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88 終わりを始める② 〜先手必勝〜

「ぶ!」

「え──、ぎゃっ!」

「ぱ!」


 先発班がジユイに注目したその瞬間──、一瞬の油断を狙うように、牛と化した蜥蜴は先発班を頭突き、天高く撥ねた。


「ブモォォォオオーーーー!!!!」

「う、うわぁあぁぁあ!!」


 蜥蜴は前脚を人間同様五指にして、下半身までも牛にして雄叫びを上げると、撥ね損ねた先発班員を殴り飛ばし、後ろ脚で蹴り落とし、五指で掴んだ班員を他の班員に投げ飛ばす。次々と蹂躙していく。先発班は予想だにしない攻撃に得物を取るのも忘れて大混乱だ。


 そんな一瞬の蹂躙劇を一歩引いたところから観察していたからレリアだからこそ分かったことがある。

 殴打・足蹴・投げの3パターン、何れも身体の動作が明らかに『手慣れている』のだ。この観察眼を信じるならばあの牛型モンスターは『牛』が真の姿で、小鳥になっていたり本来蹄たる前脚を五指にしたところを見るに『姿を変える』魔法の持ち主だ。

 そして、小鳥形態から牛に戻るまでの移行速度を鑑みるに魔法練度は拠点でも屈指の上澄み! 拠点の門番としてはまたとない番兵だ!


 つまり、あの牛を倒さなければリドゥの安否を確認するどころか拠点突入すら叶わず此処で壊滅。そうはなってたまるかとレイピアを構えてジユイの横を駆け抜ければ、エウィンが慌てた声色で名前を呼んでくる。


「ちょ、レリア先輩!?」

「エウィン、サポートお願い!」

「りょ、了解!」


 レリアに続かんとエウィンも得物の片手剣と片手盾を構えて背中を追いかける。


「待て」

「グエッ……!?」


 しかし、直ぐに立ち止まる。ジユイに呼び止められながら襟を掴まれたのだ。


「な、なんスか!?」

「引っ込め。死ぬぞ」

「──!?」

「エウィン!?」


 後輩の首を絞められたような悲鳴に振り返るが、私は直ぐに前に向き直る。ジユイは性格こそ最悪だが、実力は紛うことなき本物。エウィンの死を予感したのなら、その予感は間違ってないのだろう。


 ならば、一人でどうにか突破するしかない!


「──そこから魔法使って!」


 それだけ言って私は、逃げ惑い、攻めあぐねている先発班を踏み台に、肩の腱を一突きにせんとレイピアを突き立てて牛めがけて跳躍する。


「む!」

「恨みはないけど御免!」


 だが、牛だっておいそれと殺られる気は毛頭ない。私の接近に気付くなり「遅い!」と攻撃先の軌道を読み切り、五指を硬質な蹄に変化させて防御の構えを取ったが──、


「──!?」


 私の背後から伸びてきた魔法光が蹄に当たったかと思えば、牛の蹄は五指に戻った。


 エウィンの魔法『巻き戻し』だ。彼の魔法は今まで物体にしか作用されなかったが、作戦参加を決めるなり「このままじゃいられない」と鍛錬を重ねた末に、生物の身体ですら極僅かながらも適用されるようになっていた。


 ドッ──!


 レイピアが牛の肩に突き刺さった。

 ──が、咄嗟に五指で弾かれたことでレイピアは腱ではなく皮一枚を貫いていた。


「くそっ……!」


 牛は反射神経も優れていた。瞬時に引き抜いて距離を取ろうとするも、私は胸ぐらを掴まれて宙吊りとなる。


「あっ……!」


 と同時にレイピアを取り上げられ、指の力だけでへし折られた後に遠くへ投げ捨てられる。冒険者になって以来の相棒の呆気ない最後に悪態すらつけないでいれば──、


「主の下へは誰とて行かせん! 女子であろうと戦場に出れば戦士! 恨んでくれるな!」


 牛は宣告して握りこぶしを作る。傍から見れば明らかに絶体絶命だった。

 あまりの不甲斐なさに我ながら呆れて奥歯を噛み締める。私の決意はこんなに軽かったのか、何の為に参加したんだと自分を疑う。これが後輩に見せる先輩の背中であって良い筈がない!


「先輩!」


 その後輩が私を呼ぶ。視界の端で捉えれば、彼は相変わらずジユイに捕らえられたままで、今にも泣きそうな顔だった。

 だが、無理もない。自ら参戦した作戦中に「引っ込め」と事実上の戦力外通告をされれば不甲斐な以上に屈辱以外の何物も感じられないだろう。


 だからこそ、私が勇気づけずしてどうする! 私は『痛恨ノ一撃(クリティカルヒット)』を発動しながら脚を折り畳み、最も魔力光の集まる牛の鼻頭へ思い切り蹴り伸ばした!


「むぉっ!」


 胸ぐらを掴む握力が弱まった一瞬の隙をついて距離をとる。「先輩!」とエウィンの安堵する声が聞こえたが、後ろを振り返ることなく足元で気絶している班員の得物をパクる。


「ブルル……ッ」


 牛は顔を勢いよく振ってからこちらを見据える。生物であるならもう少し怯んでほしかったが嘆いていられないと気を取り直していると、牛が「んんっ?」と何か気付いた様子を見せた。


「よく見ればウルフカットの青年女性に、イヤリングを装着した青年男子。もしやレリア・ヴァイター殿に、エウィン殿か?」

「──!」

「どうして僕らの名前を……?」

「そうか、其方らが主の言っていた冒険者か……」

「「──??」」


 私と会ったことを共有しているのか? 何の為に? 魔法対策の為に? 


 それとも、私たちは見逃すように……?


「──ッ!!」


 だとしたら遺憾なことこの上ない。自分は生命を狙われてるというのに人の生命を心配している場合かと歯軋りしていれば、牛の口から出た答え合わせは案の定だった。


「レリア殿にエウィン殿よ、単刀直入に言おう。この場を立ち去ってくれ。主は其方らとの戦闘を拒んでいる。主の友であるならば、彼の心を守る為にも、どうか聞き入れてくれまいか」


 ──ザワッ……!


 コテンパンにされて息も絶え絶えな班員たちが一斉に私たちを懐疑的な目で見てくる。今の要請に、私たちが裏で繋がり情報を秘密裏に流していたのではないかと疑っているようだが、それが出来てたら此処まで来ていない。


 だから私は「牛さん!」とほぼ確定している事項が信ぴょうに値するか否か確認を取る。


「一つ聞かせてちょうだい。今の話を聞く限り、リドゥは生きてるんでしょ?」

「──! ……なら、どうする?」


 瞼が一瞬持ち上がったが、牛はどちらとも取れる返事をしてくる。あくまでしらばっくれる腹積もりらしい。


 なら、こちらの返事は一つだ。


「だったら断る! 私はずっと疑問だった! ギルド長に殺されかけたリドゥがどうしてこの森を去らなかったのか! 大所帯とは聞いてはいたけど、一龍月あったんだから曲がりなりにも遠くへ逃げ果せたはずでしょ! リドゥが生きてるんなら、私はそれを直に聞かなきゃ気が済まない!」

「なら、戦闘不能に追い込み、撤退させるまで。ちょうど制限時間いっぱいだ」

「制限時間?」


 何かの発動条件か?! どんな魔法が飛んできても対処出来るよう身構えると、何処からともなく「フンコー」と飛んできた随分デカい虫が牛の足許に降りて、


「チョエーー!!」


 両前脚を挙げて鳴いた次の瞬間、私たちはひらけた場所の上空にいた。


 ひらけた場所を囲う木々は燃え盛っていた。

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