あの日の少女との戦場での再会
薄暗い石造りの広間に、幾人もの若者が呼び出されていた。悠斗もその中の1人だった。
眩暈のような感覚と共に召喚され、目の前の軍服姿の兵が無感動に告げる。「お前たちは兵士だ。敵を殺し、国のために戦え」と。
訳もわからぬまま剣を渡され、恐怖を飲み込む暇もなく戦場へと駆り出された。
最初の戦いは悪夢そのものだった。
剣を振るうより先に、味方の放った炎の矢が飛来し、悠斗は爆風に巻き込まれて倒れた。
意識を失い、気がついた時には焼け焦げた森の中で1人取り残されていた。
傷ついた体を必死に動かそうともがいていたその時――一人の魔族の子どもが彼の前に立っていた。
灰色の肌、背中には小さな翼。怯えながらも必死に手を伸ばし、薬草をすり潰して傷口にあてがってくれた。幼い少女――リュナと名乗るその魔族は、敵である人間を助けたという後ろめたさを胸に抱きながらも、黙々と看病を続けてくれた。悠斗の命は、彼女の小さな手に救われたのだった。
その数日後、平原の奥の森にある魔族の村を、人間の部隊が襲撃した。
火を放たれ、矢が雨のように降る。
リュナに導かれて小屋に匿われていた悠斗は、人間の兵士たちによって発見された。
泥と血に塗れた仲間の手に引き出される形で、人間の陣営へと連れ戻された。リュナは無事だろうか。悠斗には確認するすべもなく、ただその場の流れを受け入れることしかできなかった。
――それから数年。悠斗は王都から離れた農村の兵として戦いに身を投じていた。
命じられるままに剣を握り、敵と味方の区別だけで日々を過ごす。胸の内は空虚で、誰かを憎む気持ちも、何かを守る誇りもなかった。ただ流されるままに生き延びる毎日を送っていた。
そして今、また戦場。
土煙が立ちこめ、剣戟と怒号が響く。
悠斗もまた、人間の兵の一人として剣を振るっていた。
その時――視界を裂くように現れた影。大きく広がる翼が、戦場の炎を受けて光を帯びた。
その翼を、悠斗は知っていた。あの日、小さな背に揺れていたもの。今は成長し、逞しく羽ばたいている。魔族の戦士となったリュナが、眼前に現れたのだ。灰色の肌、険しい横顔。その姿を見た瞬間、悠斗の胸に稲妻のように記憶が走る。森の中で命を救われた夜、怯えながらも必死に手を伸ばしてくれた少女――。
リュナは悠斗を認めたかどうかはわからない。ただ、敵兵の一人として視線を向け、手を前に掲げて魔法陣を展開する。光が奔る。
悠斗は咄嗟に剣を構えた。だが、その刃は振り下ろされない。震える手、重くなる指先。命令は「敵を殺せ」。だが目の前にいるのは、かつて自分を救ってくれた魔族の少女だ。
土煙の中で一瞬、二人の視線が交錯した。声もなく、言葉もなく。ただ戦場の轟音だけが響き渡る。
その瞬間、悠斗の手から力が抜けた。
もう剣を握る理由を完全に見失っていた。