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99 ミーニャの夜明け

 エウィンが夢の中へ失踪している頃──、ミーニャはアウネと互いの得物でしのぎを削っていた。


「ハァッッ!」


 攻撃を相殺し、アウネが後ろへ退いた瞬間を狙い、掛け声に合わせて斧槍を一閃。しかしその切っ先は空を切り、次に備えんと手元へ引っ込めた次の瞬間、足元から多数のいばらムチが襲来してきた。

 それらを次々避けていくと、最後の回避に合わせて接近してきていたアウネが拳を放ってくる。咄嗟に柄で防ぐも勢いに負けて地面を擦るように後退すれば、


「油断大敵!!」


 と、アウネが直ぐさま追撃に飛びかかってくるの繰り返しで、呼吸を挟む暇もなかった。


 私はどうにか紙一重で防ぎ、躱しているものの、近接戦自体が随分久しぶりなのもあって中々勘が戻らない。得物はある程度練習しているものの、失明してからというもの、現場補助と魔法による遠距離攻撃主体の戦法に頼りきっていたのが仇となったか。


 正直な話、私は攻めあぐねていた。戦闘に必要な対処が多すぎる。


 アウネの四肢をふんだんに活かした手数の多さは勿論、いばらムチと連携することで無限に等しい攻撃パターンと数え上げればキリがない。懐かしい動き且つ、いばらムチの出現タイミングを『波動』で感知できてなければあっという間に背中を土に着けていただろう。


 対して、彼女は小手先仕込みの短い刃物で器用にこちらの攻撃をパリィしながら打撃を仕掛けてくる。攻撃に一切の迷いが見られず、彼女の強みを一つ挙げるとするなら『豪胆』が相応しいだろう。


 ぶっちゃけ、すっげぇ戦いにくい。


「全く、とんだじゃじゃ馬娘ですこと!!」

「褒め言葉ですわ! ファランさんからも人型での模擬戦闘中「様子見もへったくれもないやつが戦ってて一番嫌い!」って言われましたことです!!」


 ファラン……──、荒天龍の名前だ。そうリドゥさんに名乗っていたとギルド長からは聞いている。

 ならこれ程の強さと胆力にも頷ける! 歴戦の猛者たる龍の稽古を受けていたなら「龍に比べれば……ね?」と戦場への恐怖心が麻痺するのも当然の話!


「その方には同情いたします! 私は好きですけどね、この戦法!!」

「光栄です! ではコレはどうでしょう?!」


 アウネは私と距離を置いて、いばらムチに飛び移ると、それを足場にして縦横無尽に跳び回る! いばらムチは攻撃・防御だけでなく戦闘補助にも長けているのか!

 ならば突撃してきたところを斬り落とす! 私は不動の構えを取り、来る一撃に備える。

 向こうは痛烈なカウンターを警戒して時間をかけて焦らしてくるだろう。その間に彼女以外の魔力感知を完全遮断する!


 私は明鏡止水の世界へ入る。


 先ず、冒険者と遺志守の魔力……遮断。

 次に、いばらムチに込められた魔力……遮断。

 そして最後、超スピードで動き回る魔力……真上から急接近!!


 私は上空へ斧槍を振り上げた!


