を吐こうとして止め、止めた穴に合わせて床の列が一拍だけ脈を打つ。脈のあと、扉の前の沈みがまた一センチだけ進む。

進む沈みの先で、足の外側の感覚が抜けた。抜けた感覚のまま踏んでいるのに、踏んでいないみたいに薄い。薄いまま体重を移そうとすると、移した分だけ粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列の端がまた足元を避けるように曲がる。曲がるのに迷わない。曲がり方だけが、呼吸を測っているみたいに規則的だった。

扉の向こうから白い粒が落ち続ける。落ちた粒は跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列と繋がる。繋がったところから列の沈みが少しだけ速くなる。速くなるのに、音はない。音がないまま、覗き窓の向こうの椅子の背の輪郭だけが一瞬だけ鮮明になり、鮮明になった直後にまた溶ける。溶けるたび、顔の位置だけが最後まで見えないまま残る。

その部屋の空気は白く濁っている。濁りは霧じゃない。粒だ。粒が光を返さない。返さない粒の下で透明な液面が溜まっていて、溜まっているのに揺れない。揺れない液面の端に出来た輪が増え、増えた輪は広がらない。広がらないのに反射だけが途切れる。途切れの線が床の溝と同じ向きを向くたび、こちら側の粉の沈みも同じ向きを選び直す。

外が、急に静かになった。

泡の爆ぜも、骨に来る振動も、一拍だけ止まる。止まった瞬間、艦の中の沈黙が濃くなる。濃くなる沈黙の中で、自分の血の流れる音だけが聞こえそうになって、聞こえる前に粉に吸われる。吸われたはずの音の代わりに、扉の隙間の暗さが一段濃く見えた。濃く見えただけで、隙間が増えたわけじゃない。けれど濃くなった暗さの縁で、粉の粒が沈む速度だけが変わる。

沈みの列が、工具袋へ向けていったん太る。太った中心が縦へ伸びる気配を立て、立てた気配の先端が袋の死んだ点へ揃う。揃ったまま、先端が袋の上で一拍だけ沈むふりをして沈まない。沈まないのに、袋の中の金属の位置だけがまた一拍遅れて沈む。沈んだ金属の影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、列が今度は人の足元を避けて曲がる。曲がった列の先端が、横たえられた胸の中心の真下の溝へ揃った。

揃った瞬間、胸の中心の薄い点が一拍だけ濃くなった。濃くなったのに広がらない。広がらない濃さが、そこに奥行きを作る。奥行きが出来たせいで、胸の内側の空洞がまた軽くなる。軽くなるのに、息だけが吸えない。吸えないまま喉の穴が狭くなり、狭くなった穴を測るみたいに床の列が脈を打つ。

誰かが横たえられた体をさらに滑らせようとして、肩が震える。震えが粉を落とす。落ちた粒が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が列と繋がる。繋がったところから列が太り、太った列が膝の下へ寄りかけて止まる。止まったのは粉が厚いからだ。だが厚い粉が沈む。沈みは遅いのに確実で、その確実さが嫌だった。

扉の向こうで、椅子の肘掛けの影の境目がまた一拍ずれた。ずれただけなのに、こちら側の扉の面が音を立てずに撓み、撓んだ分だけ隙間が増える。増えた隙間から白い粒がひとつ落ち、落ちた粒は跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列と繋がる。繋がった瞬間、沈みの列が足元を避ける曲がり方を変えた。

変えた曲がり方は、出口の方向だった。

逃げ道を選んだみたいに、列の先端が区画の端へ揃い直す。揃い直した溝の模様が一列消え、消えた線の上で粉が沈む。沈んだ輪郭が太り、太った縁が床の面を薄くする。薄くなった面の上で足の感覚が抜け、抜けたまま踏んでいると、足首の上だけが重くなる。重さがふくらはぎへ上がり、上がった重さが膝を曲げさせそうになって止まる。止まった膝の下で粉が沈み、沈んだ粒が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列がまた出口へ曲がる。

外の静けさが終わり、遠くで泡が爆ぜた。爆ぜの衝撃は小さい。小さいのに、床の列がそれに合わせて一拍脈を打つ。脈のあと、出口へ向けた列の先端が一センチだけ進む。進んだ先で、床の溝がもう一本消えた。

その一本の消えの先に、別の隔壁の取っ手がある。

取っ手の金属の反射が、赤い非常灯の中でまだ生きている。生きている反射が眩しく見えた。眩しく見えた瞬間、扉の隙間の向こうの椅子の背の輪郭が一拍だけ濃くなり、濃くなった肩の位置がこちらへ揃う。揃った高さが胸骨の裏へ圧として乗り、圧の下で息を止めた穴が生まれ、穴に合わせて床の列がまた太る。

太った列の先端が、取っ手の足元の溝へ揃い始めた。

揃い始めるのに盛り上がらない。盛り上がらないまま確実に、取っ手の真下の模様だけを一列ずつ殺していく。

取っ手の真下の模様だけを一列ずつ殺していく。

殺された溝の線は太らない。太らないまま、溝の底だけが暗くなり、暗くなった底が粉の粒を引き寄せる。引き寄せられた粒が沈む。沈んだ輪郭が細い列になり、列が取っ手の根元へ向けて伸びる。伸びる途中で靴底の影を避け、避けた先でまた溝へ揃う。揃う向きが迷わない。

取っ手の金属の反射はまだ生きている。生きている反射が、赤い非常灯の中で白く見える。白さが眩しい。眩しさのせいで目が細くなり、細くなったまぶたの裏で自分の呼吸の穴が広がる。広がった穴に合わせて床の列が一拍だけ脈を打つ。脈のあと、列の先端が一センチだけ進み、進んだ先で溝がもう一本消えた。

誰かが横たえられた体の足元を支え直そうとして、足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になり、点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が出口へ向けて曲がる。曲がりは直線じゃない。人の動きを測っているみたいに、角度だけが整っている。

工具袋の上の死んだ点はまだ留まっている。留まった点の周りで袋の布が乾いたまま光を返さない。返さない布の上で金属工具の位置だけが一拍遅れて沈み続け、沈んだ影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、その列も出口へ向けて曲がり始めた。曲がり始めた列が、取っ手の真下の列と同じ溝を拾う。

「……先に開けろ」

声は小さい。言った口の湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈みやすくなる。沈みやすくなった粒が取っ手の真下へ集まり、集まった中心が暗く覗く。覗いた暗さが取っ手の根元の反射へ触れる手前で止まる。止まっているのに、距離だけが削れている感じがする。

取っ手へ手が伸びる。伸びた指が取っ手を掴む冷たさは来ない。来ない代わりに、掌の奥が痺れる。痺れが指へ走り、指の力の感覚が抜ける。抜けた感覚のまま回すと、回るはずの音が出ない。出ないのに、取っ手の反射だけが一段沈んだ。沈んだ反射の縁で粉が沈む。沈んだ粒が取っ手の根元に細い輪を作り、輪が溝へ向けて伸びようとして止まる。

止まった一拍で、隔壁が開いた。

開いたのに風が来ない。来ないのに粉が舞う。舞った粉が落ちずに漂い、漂ったまま沈む。沈む粒が空中で縦に並び、並んだ中心が奥行きを持つ。奥行きの先に肩の位置だけが濃く浮く。浮いた肩は扉の向こうではなく、開いた隔壁の縁の高さへ揃う。揃った高さが胸骨の裏へ圧として乗り、息が吐けない。

隔壁の向こうは暗い通路だった。赤い非常灯の光が届かず、床の溝だけがかろうじて見える。見える溝の模様はまだ生きている。生きている模様が、さっきの取っ手の反射と同じ眩しさを持つ。眩しさを見た瞬間、床の列の先端が通路の溝へ向けて揃い直した。

「動かせ」

二人が横たえられた体を滑らせる。足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が通路へ向けて曲がる。曲がりながらも速度は変わらない。速くないのに確実だ。

体が隔壁の縁を越えた瞬間、胸の中心に残っていた薄い点が一拍だけ濃くなる。濃くなったのに広がらない。広がらない濃さがそこに奥行きを作り、作られた奥が息の通り道を狭くする。狭くなった穴に合わせて、通路の溝の模様が一列だけ消えた。消えた線の上で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、列が体の移動と同じ向きへ伸びる。

工具袋が残っている。残っている袋の上で先端は揺れない。揺れないまま、袋の死んだ点が留まり続け、留まり続ける点が床の列を通路へ向けて押し出すみたいに太らせる。袋を拾えば粉が舞う。舞えば列が増える。増えれば縦が立つ。立てば胸の穴が測られる。

誰かが袋へ手を伸ばし、伸ばした指先が袋の縁に触れる前に止まる。止まった指の腹の感覚が薄い。薄い感覚のまま引くと、引いた指だけが白い。白いのに粉が付いていない。白さの端が赤い光の中で浮き、浮いた白さを見た瞬間、袋の死んだ点が一拍だけ濃くなった。濃くなったのに広がらない。広がらない濃さが袋の中の金属の位置をもう一段沈ませる。沈ませた影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ列が、隔壁の縁へ向けて伸びる。

隔壁を閉めようとする手が動く。動く手の動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈み、沈んだ粒が隔壁の縁の反射を一列ずつ殺していく。殺される反射の帯が縁を黒く沈ませ、沈んだ縁が通路の溝の消えと噛み合う。噛み合った瞬間、閉める手の痺れが強くなる。強くなる痺れが力の感覚を抜き、抜けたまま押している腕が揺れる。揺れで粉が落ち、落ちた粒が縁で沈む。

扉の向こう、ネモ室の半開の隙間が視界の端に残る。白い粒がまだ落ちている。落ちた粒は跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列と繋がる。繋がったところから、扉の前の沈みがまた一センチだけ進んだ。進んだ沈みの縁が、今度は隔壁の内側へ向けて曲がる。曲がりは迷わない。出口を追う曲がり方だ。

隔壁が噛み合う小さな音がした。音は小さい。小さいのに粉に吸われず、耳の奥へ残る。残った音の形に合わせて、通路の溝の消えが一拍だけ止まる。止まった一拍で、横たえられた者が息を吸った。吸った息が喉で鳴りそうになって止まる。止まった穴に合わせて、隔壁の縁の黒い沈みが一拍だけ濃くなる。

濃くなった沈みは、隔壁の向こう側へ引き戻されるみたいに薄くなる。薄くなったのに消えない。消えないまま、縁の反射だけを一列ずつ殺し続ける。殺し続ける縁の黒が、閉じたはずの継ぎ目に沿って細く伸び、伸びた先端がこちら側の床の溝へ揃う。

通路の暗さの中で、床の模様が一列だけ消えた。

消えた線は、足元を避けない。避けないまま、まっすぐに横たえられた胸の中心の高さへ向けて伸び、伸びた先で粉の粒が沈む。沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が胸の高さへ揃い、揃ったまま、降りる手前の角度だけを作った。

振動が、遠くで一つ戻った。泡の爆ぜの衝撃。衝撃は小さいのに、通路の縦の気配がそれに合わせて一拍脈を打つ。脈のあと、角度が少しだけ確かになった。

隔壁の向こう側で、工具袋の死んだ点が、見えないのに濃くなった気がした。

見えないのに濃くなった気がした。

隔壁の向こう側の気配が、こちら側の床の消えへ引きずられるみたいに寄ってくる。寄ってくるのに音がない。音がないまま、通路の暗さの中で消えた一本の線だけが鮮明になる。鮮明になるほど、床の面が薄く感じられた。薄い床の上で靴底の感覚が抜け、抜けたまま踏んでいると足首の上だけが重い。重さがふくらはぎへ上がり、上がった重さが膝を曲げさせそうになって止まる。止まった膝の下で粉が沈む。沈んだ粒が線へ寄る。寄ったぶんだけ線が太る。太るのに盛り上がらない。奥行きだけが増えていく。

