63 モッチャレ②
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
「どわっしゃあ!!」
大きく口を開けて迫ってくるモッチャレワームをリドゥは咄嗟に躱す。他の魔族たちも上手く回避したようで、所々で地面を転がる姿が見えた。
モッチャレワームは地面に頭を埋めると、そのまま地面に潜って地中を掻き回す。凄まじい振動に足元が覚束ず、立つだけでやっとだ。
「リドゥ、後ろに下がって!!」
「え、あ、はい!!」
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
近くにいた蛇人・グレアスネークのグリスに叫ばれるがまま後方に跳ぶと、立っていた場所からモッチャレワームが飛び出してきた。
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
「うわぁコッチ来たァ!!」
モッチャレワーム(以下モッチャレ)はそのままの勢いで、別に動く仲間たちの方へ攻撃先を転換。皆は「ひぇえ!」と一目散に退避する一方だ。
コチラがふらついていても、モッチャレは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。生態上、地中からのヒット&アウェイが基本攻撃だから、常時奇襲に対応しなければならないのは息が切れるし、このままではもしかしなくても何れ集中が切れてパックンチョだ。
とはいえ、いつまでも泣き言を泣き言ばかり言ってられない。先ずは現状可能な対策に乗り出そう。
僕は「ノイジー!」と空に逃れてた鳥人・ノイズコンドルを呼び出す。
「グリスを乗せて、僕らが声を拾える高さを飛び続けててくれ! 地中を見れるグリスが回避の要だ!!」
「お、おう! グリス、乗れ!!」
「妄りに飛び回らないでよ……!」
二人は直ぐさま協力体制に移行して空へ離脱する。出会い当初は牽制し合っていたものだが、集団避難生活にジユイ襲来と、いがみ合ってる場合じゃない出来事の連続で自然と溝が解消されたようで何よりだ。
──が、しみじみと感動している暇はない。即座に気持ちを切り替えて近くにいた豹人・剛爪豹のゴウへ指示を飛ばす。
「ゴウ! 足速いヤツに呼びかけながら、とにかく走り回って撹乱して! 多分音か振動でこっちの場所探知してるから!!」
「ワームって音でおびき寄せれんの?! アイツ耳とか無さそうだけど?!」
「ワームはワームでも従来の生物に『似てる』で定義してるに過ぎないから! ワームは本来鳴かないし、なんだったら歯も無いし。狼だからってレッドみたく火ィ吹いたりしないでしょ?!」
「あぁ、そっか」
「モンスターである以上、常識は通じないと思ってくれ! つーことでGO!!」
「ゴウだけに?」
「はよ行け!」
「オッケイ!!」
怒号にケツを叩かれながら、ゴウは走り出した。
「エミー、左に飛んで! ダッチョは右!!」
「「わっしょい!」」
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
程なくして、ノイジーの背に乗るグリスの指示通りに撹乱組が回避し、一歩遅れたモッチャレが空振っては仕切り直すを繰り返す。咄嗟の時間稼ぎ案は順調だった。
この間に何か考えておかないといけないのだが、如何せん有効打が思いつかない。本当なら『消滅』を使うのが一番だが、現状の速度だと消滅しきる前に押し潰されそうだ。
だからって他に代案は浮かばないし、一龍月後を考えると悠長な成長はしてられない。一か八か土壇場に飛び込んでみるか?
「てゃぁあーーーー!!!?」
「ん? ……わーー!!!?」
変な悲鳴の出処を探ってみてギョッと目を見張る。ゴウがモッチャレの頭の上に生まれたての子鹿の如く騎乗しているのだ!
「回避先ミスったァーーーー!!!!」
「バカー! アホンダラーー!!」
「ヴォンッ!」
「ああんっ」
ゴウは地面が近くなったタイミングでモッチャレに気付かれ、頭上から振り落とされた。
「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」
モッチャレはそこを突いて、ゴウを喰らいに掛かった!
「ちょっ!?」
僕は思わず槍を捨てながら飛び出して、モッチャレの口が差し迫る中、ゴウを捕食範囲外に突き飛ばした。
そして、回避する間もなく僕は喰われた。
◇ ◇ ◇
「うわあぁあああぁああーーーーッ!!!!」
呑み込まれた僕は、モッチャレの体内を転げ回っていた!
暗いよー! 怖いよー! 全身がねりょねりょするよー!!
けど騒いでばかりはいられない。ワームの身体の殆どは腸で生成されており、他の器官の大半は頭部? に集中しているのだ。このままでは程なく消化器官一直線!
とにかく掴まれる所を探そう! 僕は上下左右も分からぬ暗闇の中、全力で手を動かして周囲を探るが……──?
「……体内で掴める場所って何ィィィイイイイイ?!」
考えれば直ぐ分かる無情な現実に気付きながら、僕は急に垂直となった体内に落ちていった。
──が、
「……ッ!?」
何でもいいからと伸ばした手が、体内の何かを掴んだ!
「棒……?!」
手触り的にそうとしか思えない。けれど体内に棒状の物ってなんだ?
それよりも今は脱出だ! 瞬時に棒状の何かに乗り移り、魔力を纏った両手で体内壁の『消滅』に取り掛かる!
「うわっ!!」
瞬間──、体内が激しく振動する。体内から肉を抉られて悶えてるのだろうが許せ!
「うおおぉおぉおおおッ!!!!」
僕はモッチャレの悶絶を度外視して、ひたすら肉壁を掘り進めていく。
しばらくすると、棒状の足場から変わる感覚を抱くとともに、外の喧騒が聞こえてきた。外まであと少しだ。
「…………」
足場が変わるってなんだ……?
体内とは肉であって、基本ブヨブヨしてるハズなのだ。骨から肉へ……だったら分からなくもないが、モッチャレワームは軟体生物なので骨は存在しない……はず。
じゃあ、僕が乗っていたのはなんだ?
──ボゴボゴッ……!
「ん? ……げっ!?」
後ろから聞こえてきた音に心臓が跳ねる。暗くて分からないが、恐らく掘り進めた箇所の再生が始まってる!
足場のことは不可解だが、気にしている余裕はない。肉壁と同化する前に一刻も早くオサラバだ!
「だらっしゃああぁあぁあああ!!!!!!」
僕は残りを一気に掘り進め、体外へ飛び出した!
ところでフルフルって可愛いですよね。……え、よく分かんない? あ、そう……──。