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93 6つの戦況② 〜父親〜

「ウィル班長! 第13班全員重傷! 14班も限界寸前です!」

「14班の軽傷者は重傷者を回収しながら離脱して! 無傷の人は直ぐにリカバリー!」

「余所見中失敬!」

「返り討ち失敬!」

「あグッッ!!」


 ウィル・リーは急襲してきた遺志守の手首を双短刀で斬りながら追撃を加えようとした途端に瞬間移動されて空回る。また仕留め損ねた!


 合戦が始まってからというもの、遺志守たちの猛追は止まらない。やはりリドゥがギルド長相手に啖呵を切り、その身一つでギルド長が降らせた隕石? を完全相殺したのが士気の大幅向上に強い影響を与えたと言っても過言ではなかった。


 対してこちらの冒険者一同は、隕石消滅に加えてギルド長が居なくなってしまった所為で士気が下がっているのを肌で感じる。向こう方の押せ押せムード時に最上位指揮官に居なくなられて「自分たちだけでやれんの?!」状態だった。


 挙句には、こちらが回復地点までの搬送時間と回復・戦線復帰に1分半+2分半(計4分)掛かってる中、相手方は転移魔法の恩恵で脅威の0分+1分! 搬送をまだ歩けなくもない軽傷者に任せて本来救護班たる冒険者を戦線に出さねば一気に押し込まれる流れになっていた。最初の不意打ち炎を警戒して余分に距離を取るよう資源班・医療班に伝令を遣わせたのが裏目に出た!


 なら戦線離脱の要たる転移魔法使いたるフンコロガシ? を倒そうにも、もの凄いスピードの鳥人間に守られてる状態故に撃ち落とす時間が惜しい。ミーニャもそれを理解してか遺志守の回復地点を直接叩く算段のようだが主力級の足止めを喰らってる模様!


「ん……?!」


 仲間の現状を目にしながら、僕は目を見張る。

 ミーニャの班員、独自に動いている?!


「ミーニャ班長が主力級を引き付けてる! その隙に攻め込めぇ!」

「遺志守の回復地点はアソコだ! 多人数で一気に叩くぞ!」

「あ、バカ止ま──!」


 ──すたっ!


「「「──!!」」」

「ふっ!!」


 ──ゴォオッ!


「「「ギャアァアアッッ!」」」


 慌てて制止を促すも到底聞こえる距離でないと理解するより早く、班員たちは何処からともなく現れた褐色肌遺志守の猛火に焼き倒されてしまった。


 炎が収まったところで、班員たちは「ゔぅ……」と火傷に蹲る。全員運良く即死は回避したようだが、あれでは戦線離脱も困難だ。


 ほれ見たことか! 主力級の彼女が開戦から姿を見せなかったのだから、味方の巻き添えを考慮して自陣に下がってると考えるのが自然だろうに! その可能性を直ぐに伝えられなかった僕にも非があるけど!!


「……あれ?」


 と、ここである主力級の存在を思い出して周囲を見渡す。しかし姿は見当たらない。


 ──変身魔法の牛、どこ行った?


「まさか……──!」

「ウィル班長!」


 そのとき、一人の班員が泡を食って駆け寄ってきた。資源班・医療班の護衛に付けていた班員だ。


「報告します! 資源班・医療班が急襲を受けてます! 例の牛頭筆頭に遺志守多数!」

「何だと!」


 もしやとは思ったが支援班を狙っていたか! 確かに変身魔法なら目立たぬ姿で移動することも十分可能! 我ながら気付くのが遅すぎた!!


「これを聞いたゴーダン班長は援護に向かいました! 現場最高指揮はウィル班長に一任したいと伝言です!」

「おいおいマジか!」


 しかも僕に丸投げと来たか! 牛頭の体躯を思えばゴーダンしか立ち向かえないだろうが、同期だからって信頼しすぎじゃない?! 一番足速いのは僕だろうが全班捌ききれるか!? やるしかないけども!!


「なら、アンタを倒せば指揮はガタつくな!」

「──! うおっと(いて)ッッ!!」

「あダァッッ!!」


 頭を抱えながらも決意を固めていたら、どこからともなく襲撃(カチ)こんできた豹柄の遺志守の赤黒い鉤爪を胸に受けながら、咄嗟に鼻頭を切り裂いて互いに後退する(向こうは地面を転がった)。綺麗な相打ちだった。


 しかし、なんてヤツだ! 声が聞こえるまで接近に気付かなかった! どうにか反応できたもののこれが気配遮断魔法でなければ凄い足の速さ! 後ろに跳んで直撃は避けれたけれど、余程の動体視力がなければ見切れない!!


 これは他の班員には荷が重い。伝令には「」別の箇所へ援護に!」と離脱させていれば、「あら?」と豹が地面に落ちていた物を拾い、「おぅい。これ、アンタのか?」と見せてきたのは──!


「ちょっ!? 返してソレ!! 投げ渡して!! ヘイパス、ヘイパッ!!!!」

「おおうっ、急に取り乱すな?! ほいっ!」


 律儀に投げ返してくれたソレの状態を確認する。先程の鉤爪で紐が千切れてしまっていたが肝心の本体は幸いにも傷付いてないのが分かって安堵していると、豹が戦場に似つかわしくない気さくな声色で話しかけてくる。


「めっちゃ安心してんじゃん。よっぽど大事なんだな?」


 それを聞いて、僕の中でスイッチが入る。


「大事も大事だよ! 僕が生きて帰れますようにって当時6歳、現在12歳の一人息子が買ってくれた御守りなんだよ! 億が一にも無くしたら僕は僕をはっ倒す!!」

「え〜マジ!? めっちゃいい子じゃん! つーかアンタも子持ちなんか!!」

「何その口ぶり?! そっちも子ども居るの?!」

「最近四つ子の娘が産まれてくれました!」

「すげぇ! 複数人で産まれるなんてホントにあるんだ! 一気に四人の子育てとか大変でしょ?!」

「仲間のフォローもあるけど、寝不足キッついわ!」


 そう言って彼は言葉を区切ると、情を宿した目で僕に訴えてくる。


「だから父親仲間として言うけど、帰ってくんねぇか? うちのリーダーは元人間として、出来れば戦死者出てほしくないって言ってたし、俺も同じ妻子持ちとして、もうアンタとは死合う気になれない。嫁さんと息子くんの為にも、な?」

「──!」


 彼の提案に、僕はグッと言葉を呑む。

 数少ないやり取りで分かる。この豹は善性の持ち主だ。もしも彼みたいな人間が近所に居たら、友達になりたい程の。


 だけれど、僕にも譲れない立場ってのがある。


「残念だけど、現場指揮を任された手前、引くわけにはいかないんだ。うちの冒険者にだって帰る場所がある以上、最後まで戦わせてもらう!」

「なら、気絶するまでアンタを殴る! 俺は『魔族・豹人』のゴウだ!!」

「冒険者体術成績筆頭ウィル・リー! 戦い抜こうぜ、兄弟!!」


 次の瞬間、二人の双短剣と鉤爪がぶつかり合った!

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