横たえられた胸の中心に残っている薄い点が、暗い通路の中で一拍だけ濃く見えた。濃く見えたのに広がらない。広がらない濃さが奥を作り、奥が呼吸の通り道を狭くする。狭くなった穴に合わせて、床の消えた線の先端が一拍だけ揺れを止めた。止めた揺れの代わりに、先端が下へ降りる手前の角度を作る。角度が作られた瞬間、胸骨の裏へ圧が乗る。圧が乗るのに痛みがない。痛みがないまま息が吐けない。

「灯り」

声は小さい。小さい声の湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈みやすくなる。沈みやすくなった粒が線へ集まり、集まった中心が暗く覗く。覗いた暗さが線の輪郭を鋭くし、鋭くなった輪郭が胸の中心の高さに合わせて揃う。

懐中灯のスイッチが押される。押された音は出ない。出ないのに指の腹の感覚だけが薄い。薄い感覚のまま光が点き、暗い通路の床の溝が白く浮いた。浮いた溝の模様はまだ生きている。生きている模様が眩しい。眩しさを見た瞬間、線の先端が光の端へ寄った。寄ったのに光は曲がらない。曲がらないまま、溝の模様だけが一列ずつ死んでいく。死んだ溝の線が、光の先端に沿って伸び、伸びた先が横たえられた胸の中心の真下へ揃った。

揃った瞬間、懐中灯の光が一拍だけ薄くなる。薄くなるのに電池が減った感じではない。光の輪郭の中の反射だけが死に、死んだ帯が床へ落ちる。落ちた帯の縁で粉が沈み、沈んだ輪郭が線へ寄る。寄ったぶんだけ線が太り、太った中心が縦へ伸びる気配を強める。

「消せ」

短い声。スイッチが戻される。戻す音は出ない。出ないのに、消えた暗さの中で線の輪郭だけが残る。残った輪郭は薄くならない。薄くならないまま、胸の高さへ揃い続ける。

通路の先に、もう一枚隔壁があった。扉の形ではなく、丸い圧力扉の輪郭。輪郭の周りに手で回すレバーが並び、レバーの先端に白い粉が溜まっている。溜まっている粉が指跡の形ではない。丸い粒がただ集まって、集まった粒が沈んでいる。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒がレバーの影の縁をなぞる。なぞるのに触れていない。触れていないのに、レバーを見た掌の奥が痺れてくる。

床の消えた線が、圧力扉の足元へ揃い直した。揃い直した溝の模様が一列だけ消え、消えた線の上で粉が沈む。沈んだ粒の輪郭が細い列になり、列が扉の輪郭へ向けて伸びる。伸びる途中で人の足元を避けない。避けないまま、まっすぐに輪郭へ突き当たり、突き当たった瞬間に扉の金属の反射が一段沈んだ。

沈んだ反射の中で、レバーの数が多いことだけが分かる。多いのに、どれも同じ高さに揃って見える。揃って見える高さが、胸骨の裏へ乗っている圧と同じになる。なるだけで息が止まり、止まった穴に合わせて床の列が一拍脈を打つ。脈のあと、縦の気配の先端がレバーの高さへ揃う。

横たえられた者が喉を動かし、動かした喉の穴が一瞬だけ広がる。広がった一瞬で息が漏れ、漏れた湿りが粉を濡らす。濡れた粉が沈みやすくなり、沈みやすくなった粒が床の列へ集まり、集まった列が太る。太った中心が縦へ伸びる気配をまた一段強める。強まった気配の先端が、今度は胸の中心へ揃い直した。揃い直した瞬間、胸の中心の薄い点がまた一拍だけ濃くなる。

「扉を開けるな」

言葉は短い。短いほど息が漏れる。漏れた湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈む。沈んだ粒の中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列へ繋がる。繋がったところから列が太り、太った列が圧力扉の輪郭をなぞり始めた。なぞり始めた輪郭の沈みが、扉の縁の反射を一列ずつ殺していく。

殺されていく縁の反射の帯が、扉の輪郭を一枚薄くする。薄くなるのに隙間は開かない。開かないのに、内側に「奥」が出来る。奥が出来たせいで、扉の向こうに空間があることだけが分かる。分かった瞬間、胸骨の裏の圧が一段増え、息が吐けなくなる。

横たえられた体が少しだけ揺れた。揺れたのは体ではない。運ぶ腕の震えだった。震えが粉を落とし、落ちた粒が床で沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列と繋がる。繋がったところから列がまた一センチだけ前へ進む。進んだ先で、縦の先端が下へ降りる角度を少しだけ確かにする。

その角度のまま、縦の先端が胸の中心の高さへ降りようとして止まる。止まったのに揺れない。揺れないまま、空気だけが痺れる。痺れが皮膚へ触れる前に産毛が逆立ち、逆立った根元が熱くなる。熱くなるのに汗は出ない。汗が出ないまま、胸の内側の空洞が軽くなり、軽くなった途端に喉が狭くなる。

隔壁の向こう、ネモ室の方角から、遠い沈黙が戻ってくる感じがした。音ではない。振動でもない。戻ってくるのは確実さだった。確実さが戻った瞬間、床の列の曲がり方がまた変わる。変わった曲がり方は、圧力扉の縁をなぞるのではなく、レバーの真下の溝へ揃う曲がり方だった。

レバーの真下の粉が、いきなり沈んだ。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒がレバーの影をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、レバーの金属の位置だけが一拍遅れて沈む。沈むのに重さが増えない。増えないまま、レバーの影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、その列が胸の中心の真下へ揃った。

揃った瞬間、胸の中心の薄い点が、広がらないまま一段濃く見えた。濃く見えたのに血は出ない。痛みもない。ないのに、胸の内側がひとつ空き、空いた分だけ呼吸が入らない。入らない穴に合わせて、縦の先端がまた降りる手前の角度を作る。

圧力扉のレバーに手を伸ばす指が、途中で止まった。止まった指の腹の感覚が薄い。薄い感覚のまま引くと、引いた指だけが白い。白いのに粉が付いていない。

白さを見た瞬間、床の列が一拍だけ脈を打った。脈のあと、縦の先端が、胸の中心へ向けて、もう一段だけ確実な角度を作った。

確実な角度を作ったまま、縦の先端は降りない。

降りないのに、胸骨の裏の圧だけが増える。増えた圧が喉を塞ぎ、塞がれた喉の穴が細くなる。細くなった穴を測るみたいに床の列が一拍だけ脈を打ち、脈のあと、胸の中心の薄い点が広がらないまま濃く見えた。濃く見えたのに痛みはない。ないのに、胸の内側がひとつ空く。空いた分だけ呼吸が入らない。

圧力扉のレバーの真下の沈みが、もう一段深くなる。深くなるのに盛り上がらない。奥行きだけが増え、増えた奥行きの縁で粉が沈む。沈んだ粒の列がレバーの軸へ寄り、寄ったところで金属の反射が一段沈んだ。沈んだ反射の中で、レバーの先端の位置だけがわずかに変わる。

変わる音はない。

ないのに、レバーが「動いた」ことだけが分かる。分かった瞬間、誰かの呼吸が漏れそうになって止まる。止めた穴に合わせて縦の先端が一拍だけ揺れを消し、揺れが消えたぶんだけ角度が確かになる。確かになった角度の先は胸の中心だ。だが同時に、レバーの高さにも揃っている。揃っている二つの高さの間に、薄い線が一本だけ引かれた気がした。引かれた線は床を這わない。空気を切らない。切らないまま、床の模様だけを一列ずつ消していく。

レバーに伸ばしかけた指が、白いまま戻らない。戻らない白さの端が赤い非常灯の中で浮き、浮いた白さを見た瞬間、レバーの沈みが一拍だけ速くなった。速くなったのに重さは増えない。増えないまま、レバーの影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、その列が胸の中心の真下の溝へ揃う。

揃った瞬間、横たえられた者の胸が途中まで上下し、途中で止まった。止まった穴に合わせて縦の先端が下へ降りる手前の角度を作り、角度が作られたまま止まる。止まった先端の下で空気が痺れ、痺れが皮膚へ触れる前に産毛が逆立つ。逆立った根元が熱くなるのに汗は出ない。汗が出ないまま、胸の内側の空洞が軽くなり、軽くなった途端に喉がさらに狭くなる。

狭くなった喉の奥で、音にならない咳が一つ震えた。震えは小さい。小さいのに粉が落ちる。落ちた粒が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列へ繋がる。繋がったところから列が太り、太った列がレバーの真下をなぞって回り込む。回り込む曲がり方が迷わない。迷わない曲がり方の先が、扉の輪郭ではなく、レバーの軸の中心を選ぶ。

レバーが、もう一度だけ動いた。

動きはほんの僅かだ。だが僅かな動きに合わせて、軸の周りの粉がいきなり沈んだ。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が軸の穴へ入り込む角度を作る。角度が出来た瞬間、扉の輪郭の反射が一列だけ死んだ。死んだ帯が扉を一枚薄くし、薄くなった面の向こうに「奥」が出来る。奥が出来たせいで、扉の向こうに空間があることだけが分かる。分かった瞬間、胸骨の裏の圧が一段増え、息が吐けなくなる。

吐けないまま、誰かが横たえられた体をさらに滑らせる。足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が胸の真下を追いかけるように曲がる。曲がりながらも速度は変わらない。速くないのに確実だ。

確実さに押されて、白い指がレバーへ触れそうになって止まる。止まった指先の感覚が薄い。薄い感覚のまま引くと、引いた指だけが白いまま残る。白いのに粉が付いていない。白さが増えた瞬間、レバーの沈みが一拍だけ止まった。止まった代わりに、扉の輪郭の死んだ帯が一列増える。増えた帯が扉の面を薄くし、薄くなった面の奥が少しだけ近づいたように見える。

近づいた奥の縁で、粉の粒が沈む。

沈んだ粒が扉の輪郭に沿って並び、並んだ中心が奥行きを持つ。奥行きの先に肩の位置だけが濃く浮く。浮いた肩は扉の向こうではなく、こちら側の胸の高さへ揃う。揃った瞬間、縦の先端の角度が胸の中心へ確かに合い直し、合い直した角度のまま降りる手前で止まる。止まった空気の痺れが増え、増えた痺れが喉の奥を尖らせる。

外で、遠い泡の爆ぜが一つ鳴った。衝撃は小さい。小さいのに、扉の輪郭の死んだ帯が一拍だけ脈を打ち、脈のあと、レバーの軸の黒がほんの僅かに深く覗いた。覗いた深さのぶんだけ、レバーの位置だけが一拍遅れて沈む。沈むのに重さが増えない。増えないまま、レバーの影が床へ落ち、落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ列が胸の中心の真下へ揃い、揃った瞬間、胸の中心の薄い点がまた濃くなる。

濃くなった点が、広がらないまま、ほんの僅かに動いた。

動いたのは位置じゃない。奥の向きだった。奥の向きが胸の中心からレバーの軸へ向き直り、向き直った瞬間、縦の先端の角度が胸から外れた。外れた角度がレバーの高さへ揃う。揃ったまま、先端が袋へ落ちたときと同じ沈むふりをして沈まない。沈まないのに、レバーの金属の位置だけが一拍遅れて沈んだ。

沈んだところで、圧力扉の輪郭の奥が、もう一枚だけ薄くなった。薄くなった面の向こうに、赤い非常灯の反射が届かない暗さがある。暗さの中で、白い粒が舞っているのが見えた。舞っているのに風はない。粒は光を返さない。返さない粒の下で、透明な液面が揺れずに溜まっている。

扉の向こうの「奥」が、ネモ室と同じ死に方をしている。

見えた瞬間、誰も息を吐けない。

吐けない沈黙の中で、レバーの真下の黒が、今度は確かに軸の穴へ入り込む角度を作った。角度が作られたまま止まり、止まった角度の先端が、ゆっくりと回転する手前の位置へ揃い始めた。