 ──刹那、斧槍は私の手からすっぽ抜けてしまった。


「あら?」


 思わぬ形に素っ頓狂な声を上げながら斧槍の輪郭を追いかけると、斧槍は極細のいばらムチに盗られていた。

 どうやら彼女、私の狙いを察知して『魔力を最小限に込めたいばらムチ』をこっそり近づけていたらしい。


 ──やっちゃったなぁ……。


 自分の油断に呆れた次の瞬間──、私は渾身の拳を顔面に叩き込まれた。


 脳みそが痛みを受信するとともに激しく揺れて、私はフラッシュバックのように失明のリハビリを終えて間もないあの日を思い出す。


 ◆ ◆ ◆


 あれは失明後の日常生活に慣れてきた頃だった。


「武器変えるんですか?」


 現役復帰の為の得物を見繕いにレリアへ付き添いを求めたら、彼女は驚いた様子でこちらに顔を向ける。彼女は大層衝撃を受けた際は相手の顔を真っ直ぐ見据える癖があった。


「えぇ、流石に今まで通りに戦うのが難しくなりまして。いっそまるっと戦い方を変えてみようかと」

「そうは言ったって、一から新しい武器を覚えるって相当大変じゃないですか? 私なんかレイピアと片手剣以外はからっきしで、二度と触る気になれませんもん」

「それもそうなんですが、失明に伴い魔法の使い方を遠距離攻撃に改めてから、今までの戦法は相性が悪いんですよね。なんと言うか……威圧感が無いと言いますか」

「向こうが警戒してくれないって言いたいんですか?」


 それです──。とレリアの表現に太鼓判を押す。上手い言い回しがパッと出てこないとき、彼女はいつも絶妙な表現を提供してくれる。


 私の同意に、レリアは「なるほど……」と考え込む仕草を見せる。


「確かに、遠距離で戦いたいのに向こうが距離を詰めてくるんじゃあ本末転倒ですもんね。だったら見かけだけでも接近は危険って思わせる武器が良いのか。でも……」

「でも?」

「接近してきたら接近してきたで、そのままはっ倒しちゃえば良いじゃないですか。そりゃあ、また慣れるまで時間は費やすでしょうけど、ミーニャさんの実力なら充分いけますって」

「レリアさん、貴女……。随分私の戦い方に拘りますね。何か理由でも?」

「あ、えと……」

「ええっとぉ?」


 言いにくそうに口ごもるレリアに仰々しく耳を傾ければ、彼女は「はぁ……」と根負けして口を開いた。


「……ミーニャの戦い方、好きなんですよ。最高に荒々しくて、ロックで……うん……」


 そう言って彼女が無言になると、内包魔力を羞恥と尊敬の色に染め上げた。それこそ、憧れの人間に立ち会ったかのように。


「あら……」


 ──なんて可愛らしい。

 彼女の頭に、私は思わず手を乗せた。


「ミ、ミーニャさん……?」

「それ程想ってもらえてたなんて嬉しいです。色々と変えることになりましたが、今までの戦い方を貫いてきた甲斐がありました。憧れてくれて、ありがとうございます」

「…………はい……」

「……さて、お昼も近いですし、早く武器屋に行って決めてしまいましょう。あ、それと私のことは今後は呼び捨て・タメ口で構いません」

「え? ミーニャさん、それってどういう──?」

「……」

「──! ちょっ! ミーニャ! どういうことですか?! 置いてかないでくださいよ!!」

「ことばどおりですよー」

「──! えー、あー……どういうこと!?」

「言葉通りですよー」

「どういうことーッッ!!!??!」


 必死に呼び捨て・タメ口に慣れようとするレリアの声を後ろに聞きながら、私はクスッと笑みを浮かべた。


 これが、私の中で、レリアが『後輩』から『大事な友達』になった日──。


 ◇ ◇ ◇


「──ッッ!?」


 ミーニャの顔面に拳を叩き込んだ直後、アウネは突き上げられたパンチを左頬に喰らった!


 アウネは咄嗟に一旦距離をとる。まさかあそこからカウンターを喰らう羽目になるとは! 一発で視界が暗転しかけた!

 それはそうとあの威圧感はなんだ? 拳が飛んでくる直前、確かに彼女の口角は上がっていた。今までの攻防で一番背筋が凍った。


「──ありがとうございます」

「──!」


 ミーニャが首をゴキゴキ鳴らしながら手首を揺らし、自身の長髪をポニーテールに纏め上げると、腰のナイフで切り捨てた。女の生命と例えられがちな髪の毛を躊躇いなくバッサリと!


「貴女のおかげで色々思い出せました。当時のスタイルの戦闘勘から、大きな心の支えになった友達の言葉に出会えた日。そして、血湧き肉躍る殴り合いの感覚を……!!」


 ミーニャは上着を脱ぎ捨て、さらし姿を露わにする。細いながらもしっかりとした筋肉と名残り傷を見れば、相当の高みへ上り詰めていた実力者なのは明らかだ。


 ──というか、さらしか……。

 あの下はどうなってるのだろう? 思わず拝んでいると、ミーニャは格闘の構えをとって、光を失った眼から眼光を放つ。誰がなんと言おうと間違いなく眼光を放っている。


「失明だのは今だけ忘れて、嘗ての姿に戻りましょう。冒険者体術成績『元』筆頭、ミーニャ・スレッグ! 貴女に敬意を表し、全力で殴り倒そうではありませんか!!!!」


 ──元筆頭!?

 私の全身から警戒音(アラート)が鳴り響く。ここからは瞬きする暇もない!


「筆頭経験者とは光栄です! 気の済むまで戦い抜きましょう!!!!」


 両者拳が重なり合ったのをゴングに、第2ラウンドが始まった!!

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