「お嬢様」へ捧げます ~「家族」とは人間だけの話なのか?ある猫と家族との話~
どうも、秋定弦司です。
今回はノンフィクションです。また、「秋定与太話」のように「笑える要素」は何一つございませんが、何卒よろしくお願いします。
(注意)
① この話は「Nola」に掲載された、ritaさんの『ユキと一緒に。』(https://story.nola-novel.com/novel/N-7efb32a6-4ba0-446a-b56d-462b616312ec)のオマージュとして書かせていただいており、かつ作者様からの承認も済んでおります。
② また、紛らわしいため、ネコの名称につきましては「はな」と括弧書きさせていただいております。
以上、ご了承願います。
第一章 「その日は突然やってきた」
ある日、仕事から帰ってくると、突然父親が
「今日からここにネコがいるから、この部屋でタバコ吸うなよ」
と一言言った。
最初は何を言っているのか訳が全く分からなかったが、部屋の片隅に、どこから手に入れてきたのかわからない古タイヤが置いてあり、確かにその中にネコがいた。
元々野良だったので、正式な年齢はわからないが、恐らく一歳ぐらいだろう。
最初は「持たないだろう」と自身では諦めていたが、日に日に回復していった。
そこで珍しく、たぶん生まれて初めて「家族会議」が開かれた。内容は「このネコの名前をどうする?」というものだった。
結果「はな」という名前に決まった。
その日から父親は一切タバコを止めたが、私はその部屋以外で吸っていた。
とにかく、家族が一人(一匹?)増えることとなった。
第二章 「散々な日々」
さて、ここから私にとって散々な日々が続くこととなった。
先ほど述べたとおり、元々野良猫である。「だっこ」されることを極端に嫌がり、無理矢理だっこしようものなら、「やめんかい!」と言わんばかりに引っ搔いてくる。
結果、私の両手は傷まみれになっていた。
そんなネコでも生き物である。年を重ねるごとに大人しくなっていった。
…外に出ようとする点を除いては。
そんなある意味では凶暴な「はな」にも、生命の危機に見舞わられたことがある。
腎臓に病気が見つかり、獣医から
「覚悟していてください」
言われた事がある。その時は一家全員で狼狽したが、処方された薬との相性が良かったのか、一時的に回復を疑うぐらいに元気になっていた。
…と同時に外に出ようとする癖まで戻ってきたが。
第三章 「父親との離別」
その代わりといっては何だが、今度は父親が体調を崩し、その病名を聞いた時、ある意味での「覚悟」はできていた…つもりだった。
人間というものは、いざとなると弱いもので、「その時」が来た時はしばらく口もきけなかった。
ただ、父親が最後に送ったショートメッセージには「はな」と一言だけ書いてあった。
そして、葬儀等一切が終わり、遺骨を自宅に持ち帰り、私が
「はな、父さん帰ってきたよ」
というと、「はな」は背筋をピンと伸ばして亡き父親の遺骨を迎え入れた。
父親が何を考えたのか分からずに自宅で保護してくれたことを始まりに、色々と面倒を見てくれたことに対する「はな」なりの「御礼の形」だったのかも知れない。
先ほどの携帯電話は今でも残っている。もはや動かなくなっていたとしても。
第四章 「お疲れ様。今までありがとうね」
そして、「はな」にも「その日」が生物である以上、やってくることは間違いなかった。
腎臓の病気が再発し、獣医から、
「年齢的にももう難しいでしょう」
と、現実を受け付けざるを得ない言葉を突き付けられた。
ウチに来た時のあの姿を見て、そこから元気になって散々暴れまわって、年齢を考えると、「仕方ないやろ」と思わなければやっていけなかった。
そして、ついにその日は来た。
母親から、
「はな、アカンかった」
全てを放り出して「はな」の許に行きたかった。
とりあえず、いろいろな感情を堪えながら仕事を終わらせ実家に着くと、そこには冷たくなった「はな」の遺体が…
最初は冷静さを失っていたのか
「ウソやろ」
と声を発するのが精一杯だった。
やがて、だんだん冷静さを取り戻すと共に、「はな」のその冷たくなった身体を撫でながら
「遅くなってごめんな。はな、お疲れ様。今までありがとうな。ちゃんと父さんの所に行くんやで」
と、涙声でつぶやいていた。
そして仏前に座り読経しようとしたが、声が詰まって一言も発せない。
改めて、「はな」の前に膝をつき、
「ごめんな。俺今アカンわ。許してな。」
と詫びた。
今でも「はな」の命日には仏前に手を合わせている。
「ちゃんと父さんに会えたか?」と問いながら。
この度はありがとうございました。
「はな」は落ち込んだりしている時、別に傍に寄ってくる訳ではないものの、黙って背中を撫でさせてくれました。
それだけでも十分救いになりました。
その事への感謝を込めて、この作品を書かせていただきました。
あちらでは父親と「はな」の二人で
「余計な事を書くな!」
と怒っているかも知れません。ただ、こればかりは私が平身低頭謝り倒すしかないでしょう。
改めて、私の話にお付き合いありがとうございました。
また、ご縁があればその時に
秋定 弦司