揃い始めたのに、レバーは回らない。

回らないまま、軸の穴へ向けた黒の角度だけが確かになる。確かになった角度の縁で粉が沈み、沈んだ粒が軸の周りに細い輪を作る。輪は閉じない。閉じないまま、輪の切れ目がこちら側の床の消えた線と同じ向きを向く。向いた瞬間、胸の中心の薄い点が一拍だけ濃くなり、濃くなった奥の向きがレバーの軸へ揃う。

揃った奥に引かれるみたいに、白い指がレバーへ伸びる。伸びた指先は触れない。触れないまま止まり、止まった指の腹の感覚が薄い。薄い感覚のまま引くと、引いた指だけが白い。白いのに粉が付いていない。白さを見た瞬間、軸の周りの粉の輪が一拍だけ沈み、沈んだ中心から黒が覗いた。

覗いた黒が、軸の穴へ入り込む。

入り込むのに流れない。流れないまま、奥行きだけが穴の中へ伸びていく。伸びていく奥行きの先で、レバーの金属の位置だけが一拍遅れて沈んだ。沈んだのに重さは増えない。増えないまま、レバーの先端がほんの僅かに傾く。傾いた角度は小さい。だが傾いた先が、回転の方向を示すみたいに揃ってしまう。

揃った瞬間、レバーが回った。

回った音はない。ないのに、床の粉の粒が一斉に沈む。沈んだ粒の輪郭が列になり、列が扉の輪郭へ向けて伸びる。伸びた列が輪郭をなぞり、なぞった縁の反射が一列ずつ死んでいく。死んでいく帯が扉を一枚薄くし、薄くなった面の向こうの暗さが少しだけ近づく。

近づいた暗さの縁で、白い粒が舞っているのが見える。見えるのに風はない。粒は光を返さない。返さない粒の下で透明な液面が揺れずに溜まっている。溜まっている端に輪があり、輪の反射だけが途切れている。途切れの線が床の溝と同じ向きを向くたび、こちら側の粉の沈みも同じ向きを選び直す。

レバーが、もう一段だけ回った。

回った量は僅かだ。だが僅かな回転に合わせて、扉の輪郭の一部が「ずれた」ように見える。ずれたのは金属ではない。反射の帯だけがずれ、ずれた帯の下で継ぎ目の線が一拍だけ黒く沈む。沈んだ継ぎ目の中心から奥が覗き、覗いた奥がこちら側の胸の高さへ揃う。揃った高さが胸骨の裏へ圧として乗り、息が吐けない。

吐けないまま、横たえられた者の胸が途中まで上下し、途中で止まった。止まった穴を測るみたいに床の列が一拍脈を打ち、脈のあと、胸の中心の薄い点が広がらないまま濃くなる。濃くなった奥がレバーの軸へ向き直り、向き直った瞬間に縦の先端の角度もレバーの高さへ揃い直す。

揃い直した角度のまま、先端が降りるふりをして降りない。

降りない代わりに、レバーが回る。回るのに音がない。音がないまま、回転の途中で扉の輪郭の死んだ帯が一列増える。増えた帯が扉の面をさらに薄くし、薄くなった面の向こうの暗さが、今度は確かに「こちら側へ」近づいた。

近づいた暗さの縁で、粉の粒が沈む。沈んだ粒が扉の内側の床の模様を一列だけ殺し、殺された溝の線がこちら側の床の消えた線と噛み合う。噛み合った瞬間、通路の足元の感覚が抜け、抜けたまま踏んでいると足首の上だけが重い。重さが膝へ上がり、膝が曲がりそうになって止まる。止まった膝の下で粉が沈み、沈んだ粒が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列の先端が扉の継ぎ目へ揃う。

扉が、髪の毛一本ほど開いた。

開いた音はない。空気の流れもない。ないのに、白い粒だけが隙間へ集まり、集まった粒が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が隙間の形に沿って薄く伸びる。伸びる薄さが扉の面の模様だけを消し、消えたところから反射が死ぬ。死んだ帯が扉を一枚薄くし、薄くなった面の向こうの白い粒と透明な液面が、ネモ室と同じ死に方でそこにある。

誰も息を吐けない。

吐けない沈黙の中で、隔壁の向こうの工具袋のことが、見えないのに背中へ触れてくる。触れてくるのは温度じゃない。確実さだ。確実さが戻るほど、レバーの回転が迷わなくなる。

もう一段、レバーが回った。

回った瞬間、扉の隙間が指一本ぶんに広がり、広がった縁の反射がまとめて死んだ。死んだ縁の黒が、こちら側の床の列と繋がる。繋がったところから床の列が一センチだけ進み、進んだ先で横たえられた胸の中心の真下の溝が一列消えた。

消えた線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が胸の高さへ揃い、揃ったまま、降りる手前の角度だけを作った。

その角度のまま、圧力扉の隙間の向こうで、椅子の背が一瞬だけ鮮明になった気がした。鮮明になったのは椅子じゃない。白い粒の密度の境目が一拍揃っただけだ。だが揃った一拍で、肩の位置だけが濃く浮き、浮いた肩がこちら側の胸の高さへ揃ってしまう。

揃ってしまった瞬間、レバーは回転を止めた。

止めたのに戻らない。戻らないまま、隙間は閉じない。閉じない隙間の縁で粉が沈み続け、沈み続ける粒の列が、足元を避けないまままっすぐに胸の中心へ向けて伸びていく。

伸びていく列は、足元を避けないまままっすぐに胸の中心へ向けて伸びていく。

列の先端が胸の真下の溝へ揃った瞬間、溝の模様が一列だけ消えた。消えた線の上で粉が沈み、沈んだ粒の中心から黒が覗く。覗いた黒は床に広がらない。広がらないまま、胸の中心の薄い点へ向けて「奥」だけを伸ばす。

胸の中心の点が、広がらないまま一段濃くなる。濃くなったのに痛みはない。ないのに、胸の内側の空洞がもう一つ増えた。増えた空洞の分だけ呼吸が入らない。入らない穴に合わせて喉が狭くなり、狭くなった喉の奥が尖る。尖ったまま息を吐こうとして止め、止めた穴に合わせて床の列が一拍だけ脈を打つ。

圧力扉の隙間の縁で粉が沈み続けている。沈み続ける粒が縁の反射を一列ずつ殺し、殺された帯の下で隙間がわずかに広がる。広がったのに風は来ない。来ないのに、白い粒だけが隙間から落ちた。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列へ繋がる。繋がったところから列が太り、太った列が胸の真下へ揃い直す。

レバーは止まったまま戻らない。戻らないレバーの先端の影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が細い列になり、その列が扉の隙間へ向けて伸びる。伸びた先で隙間の暗さと噛み合い、噛み合った瞬間に扉の内側の床の模様が一列だけ消えた。

消えた向こう側の床が見える。見えるのに遠近がつかめない。つかめないまま、白い粒が舞っている。舞っているのに風はない。粒は光を返さない。返さない粒の下で透明な液面が揺れずに溜まっていて、溜まっている端の輪の反射だけが途切れている。途切れの線がこちら側の溝と同じ向きを向くたび、こちら側の粉の沈みも同じ向きを選び直す。

椅子の背の輪郭が、隙間の向こうで一瞬だけ鮮明になった気がした。鮮明になったのは椅子じゃない。粒の密度の境目が一拍揃っただけだ。だが揃った一拍で肩の位置だけが濃く浮き、浮いた肩がこちら側の胸の高さへ揃ってしまう。

揃った瞬間、胸の中心の薄い点がまた濃くなる。濃くなった奥の向きが、扉の隙間へ向き直る。向き直った瞬間、胸の中心から隙間へ向けて薄い線が一本だけ引かれた気がした。引かれた線は床を這わない。空気を切らない。切らないまま、床の模様だけを一列ずつ消していく。消えた溝の線が胸の真下へ揃い、揃ったところで粉が沈む。沈んだ粒の中心が、胸の中心の点へ向けて奥行きを作る。

横たえられた者の胸が途中まで上下し、途中で止まる。止まったのに息が出ない。出ないまま唇が開き、開いた隙間から空気が漏れそうになって止まる。止めた穴に合わせて、隙間の向こうの肩の位置が一拍だけ揺れを消した。揺れが消えたぶんだけ、こちら側の圧が増える。増えた圧が胸骨の裏へ乗り、乗った圧が喉を塞ぐ。塞がれた喉の穴が細くなる。

細くなった穴を、誰かの指が押し広げようとして止まった。止まった指の腹の感覚が薄い。薄い感覚のまま引くと、引いた指だけが白い。白いのに粉が付いていない。白さを見た瞬間、扉の隙間の縁の沈みが一拍だけ濃くなる。濃くなった縁が、こちら側の床の列と噛み合い、噛み合った瞬間に隙間がもう少しだけ広がった。

広がった隙間から白い粒が二つ落ちた。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列へ繋がる。繋がったところから列が一センチだけ進む。進んだ先で胸の真下の溝がもう一本消えた。消えた線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が胸の高さへ揃い、揃ったまま降りる手前の角度だけを作る。

角度が作られたまま、先端は降りない。降りないのに胸の中心の点が濃くなる。濃くなるのに広がらない。広がらない濃さが奥を作り、奥が呼吸の通り道を狭くする。狭くなった穴に合わせて、扉の隙間の向こうの粒の密度の境目が一拍だけ揃う。揃った境目の中で、椅子の背の輪郭がまた見えた気がする。気がするだけなのに、肩の位置だけは確かに濃い。

濃い肩の高さが、いま塞がれている喉の高さと揃う。

揃った高さに押されて、レバーへ向けていた手が引っ込む。引っ込んだ動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈む。沈んだ粒が床の列へ寄り、寄ったぶんだけ列が太る。太った列の先端が、今度は胸の中心ではなく、扉の隙間の真下へ揃い直す。揃い直した瞬間、隙間の縁の沈みが一段深く覗き、覗いた黒が床の模様を一列だけ殺した。

殺された列の先に、扉の向こうの床の溝が見える。見える溝が、こちら側の溝と同じ間隔で並んでいる。並びが揃いすぎていて、遠いのに近い。近いのに触れない。触れないまま、透明な液面の端の輪の途切れが、こちら側の胸の中心の点と一直線になる。

一直線になった瞬間、胸の中心の点が一拍だけ薄くなる。薄くなった一拍で息が入ろうとして止まり、止まった穴に合わせて床の列が脈を打つ。脈のあと、点がまた濃く戻る。戻った濃さは胸の中心に留まらず、奥の向きだけが隙間へ寄る。寄った奥が、隙間の中の暗さへ繋がろうとして止まった。

止まったところで、扉の向こうの白い粒が一斉に舞い上がった。

舞い上がった粒は風で動いていない。動いていないのに、密度の境目だけが形を作り、その形が肩の位置を浮かせる。浮いた肩が、今度は胸ではなく、レバーの高さへ揃う。揃った瞬間、レバーが音もなくほんの僅かに戻ろうとして戻らない。戻らないまま、隙間の縁の沈みが一列増えた。

増えた沈みの縁で粉が沈み続ける。沈み続ける粒の列が、足元を避けないまま、今度こそまっすぐに胸の中心へ向けて伸びていく。伸びていく先で、胸の中心の点が広がらないまま濃くなり、濃くなった奥が、降りる手前で止まっている縦の先端へ揃い始めた。

揃い始めた奥の向きは、先端に届かないまま止まった。

止まったのに、先端の下の空気だけが硬くなる。硬さは風ではない。湿りでもない。硬さが皮膚に触れる前に、胸骨の裏の圧が一段増え、増えた圧が喉の穴を細くする。細くなった穴を測るみたいに、床の列が一拍だけ脈を打った。脈のあと、列の先端が胸の真下の溝をもう一本だけ殺し、殺した線の上で粉が沈む。沈んだ粒の中心から黒が覗き、覗いた黒が胸の中心の点へ向けて奥行きだけを伸ばす。

