81 羽化①
更に数日後。リドゥたちは──。
「ぐげーっ!!」
「ぱよーっ!!」
「ガンビ〜〜ッッ!!!!」
モッチャレワーム乱入以来となる、二龍大戦跡地でのファラン主催対ジユイ想定大規模模擬戦で、今日も愉快な悲鳴を上げていましたとさ。
「もう少し粘らんかいお主らァ! なんの為の戦闘相性診断じゃ!? こんなんではジユイの足を止めるのすら夢のまた夢! ぶっ殺されるなら連携を活かしてからぶっ殺されんかい!!」
「せ、せめてぶっ飛ばすにしてくれよファランの兄さぁん!!」
「甘ったれるでないわァ!!」
「「「ぼぎゃーー!!」」」
ゴウの情けない命乞いに、ファランは一喝しながら突風を放って宙へ舞い上げた。ゴウとは関係のない、彼の後ろにいた魔族を。
ファランは「儂がゴウばかり見てると思うたら大間違いじゃ!」と舞い上げた魔族を戦闘範囲外へ吹き飛ばし、再びゴウへ声を張り上げる。
「人間共が情けをかけてくれると思うとるなら片腹痛いわ! ぶっ殺されるのが嫌ならぶっ殺されたくない理由を持って立ち向かってこんかい!!」
「う、ウワァァァそうだ! 俺には近々産まれてくる子どもがいるんだ! これから父親になるんだしサイカも頑張ってくれてるのに此処でくたばってたまるかァァアアアーーーー!!!!!!」
「長々しいわーーーー!!!!!!」
「こぺーーッ!!!?」
ゴウは逆鱗に触れて吹き飛ばされた。荒天龍はやや理不尽だった。
そんな彼を遠巻きに眺めながら、リドゥはひたすら滅喰龍の素材を武器加工していた。
サッサと作ってサッサと参加する。それが先ずファランから課せられた僕の試練だった。
彼曰く「何かしらに時間を使わされてるから消滅で打開する」想定とのことだ。皆の武器を作りがてら、消滅を瞬時発動・迅速に使う鍛錬としては誠理にかなっているが──、
「ボサっとするでないわァ!」
「どわぁあッッ!!」
そんな自分にも、ファランは容赦なく突風を飛ばしてきた!
「戦況把握は最小限に、とっとと手を動かせ! でなければ合流したときには手遅れじゃ!」
「ひぇえ!」
追撃を躱しながら移動する。滅喰龍の素材が邪魔で仕方がないが、鍛錬内容故に置いていく訳にもいかないし──、
「うわっち!」
そして何より熱い! ファランは一昨日から周囲を火の粉舞い散る『灼熱嵐』を解禁しているのだが、これが厄介なことこの上ない!
ただ火の粉が舞うだけなら避けるだけで済むがそうではない。意識が飛びそうになるあまりの暑さに熱中症と判断された魔族はファランと『フンコロガシ・コロスケ』の転移魔法で戦闘範囲外の木陰に送られるが、故に長時間の戦闘は危険極まりない。だからこそ早く戦闘に加わろうと武器加工を済ませたいのだが──、
「──!」
それでも無慈悲な突風がこちらを襲い、衝撃が拡散したのだった。
余波が地面を巻き上げて、モウモウ……と大きな土煙が舞う。
「どうしたリドゥ! こんなんで終わるお主ではないじゃろ? 早く立ち上が──おや?」
ファランは首を傾げる。直撃にも関わらずリドゥが立っているのだ。どうやら土煙を上げただけで、直撃自体は咄嗟に発動した消滅でかき消したようだった。
「いや……それだけじゃないの」
フィールド全体に感知魔法を発動する。土煙に紛れて、リドゥの魔力反応があちこちに現れたのだ。
幻霧蛙タクアンが用いる『幻霧』だ。彼の魔法は連日の鍛錬に伴い強化され、偽の魔力反応を複数一気に生成するまでに至っていた。つい前日までゲゴゲゴ泣いてパニクってたのに成長株になってくれて儂嬉しい。
だが土煙に魔力を浮かべるだけでは誤魔化せない。地上の実態を露わにせんと、ファランは複数の突風を放った!
「「「モケッ!!」」」
「む!」
その一つの前へ躍り出た『樹精霊・風導』たちが突風の流れを変えると、地面に設置することで上昇気流に変異させて、そこへすかさず飛び込んだレッドがグラムシ一匹を片手に空中へ舞い上がってきた!
上手く利用しやがってからに! 口角上がる! だがしかし──!
「グラムシで急降下はもう効かんぞ!」
と、こちらを目指して飛んでくるレッドの迎撃にかかると──、
「「「キチッ!」」」
「あ?」
レッドの背中から大勢のグラムシが顔を出し、「「「キチーーッ!」」」と散開したではないか。同行は一匹だけと思っていたが、レッドの体毛に身を潜めていたか。
グラムシたちは多くがそのまま「アァァァァ……!」と地上へ逆戻るが、うち三匹が尻尾に掴まってくる。そこへ更に──、
「フッ!」
レッドが片手に掴んでいたグラムシを投げ飛ばして儂の尻尾に引っ付かせてくると、一気に尻尾の重力が増して真っ直ぐ垂れ下がる。グラムシが発生させた『重力エリア』に入ると動きが遅くなるが、これはその域を超えている! 儂に直接触れることで拘束力を増しているのだ! それも四匹引っ付くことで重力四倍どころか四乗!
「尻尾失礼!」
「おぉっ!?」
更にそこへ、地面から生えてきた極太いばらムチが垂れ下がった尻尾に絡みついてくる! ここ最近の鍛錬で巨大化したアウネのいばらムチだ! トゲもより鋭利になってて鉤爪の如くくい込んできて、無理に引っ張ると鱗が剥げそう!
「リドゥさま、今で──!」
「よし来たァッ!!」
アウネから名前を呼ばれる前より早くリドゥが駆け寄ってくる! いつの間にか武器加工を終えて近付いてきていた!
と同時に偽の魔力反応も一斉に近付いてきた。ワンテンポ遅いが割と気持ち悪くて好き。
「鱗寄越せェェェエエッッ!!」
「嫌じゃァァァアアッッ! ペェッッ!!」
鍛錬終了条件『鱗剥がし』を達成させたくない! させてたまるかと尻尾の先端めがけて幾数もの突風を放つ。
「「「モッケイ!!」」」
──が、颯爽と現れた風導たちが、リドゥに直撃しそうなやつだけをピンポイントで軌道変更させたとさ。
「だらっしゃぁぁぁあい!!!!!!」
リドゥは雄叫びを上げながら『消滅の右手』を尻尾に直撃させた!
鱗が何枚か剥げた。
「羽化ったか」
ファランはニヤリと口角を上げて、声高らかに「終ー了ーーッッ!!!!!!」を宣言した。