できませんって!陰キャが王妃とか(できた)
私、伯爵令嬢のイトラ・オクワーズと申します。現在、王立学園に通っております。
尊敬できる両親に、実家の太さと、それに見合う英才教育の機会、そして独白だからぶっちゃけますが外見にまで恵まれました。
それらのお陰で、素晴らしい友人達までいます。本当にありがたい限りです。
……が、そんな私にも現在、一つだけ問題が。
友人が陽キャばっかりなんですよ(大の字)
私は、この世には二種類の人間がいると思っています。
それは、人と話すことで充電できる陽キャと、会話により激しく消耗する陰キャ。
私?もちろん後者です。
いえね、私は別に孤独が大好きと言う訳ではないんですよ?
数日も人と話さなければ寂しくなる自信がありますし、会話も、楽しいことは楽しいんです。
ただ、『めちゃくちゃ疲れる』んですよね。
友人には「おしゃべりって楽しい、夜通しでもやりたい」とか言う猛者がいますが、私にはその感覚がわかりません。
だって私、1日1時間くらい他人と会話したら、もうお腹いっぱいなんですもの。
『努力は夢中には勝てない』とは誰の言葉だったでしょうか?
おそらく、放課後や家でも話しまくる学友と、できることならその時間帯にはもう一言も話したくない私。
当然、会話筋力にも差は開いていきますよね。
私も伯爵令嬢として幼少期より会話の練習はしており、普通に話すことは可能です。ただ、陽気キャ集団の高速パス回しのような会話スピードに合わせるのはめちゃくちゃ疲れます。
友人達にはそれが快適な速度のようですが、私には息切れ必至の全力疾走なんです。
不甲斐なし……
でもまあ、そう生まれてしまったんだから仕方ないですよね。そう諦めて開き直るしかありません。
そろそろ卒業後の進路を考える時期ですが、そう言った事情があるので『会話が少なくてすむのはどの道か』を念頭に考えておかなくては……
あ、もし早めに結婚するなら寡黙な方がいいですねぇ。プライベートでは「ん」と「メシ」くらいで会話が終わるような方だと最高です。
これも、近いうちにお父様に根回ししておきましょう。
「喜べイトラ!『太陽王子』ことルイ様から縁談が来たぞ!将来お前は王妃として、社交界の大輪としてやっていくんだ」
ムリムリムリ!
やっていける訳ないじゃないですか!
◇
うう、結局、両家顔合わせが実現してしまいました。ご迷惑をかけず角も立てぬよう、なんとかお断りしなくては……
「家格の釣り合いが」
「オクトワーズは歴史も財力もある名家じゃないか」
「非才の身ゆえ」
「君、王立学園で主席だったよね」
「見た目も地味ですし」
「社交界で『大輪の白薔薇』と評判になっているよ。君は実に謙虚で素晴らしい女性だねぇ」
笑顔で論破するルイ殿下をみて、国王様もお父様もニッコニコ。うう、実家の太さとそれに見合う英才教育、そして両親譲りの外見が今だけは恨めしい。
ここはやはり正直に「実は陰キャで長時間の会話はキツいんです」っていわないとダメですかね。
やだなぁ、コンプレックスを暴露するの。気が重いです。
「と、言うわけでこのまま婚約成立……といきたいところなんだが、その前に二つ、君にとって悪い条件があることを伝えておかなくてはならない」
と、そこで初めてルイ殿下が顔を曇らせました。あら、『太陽王子』みたいな方でも、こんな表情されることがあるんですねぇ。
よっぽど悪い何かがあるんですか?
「すまないが、プライベートでは僕と君の会話は殆どないと思っておいてほしいんだ。」
おっと、この申し出は予想外でした。
いわゆる『真実の愛』が別にいるから『白い結婚を』とか、そう言う話でしょうか……?
お父様は凄い顔をしていて、国王様も笑顔が固まっています。まあ、額面どおりなら失礼な話ですもんね。
あ、でもこれってもしかして渡りに船ではないでしょうか?
「どういうことだテメェ、ぶち殺すぞ」
「お父様、ちょっと黙って」
勿論、夫に愛されないのは悲しいことだとは思います。でも、王妃として社交をこなした上にプライベートでも『太陽王子』との会話ラリーなんて過労死してしまいますもの。
婚姻が断れないなら、次善の策として会話のない仮面夫婦もアリなのではないでしょうか?