胸の中心の点が広がらないまま濃くなり、濃くなった濃さが「奥」を作る。奥が作られたぶんだけ、胸の内側の空洞がまた軽くなる。軽くなるのに呼吸は入らない。入らない穴が狭くなり、狭くなった穴に合わせて先端の角度が一拍だけ確かになる。確かになった角度のまま、先端はまだ降りない。

降りない代わりに、圧力扉の隙間の縁が沈む。沈む縁は広がらない。広がらないまま、反射だけを一列ずつ殺していく。殺された帯の下で隙間が髪の毛一本ぶんだけ広がり、広がった隙間から白い粒が落ちた。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列へ繋がる。繋がった瞬間、床の列の曲がりが消え、消えたまま胸の中心へ直線になる。

直線になったことで、足元を避けなくなった。避けない列の縁が靴先へ触れそうになって止まり、止まったところで靴底の感覚が薄くなる。薄くなるのに沈まない。沈まないまま体重を移そうとすると、移したぶんだけ粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になり、点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列の中心が縦へ伸びる気配を強める。

強まった気配の先端が、胸の中心の高さへ揃う。揃った高さが喉の高さとも揃い、揃ったせいで息を吐けない。吐けないまま唇が開き、開いた隙間から空気が漏れそうになって止まる。止めた穴に合わせて胸の中心の点が一拍だけ薄くなり、薄くなった一拍で息が入りかけて止まった。止まった瞬間、点がまた濃く戻り、戻った奥の向きが先端へ揃い直す。

「……動かす」

声は小さい。小さい声の湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈む。沈んだ粒が列へ寄り、寄ったぶんだけ列が太る。太った列が胸の真下へ揃ったまま、二人が体を滑らせる。足を上げない。滑らせる。滑らせた靴底が粉を潰し、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が移動と同じ向きへ伸びる。

伸びた先で、胸の中心の点がついてくる。皮膚の上に留まったまま位置がずれるのではなく、胸の中心と一緒に移動している。移動しているのに痛みがない。痛みがないのに胸の中が軽く、軽いまま喉が狭い。狭い喉の穴を測るみたいに、先端の角度が胸の中心へ合わせ直される。合わせ直された角度のまま、先端が半拍だけ降りた。

降りたのに触れた音はない。ないまま胸の中心の反射がまた一段死に、死んだ点が広がらずに奥を深くする。深くなった奥に引かれるみたいに、床の列が一センチだけ進む。進んだ先で溝の模様がもう一本消え、消えた線が胸の真下へ揃って止まる。止まったのに、縦の気配の先端だけが胸へ近づく角度を保つ。

圧力扉の隙間の向こうで、白い粒の密度の境目が一拍だけ揃った。揃った境目の中で肩の位置だけが濃く浮き、浮いた肩がこちら側の胸の高さへ揃う。揃った瞬間、胸の中心の点の奥の向きが隙間へ寄り、寄った奥が隙間の暗さへ繋がろうとして止まる。止まったところで、隙間の縁の沈みが一列増えた。

増えた沈みの縁から白い粒がもう一つ落ちた。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列へ繋がる。繋がった瞬間、列が胸へ向かう直線を一度だけ崩し、崩した先でレバーの真下の溝へ揃う。揃った溝の模様が一列消え、消えた線の上で粉が沈む。沈んだ中心が軸の穴へ向けて角度を作り、角度が出来た瞬間、レバーの金属の位置だけが一拍遅れて沈んだ。

沈んだのに重さは増えない。増えないまま、レバーがほんの僅かに戻ろうとして戻らない。戻らない途中で止まり、止まった位置の反射だけが死ぬ。死んだ反射の帯が扉の輪郭を一枚薄くし、薄くなった面の向こうの白い粒と透明な液面がまた近く見える。近く見えた瞬間、こちら側の空気がさらに痺れ、痺れが胸骨の裏へ圧として乗る。

乗った圧の下で、先端の角度が一拍だけ胸から外れた。外れた角度がレバーの高さへ揃い、揃ったまま先端が沈むふりをして沈まない。沈まないのに、軸の穴の黒が一段深く覗き、覗いた深さのぶんだけ隙間が髪の毛一本ぶんだけ広がった。

広がった隙間の縁で粉が沈み続ける。沈み続ける粒の列が、今度は胸ではなく、運ぶ二人の腕の下の溝へ揃った。揃った瞬間、腕の内側の感覚が薄くなる。薄くなるのに力は抜けない。抜けないまま手首が震え、震えで粉が落ちる。落ちた粒が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が列と繋がる。繋がったところから列が太り、太った列の先端がまた胸の中心の真下へ揃い直す。

揃い直した瞬間、胸の中心の点が薄くなった。薄くなった一拍で、息が一つだけ入った。入った息が喉で鳴りそうになって止まり、止まった穴に合わせて先端が降りる手前の角度を確かにする。確かになった角度のまま、先端がまた半拍だけ降りた。

降りたのに触れた音はない。ないまま、胸の中心の反射がもう一段死んだ。死んだ点が広がらずに奥を深くし、深くなった奥が今度は確かに先端へ揃った。揃った瞬間、床の列が一センチだけ進み、進んだ先で胸の真下の溝がさらに一本消えた。

消えた線の上で粉が沈む。沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が胸の高さへ揃い、揃ったまま降りる角度を作る。角度が作られたまま止まり、止まった空気の痺れが増えた。

増えた痺れの中で、圧力扉の隙間の向こうの白い粒が、また一斉に舞い上がった。舞い上がったのに風はない。密度の境目だけが形を作り、その形が肩の位置を浮かせる。浮いた肩の高さが、今度は運ぶ腕の高さへ揃った。

揃った瞬間、二人の腕が一拍だけ重くなる。重くなるのに、重さが筋肉から来ない。来ない重さのせいで体がわずかに沈み、沈んだ分だけ粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になり、点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列の先端が、今度こそ胸の中心へまっすぐ揃い直した。

太った列の先端が、今度こそ胸の中心へまっすぐ揃い直した。

揃い直したまま、列は止まらない。床を這うのではなく、溝の模様だけを一列ずつ殺しながら近づき、近づいた先で粉の粒が沈む。沈んだ粒の中心から黒が覗き、覗いた黒は広がらないまま胸の中心の点へ向けて奥行きだけを伸ばす。奥行きが伸びるほど、胸の中心の点が広がらないまま濃くなる。濃くなるのに血は出ない。痛みもない。ないのに、胸の内側がまた一つ空き、空いた分だけ息が入らない。入らない穴が狭くなり、狭くなった喉の奥が尖る。尖ったまま吐こうとして止めた瞬間、縦の先端が一拍だけ揺れを消し、揺れが消えたぶんだけ降りる角度が確かになった。

確かになった角度のまま、先端は半拍だけ降りた。降りたのに触れた音はない。ないまま胸の中心の反射がもう一段死に、死んだ点が広がらずに奥を深くする。深くなった奥に引かれるみたいに、運んでいる二人の腕の内側の感覚がさらに薄くなる。薄くなるのに力は抜けない。抜けないまま手首が震え、震えの分だけ粉が落ちる。落ちた粒は床で沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が列へ繋がり、繋がったところから列が太る。太った列は足元を避けない。避けないまま靴先の影の縁へ寄り、寄ったところで靴底の感覚が抜ける。抜けたまま体重が沈み、沈んだ分だけ粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈みの輪郭が列を増やし、増えた列が胸の真下へ揃っていく。

揃っていく途中で、圧力扉の隙間の縁がまた沈んだ。沈みは反射だけを殺し、殺された帯の下で隙間が髪の毛一本ぶんだけ広がる。広がったのに風は来ない。来ないのに白い粒だけが落ち、落ちた粒は跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列と噛み合った瞬間、胸の中心の点が一拍だけ薄くなった。薄くなった一拍で息が入ろうとして止まる。止まった穴に合わせて、隙間の向こうの白い粒の密度の境目が一拍揃い、その揃いで肩の位置だけが濃く浮く。浮いた肩が運ぶ腕の高さへ揃った瞬間、腕が一拍だけ重くなり、重さに耐えるために肘がわずかに曲がった。

曲がった肘の下で、横たえられた体が一センチだけ沈んだ。沈んだのは体ではない。運ぶ腕の震えが作った落差だった。落差が出来たことで胸の中心の点が、位置は動かないまま奥の向きだけを変えた。奥の向きが先端へ揃い直し、揃い直した瞬間、縦の先端がまた半拍だけ降りた。降りたのに触れた音はない。ないまま胸の中心の点が濃く戻り、戻った濃さが広がらずに奥を深くする。深くなった奥に引かれて、床の列が一センチだけ進む。進んだ先で溝の模様がさらに一本消え、消えた線の上で粉が沈む。沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立て、その気配の先端が胸の高さへ揃い、揃ったまま降りる角度だけを作って止まる。

止まった角度の下で空気が硬くなる。硬さは壁ではない。触れないのに胸骨の裏へ圧が乗り、圧が喉の穴を細くする。細くなった穴を測るみたいに床の列が脈を打ち、脈のあと、運ぶ二人の膝が同時にわずかに沈んだ。沈みは転倒ではない。重さを逃がすための沈みだった。その沈みで粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ跡が点になる。点が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が腕の下の溝へ揃う。揃った瞬間、腕の内側の皮膚の反射が一拍だけ死んだ。死んだ白さが汗でも粉でもないまま浮き、浮いた白さを見た者の喉が動く。動いた喉の穴に合わせて、縦の先端が揺れを消す。消えた揺れの分だけ、降りる角度がさらに確かになる。

「下ろすな」

声は短い。短いほど息が漏れる。漏れた湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈む。沈んだ粒が列へ寄り、列が太る。太った列の先端が胸の真下へ揃い直した瞬間、胸の中心の点が一拍だけ薄くなり、薄くなった一拍で息が一つだけ入った。入った息は鳴らない。鳴る前に止まる。止まった穴に合わせて、先端が今度は半拍より長く降りた。

降りたのに触れた音はない。ないまま胸の中心の反射がまとめて死んだ。死んだ点は広がらない。広がらないまま、奥だけが深くなる。深くなった奥の中で、何かが落ちた感じがした。落ちた音はない。ないのに、胸の内側の空洞が一段増えた。増えた空洞の分だけ、吸ったはずの空気が胸の中へ届かない。届かないまま喉だけが狭くなり、狭くなった穴に合わせて床の列が一拍脈を打つ。脈のあと、縦の先端が胸の中心へ向けて、降りる角度を作ったまま止まらずに動いた。

動いたのは距離だった。距離が削られ、削られた先端が胸の中心の点の上に重なる。重なったのに触れた感触はない。ないまま、胸の中心の点が一瞬だけ薄くなる。薄くなった一瞬で、息が吐けそうになって止まる。止まった穴に合わせて、重なった先端の下の空気が一拍だけ硬くなり、硬くなった空気が胸骨の裏へ圧として乗った。乗った圧で運ぶ腕が一拍だけ沈み、沈んだ分だけ粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈みが列を増やし、増えた列が胸だけではなく、運ぶ腕の真下へも揃う。

揃った瞬間、片方の腕の内側の白さが広がらないまま濃くなった。濃くなったのに粉は付いていない。濃さが奥行きを持ち、奥行きが骨の裏へ触れたみたいに重い。重さに耐えようとして指が締まり、締まった指の節の影の縁で粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が指の形をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、握っている感覚だけが薄くなる。薄くなったまま腕が滑り、滑りかけた瞬間にもう片方が体を抱え直す。抱え直しの動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈み、沈んだ粒が列へ寄り、列が太って胸の真下へ揃い直す。

