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恋を失った私と、恋を知らない彼女  作者: 雄樹
第二章 恋を知らなかった貴女が…
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最終話 永遠の夏休み

 頭上にのぼる満月はその輪郭を青白く光らせながら、私たちを照らしていた。

 夜風が、気持ちいい。

 8月の下旬の暑さの中に、秋の息吹を感じ取ることができる。


「私のことは…愛して…くれているんだ」


 紫苑さんは、青く月に照らされながら、胸を手でぎゅっと掴むと、少し震える声で私に語り掛けてきた。

 その姿は先ほどまでの自信に満ち溢れていた雰囲気とはうって変わって、衣を脱いだ、ただの女の子の表情になっていた。


「はい…それは…間違いありません」


 私は、答える。

 こたえながら、もう一度、自分の心に問いかけてみる。私は、紫苑さんを愛してる?答えは、イエス。 私の心は、魂は、どうしようもなく紫苑さんを求めている。間違いなく、愛している。


 私が愛しているのは、紫苑さん。

 けれど。


 私は、私の後ろにたって、私の背中をつまんで、震えながら、びくびくしながら、自信の無さそうに怯えている女の子を…


 それでも決して、私から手を離そうとしない女の子を。


 私が…恋している女の子の手をとり、引く。


「陽花里」

「…は、はい」

「陽花里はずっと…どんな時だって、いつだって、私を捕まえてくれていたね。私を…求めてくれていたね」

「うん。だって、私、凛ちゃんのことが」


 大好き、だから。

 そう言って笑った陽花里の顔は、満月のようだった。


「私はね、陽花里に、恋をしているの」


 紫苑さんと葵が見ている前で、私は私の心を吐露する。私は優しくなんかない。私はわがままで、利己的で、自分の幸せのためなら、私のことを好きだ、って言ってくれた人を悲しませてしまうだろうと分かっていながら、行動をとめることが出来ないような、駄目な女だ。


 でも、嘘だけは、つかないようにしよう。

 私は、自分を偽らない。


 陽花里の手を握りしめたまま、陽花里の体温を感じたまま、中に流れる血液の暖かさを知りながら、はっきりと、もう一度、ちゃんと、伝える。


 月の下で、誓う。


「私の彼女は、陽花里だけだよ」

「凛ちゃん…」

「だから、これからも、ずっと」


 一緒に、いてほしい。


 そう言って、肩を抱き寄せ、陽花里を私だけのものにする。

 足元から伸びる月明りでできた二つの影が、そっと重なる。

 そのまま、紫苑さんを見る。


「紫苑さん、ごめんなさい。紫苑さんの気持ちは嬉しいし、紫苑さんを愛していますけど、それでも、私は紫苑さんを選べません」

「…凛」

「恋は、愛の下位互換じゃない」


 私は、紫苑さんを愛したまま、陽花里に恋をしました。

 …

 紫苑さんだけじゃない。私の中には、未来もいる。昔からずっと、変わらない聖域がある。

 葵もいる。葵だって、愛してる。家族として、愛してる。


「私は、幸せになりたい」


 ちっぽけだけど、おっきな望み。

 紫苑さんも、葵も、私がいなくても、自分だけで幸せをつかむ力があると思う…公演を見て、すごいと思った。私にはできないって思った。ちゃんと世の中に出ていく人って、こんな人達なんだな、って思った。


 でも、私は、違う。

 一人だけじゃ、幸せになれない。

 誰かに支えてもらえないと、幸せになれない。


 陽花里に、支えてもらいたい。

 陽花里を、支えてあげたい。


 じっと見つめる。

 可愛いわんこみたいな、ちっちゃい陽花里。

 私のことが大好きで、いつも一緒についてきて、ほわほわして弱そうにみえるけど…実際に弱いけど、それでも、私の為ならとんでもない行動力を示してくれる子。

 いきなり同棲しに来たときは、本当にびっくりしたな。


 それに、嫉妬心もすごい。私を独占しようとする。この前なんて、私を監禁したい、なんて言ってきたし。

 髪の毛ふわふわなのが好き。

 純真そうにみえて、実はけっこうえっち。かなりえっち。

 ことあるごとに、私を舐めてくる。

 実は陽花里に舐められるの、大好き。


 まつげ長いな。薄暗い月光の下でも分かるくらい。フランス人形みたい。

 じっと私を見つめてくる。ほっぺた真っ赤なのが分かる。そんなに私のこと好きなんだ。照れる。


 胸、おっきい。私より小さいのに、私より大きい。

 何回か見たし…触ったこともあるけど…そのアンバランスさに、ドキドキさせられる。


 こんな感じなのに、すごく頭がいい。ゆるふわなだけに見えて、実は頭脳明晰。なんかそんな感じしないけど、ね。

 ちょっと意地悪しちゃお。

 手を伸ばし、陽花里のほっぺたをつつく。お餅みたい。柔らかい。

 抵抗してこない。私にされるがままな陽花里。かわいい。

 


