【第二十三話】舞踏会前の憂鬱
【シンside】
俺は舞踏会の開催を全国の貴族や王族全員に知らせるため、寝る間を惜しんで大量の招待状を作っていた。
山のように積み重なっていく招待状の手紙の数を見て
「はぁ…」と大きなため息をつく。
こんな作業、今すぐにでも辞めたい。
だが親父を心配させないために、今はとにかく舞踏会を開く準備をしなければ。
「人を好きになったことなんて、一度もないけどな…」
ホワイトローズ郷が滅びる前、俺はずっと父さんと二人で生きてきた。
村人たちと話す機会がない。というよりも、興味がなかった。
なんせ小さな村だったから、同年代の人はひとりもいない。
ただ、ひとつだけ気になっていたことはあった。
珍しい髪と目の色をした一族が近くに暮らしていたことだ。
でも、一度も話すことがないまま全員死んでしまった。
あの家にもし子供が生まれていたら、見惚れるほど美しい人になっていたんだろうな。
…ダメだ、余計なことを考えてると作業の手が止まってしまう。
舞踏会は7日後に開く予定だ。
だから今日までには全て完成させて招待状を送らないと間に合わない。
「こんばんは、シン様。夜遅くに失礼します。」
アレーナの声とともに扉を小さくノックする音が聞こえた。
「…もうアレーナの仕事は終わったはずだ。だから今日はゆっくり休んでくれ。」
「でもシン様、体調崩されても困ります…そっちのほうが問題なので…っ。」
「俺のことは心配するな、お前は自分の部屋に戻ってろ。」
そう言うと、アレーナは頬を膨らませながら執務室に入ってきた。
「シン様っ!!働きすぎです!!!」
「うるさい…何時だと思ってるんだ、もう夜中の1時だぞ。」
「何時だと思ってる、はこっちのセリフです!朝になったら私も手伝いますから、今はきちんと睡眠をとってください。」
「お前はお母さんかよ…」
「ルカ様がいなくなってから、シン様ずっと元気がない顔されていますし…いろいろ心配なんです。」
アレーナは気遣わしげな表情で俺の顔を見つめている。
彼女なりに俺を気遣ってくれているのは痛いほど伝わる。
もし彼女を妻に迎えたら、不自由のない生活をすることができるんだろう。
「...ありがとな。
自室に戻って朝まで休むことにするよ。」
窓の隙間から朝日が差し込んでくる。
「ん...」
もう朝なのか。
一度寝てしまうと、起きるまでが憂鬱だ。
今日はアレーナと一緒に招待状を作成し終わらせ、馬車の荷台に積む作業をする。
「シン様、起きていらっしゃいますか?」
扉の向こうからアレーナの声が聞こえる。
「ああ、今起きた。」
「おはようございます!では、入りますね。」
アレーナは服に興味がないのか、いつも貸し出している仕事着しか着用しない。
メイドとして雇っていたときも毎日メイド服を着回し、洗濯しては日乾しを繰り返していた。
秘書に任命してからは秘書用の仕事着を新たに1着貸したが、やはり毎日それを着ている。
「...アレーナ、ずっと気になっていたんだが
お洒落に興味はあるか?」
「へ??」
「いや、貸し出した服を毎日着るのは別にいいんだが...たまには好きな服を着てもいいんだぞ?」
「えっと。すごく、言いづらいのですが...
私、お洒落に疎いものでして...あはは。」
苦笑いで返された。
「はぁ、やっぱりか...」
アレーナにはいつもお世話になってるし、たまには息抜きさせてやりたいが。
「待て、いいことを思いついた。」
「いいこと?」
「舞踏会、お前も参加しないか?」
「え!?でも私、本当にお洒落したことなくて、周りから浮いてしまうんじゃ...」
「大丈夫だ、ドレスはいいと思ったデザインのものを選べばいい。
髪はお付きのメイド達が、アレーナに似合うようにやってくれる。
もし嫌じゃなければ、どうだ?」
「んー...」
アレーナは真剣な表情をして悩んでいる。
「初めての試みなので、少し不安ですが...
人生で1回くらいはお洒落してみたいので!
私も参加します!」
「分かった、こっちで専用の着替え室を手配しておくよ。
...さて、まずは仕事を片付けようか。」
舞踏会まであと7日。
接待席や食事の用意、テーブルと椅子の配置。
これから忙しくなるだろう。
ただでさえ知り合いも少ないのに、誰と談笑をすればいいんだ。
アレーナと2人だけで話すのも気まずい。
ルカは、来るかな...
そんなことを思いながら舞踏会に向けて準備や手配をしていたら、いつの間にか舞踏会の前日まで迫っていた。
「明日か...」
俺はベッドに横たわり、天井を見上げる。
ここ1年、ずっと心から笑えていない。
ルカが天界に戻った以外、何も変わったことはないのに
心にぽっかり穴が空いたような気分だ。
舞踏会の日くらいは、せめて笑えますように。
そう願いながら、俺は眠りについた。




