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雨降る離宮の紫陽花姫。「白い結婚」のはずが、冷徹公爵様は雨が降ると甘えん坊の大型犬になるようです。毎晩ずぶ濡れで「温めて」と甘えてくるのは反則では?最近は快晴でも人工降雨で濡れてくるので困っています

作者: 文月ナオ
掲載日:2026/02/15

 

 世界が、灰色に沈む音がする。


 窓を叩くのは、降り止まない雨の雫。


 王都から馬車で小一時間ほど、喧騒を離れた森の奥に佇むこの離宮は、別名『紫陽花屋敷』と呼ばれている。


 一年を通して雨が多く、苔生した石畳と湿った空気が漂うこの土地に、私は「お飾り」として押し込められた。


 濡れた庭園で、重たげに首を垂れる紫陽花の花。


 雨露に濡れて艶やかに光るけれど、どこか寂しげなその花は、今の私――エヴァレット・フォン・グレイシスによく似ているらしい。


 使用人たちが陰で「紫陽花姫」と呼んでいるのを、私は知っている。


 けれど、別に傷ついてはいなかった。


 私は窓ガラスに映る、地味な栗色の髪をした自分の顔を見つめ、小さく息を吐く。


 前世。


 かつて日本で、満員電車に揺られ、理不尽な事ばかり言う上司に頭を下げ続けて過労死した記憶がある私にとって、この静寂は「孤独」ではなく「安息」だったからだ。


 ザーザーと降り続く雨音は、世間の喧騒を遮断する天然の防音壁だ。


 誰にも邪魔されず、ノルマもなく、ただ刺繍をして、読みかけの本をめくる。


 最高じゃないか。


 そう。


 夫であるクレイン様が、この静寂の園に「乱入」してくるまでは。




 ◇◆◇




 時計の針が、深夜二時を回った頃だった。


 腹の底に響くような激しい雷鳴で目が覚めた。


 窓の外は嵐。バケツをひっくり返したような豪雨が、古い屋敷を鞭で打つように打ち据えている。


 風の唸り声が、まるで獣の咆哮のようだ。


 喉が渇いた。


 私はベッドを抜け出し、薄いガウンを羽織って一階のキッチンへ向かおうとした。


 廊下のランプは消えており、時折走る稲妻だけが頼りだ。


 その時。


 ドォン……ッ!!


 玄関ホールで、重い何かが倒れるような、鈍い音が響いた。


「……っ!?」


 心臓が跳ねる。


 泥棒? それとも、森の魔獣が雨宿りに入り込んだ?


