【第三話】夢か、現実か。
夢...だったのだろうか。
俺は部屋から出ると、アレーナが不思議そうな顔でこちらを見ている。
「シン様、顔色が優れないようですが、どうされたのですか?」
一瞬沈黙が続く。
「もしかして...疲れてらっしゃいますか?」
「いや、大丈夫だ。」
内心、全く大丈夫ではない。
脳内がぐちゃぐちゃで何も考えられない。
俺は再び部屋に戻り、レイが触れていた絵画を見てみる。
絵画にはアステルタ王国の風景が描かれている。
「...アステルタ王国?」
違和感に気づく。
さっきレイが見ていた絵画はかつてのホワイトローズ郷が描かれていたのだ。
まるで同じ次元に存在していない感覚だ。
だが、顔に触れられたときのあの手の感触は、間違いなく本物だった。
「一体レイはどこにいるんだ...」
そう考え込んでいたとき、部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。
「シン様、失礼いたします。」
現アステルタ王国副王のルカだ。
「どうした?」
「ただいまシン様のお父様が王宮にいらしております。」
「...そうか。」
レイがいなくなった以来、親父には一度も会っていない。
レイは幼い頃に両親を失った。
そのときにレイを引き取ったのが親父だ。
血は繋がっていないものの、俺たちは家族のような毎日を送っていた。
ホワイトローズ郷が、滅びるまでは。
皆がレイを「知らない」という今、親父の口からも「知らない」という言葉を聞くのは怖かった。
「体調不良で寝ていると伝えてくれ。」
「シン様、ここのところ様子がおかしいようですが、何か気にかかることでもございましたか?」
ルカはアレーナよりも人一倍洞察力が鋭い。
「...大丈夫だ、お前には関係ない。」
「私に関係なかったとしても、国王が隠し事をされると、王宮内の雰囲気が乱れてしまいます。」
「はぁ...」
俺は大きいため息をつく。
「...人を探している。」
「人探しでしたら、私が捜索部隊を手配いたしますよ。その方のお名前は?」
元々アステルタ王国に仕えていたルカがレイの存在を知るはずがないが、変に模索されるのも気分が悪いので、一応伝えることにした。
「レイ・フォルテという男だ。」
「...レイ...」
ルカは一瞬考え込む。
「申し訳ありませんが存じ上げない方です。」
まあそうなるよなと思いつつルカの顔を見る。
「では、私はこれから仕事があるので自室へ戻りますね。
...失礼いたしました。」
なぜか少しだけ、ルカの前でこの話をしてはいけないような、そんな気がした。
ルカは軽く会釈をして、部屋を去って行った。