圧力扉の隙間の向こうで、白い粒がまた一斉に舞い上がった。舞い上がったのに風はない。密度の境目だけが形を作り、形が肩の位置を浮かせる。浮いた肩の高さが、今度は胸ではなく、沈んだ腕の高さへ揃った。揃った瞬間、圧力扉の隙間が指一本ぶんだけ広がった。広がった縁の反射がまとめて死に、死んだ縁の黒がこちら側の床の列と噛み合う。噛み合ったところから、床の列が胸から外れて隙間の真下へ揃い直し、揃い直した溝の模様が一列だけ消えた。消えた線の上で粉が沈み、沈んだ中心が隙間へ向けて奥行きを作る。作られた奥が隙間の暗さへ繋がり、繋がった瞬間に隙間の向こうの透明な液面の端の輪の途切れが、こちら側の胸の中心の点と一直線になった。

一直線になった瞬間、胸の中心の点が薄くなり、薄くなった一拍で息が二つ目まで入ろうとして止まった。止まった穴に合わせて、重なっていた先端が胸から外れた。外れた角度が、沈んでいる腕の白さへ揃う。揃ったまま、先端が胸ではなく腕へ降りるふりをして降りない。降りないのに、腕の内側の白さが一段濃くなり、濃くなった奥が骨の裏へ触れたみたいに重い。

その重さに耐えきれず、膝が一つ、床へ着いた。着いた音は出ない。出ないのに粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の列へ繋がる。繋がった瞬間、列が増え、増えた列が胸の真下へ揃い直す。揃い直した瞬間、胸の中心の点がまた濃く戻る。濃く戻った奥の向きが先端へ揃い、揃った瞬間に先端が胸へ戻る角度を作る。戻る角度のまま、距離だけが削られていく。削られていく先で、胸の中心の奥がさらに深くなり、深くなった奥に吸われるように、吐けない息が喉の奥で固まった。

固まったまま、圧力扉の隙間の向こうの白い粒の密度の境目が、肩の位置の形を保ったままこちらへ近づいた気がした。近づいたのは肩ではない。隙間の縁の反射の死んだ帯が一列増えただけだ。だが増えた帯の下で、隙間がもう少しだけ広がり、広がった隙間から落ちた白い粒が床で沈む。沈んだ中心から覗いた黒が、今度は床の列ではなく、胸の中心の点へ向けて真っ直ぐに奥行きだけを伸ばした。伸びた奥行きが点に触れる手前で止まり、止まったところで先端が、降りる手前ではなく、降りる角度のまま止まらなくなった。

止まったところで先端が、降りる手前ではなく、降りる角度のまま止まらなくなった。

距離が削られる。削られるのに、動きが見えない。見えないまま、胸の中心の点の奥が一拍だけ深くなる。深くなった奥に合わせて、先端の角度が胸へ戻る。戻った角度の先で、胸の中心の反射がさらに死んだ。死んだ点は広がらない。広がらないまま、点の内側だけが落ちる。落ちるのに皮膚は凹まない。凹まないのに、胸の内側の空洞がひとつ増え、増えた空洞の分だけ吸ったはずの空気が届かない。

届かない息が喉で固まり、固まった喉の穴が細くなる。細くなった穴を測るみたいに床の列が一拍だけ脈を打つ。脈のあと、胸の真下の溝の模様がもう一本消えた。消えた線の上で粉が沈み、沈んだ中心から覗いた黒が、今度は列を作らずに胸の中心へ向けて奥行きだけを伸ばす。伸ばした奥が点に触れる手前で止まらず、止まらずに「重なる」位置へ来る。

重なった瞬間、圧が消えた。

消えたのに息は入らない。入らないのに胸の軽さだけが増え、軽さのせいで運ぶ腕が一拍遅れて持ち上がる。持ち上がったのに、持ち上げた感覚がない。ないまま指が締まり、締まった節の影の縁で粉が沈む。沈んだ輪郭が列になり、列が腕の内側の白さへ寄る。寄った列の先端で、白さが一段濃くなる。濃くなるのに粉は付かない。濃さが奥行きを持ち、奥行きが骨の裏へ触れたみたいに重い。

その重さに耐えるために、膝を着いた方の肩が震える。震えは小さい。小さいのに粉が落ちる。落ちた粒が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が腕の白さへ繋がる。繋がったところから白さが点になる。点は広がらない。広がらないまま、点が「向き」を持つ。向きが胸ではなく、圧力扉の隙間へ揃う。

揃った向きに引かれるみたいに、隙間の縁の沈みが一列増えた。増えた沈みの縁から白い粒が落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈み、沈んだ中心から覗いた黒が隙間の形に沿って薄く伸びる。伸びた薄さが扉の面の模様だけを消し、消えたところから反射がまとめて死んだ。死んだ帯が増えた分だけ隙間が指二本ぶんに広がる。広がったのに風は来ない。来ないまま、向こう側の白い粒の密度の境目だけがこちらへ寄る。

寄ってきた境目の中で、透明な液面の端の輪の途切れが、こちら側の胸の中心の点と一直線になる。一直線になった瞬間、胸の中心の点が一拍だけ薄くなった。薄くなった一拍で息が吐けそうになって止まる。止まった穴に合わせて、胸の中心の奥が隙間へ向けて動く。動くのは位置じゃない。奥の向きだけだ。向きが変わった瞬間、先端の角度が胸から外れ、外れた角度が隙間の真下へ揃う。

揃ったまま、床の列が動いた。足元を避けない。避けないまま、膝を着いた膝の真下の溝へ揃い、揃った溝の模様が一列だけ消えた。消えた線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が膝の高さへ揃い、揃ったまま降りる角度を作る。

作った角度のまま、膝の接地の感覚が薄くなる。薄くなるのに膝は沈まない。沈まないのに、床が遠くなる。遠くなる感じだけが増え、増えた分だけ身体の重さが腕へ逃げる。逃げた重さが腕の白さを濃くし、濃くなった白さの点がまた奥行きを持つ。奥行きが骨の裏へ触れるみたいに重い。

「立て」

声は短い。短い声の湿りが粉を濡らす。濡れた粉が沈む。沈んだ粒が列へ寄る。寄ったぶんだけ列が太り、太った列が今度は足首の真下へ揃う。揃った瞬間、足首の上の重さが一段増え、増えた重さが膝を持ち上げる動きを止める。止めた穴に合わせて、隙間の向こうの肩の形が一拍だけ揺れを消した。揺れが消えたぶんだけ、こちら側の痺れが増える。

増えた痺れの中で、横たえられた胸の中心の点が濃く戻った。戻った濃さは広がらない。広がらないまま、胸の中心から隙間へ向けて薄い線が一本だけ引かれる。引かれた線は床を這わない。空気を切らない。切らないまま、運ぶ腕の内側の白さの点と噛み合う。噛み合った瞬間、腕の白さの奥が一段深くなり、深くなった奥が引かれるみたいに隙間へ向く。

向いた奥に合わせて、圧力扉の隙間の縁の沈みがまた一列増えた。増えた沈みの縁で粉が沈み続け、沈み続ける粒の列が、今度は胸ではなく腕の下の溝へ揃う。揃った瞬間、腕の内側の白さが一拍だけ薄くなる。薄くなった一拍で指の感覚が戻り、戻った感覚で身体を抱え直す。抱え直しの動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈む。沈んだ粒が隙間の縁へ寄り、寄ったぶんだけ縁の反射が死ぬ。

死んだ帯が増えた分だけ、隙間がもう少しだけ広がった。

広がった隙間の向こうで、白い粒が舞い上がる。舞い上がるのに風はない。密度の境目だけが形を作り、その形が肩の位置を浮かせる。浮いた肩の高さが、今度は通路のこちら側の目の高さへ揃う。揃った瞬間、見ている感覚だけが薄くなる。薄くなるのに視界は暗くならない。暗くならないまま、扉の向こうの床の溝の並びが近い。近いのに触れない。触れないまま、こちら側の床の溝が一列だけ消えた。

消えた線の上で粉が沈む。沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が胸の高さへ揃い、揃ったまま、今度は降りる角度を作ったまま止まらない。

止まらずに、降りる。

止まらずに、降りる。

降りる動きは見えない。見えないまま、胸の中心の点の上の空気だけが硬くなり、硬くなった空気が一拍遅れて沈む。沈んだのに音はない。ないまま胸の中心の点が薄くなり、薄くなった一拍で皮膚の反射が戻りそうになって戻らない。戻らないまま、点の内側だけが落ちる。落ちるのに凹みはない。凹みがないまま、胸の内側の空洞がひとつ増え、増えた空洞へ向けて吸ったはずの空気が落ちる。

落ちる空気は出ていかない。出ていかないまま喉で固まり、固まった穴が細くなる。細くなった穴を測るみたいに床の列が一拍だけ脈を打つ。脈のあと、縦の先端が胸の中心の点に重なる。重なった瞬間、圧が戻らない。戻らないのに、軽さだけが増える。軽さが増えたぶんだけ、運ぶ腕が一拍遅れて持ち上がり、持ち上がったのに持ち上げた感覚がない。

感覚がないまま、腕の内側の白さの点が一段深くなる。深くなった奥の向きが隙間へ揃い、揃った向きに引かれるみたいに圧力扉の隙間の縁の沈みが増える。増えた沈みは反射だけを殺し、殺された帯の下で隙間が指三本ぶんに広がった。広がったのに風は来ない。来ないまま、向こう側の白い粒の密度の境目だけがこちらへ寄り、寄った境目の中で肩の形が保たれたまま浮く。

浮いた肩が、いま重くなっている腕の高さへ揃った。

揃った瞬間、腕の重さが増える。増えるのに筋肉が痛まない。痛まないまま、骨の裏にだけ重さが乗る。乗った重さに耐えるために指が締まり、締まった節の影の縁で粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が指の形をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、握っている感覚だけが薄くなる。

薄くなったまま、抱えている体が一センチだけ滑った。滑ったのに落ちない。落ちないのに、胸の中心の点の奥が一拍だけ深くなり、深くなった奥に合わせて床の列が胸へ向けて太る。太った列は曲がらない。曲がらないまま胸の真下へ揃い、揃った溝の模様が一列だけ消えた。消えた線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。

気配の先端が、今度は胸ではなく、抱えている腕の内側の白さの点へ揃った。

揃った先端は降りない。降りないのに、白さの点が一拍だけ薄くなる。薄くなった一拍で指の感覚が戻り、戻った感覚で抱え直す。抱え直しの動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈む。沈んだ粒が隙間の縁へ寄り、寄ったぶんだけ縁の反射がまた死んだ。死んだ帯が増えた分だけ、隙間がわずかに広がる。

広がった隙間の向こうで、透明な液面の端の輪の途切れが増えた。増えた途切れは広がらない。広がらないまま向きだけが揃い、揃った向きがこちら側の床の溝と同じ方向を向く。向いた瞬間、通路の床の模様が一本だけ消え、消えた線が隙間の真下へ向けて一直線になる。一直線になった線の上で粉が沈み、沈んだ中心から覗いた黒が隙間へ向けて奥行きだけを伸ばした。

伸ばした奥が、隙間の暗さに触れる手前で止まらず、止まらずに「繋がる」位置へ来る。

繋がった瞬間、隙間の向こうの床の溝の並びが、こちら側の床と同じ距離に見えた。同じ距離に見えるのに、段差が分からない。分からないまま、向こう側の白い粒がこちら側の粉の上に落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から覗いた黒が、床の列ではなく、胸の中心の点へ向けて真っ直ぐに奥行きを伸ばした。

伸ばされた奥行きが点に触れる直前で、胸の中心の点が一拍だけ薄くなる。薄くなった一拍で息が吐けそうになって止まる。止まった穴に合わせて、胸の内側の空洞がまた軽くなる。軽くなった空洞に、吸ったはずの空気が落ちる。落ちた空気は肺へ行かない。行かないまま、胸の中心の点の奥へ消える。

消えたぶんだけ、横たえられた体の重さが減った。

減ったのに、抱えている腕の骨の裏の重さは増える。増える重さに押されて、膝を着いた方がもう一つ膝をつきそうになって止めた。止めた動きは小さい。小さいのに粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の一直線へ繋がる。繋がったところから一直線が太り、太った線の先端が隙間の縁へ揃う。

