【第五話】既視感
「まあその...あれです。国王陛下に会いに来ました。」
俺は今まで丁寧な言葉を使わずに生きてきた。
丁寧な言葉を使わなくてもいい環境で育ったからまともに敬語を使うことすらままならない。
俺なりに敬語で話した筈だが大分崩れている。
「よくここまで侵入して来れたね...見張りの警備たくさんいたのに。」
国王は驚いているのか呆れているのか分からない表情で俺を見ている。
「ああ?あれは苦労しましたよ。どれだけ周り道しても警備隊いたし。」
自分で言うのもなんだが、俺はなんで国王とこんな話をしているんだ。
というか、俺は侵入者なのになぜ血相ひとつ変えずに捕まえようとしないのだろうか。
「...あの、ひとつ聞いてもいいっすか。」
「どうしたの?」
「なんで侵入者の俺を捕まえないんですか。」
「えっと、それは...」
国王はなぜか動揺した顔をしている。
「とりあえず、僕の部屋で話さない?」
「...は?」
突拍子もないことを言われ、俺は思わずそう口に出してしまった。
何故だろうか、前にもこんなことがあったような気がする。
俺は国王に腕を掴まれ、そのまま王宮の入り口に連れていかれた。
「いつもお疲れ様。」
「レイ様、そちらの方は一体...?」
確実に門番に怪しまれてる。
当たり前だ。俺と国王とじゃ、身なりも雰囲気もあまりに違いすぎる。
「僕の旧友だから、悪い人じゃないよ。ちょっと部屋の中で話したいことがあるから、いっしょに通してくれないかな」
「え?」
俺はありもしない設定に困惑する。
「そういうことでしたか。承知しました。」
国王のお願いならなんでも受け入れますと言わんばかりの返事だ。
俺は国王が暮らしている部屋に案内された。
ソファやテーブル、ベッドは真っ白で、部屋の周りには金色の装飾や置物が置いてある。
壁までシミひとつなく真っ白だ。
⸺前にもどこかで見たような。
違和感を感じつつも、この既視感を受け入れてしまっている自分がいる。
おかしいのは今に始まったことじゃない。
ホワイトローズ郷が滅びてからずっと、覚えることが断片的なものばかりだ。
そういえばルカが見当たらないな。
...ルカ?
名前は出てくるものの、顔が思い出せない。
俺は頭の中を整理しようとしたが、処理しきれず一瞬立ち止まった。
「...大丈夫?」
国王は心配そうな目で俺を見ている。
「まあ、今のところは...」
他人に心配されると、どうも返す言葉に困ってしまう癖がある。
目の前には色鮮やかな絵画が飾られている。
かつてのホワイトローズ郷が描かれた絵画だ。
「へぇ。好きなんすね、ホワイトローズ郷。」
「うん。僕の生まれた故郷だから。」
「...え?」
ホワイトローズ郷は13年前に滅びたはずだ。
それに生き残ったのは俺と、もう1人...
「生き残りは俺含めて2人だけしかいないが。もう1人はアンタなのか?」
そう聞いた瞬間、さっきまで穏やかな表情をしていた国王の顔が一気に曇る。
何かを隠しているような素振りをしている。
滅びた故郷の話など気に障るのは当たり前なのに、何故か咄嗟に聞いてしまった。
「...別に言いたくないなら言わなくてもいい。」
「...」
気まずい沈黙が流れる。
「...さて、暗い話はここまでにして。
本当は俺がここに来た理由を先に話したいんですけど、国王が俺に話があるって言ってたんで。先どうぞ。」
俺がそう言うと、国王は先ほどの曇った表情から一転し、安堵したような表情でこちらを見ている。
「えっと、君に騎士団長に任命したいと思っていて...」
やはり、身分もはっきりしてないような俺に初対面で騎士団長になれと言ったのは此奴か。
...初対面?
そもそも、いつ言われたんだ?