【第四話】曖昧な再会
「⸺様、シン様!」
少女の声が聴こえる。
「⸺」
「...え?」
いつにも増して人の声が聴き取りづらいな。
アステルタ王国の城下街は賑わっている。
だから一人の声が判別しにくいだけか。
俺は耳をすましてみる。
「⸺」
少女の声は次第に聴こえなくなっていった。
まあ、気のせいだ。
そう思い、俺は背伸びをする。
今日は雲一つない、晴天の空だ。
だが、なにか大事なことを忘れているような気がする。
「...なにしようとしてたんだっけ。」
俺は目をつむって、頭の中で整理してみる。
確か、誰かにアステルタ王国の騎士団長になれと言われた。
ここまでは思い出せたが、肝心の誰かが思い出せない。
そもそも、国の騎士団長を任命できるようなお偉いさんは国王くらいしか考えられない。
「とりあえず王宮に行ってみるか。」
記憶が定かではないが、俺は一か八かで王宮へと向かった。
「...でかい。」
王宮や城全体が大きいのは当たり前のことではあるが、今まで大した金もないうえに悪事を働いて生きてきた俺からしたら随分と大層なものに見える。
城と王宮への入り口は門番が厳重な体制で見張りをしている。
王宮周りの特殊警備部隊がたくさんいるがゆえにここまで侵入するのにも苦労したが、流石に門番のチェックは避けては通れない。
「まずいな...このままだと確実に牢獄行きだ。」
変装で身分を偽装しようかとも思ったが、国王以外の王宮への立ち入りは側近の者しか許されていないらしい。
特殊警備隊員ひとりになりすましたところで余計怪しまれるだけだ。
さて、どう入るか。
城へ侵入するのであればいくつかルートはあるが、王宮への入り口はひとつしかない。
つまり方法は1択。門番をぶっ倒すしかない。
門番は大きなあくびをしている。
ああいう仕事は交代制とはいえ、さぞかし夜中から昼まで立ちっぱなしはお疲れだろう。
俺は王宮内の庭に植えてある木の後ろに隠れ、門番が再びあくびをする隙を見計らって蹴りを入れようと身構えた。
「...ここで何してるの?」
急に背後から声を掛けられた。
白くて長い髪に、澄んだ青の瞳をした男。
高級そうなブラウスに青いブローチをつけ、ところどころに金の枠やら青の刺繍やらが施された服を着ている。
市民たちから噂で聞いていた国王そのものだ。