【第七話】記憶の改ざん
⸺僕は、もう現実では存在していないんだ。
再会した時からずっと、違和感を感じていた。
だが、この世界にいるレイは生きていないのかもしれないと考えないようにしていた。
ここにいるレイの口から直接真実を聞けたのはいいものの、心のどこかで、本当の世界でも生きていると信じたい自分がいる。
「ホワイトローズ郷は、昔から死者の魂が残り続ける場所って言い伝えがあった。
だから、幸せなまま死んだ人の魂もあれば、良くも悪くも恨みや後悔を持ったまま死んだ魂もある。」
レイは自身の胸に添えていた手をゆっくりと降ろす。
「...当時、僕の祖母が言ってたよ。
ホワイトローズ郷は、魔王が作り出した地獄のような街だって。
元々、存在自体が良くない街だったんだ。
あの日、ホワイトローズ郷が滅びたのは、神様にとっては悲劇でもなんでもない。」
「...待て。あのとき、ホワイトローズ郷は誰かの手によって滅ぼされたんじゃないのか?」
俺はずっと疑問に思い続けていたことを問いかける。
「同じ人間に滅ぼされたなら、死人の魂まで跡形もなく消えたりしない。
僕は生まれつき、その魂が見えるんだ。
...これはフォルテ一族特有でね。」
生まれた時から、美しい白髪に澄んだ青い瞳。
フォルテ家以外で見かけたことがなかった。
思い返せば普通の家系ではない。
「あの日、僕は街の人だけじゃなくて、死人の魂まで消えていくのを見た。
ここでみんな死ぬって分かったんだ。
...でも、シンだけには生き伸びてほしかった。
同時に、現実の僕が死んでも、シンの記憶の中で僕は生きていたいと思ってしまった。
だから、僕は僕自身の魂をシンに移植した。」
「魂を移植...そんな魔法があるのか?」
「魔法といえば魔法かもしれないけど、そんなに綺麗なものじゃないよ。」
レイは俺の頭の横に手を当てる。
「僕の魂は、今シンの脳内にある。
それに13年間シンが見てきたこの世界は、本当の現実じゃない。」
...じゃあ、ここにいるレイは一体何なんだ?
そう言おうとしたが
見た目、声、仕草、話し方、雰囲気全て
今目の前にいるのは間違いなく、他の誰でもないレイそのものだ。
「もっと簡単に言うと、僕はシンの記憶の中でずっと生き続けてるんだ。
...現実での記憶を書き換え続けて、ね。」