「…」


 いろいろ考えたし、いろいろ理由をつけてみたけど、でも、結局、シンプルな答えにたどり着いた。


 私は陽花里に、恋してしまった。それだけのこと。





「帰ろう、陽花里」


 私は、手を伸ばす。


「…うん、凛ちゃん」


 陽花里は、私から差し出された手をとる。


 2人で手をつないだままテラスの出口まで歩き、そこでいったん止まり、振り返って、紫苑さんと葵を見て、一礼をする。


「素敵な公演でした。たぶん私、一生忘れません。どうかこれからも…頑張ってください」


 そして顔をあげ、隣にいる陽花里をみてにこりと笑い、テラスに残した2人に向かって、最後の言葉をなげかける。


「私、彼女と一緒に、先に帰ります。本当に…」


 ありがとう、ございました。





 扉を通り、テラスから出る。

 もう、私と陽花里の背中には、月明かりは届かない。


 私たちはかぐや姫じゃない。

 私たちが戻る場所は、月ではなく、家なのだから。


 つないだ手の暖かさを感じながら、私と陽花里は、一緒に。

 その一歩を、踏み出した。









 ■■■■■



「フラれたね、葵」

「なに自分だけはフラれてないみたいな言い方してるんですか。私たち2人とも、綺麗さっぱり完全にフラれたんですよ」

「そうか…」

「そうです!」


 テラスに残された私と紫苑の2人は、なんとなく横になり、夜空に浮かぶ月を眺めていた。

 青い月明りは私たち2人を蒼白く染め上げていて、背中にあたるコンクリートの床は少し冷たかった。


「自信あったんだけどな…」

「凛から選ばれる自信が、ですか?」


 私より?その傲慢さ、さすがの紫苑ですね、と言いかけて、続けられた言葉に私は言葉を失った。


「凛を幸せにしてあげる自信」

「…意外」


 自分のことしか考えていないのかと思っていましたよ。私の歌で全てを手に入れてやるんだー、って感じで。


「それは間違いないんだけどね」

「違わないんですか」

「それは前提で、その上で、私の力で」


 凛を幸せにしてあげたかったんだ。

 生まれて初めて恋した相手を。恋を知らなかった私に恋を教えてくれた相手を。私の全力で、精一杯で、何もかも振り絞って、周りの全てを利用して。


「凛が幸せなら、私も幸せになれると思ったから」

「結局、自分のためじゃないですか」

「悪い?」

「悪くは…ないですね」


 自分が幸せになれないような人が、他人を幸せになんてできるはずもないから。


「…でも、その理論なら」

「なに?」

「さっきの凛。陽花里と一緒にいて、すっごく幸せそうでしたよ?なら紫苑も、幸せなんじゃないですか?」

「そりゃぁ…もちろん」


 幸せさ。

 なんたって私の初恋だからね。初恋の人が幸せなら、それで私は幸せなんだ。


「…」

「…」

「…葵」

「なんです、紫苑」

「本音、言っていいい?」

「どうぞ」


 悔しい。

 死ぬほど悔しい。

 私のものにしたかった。

 陽花里なんかに、負けたくなかった。


「葵、ひとつ聞いていい?」

「どうせ私が何を言っても聞くつもりなんでしょう?」

「分かる?」

「付き合いは短いですけど、紫苑のこと、よく分かってますから」

「葵が凛のことを好きになった瞬間って、覚えてる?」

「覚えてません」


 私の場合、生まれた時から一緒で、生まれた時から好きでしたから。


「そうかー。私はね、覚えてるんだ」

「そうなんです?」

「凛と初めてあった夜、凛、夜空の月に向かって叫んだんだ」

「何を叫んだんです?」

「大好きだった人の名前を、さ」


 あの時、凛は恋を失っていて。私は恋を知らなくて。

 あまりにも純粋に人を好きでいられる凛を見て、私も人を好きになりたい、って思ったんだ。


「葵」

「なんですか、もう」

「私もあの時の凛みたいに、月に向かって叫んでもいい?」

「…お好きにどうぞ」


 どうせ、止まらないでしょう?

