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【第二十五話】残像⸺出会いと別れ

【ルカside】



私はずっと自分勝手な奴だ。


情に弱く、公正に人間を裁くことができないという勝手な理由でグエンに神の責務を押し付け


最終的に一人の人間を愛し、神の掟を破ったグエンのことを裏切り者と扱い

この手で魂ごと、裁きを下してしまった。


中途半端な正義感で動く熾天使セラフィムなど、まがいものにもほどがある。



そして今、私はたった一人の人間のために禁忌を犯した。


「…は」


あまりの自分の醜態に、思わず乾いた笑いが出てしまう。




なにが『人間に毒されたか』だ。




「…毒されているのは、私のほうじゃないか…っ!」




私は必死に涙を堪えながら、転生させた新たな『レイ』の魂を人間界に落とした。


今なら人間を愛し、天界に背いたグエンの気持ちがよく分かる気がする。



私はシンのためなら、禁忌を犯してもいい。



自分勝手なのは重々理解している。

いつまでも中途半端に神の代理でいるのはダメだ。


私も自分の立場に、白黒はっきりつけなければいけない。




ヤマの協力もあり、堕天()免れることができた。


だが去り際、ヤマに『これ以降は人間と一切関わるな』と忠告された。

これを破れば最後、天界人としての権利もなくなり、堕天以上の罰を受けるだろう。



「…ヤマ、すまない。」




全てに終止符を打つために、私はもう一度




⸺神の掟を破る。




【シンside】



「…んん」


窓の外から、打ち付けるような激しい雨の音が聞こえる。



俺はベッドからゆっくりと起き上がった。

昨夜、道端で寝ていた見知らぬ男を部屋に匿ってからの記憶が曖昧だ。


ふと下を向いてみる。



…上半身が裸になっている。



まさかと思い横を見ると、その男が小さな寝息を立てながら寝ている。



「…俺、もしかしてまずいことをやらかしたのか?」


焦りで頭を抱えながらそう小声で呟くと、男が目を覚ましてしまった。



「…おはようございます。」



何気ない挨拶を言われたが、今はそれどころじゃない。



「…ひとつ、聞いてもいいか。

昨夜この部屋に入ってから何があったか、覚えてるか?」


「えっと、急にベッドに押し倒されたので抵抗したら

気絶するように僕の肩に寄りかかってきて…そのまま寝はじめたので

起こさないように横に移動させました。僕も眠かったのでそのまま隣で寝てしまったんですけど…」



衝撃で脳の処理が追い付かない。


つまり、俺はこの男に手を出そうとしたのか?

まず初対面なのに、意図して手を出そうとするはずがない。


自我のない状態でならあり得るかもしれないが、昨夜の舞踏会で酒は一滴も飲まなかった。


酔っぱらっていないのに、なぜ?



