77 容赦なし
「……え……は……!?」
突飛な景色の変貌に、リドゥは一瞬遅れてから驚愕する。一度目をパチクリと瞬いてからもう一度周囲を見渡すが、今居るのは間違いなく二龍大戦跡地だった。
他の同行者も当然大なり小なり困惑している。なんならちょうど集団の隣でぼんやりしていたモッチャレワームも、突然の僕らの出現に「ヴォッ!?」と仰天していた。
そんな中、ファランは「驚いたろう」と知った顔で口を開く。
「コロスケが行使したのは転移魔法。昨日の鍛錬中、ちょくちょく魔力消えたり出たりしとるなーと思っての。んで、魔力の出処辿ってコロスケの行いと確信した」
「転移魔法!」
一際極めれば平民出自でも国王のお膝元に着けると囁かれる空間魔法の一種ではないか。そんな最上位魔法を身内が得る日が来るなんて!
「そういえば、ジユイ相手に撤退した際も何処からともなく合流なさってましたね。昨日の戦闘訓練でも大活躍でしたし」
と、思い出したように口にしたアウネさんは、昨日は鍛錬負傷者の回収・治療に徹していた。いつの間にか気絶者が戦線離脱してたりと、所々「さっきまでアソコで倒れてたよな?」と解せないでいたが、彼が大健闘していたのか。
「凄ぇやコロスケ! そんな凄ぇ魔法使えるようになってるなんて凄ぇよ!」
強大な魔法を目の当たりにしたゴウが好奇心旺盛な子どものようにはしゃぐ。これだけの距離を瞬時に移動できるなら当日は大きな戦力になると、思わぬダークホースの出現に皆高揚するが……──、
「フゲェ……」
集団のちょっと離れた場所に見つけた当のコロスケは、仰向けになって痙攣していたとさ。
「どうしたコロスケ!?」
「魔力枯渇じゃの。集団を一度に転移はやはり厳しいようじゃな」
「分かってたなら止めてやってくださいよ。ほれコロスケ、回復液飲みな」
「フンコ……」
急いで取り出した小鉢に回復液を注ぎ、コロスケの傍に置く。息も絶え絶えながら飲めば「フンコー……」と少し落ち着いたようだった。
「最初に限界知っといた方が当日やらかさんじゃろうがい。つーことでコロスケの今後の課題は、限界の具体的な把握と底上げじゃ。鍛錬中はくたばりそうなヤツをとにかく魔法で避難させい。ぶっ倒れたらその都度回復液の」
「オエッ」
コロスケはすごく嫌そうな声で鳴いた。だが無理もなかった。
アウネさんの努力で日に日に改善されているものの、回復薬は未だ舌に優しくない味なのだ。何より二龍大戦前の拠点拡張時に経験しているが、魔力回復から即魔法発動は、云わば食事を取るなりトイレ休憩も許されずに仕事へ駆り出されるようなもので、当時はどうにか乗り越えはしたが正直二度とやりたくない。
だが、ジユイに備えるとなればそうもいかない。あの感覚に慣れると身体が馬鹿になりそうだが、生還率を上げるとなれば無茶を承知で挑まねばならぬのだ。
だから僕は、コロスケの隣に片膝ついて、同情たっぷりの顔で無慈悲に告げるしかなかった。
「がんば……」
「──!」
瞬間、コロスケは表情筋の無い虫ながら、信じられないものを見る目を向けてきたのだった。
「そんな目で見ないでくれコロスケ。ファランのことだし、今日逃げてもまた後で課してくるよ。なんなら鍛錬倍にしかねない。だから、ね……?」
「よく分かっとるの、リドゥ」
「フゲェ……」
ファランの同意が決定打となったのか、コロスケはゴロン、と仰向けになって全身脱力した。どうか彼には逞しくなってほしい。
「もちろん、お主らもじゃからな」
「「「え!?」」」
クルリ、とファランに振り向かれて、レッド以外の戦闘員がギョッ! と目を見張る。特にしょっちゅう毒味の餌食に遭っているゴウ。
「魔法・能力の相性を要検証しながら、且つ戦闘鍛錬中もアドリブで合わせてもらう! 何度も死線を越えさせるから覚悟せい!」
「「「──!」」」
言われたその刹那、戦闘員の顔は死刑宣告を受けたような絶望した表情に染まりきった。あのアウネさんですら白目を剥いていて、ロイストに至っては既に抵抗を諦めているのが伝わってくる。主に回復液無限おかわりに対して。
なので僕は、ゆっくりと立ち上がり、憐れみの表情を浮かべて戦闘員に告げるしかなかった。
「がんば……」
「「「──!!!!!!」」」
こうして、対ジユイに向けたリドゥたちの疲弊とえずきと負傷とえずきに泣き叫ぶ鍛錬の日々が幕を開けたのだった。
◇ ◇ ◇
一方、ラネリアギルドにて──。
微塵も募ってねーQ&A
Q.コロスケに魔法を付与した経緯は?
A.転移魔法があれば戦闘の幅広がるなぁ。
→コロスケが使ってる様が不意に浮かぶ。なんで?
→●ケモンSVに『むし・エスパー』のフンコロガシがいたのを思い出す。
→「ほなええか」