 使用人たちは別棟で寝ている。呼んでもこの轟音じゃ聞こえない。


 私は震える手で、廊下の飾り棚にあった重厚な真鍮の燭台を掴んだ。


 いざとなったらこれで身を守る。


 玄関ホールは闇に包まれていた。


 扉は開き、冷たい風が吹き込んでくる。


 ピカッ、と雷光が閃いた瞬間。


 濡れた大理石の床に、うずくまるような黒い影が浮かび上がった。


「……誰?」


 私が声を絞り出すと、影がビクリと震えた。


 ゆっくりと、顔が上がる。


 濡れて重くなった銀髪。


 雨水が滴り落ちる、整いすぎた美貌。


 そして、凍えるような色をした――はずの、青い瞳。


「……クレイン、様?」


 燭台を取り落としそうになった。


 そこにいたのは、半年前の結婚式の夜、「君を愛することはないだろう。これは、白い結婚だ」と私に冷たく告げた夫、クレイン・フォン・グレイシス公爵その人だった。


 王都にいるはずの彼が、なぜ。


 しかも、傘もささずに歩いてきたかのように、全身ずぶ濡れで。


 最高級の軍服は水を吸って黒く変色し、肩にかけていたマントは泥にまみれて床を引きずっている。


「どうして……こんな時間に……」


 私が駆け寄ろうとした瞬間。


 彼がよろりと立ち上がり、まるで吸い寄せられるように私に向かって倒れ込んできた。


「わっ!?」


 支えきれない。


 彼の全体重が私にかかる。


 冷たい雨の匂いと、革の匂い、そして微かに香る高貴な白檀の香りが、一気に鼻腔を満たした。


 私たちはもつれ合うようにして、冷たい床ではなく、運良く近くにあった長椅子カウチへとなだれ込んだ。


 私が下。彼が上。


 完全に押し倒された形だ。


「く、クレイン様!? 退いてください、重いです!」


 私が彼の胸を押し返そうとすると、彼は私の抵抗など意に介さず、私の首筋に顔を埋めた。


 濡れた髪が肌に触れて、氷のように冷たい。


 ビクリと肩をすくめると、彼は熱い吐息を私の鎖骨に吹きかけた。


「……エヴァ」


 耳元で、甘く、粘着質な声が響く。


 背筋がゾクリと震えた。


 呼ばれたことがない名前。いつも他人行儀に「君」だったのに。


「……寒い」


「え?」


「寒いんだ。……君の体温を、分けてくれ」


 彼はそう言うと、私の腰に腕を回し、逃げられないように強く抱きしめてきた。


 まるで、凍えた子供が毛布にくるまるように。


 あるいは、雨に濡れた大型犬が、唯一の飼い主に助けを求めるように。


 彼の服から染み出した雨水が、私の薄いガウンを濡らしていく。冷たいはずなのに、彼と触れ合っている部分は火傷しそうに熱い。


「ちょ、待っ……濡れてます! 私の寝巻きまでびしょ濡れに……!」


「いい匂いだ……」


 聞いていない。


 彼は私の抗議を無視して、深く、深く呼吸をした。


 スゥゥゥ……ッ、と私の匂いを肺の奥まで吸い込む音が、静かなホールに響く。


 変態だ。


 この国の「氷の貴公子」と謳われる宰相補佐官が、夜這い同然で帰宅して、妻の匂いを吸引している。


 完全に事案だ。


「離してください、タオルを持ってきますから……」


「だめだ」


 即答だった。


「離さない。……ここがいい」


 彼は私の胸元に顔をぐりぐりと押し付け、あろうことか、さらに強くしがみついてきた。


 私の胸に、彼の整った顔が埋まっている。


 無精髭のジョリッとした感触が、薄い布越しに伝わってくる。


 凍えた子供が暖炉にすがりつくように、とにかく彼は必死に見えた。


 重い。苦しい。


 でも、彼の体は小刻みに震えている。


 本当に寒いのだろうか。


 それとも、何か怖いことでもあったのだろうか。


 普段の、あの完璧な彼からは想像もつかない、弱々しい姿。


 母性本能というやつだろうか?


 それとも、雨の日に捨て犬を拾ってしまった前世の記憶と経験が疼いたのだろうか。


 私は深いため息をつき、抵抗をやめた。


 恐る恐る手を伸ばし、濡れた銀髪に触れる。


 雨水で冷え切っている。


「……風邪、引きますよ」


 私が指先で髪を梳いてあげると、彼は「ん……」と気持ちよさそうに喉を鳴らした。


 完全に犬だ。


 それも、主人に甘えることを覚えたばかりの、寂しがり屋の犬。


 彼の手が、私の背中を這う。


 冷え切った指先が、ガウンの隙間から入り込み、素肌に触れた。


「ひゃっ!?」


「……暖かい。どうしてこんなに暖かいのか」


 彼は夢遊病のように呟き、私の首筋に唇を押し当てた。


 吸い付くような感触。


 甘い痺れが走る。


「っ! クレイン様! そこは……っ!」


「……もっと」


「何がもっとですか!」


「エヴァの熱だ……もっと」


 彼は私の足を自分の足で絡め取り、これ以上ないほど密着してきた。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 心臓の音が聞こえる。


