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唯の母は、唯が小学生のころに病気で亡くなった。母のことが大好きだった唯は、悲しくて、つらくて、学校に行くこともできなくなってしまった。
そんな唯を心配した父は、周囲の勧めもあって当時の同僚だった女性と再婚をした。その女性は、父が妻を亡くしたことを知ると、それとなく身の周りの世話に気遣ってくれるようになり、男手だけでは気の回らない娘との生活を補う役目を果たそうとした。妻を亡くした寂しさと母親を亡くした寂しさを新しい女性で埋めようとするのは、大人の勝手な幻想だ。唯は見知らぬ他人を母と呼ぶことにとても抵抗があったが、父を安心させたいために、仕方なく義母を慕う様子を演じた。
新しい母は、父の人柄を心から好ましく思っていたし、この結婚自体を望んでいた。それだからこそ、その娘である唯を半ば献身的にかわいがり、本当の娘のように育てていった。
そんな風に、表面上はとても仲の良い関係を築いていたのだが、唯は心の中で、どうしても実母と比べては、心から甘えることができずにいた。
ある日のこと、義母が食器の片づけをしているとき、誤って実母の大事にしていたティーカップを割ってしまった。
唯にとっては数少ない母との思い出の品だった。
「唯ちゃん、ごめんなさい。」
義母は平謝りしたが、唯の怒りは収まることはなかった。
「大事にしてたのに!わざと壊したんでしょ!あんたなんか、私のお母さんなんかじゃない!」
今まで抑えてきた想いが口を突いて出ると、すべて罵詈雑言となっていった。
その日を境に、今まで良好だった母娘の関係はぎくしゃくとしたものとなっていった。
父は、どうすることもできずに、二人の仲を取り持つこともなく、いつの間にか唯の家は何の会話もない、ただの同居人の集まりとなっていった。