揃った縁の沈みが、今度は反射だけではなく、縁の形を薄くする。薄くなった縁の向こうの暗さが近づき、近づいた暗さの中で肩の形が保たれたまま浮いた。浮いた肩の高さが、いま喉の奥が尖っている高さへ揃う。揃った瞬間、見ている感覚だけが薄くなる。薄くなるのに暗くならない。暗くならないまま、目の前の隙間の向こうが近い。

近いのに、触れない。

触れないまま、胸の中心の点が濃く戻った。戻った濃さは広がらない。広がらないまま奥だけが深くなり、深くなった奥の向きが隙間へ揃う。揃った奥に引かれるみたいに、抱えている腕の内側の白さの点がまた濃くなる。濃くなった点が奥行きを持ち、奥行きが骨の裏へ触れるみたいに重い。

その重さに耐えようとして、誰かが一歩だけ後ろへ下がった。下がった足は滑らない。滑らないのに、床が遠くなる。遠くなる感じだけが増え、増えた分だけ足首の上の重さが増える。増えた重さのせいで、次の一歩が出ない。出ない穴に合わせて、床の一直線が一拍だけ脈を打った。

脈のあと、圧力扉の隙間が、音もなくもう一段だけ広がった。

脈のあと、圧力扉の隙間が、音もなくもう一段だけ広がった。

広がった幅は掌ひとつ分に近い。近いのに風は来ない。来ないまま、隙間の縁の反射がまとめて死んだ。死んだ帯の下で金属の輪郭が一枚薄くなり、薄くなった面の向こうの白い粒が、こちら側へ落ちてくる。

落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の一直線と噛み合う。噛み合った瞬間、一直線の太り方が変わった。床を這わない。溝の模様だけを殺していき、殺した線の上で粉が沈みやすくなる。沈みやすくなった粒が隙間の真下へ集まり、集まった中心が奥行きを持つ。

奥行きの縁で、膝の接地の感覚がまた薄くなった。薄くなるのに沈まない。沈まないのに床が遠い。遠い感じだけが増え、増えた分だけ腕へ重さが逃げる。逃げた重さが骨の裏にだけ乗る。筋肉の痛みは来ない。来ないまま、腕の内側の白さの点がまた濃くなる。濃くなるのに粉は付かない。濃さが奥を持ち、奥が骨の裏へ触れたみたいに重い。

抱えている体が、もう一センチだけ滑った。

滑ったのに落ちない。落ちないのに、軽い。軽さが増えたぶんだけ、抱えた腕の負担が減るはずなのに減らない。減らないまま骨の裏だけが重い。重いせいで指が締まり、締まった節の影の縁で粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が指の形をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、握っている感覚だけが薄い。

薄い感覚のまま、横たえられた胸の中心の点が一拍だけ薄くなる。薄くなった一拍で息が吐けそうになって止まる。止まった穴に合わせて、胸の内側の空洞がまた軽くなる。軽くなった空洞へ、吸ったはずの空気が落ちる。落ちた空気は肺へ行かない。行かないまま、胸の中心の奥へ消える。消えた分だけ、体の重さがまた減った。

減ったのに、抱えている側の重さは増える。

増えた重さに押されて、膝がもう一度床へ着いた。着いた音は出ない。出ないのに粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が床の一直線へ繋がる。繋がったところから一直線が太り、太った先端が隙間の縁へ揃う。揃った瞬間、縁の沈みが反射だけではなく形を薄くする。薄くなるのに隙間は閉じない。閉じないまま、向こう側の床の溝がこちら側と同じ距離に見えた。

同じ距離に見えるのに、段差が分からない。

分からないまま、白い粒の密度の境目が隙間の中で形を保ち、肩の位置だけを浮かせる。浮いた肩の高さが、今度は胸ではなく喉の高さへ揃った。揃った瞬間、喉の穴が細くなる。細くなった穴を測るみたいに床の一直線が一拍だけ脈を打ち、脈のあと、縦へ伸びる気配が隙間の真下に立つ。立った気配の先端が喉の高さへ揃い、揃ったまま降りる角度を作る。

角度が作られたまま、降りる動きは見えない。見えないのに空気だけが硬くなる。硬さが胸骨の裏へ圧として乗り、圧が喉を塞ぐ。塞がれた穴から息が漏れそうになって止まる。止まった穴に合わせて、横たえられた胸の中心の点が濃く戻る。戻った濃さは広がらない。広がらないまま奥だけが深くなり、深くなった奥の向きが隙間へ揃う。

揃った奥に引かれるみたいに、体が隙間の方へ寄った。

寄った動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈む。沈んだ粒が隙間の縁へ寄り、寄ったぶんだけ縁の反射がさらに死んだ。死んだ帯が増えた分だけ隙間がもう少しだけ広がり、広がった隙間から白い粒がまとめて落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から覗いた黒が、床の一直線ではなく、抱えている腕の内側の白さの点へ向けて真っ直ぐに奥行きを伸ばした。

伸びた奥行きが点に触れる直前で止まらない。止まらないまま、白さの点の奥が一段深くなる。深くなった瞬間、腕の骨の裏の重さがまた増えた。増えた重さに耐えるために肘が曲がり、曲がった肘の下で横たえられた体がさらに滑る。滑った分だけ胸の中心の点の奥が深くなり、深くなった奥へ空気が落ちる。落ちた空気が戻らない。戻らないまま、吐けない息が喉の奥で固まる。

固まった喉の高さへ、隙間の中の肩が揃っている。

揃ったまま、肩の形は近づかない。近づかないのに近い。近い感じだけが増え、増えた分だけ見ている感覚が薄い。薄いのに暗くならない。暗くならないまま、隙間の縁の薄さが増え、増えた薄さの向こうの透明な液面の端の輪の途切れがこちらを向く。向いた途切れの線が、床の溝と同じ向きを向くたび、こちら側の溝の模様が一本ずつ死ぬ。

死んだ線の上で粉が沈む。沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が今度は抱えている指の節の高さへ揃う。揃った瞬間、節の感覚が抜けた。抜けたのに力は抜けない。抜けないまま締まってしまい、締まった影の縁で粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が指の形をなぞって伸びる。

「離せ」

声は出ていない。口の形だけが動いた。動いた湿りが粉を濡らし、濡れた粉が沈む。沈んだ粒が隙間の縁へ寄り、寄ったぶんだけ縁の反射が死ぬ。死んだ帯の下で隙間がさらに広がり、広がった向こう側の床がこちらの足元と同じ高さに見えた。

同じ高さに見えた瞬間、抱えている体が、ふっと軽くなる。

軽くなるのに落ちない。落ちないのに、腕が持ち上がらない。持ち上がらないまま骨の裏の重さだけが増え、増えた重さに押されて手が開きかけて止まる。止まった指先の白さが濃くなる。濃くなるのに粉は付かない。濃さが奥を持ち、奥が隙間へ向く。向いた奥に合わせて、胸の中心の点が一拍だけ薄くなり、薄くなった一拍で空気が二つ目まで落ちかけて止まった。

止まった穴に合わせて、隙間の中の肩の形が一拍だけ揺れを消した。

揺れが消えたぶんだけ、こちら側の床の一直線が太り、太った先端が胸の中心ではなく、隙間を越えた向こう側の床の溝へ揃った。揃った瞬間、隙間の縁の薄さがまた増え、増えた薄さの中で、透明な液面の端の輪が揺れないまま溜まっているのがはっきり見えた。

溜まっている液面の輪の反射だけが途切れている。

途切れの線がこちら側の喉の高さと一直線になったところで、誰も息を吐けなくなった。

吐けない。

吐けないのに、喉の奥だけが動こうとして止まる。止まった穴の縁が細くなり、細くなった縁が冷える。冷えは皮膚じゃない。骨の裏の温度だけが抜ける感じで、抜けた分だけ舌の根が乾く。乾いたまま、息が出る前に白く割れた。

白い割れは霧じゃない。湿りじゃない。小さな粒になって落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ粒が粉になる。粉が床の溝へ集まり、集まった中心が奥行きを持つ。奥行きの向きが、隙間の向こうの液面の輪の途切れへ揃う。

揃った瞬間、喉の高さの一直線が硬くなる。硬さが胸骨の裏へ圧として乗る。圧が乗るのに息は出ない。出ないまま胸の中心の点が一拍だけ薄くなり、薄くなった一拍で吸ったはずの空気が胸の中へ落ちる。落ちるのに肺へ行かない。行かないまま、胸の中心の奥へ消える。

消えたぶんだけ、抱えている体がまた軽くなる。

軽いのに、腕の骨の裏の重さが増える。増えた重さに押されて手が開きそうになり、開きそうになった指先の白さが濃くなる。濃くなるのに粉は付いていない。濃さが奥を持ち、奥が隙間へ向く。向いた奥に引かれるみたいに、抱えている体が隙間の方へ寄る。寄る動きは小さい。小さいのに粉が舞う。舞った粉が沈む。沈んだ粒が一直線へ寄り、寄ったぶんだけ一直線が太る。

太った一直線の先端が、隙間の縁ではなく、隙間の向こうの液面の輪の途切れへ揃った。

揃ったところで、液面が揺れないまま持ち上がる。

持ち上がるのに波は立たない。水滴も落ちない。透明な面が一枚の板みたいに縁からせり出し、せり出した板の端が隙間のこちら側の空気に触れる手前で止まる。止まった端の反射は途切れている。途切れの線が喉の高さと一直線になるたび、こちら側の喉の穴が細くなる。細くなるのに咳は出ない。出ないまま、吐けない息が奥へ沈む。

沈む息の代わりに、白い粒が口元から落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ粒が粉になり、粉が床の溝へ集まり、集まった中心が奥行きを持つ。奥行きが隙間へ向けて伸び、伸びた先で透明な板の端の途切れと噛み合う。噛み合った瞬間、板の端がもう一センチだけせり出した。

せり出した端は冷たくない。触れないのに、触れたことだけが分かる。

分かった瞬間、床の模様が一本だけ死んだ。死んだ線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が、抱えている腕の内側の白い点の高さへ揃う。揃った瞬間、腕の内側の感覚が抜ける。抜けたのに力は抜けない。抜けないまま締まり、締まった節の影の縁で粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が指の形をなぞって伸びる。

伸びるのに触れていない。

触れていないのに、抱えている体が「置かれる」動きをする。置かれるのに床へ行かない。床へ行かないまま、隙間の向こうの同じ高さに見える床へ滑り、滑った先で透明な板の下へ入る。入った瞬間、体の輪郭の反射がまとめて死んだ。死んだ帯の下で輪郭が一枚薄くなり、薄くなった分だけ体が軽い。軽いのに、持っている側の骨の裏が重い。

重さに耐えようとして肩が震える。震えは小さい。小さいのに白い粒が落ちる。落ちた粒は沈む。沈んだ粉が溝へ集まり、集まった列が隙間を越えて向こう側の溝へ揃う。揃った瞬間、向こう側の床の模様も一本だけ死んだ。死んだ線の上で白い粒が沈み、沈んだ中心から覗いた黒が、今度は隙間を越えてこちら側へ向けて奥行きを伸ばす。

伸ばされた奥行きが、喉の高さへ来る。

来たのに触れない。触れないまま、喉の奥の尖りだけが増える。増えた尖りのせいで唇が開く。開くのに声は出ない。出ない声の代わりに、白い粒が一つ落ちる。落ちた粒が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が目の高さへ揃い、揃った瞬間、見ている感覚がさらに薄くなる。

薄くなるのに暗くならない。

暗くならないまま、隙間の向こうの肩の形が近い。近いのに距離が無い。無い距離の中で、透明な板の端がもう一センチだけせり出し、その端が床の粉の上へ影を落とした。落ちた影の縁で粉が沈む。沈んだ列が、喉の高さの一直線へ寄り、寄ったぶんだけ一直線が太る。

