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95 6つの戦況④ 〜風と感情〜

 ◆ ◆ ◆


「やっ、はじめまして。アナタも試験生?」

「あぁ、はい。そうです。……あら、髪型一緒ですね」

「だよね。それで思わず声掛けちゃった。私、レリア・ヴァイター。アナタは?」

「リドゥ・ランヴァーです。今龍年で16歳です」

「あ、じゃあ同い年か。お互い合格出来たら良いね」

「ですね。その時はどうぞよろしく」


 ◇ ◇ ◇


 レリアは迫り来る遺志守を次々と斬り伏せていく。


 合戦は初めてだった。冒険者たち人間。鎧に身を包んで人間と遜色ない体躯で人語を発する遺志守、発さない遺志守。モンスターの姿で人語を発する遺志守、発さない遺志守。戦場は多種多様な生物の大混戦となっていて──、


「がッッ!!」


 また攻撃を仕掛けてきた一体(一人?)を新たに斬り倒し、それに見向きもしないで別の遺志守を斬りながら思う。


 ──私は何と戦っているんだろう?


 人語を会得した生物を人間と定義するなら、私は人間とモンスター、どちらを斬っているのか境界が曖昧になっている自分が確かにいた。間違いなくモンスターではあるのだけれど、本当にそうと言い切れるのか分からない。そんな気持ち悪さを、倒した遺志守が16体を超えた辺りからずっと抱いている。


 更には、どれだけ斬っても消えたと思えば、時間経過でまた姿を現す様は、首を刎ねない限り動き続けるゾンビのようだった。加えてそれが現状無限に続いてるのだからキリがなく、「いつになったら途切れるの?」という冒険者の疲弊が空気を通じてひしひしと伝わってくる。


「オォオォォオオ!!!!」


 対して、遺志守からは疲弊の色が一切見られない。攻撃を受けることへの恐怖心を感じられない。他冒険者もそれに勘づいてるようで「何度も倒してんだから挫けてくれよ!」と苛立っているが、彼らは闘志を絶やしてくれない。


 一体何が遺志守をここまでさせている? やはりリドゥの存在がそうさせているのか?


 そのリドゥは何処に行った?


「モッケイ!!」

「──!」


 咄嗟に拾った掛け声に合わせて回避行動を取った直後、先程まで立っていた箇所が炎に包まれる。飛んできた炎の塊が着弾したのだ。


 掛け声には聞き覚えがあった。風導だ。あのちっこくてなんかモスモスしてる癒しの存在まで戦場に出張ってるとは、どれだけ合戦に本気なんだと振り向いてみれば……──、


 葉っぱの塊から黒い顔と光る眼を覗かせる、木の身体とツタの手足を持った小人がいた。


「──?」


 戦場のど真ん中で思わず思考を停止する。ツタで構成された手足とどことなく面影はあるもののリドゥ同様変貌していて、「風導……だよね……?」とうっかり声をかけれると、「モケッ!?」と彼らは驚きの声を上げた。


 あ、風導だ。

 かつて出会ったときと変わらぬ鳴き声に安心していると……──、


「モ、モケ……?!」


 風導は私を見ながら酷く動揺し始めた。

 この姿を私は知っている。リドゥが出てきたときの自分だ。なんでこの場に出てきたんだと嘆いた姿だ。

 そうだと直感が告げるなり、風導は私との再会を嫌がっていたのだと悟る。それを示すように風導は目元を大きく潤ませると……──、


「モケーーッッ!!!!」

「ちょっ……!?」


 咄嗟に横へ転がって回避する。私を戦場から追い払わんと、あちこちに散ってる炎を風で纏めて飛ばしてきたのだ!


「ケエケ! ケエケーー!!」

「ねぇ待っ……あぁ、もうっ……!」


 呼び止めようとするも、風導は炎や痺れ毒霧やらを手当たり次第に風で捕らえては飛ばしてくる。私を追い出す為ならなりふり構わないか!


「熱ぅい!!」

「あばばばば……!!」


 しかも私が避ければ軌道上にいた冒険者たちが飛び火を受ける始末だ。遺志守はちゃっかり避けてるし。


「ケエケーーッ!!」

「あっ!」


 風導は叫びながら逃げ出した。私がいる限り距離を取りつつ攻撃してくるのなら、早く止めないと被害は甚大だ!


 ……いいだろう。だったら捕まえて、何処行ったか吐かせようではないか。


「一分で終わらせる」


 私は身を屈めて、風導の追跡を開始する。


 ◇ ◇ ◇


 一方、その頃──。


「ペッ!!」


 ジユイとともにモッチャレワームに吐き出され、リドゥはこぢんまりとした、しかし二人が戦うには十分な広さの地下空間に到着した。


 着地したジユイが念入りに顔を拭いながら軽口を叩いてくる。


「悪趣味だな、モッチャレワームの口内に入って場所を移すとは。おかげで全身土とヨダレまみれだ。フンコロガシの転移魔法を使おうと思わなかったか?」


 リドゥも顔辺りを入念に拭きながら、質問に答える。


「転移させたい生物の魔力が大きいと、それに比例して魔力消費が激しくなるんですよ。あれ程の隕石を降らせる貴方を二度も転移させれば魔力枯渇確定です。魔族の立ち回りへの長期的な影響と僕らの一時的な不快感で天秤にかけるなら僕は迷わず後者を選びます」

