【第二十二話】転生
「は、何を言って…人間界で過ごしてるうちに頭がおかしくなったのか?」
「特に深い意味はない。思ったことをそのまま言っただけだ。」
「へえ。はー…」
「…なんだ、何か言いたそうな顔をしているが。」
(んんんんん…危ない、容姿を褒められたせいで口車に乗せられるところだった。
ルカの前だと、どうも平常心を保てん。)
「その『エンマ』呼びはやめろ。
慣れないから前の名で呼んでくれ。ヤマでいい。」
相変わらず閻魔は何を考えてるのか読めない。
「そんなに人間だったころの名に思い入れがあるのか?」
「まあそうだ。閻魔大王になる前にルカがよく呼んでくれ…」
(このたらしめ!!また口車に乗せようと…)
「ん゛ん!とにかく、ヤマと呼べ。」
「分かった。」
「ルカは…そうだな。
随分と顔つきが人間臭くなった。」
唇が触れそうになるほどの至近距離まで近づいてきて、興味深々な様子で私の顔を覗き込んでいる。
「近い、離れろ。」
私がそう言うと、ヤマはハッとした顔をしながら離れて後ろを向いた。
(しまったあああああああ…何をやっているんだ、わしは!
ついルカの表情の変わりっぷりが気になって、顔をじっと見つめてしまった。
あー恥ずかしい…)
「…?」
ヤマは人類最古の死者であり、初めて魂を神に裁かれた元人間でもある。
どのように人間界で過ごしていたのか知らなかったものの
初代の神である天之御中主神様が『神になるのにふさわしい器だ』と言っていたのを思い出した。
初めての死者ということもあり、天之御中主神様の初の試みでもあったのだろう。
ヤマが閻魔大王となるまで、魂を裁くまで短い時間ではあったが
その間は、よく話したりしたものだ。
人間がどういった生き物なのか、どういう心や感情を持っているのか
初めてそれを教えてくれたのはヤマだった。
閻魔大王となってからも、いったい何を考えているのかよく分からない奴だ。
だが死者の生前の行いを公正に判断し、地獄か天国か、あるいは天界行きかを審判する能力だけは、どの神よりも頭一つ抜けて優れている。
ヤマはしばらくして、私のほうに振り向いた。
「本題に入るか。ここに来た理由は?」
正直に用件を伝えたら、どう思うのだろうか。
不安ではあるがレイの魂を救い出すために、今はちゃんと話すしかない。
「…あと1週間もしないうちに、フォルテ一族の者の魂が地獄道を彷徨うはずだ。
だが、その魂だけは裁かずに、天界に持ち帰らせてくれないか。」
「は?どういうことだ…説明してくれ。」
⸺私は人間界で起きたこと、シンとレイのことを隠さず全て話した。
「…なるほど。」
「無茶な交渉だということは重々承知している。
でも、シンを助けるためにはレイの魂が必要なんだ。」
ヤマに向かって深く頭を下げる。
「フォルテ、ねえ…
アレ、そんな姓で続いてたのか。」
なにやら動揺した顔をしながら髪先を指でくるくると巻いていじっている。
「ヤマも、フォルテ一族も、本当に綺麗な髪をしているな。」
「っは!?べ、別に?嬉しくなんてないぞ。
そりゃわしの魂からこぼれ落ちたやつがどんどん繁殖したからな!
フォルテの者が特徴的な髪なのは当たり前で」
「前々から既視感を感じていたが、やはりそういうことだったのか。」
「しまった…口車に乗せられないよう頑張ってたのに、完全にやられた…」
「…つまりヤマの魂の力が一部人間界に落ち、その力が人となり、次第に子を産み
フォルテ一族ができたと。そういう解釈で合っているか?」
「まあ、そういうことだ…ルカに教えるつもりなかったけど。
しかし、あのルカが人間を私情で助けたい、なんてな。」
先ほどまで気が抜けていたヤマの表情が急に一変する。
「正直に言うが、人間に肩入れしすぎだ。
自分の立場を理解していないにもほどがある。」
元人間であっても、今の立場と責務をしっかりと守ることができるヤマは
確かに、神としてふさわしい器だ。
その正義ゆえの冷酷さは、私のような中途半端な正義感しか持っていないものにとっては
酷く胸を抉られるような気持ちになってしまう。
「…無論、タダでとは言わない。
もうひとつ、交渉をしないか。」
「ほう、交渉?」
「レイ・フォルテとしてではなく、新しい『レイ』として転生させるのはどうだ。
過去の魂や存在ごと全て消し、シンの記憶からも完全に消える。
姿や名は同じままでも、完全な別人として現世に生まれ変わらせたい。」
「…そのシンとやらにとって大切な人間の存在や記憶ごと、全て無かったことにして転生させると?」
「そういうことだ。」
存在を忘れたとしても、シンならきっと新しく生まれ変わったレイと現世で巡り会えると
私は信じている。
そんなことをヤマに伝えれば即却下されるだろうな。
この考えは心のうちにしまっておこう。
「……」
しばらく重苦しい空気のまま沈黙が続いた。
「あー…そこまでして、ひとりの人間を...
分かった分かった、お手上げだ。
ただし、今回限りだぞ。
それ以上お前の天界の者としての道を外れる手伝いをして、お前が堕天したら…わしも嫌だからな。」
「感謝する。
…どうか、よろしく頼む。」




