【第十一話】神と魔王
父さんが、神だった?
父さんはずっとホワイトローズ郷で過ごしていたし、ちゃんと戸籍も登録されていた。
もし神なら、人間として暮らせないはず。
「...ルカの言う事が正しいのであれば、父さんは戸籍を偽って人として生きていたってことになるが。」
俺はルカに疑問を投げかける。
「お前の父が犯した過ちは3つある。
一つ目は、ひとりの人間を愛し、神の責務を放り出して人間界へ逃亡したこと。
二つ目は、己の私欲のために人間界にホワイトローズ郷という街を作ったこと。
三つ目は裁きとしてではなく、
⸺情に呑まれ、ひとりの人間を殺めてしまったことだ。」
「父さんが...人を殺した?」
「...神から堕天させなければいけなかったのも、お前の母が死んだのも、ホワイトローズ郷が存在していたのも、全部アイツのせいだ。」
「待ってくれ。堕天させなければいけなかったって、ルカは一体何者なんだ...?」
よく考えれば、俺を助けてくれたときからずっとルカの顔が変化していない。
14年間も時が経てば、本来普通の人間なら年齢相応の顔になるはずなのに。
「...元々、私も彼も天界で暮らしていた。
その中で神に選ばれたのは私だった。
だが、私は人の情に弱く、神として魂を正しく裁くのには向いていないと思った。
アイツは私のように情に流されるようなことはなく、合理的な判断ができるやつだった。
だから信頼してたし、神の座も譲った。
私は契約を結んで、熾天使として神の代理になった。」
「...じゃあルカは、どうしてあのときホワイトローズ郷に来てたんだ?」
「...私は禁忌を犯した彼は、神から魔王に堕天させた。
堕天した後のアイツは自暴自棄になり、自我を失い、出産直後だった妻を自らの手で殺した。
ホワイトローズ郷が作られたのは、その後の話だ。
...死者の魂を自らの生命として変え続け、人間と偽り、人間として一生を過ごすために。」
⸺ホワイトローズ郷が滅びたのは、神様にとっては悲劇でもなんでもない。
レイが言っていたことを再び思い出す。
死者の魂が残り続ける街だった理由。
生まれたときから母さんがいなかった理由。
ホワイトローズ郷が存在してはいけない理由。
そして、あの日ルカがホワイトローズ郷に来ていた本当の理由。
俺の中で出た答えは、ただ一つだった。
「...ホワイトローズ郷を滅ぼしたのは、
⸺ルカ、お前なんだな?」