【第一話】人違いなんかじゃない
「...人違いじゃないっすか。」
俺は無愛想に返事をする。
俺なんかが、国王と関わるべきじゃない。
そもそも、知り合いでもない。
「あ、えっと...」
さっきまでとは180度変わって、国王の威厳がなくなり一気に抜けた印象になる。
「...国王様が俺なんかになんのようっすか。」
「...ここで何してるの?」
国王は首を傾げる。
「いや、見ればわかるでしょ。チンピラ共から金巻き上げてるんだよ。」
俺は今すぐここを去れという雰囲気を出す。
「へぇ、そうなんだ。」
国王はびくともしない。何なんだ、コイツは。
「...なんだよ、捕まえるならとっとと捕まえて牢屋に入れろよ。」
「なんで牢屋に入れなきゃいけないの?」
コイツ、アホなのか。
「なんでって、俺は罪人だぞ?」
「うん、知ってる。」
困りもしないどころか、笑顔で頷く。
「...あー、もういいよ。というか、なんで俺なんかに国王様が話しかけてるんだよ。」
さっきまでとは違い、国王は真剣な表情で俺を見つめている。
「君は、僕の...」
「は?」
意味が分らない。ふつう初対面の人間に、そんなことを言う輩はいない。
「とにかく、うちに来てくれないかな。僕の部屋に来てくれるだけでいいんだ。何もしないから、安心して。」
「いきなりそんなこと言われても...」
今まで困惑したことなんてなかった。
俺は初対面の男に、アステルタの国王に、初めて困惑させられた。
「あーーーめんどくさ。分かったよ。行けばいいんだろ、行けば。」
渋々受け入れ、俺は国王と一緒に王邸に向かう。
「ただいま戻ったよ。」
「レイ様、おかえりなさいませ!!」
ふわっとした茶髪に黄色の目をした、白黒フリルのドレス服の少女がこっちに向かってくる。
「レイ様、こちらのお方は...?」
「えっと...事情は聴かないでね。アレーナ。」
「...?はい!!レイ様の頼みなら!!」
このアレーナという少女はお付きなのか。
住む世界が違う物珍しさで、俺は初めて見る身なりに思わず興味を持ってしまった。
「この方、すごい目で見られてますけど、変な人じゃないですよね...?」
「大丈夫だよアレーナ。彼は初めてメイドを見てびっくりしただけだから。」
心の中まで読まれているのか?
国王に対して恐怖まで感じてくる。
「じゃあ、僕の部屋まで案内するね。」
俺は案内された部屋に、とりあえずお邪魔しますと小声で言い入った。
ソファやテーブル、ベッドは真っ白で、部屋の周りには金色の装飾や置物が置いてある。
壁までシミひとつなく真っ白だ。
毎日お付きの者が手入れしてるんだろう。
「ひとり部屋でこの広さなんすか」
「うん。いつもここで仕事したり、休憩したり、1日の半分以上はここで過ごしてるよ。」
「へ〜...随分金持ちなんだな。国王様は。」
裏の世界でコソコソ生きてきた俺には分からないことばかりだ。
ふと思った言葉を口にしたが、その発言が気に触ったのか国王の表情が変わる。
「いや、僕はもともと王族ではないんだ。
...冬国で生まれたんだよ。
君と同じ、ホワイトローズ郷でね。」
「...え?」
俺は頭の中が真っ白になる。
ホワイトローズ郷は、俺が生まれた故郷だ。
だが、俺が齢7つの頃に戦争に巻き込まれ故郷も民もみんな滅びてしまった。
そのとき生き残ったのは、俺を除いて一人しかいない。俺の...
なぜだ?
「名前が...顔が...出てこない。」