太った一直線の先端が、今度は誰かの首の付け根の高さへ揃った。

揃った瞬間、肩から下が軽くなる。軽くなるのに立てない。立てないまま、足首の上の重さだけが増える。増えた重さに押されて膝が折れそうになり、折れそうになったところで床が遠くなる。遠くなる感じだけが増え、増えた分だけ胸の中心の点の奥が深くなる。深くなった奥へ、吐けない息がまた沈む。

沈む息の行き先が、隙間の向こうの液面の輪の途切れと一直線になったまま、ほどけない。

ほどけないまま、ほどけるべき場所だけが先に薄くなる。

喉の奥の尖りは残り、残った尖りのせいで舌が動くのに、動いた舌の上で言葉にならない。言葉にならないまま吐こうとした息が白く割れ、割れた粒が落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ粉が溝へ集まり、集まった線が隙間の向こうの透明な板の端の途切れへ揃う。揃った瞬間、板の端がもう一センチせり出し、せり出した端の影が床へ落ちる。落ちた影の縁で粉が沈み、沈んだ列が喉の高さの一直線へ寄り、寄ったぶんだけ一直線が太る。

太った一直線の先端が、首の付け根の高さに揃う。揃った瞬間、肩から下が軽い。軽いのに足が動かない。動かないまま足首の上の重さだけが増え、増えた重さが膝を折らせようとして止まる。止めた穴に合わせて床の溝の模様が一本だけ死に、死んだ線の上で粉が沈む。沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が目の高さへ揃う。揃った瞬間、見ている感覚が薄くなる。薄くなるのに暗くならない。暗くならないまま、隙間の向こうの肩の形が近い。近いのに距離が無い。

距離が無い場所へ、抱えていた体が滑っていく。滑っていくのに床の上ではない。床の上ではないのに、落ちない。落ちないまま透明な板の下へ入っていく。入っていく途中で体の輪郭の反射がまとめて死に、死んだ帯の下で輪郭が薄くなる。薄くなるのに形は崩れない。崩れないまま軽い。軽いのに、持っている側の腕の骨の裏が重い。重さが増えた分だけ指が締まり、締まった指先の白さが濃くなる。濃くなるのに粉は付かない。濃さが奥を持ち、奥が隙間へ向く。

向いた奥に引かれるみたいに、指が開く。開くのに力は抜けない。抜けないまま開いてしまい、開いた瞬間に支えていた体が一拍だけ加速する。加速するのに風は無い。無いまま、体は透明な板の下へ半身入る。入ったところで足先がこちら側に残り、残った足先の反射が一拍遅れて死ぬ。死んだ反射の帯の下で足先が薄くなる。薄くなるのに位置は変わらない。変わらないまま、足先だけが遠い。

遠い足先の下で、床が遠い。遠い感じだけが増え、増えた分だけ足首の上の重さが増える。重さに耐えようとして膝が動くが、動いた膝の感覚が薄い。薄いまま膝を伸ばそうとすると、伸ばした動きが空中で止まる。止まった穴に合わせて粉が沈み、沈んだ粒が線になって隙間の縁へ揃う。揃った瞬間、縁の薄さがまた増え、増えた薄さの下で隙間がさらに広がる。広がったのに風は来ない。来ないまま、向こう側の白い粒がこちらへ落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ中心から覗いた黒が、今度は一直線ではなく、開いた指の間へ向けて奥行きを伸ばす。

伸びた奥行きが指の白さに触れる前で止まらない。止まらないまま白さの点が一段深くなり、深くなった奥が骨の裏へ触れたみたいに重い。重さが来た瞬間、腕が持ち上がらない。持ち上がらないまま肩が落ち、落ちた肩の下で体がさらに滑る。滑っていく体の輪郭の反射が次々に死に、死んだ帯の下で輪郭が薄くなる。薄くなるたび、こちら側に残る部分が少なくなる。

残る部分が、足首だけになる。足首の反射が一拍遅れて死に、死んだ帯の下で足首が薄くなる。薄いのに形はまだある。あるのに触れない。触れないまま、足首の下の床の模様が一本だけ死んだ。死んだ線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が足首の高さへ揃う。揃った瞬間、足首が「置かれる」動きをする。置かれるのに床へ行かない。床へ行かないまま、透明な板の下へ引かれる。引かれる動きは小さい。小さいのに確実で、確実さだけが残る。

足首が消える。消えるのに音はない。ないまま、そこにあったはずの反射だけが戻らない。戻らない反射の場所に白い粒が一つ落ち、落ちた粒が沈む。沈んだ粉が溝へ集まり、集まった列が隙間を越えて向こう側の溝へ揃う。揃った瞬間、向こう側の床の模様が一本だけ死んだ。死んだ線の上で透明な液面の端の輪の途切れが増え、増えた途切れの向きがこちら側の喉の高さへ揃う。

揃った途切れの線に合わせて、喉がさらに細くなる。細くなるのに咳は出ない。出ないまま吐けない息が沈み、沈んだ息が白く割れて落ちる。落ちた粒が沈み、沈んだ粉が一直線へ寄る。寄ったぶんだけ一直線が太り、太った先端が今度は残っている者の胸の中心へ揃う。揃った瞬間、胸の中心の反射が一拍だけ死に、死んだ点が広がらずに奥を作る。奥が作られたぶんだけ胸の内側が軽くなる。軽いのに息が入らない。入らない穴が狭くなり、狭くなった穴を測るみたいに床が脈を打つ。

脈のあと、透明な板がさらにせり出した。せり出す端は揺れない。揺れないまま床の粉の上に影を落とし、落とした影の縁で粉が沈む。沈んだ列が足元を避けない。避けないまま靴先へ寄り、寄ったところで靴底の感覚が薄くなる。薄くなるのに沈まない。沈まないのに床が遠い。遠い感じだけが増え、増えた分だけ足首の上の重さが増える。重さが増えたせいで一歩が出ない。出ない穴に合わせて、隙間の向こうの肩の形が一拍だけ揺れを消した。

揺れが消えた一拍で、隙間の向こうの床がこちら側へ一段近づいた。近づいたのは床ではない。溝の並びの距離感だけが揃った。揃ったことで、隙間が「扉の隙間」ではなくなり始める。境目の反射がまとめて死に、死んだ帯の下で境目の線が薄くなる。薄くなるのに閉じない。閉じないまま、こちら側の床の模様が一本ずつ死んでいく。死んだ線の上で粉が沈み、沈んだ中心から覗いた黒が、今度は隙間の向こう側からこちら側へ向けて奥行きを伸ばす。

伸びてくる奥行きが、膝の高さに来る。来たのに触れない。触れないまま膝の接地の感覚が薄くなる。薄くなるのに膝は沈まない。沈まないのに床が遠い。遠い感じだけが増え、増えた分だけ腰が落ちる。落ちた腰の動きは小さい。小さいのに粉が潰れ、潰れた粉が沈む。沈んだ中心から覗いた黒が、落ちた腰の影の縁をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、立っている感覚だけが薄い。

薄い感覚のまま、透明な板の端が足元へ来る。来るのに冷たくない。触れないのに触れたことだけが分かる。分かった瞬間、足首の上の重さが消え、消えた代わりに骨の裏の重さが増える。増えた重さに押されて膝が折れそうになり、折れそうになったところで折れない。折れないまま、足が床に置かれている感覚だけが抜ける。抜けたのに立っている。立っているのに、床が遠い。

遠い床へ向けて、吐けない息がまた沈む。沈む行き先は胸の奥ではなく、隙間の向こうの液面の輪の途切れへ揃ったまま動かない。動かない揃いの中で、白い粒が口元から落ち続け、落ちた粒が沈み続ける。沈み続ける粉が溝へ集まり、集まった列が境目を越えて向こう側へ揃い、揃うたびにこちら側の床の模様が一本ずつ死んでいく。

死んでいく線の先に、もう戻らない足跡の位置だけが残った。

死んでいく線の先に、もう戻らない足跡の位置だけが残った。

足跡の周囲だけ、粉が沈まない。沈まないのに、踏んだ感覚も戻らない。戻らないまま、足跡の縁の反射だけが薄く、薄く、薄くなる。薄くなるほど、そこに「床があった」事実だけが強く見える。見えるのに触れない。触れないまま、足首の上の重さが骨の裏へ移り、移った重さが膝の内側へ溜まっていく。

溜まった重さに耐えるために、誰かが足を引こうとする。引こうとした瞬間、靴底の感覚が抜けた。抜けたのに滑らない。滑らないまま、床が遠くなる。遠くなる感じだけが増え、増えた分だけ腰が落ちる。落ちた腰は床へ着かない。着かないのに、床の溝の模様が一本だけ死んだ。

死んだ線の上で粉が沈む。沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が膝の高さへ揃う。揃った瞬間、膝の関節の内側が冷える。冷えは皮膚ではない。骨の裏の温度だけが抜ける。抜けた分だけ足先が軽くなり、軽くなった足先が「置かれる」動きをする。置かれるのに床へ行かない。床へ行かないまま、透明な板の下へ引かれる。

引かれる途中で、靴先の反射が一拍遅れて死んだ。死んだ帯の下で靴先が薄くなる。薄くなるのに形は崩れない。崩れないまま遠い。遠い靴先の下で、白い粒が落ち続ける。粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ粉が溝へ集まり、集まった列が境目を越えて向こう側へ揃う。揃うたび、こちら側の床の模様が一本ずつ死んでいく。

死んでいく線の幅が、透明な板の影の縁と同じ幅になる。幅が揃った瞬間、影が影でなくなる。黒さは光の欠けではない。欠けないまま、そこだけ反射が戻らない。戻らない帯の中で、隙間だったはずの境目の線がさらに薄くなる。薄くなるのに閉じない。閉じないまま、境目の向こうの溝の距離感だけがこちらと一致していく。

一致した距離感のせいで、一歩が「越える」動きにならない。

ならないのに、足は引かれる。引かれる力は強くない。強さではなく確実さで、確実さだけが残る。残る確実さに押されて、膝が折れそうになり、折れそうになったところで折れない。折れないまま、足首の上の重さが消え、消えた代わりに骨の裏の重さが増える。増えた重さが腰を落とし、落ちた腰が床へ着かないまま、透明な板の端の下へ近づく。

近づいたところで、息が白く割れた。割れた粒が落ちる。落ちた粒が沈み、沈んだ粉が溝へ集まる。集まった線の先端が、胸の中心へ揃う。揃った瞬間、胸の中心の反射が一拍だけ死んだ。死んだ点は広がらない。広がらないまま奥だけが出来る。奥が出来た分だけ胸の内側が軽くなる。軽いのに息が入らない。入らない穴が狭くなり、狭くなった喉の高さへ、向こう側の液面の輪の途切れが一直線に揃っている。

揃っている線が、ほどけない。

ほどけない線のまま、透明な板の端がもう一段せり出した。せり出す端は揺れない。揺れないまま床の粉の上に影を落とし、落とした影の縁で粉が沈む。沈んだ列が足元を避けずに寄り、寄ったところで靴底の感覚がさらに薄くなる。薄いのに沈まない。沈まないのに、床が遠い。遠い感じだけが増え、増えた分だけ、膝の下が「置かれる」動きをする。

置かれるのに床へ行かない。床へ行かないまま、膝が透明な板の下へ入った。入った瞬間、膝の輪郭の反射がまとめて死んだ。死んだ帯の下で輪郭が薄くなる。薄くなるのに形は崩れない。崩れないまま軽い。軽さが増えたぶんだけ、上半身が遅れて引かれる。引かれるのに引っ張られる痛みはない。ないまま、骨の裏だけが重い。重さが肩甲骨の内側へ溜まり、溜まった重さが腕の内側の白さを濃くする。

濃くなるのに粉は付かない。濃さが奥を持ち、奥が境目へ向く。向いた奥に合わせて、指が開きそうになる。開きそうになって止めても止まらない。止まらないのに、開いた実感だけが薄い。薄いまま、もう片方の手が掴もうと伸び、伸びた指先の白さが一拍で濃くなる。濃くなった白さの中心から黒が覗き、覗いた黒が指の形をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、掴む感覚だけが抜ける。