 私のものか、彼のものか分からないほど、二つの鼓動が重なり合っている。


 窓の外の雨音だけが、この異常な時間を隠すように、激しく降り注いでいた。


 そこからは、まるで魔法にかけられたみたいに、ゆっくりと意識が薄れていった。


 深い眠りに落ちたように。




 ◇◆◇




 翌朝。


 目が覚めると、私は自室のベッドに寝かされていた。


 体には清潔な寝巻きが着せられ、布団もしっかりとかけられている。


「……夢?」


 窓の外は快晴。


 小鳥がさえずり、昨夜の嵐が嘘のように穏やかな朝だ。


 私は首筋に手を当てた。


 鏡を見る。


 そこには、うっすらと赤い痕が残っていた。


 キスマークだ。


 夢じゃない。


 顔が一気に熱くなる。


 あの人、やったな。私の寝ている間に着替えさせて……!


 私は着替えて、食堂へと向かった。


 そこには、いつもの完璧な軍服を着こなし、優雅に紅茶を飲んでいるクレイン様の姿があった。


 銀髪は一糸乱れぬように整えられ、その表情は氷河のように冷ややかだ。


 昨夜の甘えん坊将軍はどこへ消えたのか。


「……おはようございます、クレイン様」


 私が声をかけると、彼は新聞から視線を外し、無表情で私を一瞥した。


「ああ。おはよう」


 声が低い。冷たい。


「昨夜は……その、急に帰ってきてすまなかった。少し用事があって立ち寄っただけだ」


 用事。


 妻を抱き枕にして匂いを嗅ぐ用事ですか。そうですか。


 私はあえて昨夜のことに触れてみた。


「あの、昨夜はずいぶんと……熱心でしたね」


 ピクリ、と彼の持つティーカップが震えた。


「……何のことだ?」


「覚えていないのですか? 『寒い』とか『あたためて』とか言って、私に抱きついて……」


「……戯言(たわごと)を」


 彼はカップをソーサーにカチャリと置いた。少し音が大きかった。


「私は疲れていて、すぐに自室で休んだ。君と顔を合わせるのは今が初めてだ。夢でも見ていたのでは?」


 なんて白々しい嘘を。


 耳が赤いですが?


 間違いなく、覚えている。


 覚えていて、シラを切るつもりだ。


 公爵としてのプライドか、それとも「愛さない契約」の手前、素直になれないのか。


 まあいい。


 酔っ払いの介抱をしたと思えばいい話だ。


 私は言いたいことを飲み込んで、大人の対応で引き下がることにした。


「そうですか。私の夢だったのかもしれませんね」


 彼はホッとしたように息を吐き、また新聞に目を落とした。


 そして昼過ぎには、逃げるように王都へ帰っていった。


 まるで、自分の失態を消し去るかのように。




 ◇◆◇




 それから三日後。


 王都から手紙が届いた。


 差出人はクレイン様。


 中には、簡潔な文面が一枚。


『季節の変わり目だ。体調を崩さぬよう。 クレイン』


 業務連絡か。


 しかし、手紙と一緒に小包が入っていた。


 開けてみると、最高級のシルクで作られた大判のショールが入っていた。


 色は、淡い紫陽花色。


 手紙には何も書かれていないけれど、これは「あの夜、寒かっただろう」という、彼なりの不器用な詫びなのだろうか。


 私はショールを肩にかけてみた。


 ふわりと温かい。


 ……嫌な予感がする。


 これは、ただの気まぐれでは終わらない気がする。


 そして、その予感は的中した。




 ◇◆◇




 数日後。また雨が降った。


 今度は、しとしとと世界を濡らす、冷たい長雨だった。


 夕食後、私がサロンで読書をしていると、静かに扉が開いた。


「…………」


 無言で入ってきたのは、またしてもずぶ濡れのクレイン様だった。


 傘もささずに来たの?