 

 横たわったまま、その豊かな声量で、紫苑は夜空に浮かぶ満月に向かって…叫んだ。



「凛の…凛の、ばかーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」


 大好きだった人の名を。


「ばか…ばか…ばーーーーか!!」


 語彙力が低い。たぶん、ひらがなで叫んでる。お腹の底から、先ほどの公演よりもさらに大きな声で。全力で、月に向かって叫んでいる。


「好きーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

「大好き…大好きーーー!!!」


 もう終わってしまった恋なのに、紫苑の中にはしっかりとその残滓が残っているのだろう…私と、同じように。


「幸せにならなきゃ…許さないからね!!!!!」



 ああ、そうか。

 凛も、こんな風に叫んでいたのか。

 月に向かって、失ってしまった恋を。


 そして凛は新しい恋を手に入れて、私と紫苑は恋を失った。

 ただ、それだけのことなんだ。


「…あぁ、すっきりした」

「それだけ叫べば、そうでしょうね」

「じゃぁ、私、そろそろ戻るとするよ」


 紫苑が立ち上がり、すっきりしたような顔でそう言うのを聞く。


「さすがに色葉も、私を待ちくたびれているだろうからね」

「そういえば色葉さん、人の恋路に興味はないから、下で待ってる、って言っていたんでしたっけ?」

「そうだよ」


 そして紫苑は、ふと首をかしげ、何かを思い出しているようだった。


「そういえば…」

「なんです?」

「色葉、そういえば他にも言っていたこと、あったな」

「何を、です?」

「フラれたら慰めてやるから、安心して散っておいで、って」

「…っぷ」


 あはは。

 何それ。

 あの人、最初からこうなるって分かっていたの?それに何より、そんなことを言われて来たにも関わらず、フラれるまでその言葉を忘れていたなんて、紫苑、なんて都合のいい頭をしているの?


「なに笑ってるのよ、葵」

「いやぁ、馬鹿と天才は紙一重って、本当だな、って」

「どういうこと?」

「そういうことです」


 はぁ、と、紫苑はため息をつく。

 そして私を見下ろすと、さも当然のように言葉をなげてきた。


「葵だって、天才でしょう?」

「私が?」

「謙遜は美徳だけど、時として失礼にあたるわよ」

「そう、ですね」

「今日の公演で、確信した」


 あなたは私と同類。とことんまで…破滅するまで前に進まなきゃ気が済まない人種。


「逃がさないわよ、葵」

「やれやれ、怖いなぁ」

「私たち2人とも…似た者同士だから、ね」


 お互い、同じ相手を好きになって、同じ相手にフラれたから、ね。


 あはは、と、2人でひとしきり笑った後、「それじゃ私、先に下にいっておくから、葵はどうするの?」と紫苑は聞いてきた。


「私は、もう少しここにいます」

「そうなの?」

「ええ」


 だって、あと少し。

 日が変わるまでは。

 私は…まだ…


「凛の、期間限定の恋人、ですから」


 もうフラれた恋人ですけど、ね。


 

「そうか」

「そうなんです」

「葵」

「なんです、紫苑」

「…これで勝ったと思うなよ」


 あはは。

 まったく、この負けず嫌いさは、やはり私と紫苑は似た者同士、なんだな。


「じゃぁ、これからもよろしくね、葵」

「こちらこそ、紫苑」


 紫苑は去り、私は1人残され。

 青い、空に浮かぶ月を眺めながら。



「…やっぱり、悔しいなぁ…」


 そう、つぶやいた。


 幸い、私はテラスに一人きりだったから…



 泣き顔を誰にも見られずに、すんだのだった。









■■■■■

 


 陽花里と他愛もない話をしながら、マンションの前についた。

 劇場からマンションまではけっこう距離もあったから、かなり時間もたっている。


(まるで夢の中にいたみたい)