抜けた瞬間、胸の中心の点が一拍だけ薄くなった。薄くなった一拍で空気が落ちる。落ちた空気は肺へ行かない。行かないまま奥へ消える。消えた分だけ身体が軽くなる。軽くなった身体が、透明な板の下へさらに滑る。滑るのに摩擦がない。ないまま、腰が境目を越え、越えたところで反射が死んだ。死んだ帯の下で腰の輪郭が薄くなる。

薄くなるにつれて、こちら側に残るのは背中の上の面だけになる。

面が残っている間、床の模様が一本ずつ死んでいく。死んだ線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が喉の高さへ揃い、揃った瞬間、喉の穴がさらに細くなる。細くなるのに咳は出ない。出ないまま吐けない息が白く割れ、割れた粒が落ち続ける。落ち続ける粒が沈み続け、沈み続ける粉が溝へ集まって列になる。

列の先端が、次の胸の中心へ揃った。

列の先端が、次の胸の中心へ揃った。

揃った瞬間、胸の中心の反射が一拍だけ死んだ。死んだ点は広がらない。広がらないまま奥だけが出来る。奥が出来た分だけ胸の内側が軽くなる。軽いのに息が入らない。入らない穴が狭くなり、狭くなった喉の高さへ、向こう側の液面の輪の途切れが一直線に揃っている。

揃っている線が、ほどけない。

ほどけないまま、床の模様が一本だけ死んだ。死んだ線の上で粉が沈み、沈んだ中心から黒が覗く。覗いた黒は広がらない。広がらないまま縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が胸の高さへ揃う。揃った瞬間、見ている感覚が薄くなる。薄くなるのに暗くならない。暗くならないまま、胸の中心の点の奥の向きが、床の死んだ線の向きと同じになる。

同じになるたび、通路の距離感が一段揃う。

揃うのは近さではない。遠さでもない。段差の無さだ。無さが増えるほど、足が床に置かれている感覚が抜け、抜けたまま立っている。立っているのに床が遠い。遠い感じだけが増え、増えた分だけ骨の裏が重い。重い骨の裏に押されて膝が折れそうになり、折れそうになったところで折れない。

折れないまま、胸の中心の点が一拍だけ薄くなる。薄くなった一拍で息が落ちる。落ちた空気は肺へ行かない。行かないまま奥へ消える。消えた分だけ胸の内側が軽くなる。軽くなるのに、腕の内側の白さが濃くなる。濃くなるのに粉は付いていない。濃さが奥を持ち、奥が胸の中心と同じ向きを向く。

向きが揃った瞬間、床の溝の模様が二本、同時に死んだ。

死んだ線の上で粉が沈む。沈みが一本の列ではなく、面になる。面の縁で黒が覗き、覗いた黒が広がらないまま奥行きを増やす。奥行きが増えたぶんだけ、床の遠い感じが増える。増えた遠さが膝を折らせようとして止まる。止めた穴に合わせて、喉の穴が細くなる。細くなるのに咳は出ない。出ないまま吐けない息が白く割れ、割れた粒が落ちる。落ちた粒が沈む。沈んだ粉が面へ寄り、寄ったぶんだけ面が太る。

太った面の中心が、通路の真ん中へ揃った。

揃った瞬間、通路の反射が一拍遅れて死んだ。死んだのは一部ではない。床だけでもない。手すりの金属の縁、壁の塗膜の薄い光、計器のガラスの端、非常灯の赤い反射。その「戻るはずの反射」だけがまとめて戻らなくなった。

戻らない帯が、通路の形を一枚薄くする。

薄くなった通路は凹まない。ひしゃげない。割れもしない。ただ、薄い。薄いまま、向こう側の溝の距離感と噛み合い、噛み合った瞬間、境目が境目でなくなる。扉だったはずの場所に線が残らず、線が残らないのにそこに「開口」が出来る。

開口の向こうは暗い。

暗いのに、白い粒が舞っている。舞っているのに風はない。粒は光を返さない。返さない粒の下で透明な液面の輪の途切れが増え、増えた途切れの向きがこちら側の喉の高さへ揃う。揃った途切れの線に合わせて喉がさらに細くなる。細くなるのに咳は出ない。出ないまま吐けない息が沈み、沈んだ息が白く割れて落ちる。

落ちた粒が沈み、沈んだ粉が通路の中央の面へ寄る。

寄ったぶんだけ面が太り、太った面の縁が通路の両側の壁へ届く。届いた瞬間、壁の塗膜の模様が一列だけ死んだ。死んだ線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立てる。気配の先端が胸の高さへ揃い、揃った瞬間、胸の中心の反射が一拍だけ死んだ。

死んだ点は広がらない。広がらないまま奥だけが出来る。奥が出来た分だけ胸の内側が軽くなる。軽いのに息が入らない。入らない穴が狭くなり、狭くなった穴を測るみたいに通路の面が一拍だけ脈を打つ。

脈のあと、開口の向こうの白い粒の密度の境目が形を作り、肩の位置だけを浮かせた。

浮いた肩が近づくのではない。近い距離感が揃う。揃った瞬間、こちら側の床の溝と向こう側の床の溝が同じ場所に重なる。重なったのに厚みは増えない。増えないまま、こちら側の床の模様が一本ずつ死んでいき、その死んでいく線が向こう側へ続く。

続く線の上で粉が沈む。沈んだ中心から覗いた黒が、今度は後ろへ向けて奥行きを伸ばした。伸ばした奥行きは逃げ道へ向く。向いた瞬間、逃げ道の距離感が揃う。揃うのは近さではない。段差の無さだ。無さが増えるほど、戻る道が「戻る道」でなくなる。

通路全体が、揃う。

揃った瞬間、誰かの胸の中心の点が薄くなった。薄くなった一拍で息が落ちる。落ちた空気が奥へ消える。消えた分だけ胸が軽くなり、軽くなった分だけ足が床から離れた感覚になる。離れた感覚のまま、立っている。立っているのに床が遠い。遠い感じだけが増え、増えた分だけ骨の裏が重い。

重い骨の裏に押されて膝が折れそうになり、折れそうになったところで折れない。

折れないまま、非常灯の赤い反射が一拍だけ強く見えた。強く見えたのに光は増えていない。増えていないまま、赤い反射の縁だけが死んだ。死んだ縁の下で、通路がもう一枚薄くなった。

その薄さの中で、空気が鳴らないまま落ちる。

落ちる音はない。だが落ちた場所に白い粒が降り、降りた粒が沈み、沈んだ粉が面へ寄る。寄った粉の中心が縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が胸の高さへ揃う。

揃ったところで、呼吸が一つ、戻らなかった。

呼吸が一つ、戻らなかった。

戻らない穴の縁だけが細くなり、細くなった縁が勝手に冷える。冷えは皮膚ではない。骨の裏の温度だけが抜け、抜けた分だけ舌の根が乾く。乾いたまま吐こうとして、吐けない息が白く割れ、割れた粒が落ちる。落ちた粒は跳ねない。跳ねずに沈む。沈んだ粉が溝へ集まり、集まった列が通路の面の中心へ寄る。寄った粉の中心が奥行きを持ち、奥行きの向きが開口の向こうの途切れへ揃う。

揃った瞬間、船体が叩かれた。

叩かれた振動は壁を揺らすのではなく、床の骨格だけを震わせる。震えが一拍遅れて計器のガラスへ伝わり、ガラスの縁の反射がまた一つ死んだ。死んだ縁は広がらない。広がらないまま、そこだけ戻らない。戻らないまま、別の衝撃が来る。重い打撃が一つ、遅れてもう一つ。間隔は一定ではない。一定でないのに、筋肉の収縮みたいに規則がある。規則のある揺れに合わせて、床に置かれた真鍮の水平儀が動いた。動いた輪の内側で針が振れ、振れた針が限界で金属を打った。

金属音が鳴った。

鳴った音は伸びない。伸びる前に空気に潰され、潰されたところへ白い粒が落ちる。落ちた粒は音に触れない。触れないまま沈み、沈んだ粉が奥へ寄る。寄った粉の列が今度は壁へ向かい、壁の塗膜の模様を一本だけ殺す。殺された線の上で粉が沈み、沈みの中心から黒が覗く。覗いた黒は広がらない。広がらないまま縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が胸の高さへ揃う。

揃ったところで、外から擦る音が来た。

湿りを含んだ摩擦が鉄板を撫で、撫でた跡が内側の壁のどこにも出ない。出ないのに、内臓だけが押される。押されて肺の中の空気が共鳴しようとして止まる。止まった共鳴の代わりに、息が白く割れる。割れた粒が落ち、落ちた粒が沈み、沈んだ粉が通路の面へ寄る。寄った粉の中心が奥行きを増やし、増えた奥行きが胸の中心の点へ揃う。揃った瞬間、胸の中心の反射が一拍だけ死んだ。

死んだ点は広がらない。広がらないまま奥だけが出来る。奥が出来た分だけ胸の内側が軽くなる。軽いのに、腕の骨の裏が重い。重い骨の裏に押されて指が締まり、締まった節の影の縁で粉が沈む。沈んだ中心から黒が覗き、覗いた黒が指の形をなぞって伸びる。伸びるのに触れていない。触れていないのに、掴んでいる感覚だけが薄い。

薄い感覚のまま、さらに大きい衝撃が来た。床が一段沈む感じだけが増え、増えた遠さが膝を折らせようとして止まる。止めた穴に合わせて、非常灯の赤い反射が一拍だけ強く見える。強く見えたのに光は増えていない。増えていないまま、赤い縁だけが死んだ。死んだ縁の下で、通路がもう一枚薄くなる。

薄くなった通路の向こうで、外の衝撃が途切れた。

途切れた瞬間、何も鳴らない。鳴らないのに、静けさだけが重い。重い静けさの中で、今まで続いていた微かな空気の流れの音が止まった。止まったのに、ハッチが閉じたわけではない。閉じていないまま、内と外の差が消え、差が消えたぶんだけ、喉の穴がさらに細くなる。細くなるのに咳は出ない。出ないまま吐けない息が沈み、沈んだ息が白く割れて落ちる。

落ちた粒が沈み、沈んだ粉が開口の縁へ寄る。寄ったぶんだけ縁の反射が死に、死んだ帯が境目の線を薄くする。薄くなるのに閉じない。閉じないまま、向こう側の暗さが近い。近いのに距離が無い。無い距離の中で、透明な面が揺れないままそこにある。

その透明な面に、指先の跡が増えた。

跡は円ではない。吸い付いた輪でもない。細かい角と直線で出来た、小さな圧痕がいくつも並び、並んだものが規則を持っている。規則は広がらない。広がらないまま増え、増えた列が窓の中心へ揃う。揃った瞬間、窓の反射がまとめて死んだ。死んだ帯の下で透明な面が一枚薄くなり、薄くなった分だけ向こう側の白い粒がはっきり見える。

見えるのに、風は来ない。

風が来ないまま、痕跡だけが増える。増えるたび、こちら側の床の模様が一本ずつ死んでいく。死んだ線の上で粉が沈み、沈んだ中心が縦へ伸びる気配を立て、気配の先端が胸の高さへ揃う。揃った瞬間、胸の中心の点が薄くなる。薄くなった一拍で空気が落ちる。落ちた空気は肺へ行かない。行かないまま奥へ消える。消えた分だけ胸の内側が軽くなる。軽いのに立っている。立っているのに床が遠い。

遠い床の上で、水平儀の針が動かなくなった。動かないのに傾きは分からない。分からないまま、非常灯の赤が淡くなり、淡くなった縁だけが先に死ぬ。死んだ縁の下で、通路はさらに薄くなる。薄くなるほど、窓に並ぶ幾何学の圧痕が鮮明になり、鮮明になるほど、こちらの呼吸が戻らない。

戻らない呼吸が一つ、また増えた。


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