 彼は入り口で立ち止まり、じっと私を見つめている。


 その瞳は、やはりとろんと潤んでいて、焦点が定まっていない。


 雨の雫が、美しい顔を伝って顎から滴り落ちる。


 前回の「迷い込んだ獣」のような雰囲気ではない。


 もっと切実で、哀願するような目。


 彼は私の姿を確認すると、ふらふらと歩み寄り、私の座るソファの前で膝をついた。


 そして、私の膝に顔を埋めた。


「……エヴァ」


 甘い声。


 脳が溶けそうなほど、甘ったるい声。


「会いたかった」


「……クレイン様、またですか」


「我慢できなかった……。雨の音がすると、君の匂いが恋しくて、頭がおかしくなりそうで……」


 彼は私の手を無理やり取り、自分の頬に押し当てた。


 冷たい頬。


 でも、すりすりと擦り付けられる感触は熱い。


 濡れた銀髪から落ちた雫が、私のエプロンに染み込んでいく。


「撫でて。……お願い」


 懇願。


 あの絶対零度の公爵様が、上目遣いで、涙目で、おねだりしている。


 これを無下にできる女性がいたらお目にかかりたい。少なくとも、私には無理だ。


 私は観念して、近くにあったタオルを彼の頭にかけ、その上からよしよしと頭を撫でた。


 わしゃわしゃ。


「ん……」


 彼は気持ちよさそうに目を細め、私の腰に腕を回して抱きついてくる。


 もはや定位置だ。


 彼の濡れた服が私に密着し、不快な湿り気が伝わってくるはずなのに、なぜか嫌ではない。


 むしろ、彼の体温がじんわりと伝わってきて、心地いいとさえ思ってしまう。


「クレイン様、どうして雨の日だけこんなに甘えるんですか?」


 私がタオル越しに頭を撫でながら尋ねると、彼は私の腹部に顔を埋めたまま、もごもごと答えた。


「……雨は、嫌いだ」


「はい」


「雨は、全てを洗い流してしまう気がする。立場も、理性も、見栄も、全部溶かして……ただの男にしてしまう」


 彼は顔を上げ、私を見つめた。


 タオルがずり落ち、露わになったその瞳には、隠しきれない情熱と、独占欲が渦巻いていた。


「素面の時は、怖くて近づけない。君に触れて、拒絶されるのが怖い。……でも、雨の日は、理性が効かなくなる」


 彼は私の頬に手を伸ばした。


 雨で濡れた冷たい指先が、私の唇をなぞる。


 その対比に、背筋が震えた。


「エヴァ。……キスしたい」


「だ、駄目です。契約違反です。私たちは……白い結婚、なのでしょう?」


「契約なんて破り捨てればいい。……そんな紙切れより、今は君が欲しい」


 彼は私の返事も待たず、身を乗り出して唇を塞いだ。


 触れるだけのキスではない。


 雨の味がした。


 冷たくて、でも口の中は甘くて、溺れるような深い口づけ。


「んっ…………っ」


 息ができない。


 彼は私の後頭部を大きな手で押さえ、逃げ場を塞いで貪るように求めてくる。


 彼の指が、私の背中のリボンを解くのが分かった。


 拒めない。


 雨に閉ざされたこの世界で、私たちはお互いの熱だけを求めていた。


 長い、長いキスの後。


 彼は名残惜しそうに唇を離し、けれど額はくっつけたまま、熱っぽい瞳で私を射抜いた。


「……好きだ。ずっと前から、君が好きだった」


 突然の告白。


 雨のせいにして、勢いで言ったのかもしれない。


 でも、その言葉はあまりにも切実で。


 その瞳も、あまりにも真剣で。


「愛さないなんて嘘だ。君を守りたくて、政争に巻き込みたくなくて、遠ざけたかっただけなのに……もう無理だ。限界だ」


 彼は私の手を握りしめ、その手の甲に誓いのキスを落とした。


 指の節、手首、そして肘の内側へと、這い上がるようにキスを落としていく。


