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62 モッチャレ①

「な、なんだ……?!」


 突然の地震にリドゥは条件反射でしゃがみ込む。他の魔族も同様に身をかがめたり一旦立ち止まったりしているが、中にはよろめいたり転ぶ者もいた。

 だが、空中に佇むファランと空を飛んでいる飛翔組には急にしゃがんだ風にしか見えないわけで。


「どうしたリドゥ、立ちくらみか?! 敵はそんなんに気を遣う奴ではないぞ!」

「違う違う! 地面が揺れてんです! しかもやけに大きい!」

「そう言ったって状況次第では容赦なく攻撃してくるぞ! ちょっとした立ちくらみでも向こうからすりゃ無防備同然じゃ!」


 ファランに言われる間にも地震は大きくなる。


「いや、そうは言いますがマジでデカいやつですって! というか益々近付いてきて──!」


「リドゥ!」

「なんだい?!」


 突然名を呼ばれて振り向くと、グリスが蛇の下半身で懸命に這ってきていた。

 擦り傷だらけのグリスはファランそっちのけで会話に割り込んできて叫ぶ。


「下! 土の中、なんかデカいの居る!」


「「下ァ?」」


「何を言っとるんじゃグリス。儂の魔力探知には何も引っかかっとらんぞ! つーかデカいのが近付いてるならとうに気付いとるわい!」

「でも居るんだよォ!」


 

 グリスが気付いてるのに、ファランが気付かない? 


 二人の会話に僕は引っ掛かりを覚える。

 ファランの魔力探知は月光洞窟の住民の中でも最高位に君臨する。そんな彼の探知能力を掻い潜れる存在がいるなんては考えられないし、かと言ってグリスの勘違いとはどうも思えない。


 ……あ。

 一体何が二人を分かつのかと考えて、僕はある仮説に辿りつく。

 グリスは蛇人で、蛇には熱を感知してモノを捉える『ピット器官』が存在すると聞く。それを使うことで蛇は魔力を持ち得ない生物でも発見し、狩猟できるのだ。

 つまるところ、ピット器官でないと発見困難な()()()()()()()()()()()が地中を移動して迫ってきているのだ。しかもグリス以外の魔族は恐らくそれに気付いていない。

 これは一大事だ! その生物次第では鍛錬どころじゃない規模の被害が出る!

 ファランの鍛錬なんて知ったこっちゃない。僕は声を大にして周囲の仲間に呼びかける。


「皆んな鍛錬中止! 今すぐこの場を離れて!」

「ん?」

「はい?!」

「リドゥ、おいコラ何を勝手に──!」

「ファランさん、ピット器官! 熱じゃないと感知できない奴がいる! 多分魔力無し!」

「あぁ、なるほど。なら儂からも確認しよう」


 ファランは目を丸くしながらも納得した様子を見せると、角から魔力を放射状に地面へ拡散した。

 大方探知魔法の類だろう。生態ピラミッド最上位種の龍だからって『生物に宿る魔法はひとつまで』の典型を覆してからに。それを言ったらジユイ(推定)もだが。


「ん……!?」


 と、内心ゴダゴダ言っていたら、彼は何かを見つけるなり顔に警戒色を帯びた。


「こりゃいかん! 三人とも、そこを動くな!」

「え? ってちょっと待ぎゃーー!!」


 突然のファランからの停止指示に戸惑っていると、不意打ち気味に放たれた突風を避け切れず発生した竜巻に、僕と最寄りにいたタクアンとグリスは宙に打ち上げられた!