「それが殿下の御心ならば、謹んで受け入れますわ。殿下の心の平穏は、お国のためですもの。」
そして私の平穏の為でもありますもの。
白い結婚?ぜひぜひぜひ、喜んで。
「ああ、君はなんて健気な女性なんだ……すまない、せめて理由を説明させてくれ。」
私の本心からの笑顔をみて、何か変な勘違いをしたらしく、ルイ殿下はそんなことをおっしゃいます。
いやいや、政略結婚相手の他人の惚気話とか興味無いんで別に説明とかいらないんですけど。
まあ、適当に相槌くらいは打っておきますか。会話も長引いて、そろそろMP切れそうなんで手短だといいのですが。
「僕は『太陽王子』と呼ばれているが……実は『陰キャ』なんだ。」
あーはいはい
……はい?
「いや、別に孤独が大好きと言う訳ではないんだよ?ただ、めちゃくちゃ疲れるんだ。1日1時間くらい他人と会話したら、もうお腹いっぱいなんだよ。」
「そう、なんですか……?とてもそうは見えませんでした」
でも、あー、それ、物凄くわかります。
「良い印象を持ってもらえるように、幼少期から沢山、会話の練習をしたからね。」
それも身に覚えがあります。
「今の所は『太陽王子』のイメージを崩さずやれていると自賛しているよ?でも、それは息切れ必至の全力疾走で会話しているんだ。これ以上、プライベートまで会話を増やすとかは無理なんだよ。」
実はそろそろMPも切れそうなんだ。だから入籍後、僕と君の会話は殆どないと思っておいてほしい、とルイ殿下。
なんか、すっごい親近感が湧きました。
「そう……だったのですね」
「そうなんだよ。あと、君にはもう一つ無理を強いてしまうんだが……」
そうして殿下は、王と王妃、どちらも親しみやすい感じで行くと舐められてしまいかねないだろう、とお話を続けます。
「でも僕はもう臣下達の間で『太陽王子』のイメージが強くて今更キャラ変更できないから、君は王妃になったら『ちょっと寡黙な人』の仮面をかぶって、あまり人前で話さないようにしてほしいんだ。」
本当にごめんねと、ちょっぴり卑屈な一面をみせるルイ殿下。長時間の会話がキツいの、コンプレックスだったみたいです。その様子をみて私は……
ちょっとキュンとしました。
どうやら私、『完璧だと思ってた人が親しい人にだけふと見せる弱み』みたいなのが性癖のど真ん中だったみたいです。
「殿下、そのお話……」
「ああ、無理を言っている自覚はある。他の面ではいくらでも便宜をはかるから……」
「むしろ是非!こちらから伏してお願いしたいくらいの好条件です!!」
「この2点だけはなんとか呑んでもらえたらってナンデ?!」
彼に合わせて、私も秘密を打ち明けます。
そうして私達は婚約者し、やがて夫婦となりました。
◇
この世には二種類の人間がいます。
それは、人と話すことで充電できる陽キャと、会話により激しく消耗する陰キャ。
私達夫婦は、もちろん後者です。
さて、国王夫妻として本日の政務を終えた私達。
「……ふう」
「本日もお疲れ様でした」
「うん……ありがとう」
ソファーに並んで腰掛けると、いつも変わらぬ同じ短いやりとりをもって、本日の夫婦の会話は終了です。
やはり、立ち位置的に夫の方が消耗が激しいですね。私は殆どの時間、素のままで政務をこなせていますし。
ただね、私達は別に孤独が大好きとか、そう言う訳ではないんです。
その証拠にほらーー今日もルイは私の手を握ってくる。
私は微笑んで、ちょっぴりルイほうに寄りかかり、こてんと体重を預けます。
そう。
ちょっと会話のキャパが低いだけで、人恋しさはきちんとある。
互いに伴侶を愛しく思い合う気持ちも。
私、王妃のイトラと申します。
過日は、「できませんって!陰キャが王妃とか」なんて思っていましたが……まあ、なんとかやれています。
環境と夫に恵まれた結果ですね。
月並みな感想になりますが、いい感じに落ち着くことができて本当にありがたい限りだと思います。
あと、ポイントや感想や誤字報告を下さる読者様に恵まれたのも本当にありがたい限りだと思います(*´ω`*)