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89 終わりを始める③ 〜注目〜

 レリアたちが拠点に到着した同時刻──。少し離れた場所にレイム資源班・イリス医療班を護衛と共に残したゴーダン班、ミーニャ班、ウィル班の三班は二龍大戦跡地に到着し、目を丸くしていた。


「なんだコレは……?」


 ひらけた場所に出るなり思わずそう口に出す。目の前には異様な光景が広がっていた。


 地面は田畑を耕したかのようにフカフカしていた。過去のモンスター依頼で種を好物に食べてしまうモンスターを調べるべく田畑に出入りしたことがあるから足の沈み加減には馴染みがある。これが意外と柔らかく踏ん張れないから戦闘になったら苦労しそうだ。


「ゴーダンさん。コレはなんでしょう?」


 と、その場にしゃがみこんだミーニャが拾ったのは小石程に大きい棘玉だった。記憶の資料を遡ればそれはイガマキが生成するもので、それがちょうど二龍大戦跡地を両断するように自分たち側に敷き詰められていた。


 そして……、


「なぁ、ゴーダン。アレ、なんだと思う?」


 同期生たるウィルに問われて、顔を上げてみれば、二龍大戦跡地の中心にイガマキが鎮座していた。


 それだけなら「あぁ、いつぞやのイガマキだ」で流せた。だが、そうとは言えない姿になっていて、俺は一瞬言葉を詰まらせる。


「イガマキ、だろうが……随分デカいな……?」


 リドゥに出会った当初は手のひらサイズの大きさだったイガマキは、視覚異常を疑わないなら人間のアフロヘッド程にまで巨大化していた。

 ギルド長曰く、全てのモンスターが変異していると聞いているが、実際に見るとそれでも動揺を誘うものがあった。

 だが、いつまでも面食らってはいられない。顔見知りを傷付けるのは気が引けるが、リドゥを説得──基先ずは安否を確認する為にも、今は道を切り開くことに注力しようではないか。


 ──パチッ。


「「「えっ」」」


 と、己の得物の巨槌を取り出したその瞬間、皆として一瞬ばかり呼吸を忘れる。イガマキが巨大な一つ目を開いたのだ。


「おぉ、ゴーダンはんに古傷の女性はんやんか。アンタらも来なすったんやな……」

「「「「えっ」」」」


 更には喋った。雲丹と違って何故か声帯があると当時の学会を大いに騒がせたイガマキが、独特な訛りながらも流暢に言語を発した。


「よっこらせっと」

「「「「「えっ」」」」」


 衝撃の事実に絶句している中、イガマキはダメ押しとばかりに地面から這い出てきて、服で着飾った八頭身の全体像を露にした。


 そして──、踊りだした。


「──?」

「──?」

「──?」

「「「──??????????」」」


 わざわざ振り向かずとも肌で感じる程に、イガマキを見た全員が困惑していた。存在が発覚してから今だ学会大混乱な生体が立て続けに明らかとなっているモンスターなのは分かっていたが(最近だと自前の息吹でちょっと浮く)、追い討ちをかけるように更なる変貌を重ねられていたものだから、頭の中は星空で埋め尽くされていた。他の班員だってきっとそうなってる。


 そんなイガマキが何を血迷ったかダンスを披露するものだから、自分たちは目配せせずとも心を一つに疑念を抱く。


 俺たちは何を見せられているんだ?


 なのに何故だろう? イガマキから目が離せない。見た目のインパクトに未だ脳の処理が追いついていないのか、学会が目の当たりにすれば資料を投げつけ合うレベルの変貌を果たした姿が気になって仕方がないのか、純粋にダンスがやけに上手いからか、理由が泡のように湧いては消えるが、とにかくイガマキに『魅了()』せられていた。


 ──トッ……。


 故に、一箇所に固まった班の中心から着地音を耳にするまで、上空から角の生えた褐色肌の青年女性が接近していることを、誰も気にも留めなかった。


「「「え?」」」


 振り返った次の瞬間、異形の褐色肌女性を中心に豪火が放たれ、「「「ギャアアア!!」」」と先程まで困惑に沈黙していたのが打って変わって狂乱状態に陥る。完全に不意を突かれたことで皆対応が遅れてしまっていた。


「皆ひらけた場所へ走れ! 木々に囲まれては手遅れになるぞ!」

「足下の棘玉にはご注意を! 足を負傷しては戦闘どころではありません!」

「前方最大限警戒! 敵方に誘い込まれてる!」

「「「りょ、了解!」」」


 このままでは初手で大打撃だと、悲鳴を上げる班員にひらけた場所への避難指示を出す。ウィルの言う通り、向こうの手のひらで踊らされている感覚を拭えないが、全員がこの場で焼死するよりは遥かにマシだ!