 次の瞬間──。自分たちが立っていた場所から、巨大な生物が地面を突き破って飛び出してきた。



「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」



 巨大生物の歯並びの良い口から咆哮が上がる。その咆哮に比例するかのような『超巨大生物』と言っても差し支えない長身で、打ち上げられた僕たちを追いかけるように地面から伸びて、まだまだ伸びて……──、

 気付けば超巨大生物の先端は直ぐそこまで迫ってきて──、


「「食われそうになってるぅぅぅううーーーー!!!!」」

「ゲゴーーーーッ!!!!」

「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」


 竜巻から抜けて落下を始めたリドゥたちを、超巨大生物は咆哮を上げながら口を開けた。


「うるせーー!!!!」


 ──が、ファランが生成した氷の刃が吹き荒ぶ竜巻に、超巨大生物は全身を切り裂かれましたとさ。


「ヴォォオォオオオォオオオン……」

「「ええーーーーッ!!!?」」


 超巨大生物は全身から血を噴き出して地面に倒れた。


「ていっ」


 ファランの軽い掛け声に合わせて発生した突風に吹かれ、僕たちは地面に生易しく落とされる。あと一秒倒されるのが遅かったら口の中にグッバイだった!

 それはそうと……──、


「なんだこの生き物……?!」


 魔族がおっかなびっくりに集まってくる中、僕も驚愕しながら、横たわる超巨大生物を見上げた。


 それはワームを彷彿とさせる見た目だが、とにかく規格外の巨体だった。なんなら身体は地面下に続いていて、地上に出ているのはあくまで上半身の一部かもしれない。こんな生物見たことも聞いたこともない。

 こんなときは、彼に素直に聞いてみよう。


「ファランさーん! コイツ何者か存じてますぅ?!」


 変わらず空に浮かぶファランに疑問を投げかけると、「知っとるぞー」と返事が来た。


「子奴はモッチャレワームじゃ。この巨体と生態故に存在が危険と人間に乱殺された哀れなヤツよ。とうの昔に絶滅したと思っとったがまだ生き残りがいたとは儂も思わなんだ」


 龍の「とうの昔」ってどれくらいだ? 人間換算で老齢なのは間違いないが、下手に聞けば「何百年前だったかのう」とか、しれっと言い出しかねない。

 流石に怖いし、今には関係ない。僕は切り替えて新たな質問を投げる。


「どんな生態、生物なのですかー?!」

「基本土の中に住んでおっての。雑食ながら土に混じった養分を主食にし、土を食べ進めながら暮らす。食べた傍から消化して排出される糞には栄養がこれまた多く、移動跡は腐植土となって柔くなるから、農業地域では『土壌の神様』なんて呼ばれとった。子奴が耕した箇所だって人間が歩く分には沈まんしな」

「それが何で乱殺されたんですかー?」

「そんなんが国の下を通ったら?」

「……」


 問い返されて、僕は想像してみた。

 小型住宅が疎ら気味な農村と違い、国だとかラネリアみたいな建物が密集している地域は、それだけ一箇所に重量が集中している。その真下を『土を柔らかくする』生物が通れば……──、


「地盤沈下待ったナシだな……」


 思わず口をついた大災害に、ファランはその通り──と言わんばかりに頷く。


「持って生まれた生態が仇となった皮肉なヤツよ。しかも子奴は子奴で強いから討伐に難航した」

「まぁ、こんだけデカければ苦戦もしますよね」

「それもあるがそれだけじゃあないぞ。子奴は魔力を犠牲にした分──、」


「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」


「でぁああぁあーーーー?!!!」


 僕たちは蜘蛛の子を散らすように距離をとる。うんちくに耳を傾けていたらモッチャレワームが息を吹き返したのだ!


「血飛沫上げても復活する程に自己治癒力が発達しとると続けたかったが、思いのほか早かったの」


 呑気に自己完結するファランを傍らに、モッチャレワームは大地を鳴らながら、ムクリ……と上半身を起こす。


「ちょうど良いわ! 子奴はジユイ同様、目に見える全てが攻撃範囲! 体力も申し分ないし、子奴を仮想ジユイとして打ち倒してみせよ!!」

「「「冗談じゃねぇぇぇええーーーー!!!!」」」

「ヴォォオォオオオォオオオン!!!!!!」


 ファランからの課題提示と僕らの悲鳴に応えるように、モッチャレワームは咆哮を上げた!

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