 公演中も、夢の中のようだった。

 公演が終わった後のテラスでの出来事も、夢の中のようだった。


 こうやって家に帰り、陽花里の手を握って、その暖かさと柔らかさを感じていたら、やっと、夢から現実へと戻ってきたような気がする。


 部屋に向かうエレベーターの中でも、私と陽花里はずっと手を握っていた。


(…恋人の、手)


 私が選んだ、私が選択した相手の手。


「凛ちゃん?」


 不思議そうに見上げてくる陽花里が可愛くて、そっと、そのおでこにキスをしてしまう。

 陽花里は抵抗することなく、むしろ嬉しそうで、えへへ、と笑っている。

 それがとても、可愛かった。


 扉をあけて、家の中に入る。

 暗いから電気をつけようとした時、ふいに、陽花里が後ろから抱き着いてきた。


「なに、陽花里!?」

「ちょっと待って…凛ちゃん」


 このまま…このままで。

 時計の針の音の代わりに、陽花里の心音が伝わってくる。ちく、たく、ちく、たく、ではなく、どく、どく、どく、どく、と。


 どれだけ時間がたったのだろう。

 私は陽花里に抱き着かれたまま、そのままの姿勢で、しばらく時を過ごしていた。

 そして、陽花里が力を抜いて、そっと、私にスマホを見せてきた。


 暗い玄関の中で、陽花里のスマホの画面がみえる。

 ただの、待ち受け画面だった。特段おかしいところがあるわけでもない。

 …陽花里の待ち受け画像は私の写真を使っていて、それが少し恥ずかしいぐらいだった。


「陽花里」

「凛ちゃん、見て」


 時間。

 23時59分。


 あ。

 そうか。


 画面の表示が、変わる。


 0時0分。

 

 9月1日。




 月が、変わった。

 葵と交わしていた月末限定の彼女という契約期間が終わり…


「これで、凛ちゃんの彼女、私だけ、だよね」


 陽花里がもう一度、私に抱き着いてくる。

 今度は、先ほどよりも、もっと強く。もう二度と離さない、とその小さな全身で訴えかけてくるかのように。


(まったく、私の彼女は)


 独占欲が、強いんだから。

 ずーっと嫉妬していたんだろう。ずっと心配だったのだろう。

 見た目はこんなに可愛いのに、中身はけっこう、嫉妬心の塊なのであった。その思いの鎖で私を絡みつけようとしてくる。


 海に引きずり込もうとしてくる。


 私は一度、その陽花里の鎖と錨から解き放たれたはずなのだけど、結局、自分でその鎖をとりに戻ってきてしまった。


「えへへ…」


 幸せそうな陽花里。そんな陽花里をみていたら、もう、それでもいいや、って思ってしまう。私は解き放たれて世界に旅立つよりも、こうして、陽花里と2人で、一緒に潜り込む世界を選択したのだから。


 私たちは電気をつけずに、そのままベッドに腰掛けた。

 月明りだけが、そっと柔らかく窓から差し込んできている。


「陽花里、改めて、言っておくね」

「うん、凛ちゃん」

「私は、今でもずっと、未来を愛している」

「…うん」

「紫苑さんも…愛してる」

「…うん」

「葵も…大事な家族で…愛してる」

「………うん」


 こう改めて考えてみると、私、愛している人ばかりだな。しかもみんな、女の子ばかり。やっぱり私、普通…じゃないよね。でも、仕方ない。私はもう、こうなっちゃったんだから。


「私、は?」


 陽花里がそっと手を引き、不安そうに私を見つめてきた。さっきからずっと、他の女の子のことばかり。私のことを、教えてほしい。凛ちゃんにとって私って、いったい何なのか、もう一度、しっかり、教えてつなぎとめて欲しい。


(小悪魔)


 何も知らない風な顔をして、実は全部知っている可愛い小悪魔。

 そんな陽花里に…私は…恋をして、しまったんだ。


「陽花里は、たった一人の、私の恋人、だよ」

「私のこと、好き?」

「大好き」

「私も、凛ちゃんのこと、大好き」


 誰にも渡したくない。独占したい。ずっと、一緒にいたい。


「わがままだなぁ」

「我儘な私、嫌い?」

「大好きだよ」


 自分からからめとられに行っちゃうくらい、好きだよ。そう言って、陽花里をぎゅっと抱きしめる。陽花里の栗色のふわりとした髪の毛が私の鼻腔を刺激して、陽花里の匂いで私が満たされる。

