【第二十七・最終話】記憶の残像⸺禁忌
いつもご愛読いただきありがとうございます。
作者のあいなしです。
本投稿を持ちまして『アフターイメージ・オブ・メモリー【記憶の残像】』は完結となります。
新作は現在考案中です。よければご愛読・ブクマ・応援していただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたします。
何かを忘れたまま時だけが過ぎていくのは残酷だ。
でもそこに何かたった一つの希望や願いが込められているのだとしたら、俺はそれを無駄にしたくない。
もしレイと巡り会えたことが偶然じゃなく『運命という名の禁忌』なのだとしたら
神は俺のことを赦してくれるのだろうか。
それでも俺は
この出逢いをずっと大切にしたい。
⸺あれからまた1年の月日が過ぎていた。
「シン、これ全部書き終わったよ。あとは印を押して終わり。」
「ああ。いつもありがとな、助かる。」
レイから書類の束を渡される。
最初のうちは仕事を手伝わせる気は全くなかったが、レイが『働きすぎだ』とか『僕にも手伝わせてくれ』とか駄々をこね始めたので、渋々仕事を手伝ってもらうことになった。
仕事を進めるスピードは俺より2倍くらい早い。
「…レイ、悪く言うつもりはないんだが、その…これなんて読むんだ?」
「え?指定された内容通りに記入したはずなんだけど…」
言えない。
レイの字が汚すぎて文章が全部読めないなんて言えない。
そもそも俺と出会う前の記憶がないってことは、文字すらまともに覚えていないんだ。
短時間でここまで書いてくれたことが凄い。
「気持ちはありがたいんだが…あとは俺がやるから、レイはゆっくり休」
「…なに、間違ってるなら正直に言って。」
拗ねた表情で横を向いてしまった。
かといって、そのまま事実を伝えるとレイを傷つけてしまう。
何かいい方法はないだろうか。
「手伝いたいって気遣いと優しさだけで俺はすごく嬉しいし、感謝してるよ。
でもな、この仕事は今のレイがやるには難しすぎる。無理して続けるのは良いことじゃない。」
最大限に気を遣って言ったつもりだが、後から考えるとあまりに不器用すぎる言い回しだ。
これじゃ、確実にレイを怒らせてしまう。
「…分かった。」
意外とすんなり話を受け入れてくれた。
レイを見てみると、複雑そうな表情をしながら書類を再確認している。
「本当に、間違ってるとかそういうことじゃないよね?」
「そういうことではないから、とにかく安心しろ。今日はゆっくり休んでくれ。」
「はいはい…」
気分転換で外の世界に連れていってあげたいが
城内の者や国民に見つかり『国王が得体の知れない人間を匿ってる』という噂が広まるとまずいので、日中の明るい時間帯は危険だな。
…夜遅くなら、レイがフードを被った状態であれば、バレずに連れ出せるかもしれない。
ただ、無理に連れ出すのも悪いし直接聞いてみるか。
「レイ、外の世界に興味はあるか?」
「外の世界?」
「この王宮にいるだけだと、毎日同じ景色しか見えなくて退屈じゃないか?」
「そんなこと、一度も考えたことなかった…けど確かに、今考えてみたらそうかも。」
「…もしレイが嫌じゃなければでいいんだが。
今日の夜、一緒に外に出てみるのはどうかなと思って。」
なんだか、デートに誘っているような気分で恥ずかしい。
だがあの舞踏会の夜に道端で出会った以降、レイは一度も外に出ていない。
せめて一度くらいは、新しい景色を見せてやりたい。
「そうだな...行きたい場所はあるか?」
「...ホワイト、ローズ郷。」
「は?」
俺はあまりの衝撃に一瞬言葉を失いかける。
レイの言い間違いじゃなければ、ホワイトローズは15年前に滅ぼされたかつての俺の故郷だ。
「何かの間違いじゃ、ないよな?」
「えっと...なんか、自然と思い浮かんだのがその場所だった。」
「...でも今は跡地しか残ってないぞ。」
「跡地でも全然いいよ。
実はその場所の名前だけずっと覚えてて...