 と、やむを得ない消去法で見え見えの罠に足を踏み入れ突き進んだその直後。


 ──……ゴゴゴゴゴ!


「なんだ?! 地震か!」

「地中を警戒しろ! 何か来るぞ!」


 謎の地鳴りに足元が覚束ず、何人か地面に尻もちを着いて「痛て!」と悲鳴をあげたその直後──、


「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」


 咆哮と共に地面から現れた超巨大生物が、多くの班員を打ち上げた!


「グエッ!」

「あだァッ!」


 地面に叩きつけられた班員たちから悲鳴が立ちのぼる。軽装備の班員が棘玉の餌食になったのだ。重装備の班員は棘玉を免れたようだが、装備が装備故に落下時の衝撃は計り知れず、身体を押さえて蹲る者が多い。


「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」


 こちらを見下ろして威嚇するように叫ぶ超巨大生物は、報告に上がっていたモッチャレワーム。体長だけなら龍にも並ぶ巨体を持つ絶滅危惧種だが、気になる点が一つある。


「ゴーダン! あの兜、龍の骨格だよな?!」


 ウィルが指摘した通り、モッチャレワームは龍の頭蓋骨を被っていた。ご丁寧に顎紐? まで通してすっぽ抜け対策もバッチリだ。明らかな武装に攻撃してきたタイミングといい、モッチャレワームも『遺志守』に間違いないだろう。


「ヴォオン」


 そのモッチャレがこちらと距離をとる。追撃を試みてもいい場面なのにどうして引いた? 誰かの指示か? その誰かとは『遺志守』かそれとも……──?


「うわぁあぁぁあああ!!!!!!」

「──!」


 ひらけた場所から突如聞こえてきた悲鳴に顔を上げると、先程別れた先発班が上空から落下していた。かなりの数が気を失っているのは気の所為ではなく、向こうも向こうで攻撃を受けたのが容易に想像できる。

 その中には当然、レリア、エウィン、ギルド長もいた。三人とも着地自体は難なくできるだろうが、後輩二人は落下先の棘玉に対処できる魔法を所有していない。このままでは少なくとも軽傷必須だ。


 ならば俺が! と得物に魔力を込めたその刹那だった。


「ふっ!」


 ギルド長は最寄りの二人を掴み寄せて、宙に光球を発生させるとそこから無数の光弾を発射して落下予測地点一帯を吹き飛ばし、二人を脇に抱えて綺麗な着地を決める。あのギルド長が他者の負傷を考慮したのには少々驚いたが、とにかく二人が無事で何よりだ。


「班員に告ぐ! ひらけた場所にギルド長と先発班が現れた! 急ぎ合流せよ!」

「「「了解!」」」


 ギルド長がいれば百人力だ。そう踏んだ班員たちは狂乱状態からどうにか盛り返して次々ギルド長の周りに集まっていく。


「二人とも、大事ないか!?」


 俺もレリアとエウィンに合流し、真っ先に負傷の確認をする。両者共に怪我はしてないようだが、レリアの得物が変わっているのは破壊されてしまったからだろう。


 それと、二人は先程から黙りこくっていて様子がおかしい。一体何があったのか問おうとしたら、それよりも速くレリアが腕を掴んできて、今にも零れ落ちそうな潤んだ目で告げてくる。


「リドゥ、生きてるっぽい……!」


「なんだと……!? 彼は今何処に──!」

「ゴーダンさん、あちらをご覧に!」


 が、聞き出すよりも早く割り込んできたミーニャに促された先を見ると、二龍大戦跡地の中央より向こう側に、気付けば重軽装備と兜・得物を各々身にまとった『遺志守』が横一列に立ち並んでいた。その中には当然、先程のイガマキと異形の褐色肌女性、他にも何処か見覚えのあるモンスターもいた。


 そして──、一際高いモッチャレワームの頭上には、角の生えた仮面の青年が、槍を携えてこちらを見下ろしていた。

【本編に挟めなかった設定】

皆様方の予想通り、イガマキの魔法は『魅了』です。その「圧倒的存在感に衝撃を抱いた」のをトリガーに、自身への注目を強制します。ハチャメチャな生態たるイガマキだからこその魔法ですね。ふざけろ。

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