 いい匂い。私の、好きな匂い。


「凛ちゃん…」


 陽花里は私の手をとり、そのまま、そっと引き寄せてきた。

 私の手を…陽花里の服の中に、入れてくる。


「陽花里?」


 陽花里は黙ったまま、私の手を誘導する。陽花里のお腹の中心に。そこにある、くぼんだ穴に。


「…凛ちゃん…私の…おへそ…好きだよね」

「…うん」


 好き。

 ちょっと変態っぽくて恥ずかしいのだけど…でも、普段外に出ていない、隠されている、陽花里の身体にある穴に…どうしようもなく、惹かれてしまう自分がいる。


「…こんな私…引かない?」

「ひかない」


 もっと、触って。

 私の穴、触って。


 陽花里が指を動かし、私の指を誘い、陽花里のおへそを、ゆっくりと触らせてくれる。


「えへへ。私のここ触ったの、凛ちゃんしかいないよ」


 吐息まじりにそう言って、そして指の動きに合わせて、少しぴくっと陽花里が揺れる。密着しているからそれが分かって、もう私は我慢できずに、ベッドの上に陽花里を押し倒してしまった。


「ごめん、陽花里」

「謝らないで、凛ちゃん」


 陽花里は横たわったまま、私の首筋に手を回してくると、耳元に唇を近づけてきた。


「私は…凛ちゃんの…彼女だから」


 たった一人の、彼女だから。

 大好き、だから。


「私を、あげる」


 ずっと、してほしかった。





 この夜、私と陽花里の境界線は混ざり合って。

 2人で、溶けて、一緒になって。


 とても…幸せだった。








■■■■■




 朝。

 いつも通り、私の方が先に目が覚める。


 ベッドの隣で寝ている陽花里をみて、いとおしくて、また抱き着きそうになる。


 ほっぺたを触る。

 ぷにぷにしていて、気持ちいい。


 私はベッドから起き上がると、大きく背伸びをした。

 窓から太陽の光が差し込んできている。

 もう夜じゃない。


 指先から、陽花里の匂いがかすかに漂ってきた。

 私はちょっと頬を赤らめたあと、シーツに手を触れた。少し湿っている。今日は天気がいいから洗濯しなくちゃいけないな、と思った。


 ぼんやりと座ったまま、リモコンに手を伸ばし、テレビをつけた。


 いろんなニュースの中、昨夜のかぐや姫の公演のニュースも流れていた。

 すごく評判になっているらしい。


(当然)


 と思い、誇らしくなる。

 私が直接参加したわけじゃないんだけど、ね。少しくらい誇りに思っても許されるよね。


「…凛ちゃん、おはよ…」


 ねぼけまなこの陽花里が起きてくる。

 そしてそのままま、私に後ろから抱き着いてきて、一緒にテレビを見る。


 2人とも昨夜から何も着ていないけど、9月の朝はまだ暖かく、それにお互いの体温がもっと暖かいから、ぽかぽかと気持ちよかった。


「葵さん…出てる…」

「紫苑さんも出てるよ」


 2人でテレビを見ながら、かぐや姫公演のニュースを眺める。

 公演の大成功をうけて、紫苑さんと葵、それに詩織さんがインタビューを受けていた。


「すごいね」

「うん、すごい」


 本当にすごい。まるで別世界の話みたいだった。


(この2人から私、告白、されたんだよね)


 そう思っていたら、後ろから首を絞められた。


「凛ちゃん、浮気してるー」

「してないしてない」


 もう、この嫉妬モンスターめ。

 こうしてやる、えい。


 押し倒して、キスしてやった。


 陽花里は抵抗することなく、むしろ喜んでそれを受け入れている。2人できゃっきゃとベッドの上で転がりまわり、笑顔で楽しむ。

 テレビからはニュースキャスターの感想とかが述べられていたけど、それもだんだん、遠くに聞こえてくる気がしてきた。


 世界は別れ、私たちは別々の道を行く。


「凛ちゃん、今日はどうする?」

「そうだね」


 いまは9月。

 大学の夏休みは長い。今日も休日。明日も休日。


 人生の夏休みともいえるこの時期を、いまはただ、恋人と一緒に。

 とことんまで、楽しむことにしよう。



「凛ちゃん、私のこと、好き?」

「大好きだよ」

「私も…大好き!」







 愛よりも深い、この恋と共に。

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