もしかしたら、シンと出会う前に僕がどこで過ごしていたのか、それまで何をしてたのか、思い出すきっかけになるかもしれないんだ。」
「そうか...分かった。」
俺はクローゼットの中から身隠し用のフードが付いているマントを取り出し、レイに手渡す。
「城内や街にいる人達に見つかるとまずいから、夜部屋を出る前になったら被ってくれ。」
「これ、本当に大丈夫?」
レイが心配そうな顔で俺の目を見つめている。
「なにがあっても、レイのことは俺が守る。
誰であろうがレイに手出しは絶対させない。」
「...なんか恥ずかしい。」
レイが記入した書類を全て綺麗な字に書き直して修正しているうちに
気がつけば夕日が暮れ、夜が訪れていた。
「はぁ...ちょうど全部直し終わった。」
俺は大きなため息をついてしまう。
「なにを直したの?」
「いや、なんでもない。
レイは知らなくていいから。」
「へー...そうですか。」
また顔を横に向けて拗ねてしまった。
「それはそうと、22時になったな。」
「あっ、もうそんな時間だったんだ!」
レイはフードを被り、いつでも行けると言わんばかりの目で俺を見ている。
「...少し準備するから待っててくれ。」
俺もフードを被って、軽く身支度を始める。
ホワイトローズ郷の跡地に行くのは、これが初めてだ。
跡形も残っていないという事実をずっと受け入れたくなくて、あれ以来一度も行っていない。
でも今なら、レイとなら
少しだけ行く勇気が出てきたような気がする。
「...さて、行くか。」
アステルタ王国から北側に進み数時間ほど歩いた先に『ホワイトローズ郷跡地』と書かれた白い看板が見えてくる。
「…着いたぞ。ここだ。」
「意外と歩いたね。」
俺は看板の先に広がっているかつての故郷を、恐る恐るこの目で確認してみる。
俺が7歳のころまで見続けてきたホワイトローズ郷の景色は、何一つ残っていなかった。
嫌でも時の流れを感じてしまい心が痛くなりそうだが
レイと一緒に来たおかげなのか、比較的落ち着いていられる。
「ここって、シンの故郷なの?」
「は?なんで、レイに教えたことは一度も…」
「なんとなく。」
「…出会った時からずっと既視感を感じてたんだが。
—お前もしかして、フォルテ家に生まれた人間じゃないか?」
「…え?」
「俺がここに住んでた頃、その特徴的な白い髪と青い瞳を持った一族が近くに暮らしてたんだよ。同い年くらいの子供は、一度も見かけた覚えがないが…」
「分からない、何も思い出せない。
記憶を辿っていこうと頭の中で『思い出すな』ってなにかに止められて…。」
これ以上、レイの過去を深堀りしてはいけないような気がした。
レイがいるこの日常が、俺の願いが、全て壊れてしまうような気がした。
「…無理に思い出さなくていいよ。
過去のレイと今のレイは違う。今を生きてるなら、もう過去を見るな。」
俺はレイを優しく抱きしめる。
「…うん、分かった。
僕の過去に何があったとしても、シンの過去がどうであったとしても
僕は今この瞬間と未来だけを見続けるよ。」
⸺例えそれが
『禁忌』であったとしても。
⸺許されないことだとしても。
改めまして、作者のあいなしです。
「どこへ行っても、必ず2人で生き延びてやる」
記憶が無くなっても、形が違っても、彼らの約束や願いは無事に果たされました。
シンのために禁忌を犯したルカの消滅も、彼らの未来や希望へと受け継がれました。
正しくなくても、きっと彼らにとっては間違いではない選択だったと思います。
最初は頭の中で思い描いた設定をそのまま文章に描き続けていましたが、物語が進むにつれ「こうしてみようかな」「この設定を入れようかな」と
自分なりに手を加えるようになり、自分でも予測できない話を作り続けることができ
最後まで楽しく他のどれでもないオリジナルの作品を、無事に完結まで描くことができました。
最後まで『アフターイメージ・オブ・メモリー【記憶の残像】』をご愛読頂き、ありがとうございました!
また新作でお会いできることを楽しみにしています。