「押し倒されて抵抗したら寝に落ちたってことは、その

ほかには、何も変なことしてない…よな?」


一応確認のために、恐る恐る聞いてみる。


「それはなかったです。

ただ、いきなり押し倒されてから服を脱ぎ始めたのでびっくりしました…」



いや、全く大丈夫ではない。


確かにこの男を初めて見たとき、触れたいと思ったのは事実だが

決してそういう変な意味ではなかった。


ただ、触れることができるのをとてつもなく嬉しいと感じた。



「すまなかった。昨夜のことはあまり覚えていないが、酷いことをしたのには変わりない。」


「大丈夫です、きっと疲れていたんだと思います。

あなたが寝ているときに顔を見てみたら、目に酷いクマがあったので。



確かにここ1週間、ずっと舞踏会の準備で寝不足だ。

睡眠時間を削って招待状を作り、同時に会場作りの手配も進めていた。


この男が言う通り、疲れていたのかもしれない。


今はそう思うことにしよう。



「そういえば、自分の名前が分からないって言ってたな。仮でよければ、俺が呼び名を考える。

嫌ならはっきり断ってもらって構わない。」


「いいんですか?国王様が直々に、僕なんかの…」


「…その呼び方は堅苦しいからやめろ、シンでいい。

そうだな。お前に似合う名は…」



咄嗟に『レイ』という言葉が思いついた。


よく分からないが、この名前が一番似合ってるような気がする。



「『レイ』はどうだ?」


「なんか、すごくしっくりきますね…その名前でお願いします。

ありがとうございます!わざわざ名前まで考えてくれて…」


「気にするな。元はといえば、俺が呼び名をつけたかっただけだし。

あとそのかしこまった敬語もやめてくれないか。堅苦しいのは苦手なんだ。」



仕事上で関わっている者以外に敬語で話しかけられるのはあまり好きじゃない。


元々俺は小さな村に生まれた、ただの子どもだった。

ルカと親父に拾われるまでは特別いい育ちをしたわけでもない。


その影響もあってなのか、未だに丁寧な言葉を使うのには慣れてない。



「えっと…じゃあ、シン。

実は目が覚める前までの記憶がなにもなくて、気づいたらあの道端で寝ていたんだ。

僕自身がどこにいたのかも、どう過ごしてたのかもわからなくて。」


「なるほど。記憶喪失ってことか?」


「多分そう、なのかな。

これからどうすればいいんだろう…」


「別に、そのまま俺の部屋にいていいよ。

安心しろ。その間は側近以外の全員に知られないよう、上手いこと匿う。」



実を言うと、俺が近くにいたいだけだ。


レイのことをもっと知りたい。

出会った瞬間からずっと感じている胸の高鳴りが一体何なのか、確かめたい。



「ありがとう。でもタダで居候するのは申し訳なさすぎるから、なにか僕にできることがあれば手伝わせてほしい。」



コイツ、見た目以上にお人好しだ。


部屋の中で出来るまともなことなんて、期限内に間に合わなかった書類をひたすら整理やら記入やらしていく地獄のような時間外労働しかない。



「いや、今はとりあえずここにいてくれるだけでいい。最初から見返りなんて求めてない。」


「えっと、どう返事したら…本当にありがとう。」




ある程度話が落ち着いたので、俺はいつもの服に着替え始める。

国王である以上仕方のないことだが、服に派手な装飾が多いせいで年中常に暑苦しい。



「さて、着替えも終わったし、俺はそろそろ城内に出向く。

食事の時間までには戻ってくるから、レイはここでゆっくり過ごして…」



「シン様!!!」



急に扉の向こうから慌てめいたアレーナの声が聞こえた。



「誰…!?」


「大丈夫、俺が雇ってる秘書だ。」



ルカは俺の自室によく出入りしていたが、アレーナが急用で来るのは珍しい。



「何があった?」


「さっき窓の外を眺めていたら、王宮の外にルカ様が…!

傘もささずにこっちに向かってきていて…」


「…は!?」




俺は自分とルカがそれぞれ使えるように傘を2本持ち、急いで王宮の外に向かう。


そこにいたのは、雨でずぶ濡れになりながら俺を見つめているルカだった。



「天界から帰ってきたのは嬉しいけど、傘くらい差せよ…風邪ひくぞ。」


ルカに近づき、傘を渡そうとする。



「…いや、いらない。

シンに直接伝えなければいけないことがあってここに来た。

用を済ませたら、すぐにここを離れる。」


「は?どういうことだよ。いきなり帰ってきたかと思えば、伝えなきゃいけないことって…」



ルカの顔を見ると、どこか寂しげな笑顔を浮かべている。



「しばらくの間、旅に出ることにした。いつまでかは…決めていない。

私が何者でありたいのか、その答えを見つけたい。」


「旅に、出る?」


「ああ。きっと、今の私にとっては大切なことだ。


…じゃあ。どうか、元気で過ごしてな。」






なぜか俺は、ルカがもう二度と帰ってこないような気がして


「行くな!」と言いながらルカの腕を強く掴み、咄嗟に引き留めようとする。



だが俺の手は容易に振り払われ、隙を突かれて首の後ろに手刀をトンと入れられる。




『シン。


...お前を、ずっと愛してる。』




意識が朦朧として、体に力が入らない。


俺は何もできないまま、その場に横倒れしてしまう。



「ル、カ…」






それから目が覚めたのは、数時間経ったころだった。


アレーナとレイが心配そうな顔をして俺を見つめている。



「ここは…」



俺は辺りを見渡す。


…見慣れた自分の部屋だ。



「一体、何があったんだ?」


「何があった、はこっちのセリフです!

こんな大雨の中、シン様いきなり王宮の外に飛び出して、しばらくした後にその場で倒れて…。

過酷な労働で頭がおかしくなったんじゃないかと思いましたよ。」


「うん。僕もそう思った。」


「ですよね!シン様いつも働きすぎですし。」



いつの間にこの二人は意気投合したのか…と思いつつ

何があったのか、頭の中で状況を整理し始める。



…おかしい。


なんのために外に出たのか、思い出せない。


アレーナは、俺がいきなり外に飛び出していったと言っていた。




俺は本当に頭がおかしくなってしまったのだろうか。






いったん全て考えることをやめて、俺はそのまま眠りについた。

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