【第六話】真実
シン・メルト
心の中でいくつも疑問が残ったままだが、俺はとりあえず理由を聞いてみることにした。
「なんで俺なんですか?元不良の騎士団長とか、国民から怖がられるだろ...他にもっといい人なんてたくさんいる。」
「じゃあ、副王はどうかな...?」
「いやもっと怖がられるやつだろ!」
あまりにも拍子抜けな提案に、俺は思わずツッコミを入れてしまう。
「あー...とにかく、初対面の人間に言うことじゃ...」
何度も思ったことだが
本当に初対面なのだろうか。
やはり、違和感と既視感を感じたまま会話するのは気持ち悪い。
レイに直接聞くしかないか。
「前にもこんな感じのやり取りしたよな?」
「...そのことも覚えてくれてたんだ。」
⸺そのこと"も"?
「俺って記憶喪失か何かだったのか?」
「いや、君は記憶喪失ではないよ。」
記憶喪失じゃないなら、なぜこんなに記憶が断片的にしか思い出せないのか答えが出ない。
俺はもう一度頭の中を整理する。
既視感...
記憶...
残像...
記憶の...残像...
レイ...?
ようやく思い出してきた。
だが俺がレイと呼んだら、彼はまた居なくなってしまうような気がする。
俺は部屋に飾られている絵画をもう一度見る。
やはり、アステルタ王国ではなくホワイトローズ郷だ。
「ここは、俺がいる場所じゃないのか?」
「...僕も君もここにいるよ。」
名前を呼んでいないのに、ただ会話しているだけで懐かしく感じる。
「...お前はホワイトローズ郷が滅びた日、何があったかを知ってるのか?」
俺が覚えているのは、故郷が何者かによって焼き尽くされ、一面焼け野原になったこと。
そして、レイはかつての親友であり、確かに俺とレイは一緒に逃げて生き延びたこと。
もう一つは、13年越しに再会したレイが一度居なくなる前に『記憶の残像』『約束を守れなかった』と言っていたこと。
「お前の口から直接聞きたいんだ。」
「...」
やはりレイは黙ってしまう。
「俺達は生き延びて、今ここにいるんだよな?」
「...本当のことを言ったら、シンはもう僕と関わりたくなくなる?」
「はぁ...」
俺は大きなため息をつく。
「前から変なことばかり起きてるけど、俺はここに何度も会いに来てる。本当のことを知って絶交するくらいの気持ちなら、最初からわざわざ王宮に侵入してまで会いにこようとしない。」
思ったことをそのまま伝えてみたが、プロポーズの前置きのような言葉になってしまった。
少し恥ずかしい気持ちになり、俺は横を向く。
「...そっか。ありがとう。」
レイはそっと胸に手を置いている。
「今から本当のこと、話すね。」
「おう。どんなことだとしても、受け入れる覚悟はできてる。」
レイはまっすぐ俺の目を見ている。
彼が今から話すことは嘘ではなく、全て真実なのだと理解した。
「...僕は、もう現実では存在していないんだ。」