「エヴァ。私の紫陽花。……雨が止んでも、私を愛してくれるか?」


 私はため息をついた。


 まったく、とんだ詐欺夫だ。


 冷徹公爵なんて大嘘つき。


 ただの、臆病で寂しがり屋な、雨の日の大型犬だ。


 でも。


 私は彼の濡れた銀髪を優しく梳きながら、自然と微笑んでいた。


「……そうですね。お天気のいい日も、これくらい素直でいてくれるなら、考えてあげます」


 彼は一瞬きょとんとして、それから、雨上がりの虹のように華やかに笑った。


 そしてまた、私を抱きしめた。


 今度は寒さを紛らわせるためじゃなく、愛しさを確かめ合うために。




 ◇◆◇




 翌日は、朝から雨だった。


 しかし、クレイン様は帰らなかった。


 仕事を放り出したのか、それとも部下に丸投げしたのか。


「エヴァ、こっちへ来て」


 昼下がりの図書室。


 窓の外はしとしとと雨が降っている。


 クレイン様は長椅子に座り、私を手招きした。


 私が近づくと、彼は当然のように私の腰を抱き寄せ、自分の膝の上に乗せた。


「重くないですか?」


「軽いよ。もっと食べた方がいいな」


 彼は私の肩に顎を乗せ、後ろから本を覗き込んでくる。


 彼の体温が背中全体から伝わってくる。


 昨日までの「ずぶ濡れ」状態とは違い、乾いた服から香る石鹸と白檀の香りが心地いい。


 彼は私の髪を指でいじりながら、時折、首筋にキスを落とす。


「……くすぐったいです」


「ごめん。でも、触れていないと落ち着かないんだ」


 彼は私の耳元で囁く。


「君がここにいる。この腕の中にいる。……それだけで、満たされる」


 その声は穏やかで、でも深い愛情に満ちていた。


 雨音が、二人の世界を優しく包み込んでいる。


 前世で、私はいつも何かに追われていた。


 納期、時間、上司の機嫌。


 でも今、私は誰かにとっての「世界の全て」になっている。


 その重みが、不思議と心地よかった。


「……クレイン様」


「ん?」


「私、紫陽花は好きですよ」


「そう?」


「はい。雨に濡れても、色褪せないですから」


 彼は嬉しそうに目を細め、私をさらに強く抱きしめた。


「私も好きだ。……君という紫陽花が、世界で一番好きだ」


 甘い時間が流れる。


 二人だけの、ゆったりとした時間。


 外の雨は、まだ止みそうになかった。




 ◇◆◇




 それからの話。


 公爵家の離宮では、奇妙な現象が起きるようになった。


 快晴の日でも、なぜか屋敷の周りだけ局地的な「雨」が降るのだ。


「エヴァ、雨だね」


 窓の外では、庭師たちが散水用の魔道具で水を撒き散らし、魔導士たちが雨雲召喚の魔法を使っている。


 もはや隠そうともしない、人工降雨。


 そんな景色を背に、クレイン様はご機嫌な様子で私の膝に頭を乗せている。


 もちろん、わざわざ頭から水を被って濡れた状態で。


「……クレイン様。これ、職権乱用ですよ。国費の無駄遣いです」


「いいんだ。私費だから。それに、雨が降れば、私は君に甘えていいことになっているからね」


「誰が決めたんです? そんなこと。私は許可してませんけど?」


「私が決めた」


 彼は私の手のひらに頬ずりし、指先にキスをする。


 その瞳に、もう冷たい氷の色はない。


 あるのは、とろけるような甘い砂糖の色だけ。


「愛してるよ、エヴァ。……ねえ、もっと撫でて」


 私はやれやれと肩をすくめ、愛すべき旦那様の銀髪を撫でてあげた。


「少しだけですよ」


「ありがとう」


 雨降る離宮の紫陽花姫は、今日も大型犬の甘やかしに忙しい。


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