「ならこの移動方法も不快さに目をつむれば一理あるか。ところで、此処は何処だ?」

「この日の為に僕が掘った地下空間です。貴方の隕石は天井のない屋外でのみ発動できると踏みまして、これが当たってれば隕石は呼べません」


 それと……──、とジユイの後方を指差す。


「あの通気孔、僕の体格に合わせて掘ったので、貴方の体格では詰まります。仮に通れたとしても戦場からあさっての方向に出るので脱出は得策ではありませんよ。モッチャレワームの通り穴もオススメしません」

「……確かに底が見えんな。それはそうと、あの程度の通気孔で空気が循環するとでも? 決着がつく前に酸欠で共倒れじゃないか?」

「そこはご安心を。きっとご存知の風導が定期的に風を送ってきてくれますので。……ほら、今まさに」


 ──コォォォォォ……。

 耳を澄ませば風音が換気口から鳴り響く。万が一に備えて実験しといたが、本番でもちゃんと届くようで安心した。風導ホントありがとう。


「なら大丈夫か。それはそうと、一つ聞かせろ」

「何でしょう?」

「貴様の拠点で、出入口の開け閉めを担っていた筈のイワビタンをどかそうとしたが、うんともすんとも言わなかった。魔力反応も無かったし、あれは何故だ?」


 ジユイの疑問に、僕は「あぁ……──、」と答える。


「単純に、イワビタンには奥へ引っ込んでもらってたんです。イワビタンの存在が露呈しているのは明白だったので、逆に()()()()()()()と思い込ませました。それなら多少なり入口に注目が集まって、ロイストの奇襲が決まりやすくなると踏みましたが、実際効果はあったようですね」

「そういうカラクリか。勉強になったよ。……ところで、俺の『銀河墜星(スターバースト)』を封じていい気になってるようだが、それだけで勝機を満たせたとでも思ってるのか?」

「いえ全く。なので貴方が最も嫌がるダメ押しをさせていただきます。公の場でやれることでもありませんでしたし、ここでやっと伝えられる」

「公の場? 一体なんの──……ん?」


 ジユイが言葉を止めて、僕の肩に注目する。


 僕の肩には幻霧蛙のタクアンが引っ付いていた。地上でモッチャレに食べられる直前、背中に忍び込んでもらったのだ。


「プパァ……!」


 タクアンが幻霧を吐き出し、地面である者の生成を始める。ファランの鍛錬の合間に何度も練習してもらっていたが、僕に引っ付いてる間ずっと記憶を読み込んでいた分、鮮明なのが出来るはずだ。


 そして、幻霧が形になって現れたのは……──、ジユイの両親だった。


「…………………………………………は?」


 ジユイが痛い程の沈黙の末に一言だけ漏らす。ジユイの両親は僕が昏睡中に出会った時とっくりそのままだった。


「記憶を読まれた影響で貴方の記憶が流れ込んできたんです。それ以来、ずっと言っておきたかったんです。僕から見た三人の印象を……!」


 僕は大きく息を吸って、ジユイに告げる。


「貴方は間違いなく、両親に愛されていた。死に別れるまでずっと」


 ジユイは絶句するばかりで一向に反応を返さない。だが僕はジユイの心境そっちのけで続ける。


「僕は孤児だから親云々は一切分かりません。でも紛いなりにも魔族という家族が出来たから家族愛云々は分かるつもりです!」


 僕のこれが大きなお世話なのは百も承知だった。招かれてもない人の家に押しかけてるような蛮行であることも。


「この際だからずけずけ寝室まで踏み入らせてもらう! アバンリー夫人が借金取り相手に発した『知らない子』は言葉の綾! どうにか貴方だけでも見逃してもらおうと吐いた残酷な優しい嘘! 何度でも言います! 貴方は間違いなく愛され──!!」


「黙れェッッッッッッ!!!!!!!!!!」


「──!」


 凄まじい声圧に僕は口を噤む。彼は尋常じゃないくらいに取り乱し、怒り狂っていた。

 だが、それだけ当時の真相を気にしていたという裏返しでもある。しかし、彼は恐らく今まで誰にも例の発言を打ち明けず、心に閉まっていた。


 それもこれも、発言が本物だった場合に直面したくなかったから。


「はぁ〜〜〜〜〜〜……」


 ジユイは長い長い溜め息を吐いて、苛立ちを隠さず発露する。


「本ッッッッ当に何十年ぶりだリドゥ・ランヴァー? 俺がこんなに感情的になるのは……! ここまで黙らせてしまいたいと思ったのは!! だが……」


 ジユイは言葉を区切り、一度顔を覆い隠す

 そして、すっと手を引けば、いつもの無表情に戻っていた。

 彼は感情のコントロールに長けていた。


「結局は本人の口から聞かない限り、発言の真偽は分からないものだ。だから今ばかりは当てずっぽうの言いがかりと受け取ることにしよう」


 そう言って彼は地上同様、大太刀を構える。

 これ以上は僕の声に耳を貸さないだろう。


 だから僕も滅喰龍の槍を構えて、最後の返答をする。


「なら、言いがかりでないと分かってくれるまで抗わせてもらいます」

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