6 新しい部屋と新用品
そしたら次は物干し部屋と生活必需品を作ろう──。ショッパ草に包んだイシノシ肉を日陰に置き終わり、リドゥは背筋を伸ばしながら計画を立てる。
幸いなことにイシノシ肉はまだ余裕があるので、今日はもう狩りに出なくてもいい。それなら明日までぼんやり待っているよか何かしら行動を起こした方が有意義だ。
ということで、早速物干し部屋と物干し竿の作成に取り掛かる。
先ずは物干し部屋用の横穴を焚き火部屋に開ける。こちらは掘ってしまえば済む話なのでさっさと終わらせる。
岩壁を『採掘』していき、ある程度の広さになったら今度は外に面する岩壁に幾つか格子窓状の穴を開ける。こうすることで風通しが良くなり湿気も飛ぶ筈だが、直射日光は避けたいのでなるべく天井付近に作っておく。
これで物干し部屋は一旦完成。不足分があったらその都度手を加えていこう。
「あ」
ここまでやっておいて気付いてしまう。柔軟な形に『採掘』出来るのだから、最初から物を干せる形に『採掘』すれば良かったではないか。
しかし、格子窓から確認する限り、外に面する岩壁はもう『採掘』出来ないほどに薄くなってしまっている。なるべく風通しが良くなるようにと拘って『採掘』したのが仇となった。
……こうなっては仕方ない。当初の予定通り、別途に用意しよう。
僕は一旦焚き火部屋へ戻り、罠の隠し蓋を作った要領で枝木を『H』型の物干し竿に組み立てると、物干し部屋に予め開けておいた地面の穴に差し込む。これなら倒れ防止の支えを作らずに済むから資材の節約になるのだが──、
カクッ。
ボッキンチョ。
ガシャーーン……。
穴のサイズが合っていなかったのか物干し竿は傾き、勢いそのまま自重に耐え切れず根元から折れてしまったとさ。
枝木は案外脆かった。
荒れ狂う心の中指を立てながら物干し竿の成れの果てを片付け、新しく物干し部屋を生成する。旧物干し部屋は資材置き場にでもしよう。
ということで、改めて物干し部屋が完成する。
先程の反省点を活かして、格子窓前に天然の物干し竿ならぬ物干し岩を三本作ってみた。岩壁と直に接合しているので崩れる心配はないと思うが、念の為に天井とも吊り下げる形で接合させている。
それでも念には念を入れておこう。僕は物干し岩に買っておいたロープを括り付け──、
思い切って、背荷物と繋げてぶら下げた。
「………………」
物干し岩は、うんともすんとも言わなかった。
「よし、完成……!」
肺に張り詰めていた空気を一気に吐いて大きく脱力する。これでもう憂いはない。
この達成感に満たされているうちに次の作業へ移ろう。
僕は再び焚き火部屋へ戻り、一度外へ出ると、雑草の山を拾ってきてそれを起こした火に焚べた。生活必需品に必要な灰を作るためだ。
出来た灰を、燃やしている間に川から汲んでおいた水にじゃんじゃか入れる。しばらくすれば灰は沈み、上澄みだけが水面に残る。
リドゥが欲していたのはこの上澄みだった。文字を覚えたての頃に読んだ本にはこれが必要だと書いてあったのだ(肝心の成分名は忘れた)。
次に、初日の雨天時に岩壁を『採掘』して作った調理台と取っ手付きの石皿を焚き火の上に設置し、干し肉作成時に取り分けておいたイシノシの脂肪を焼いて油を抽出する。まさか脂肪がこんな形で役立つとはイシノシも思わなかっただろう。
因みに言っておくが、決して「そういや脂肪の処分忘れてたな、折角だし使ったろ」なんて成り行きではない。ないんだったらない。うん。
そう自分に言い聞かせながら油を邪魔にならぬよう退けて、今度は水汲みと一緒に取ってきた貝の身と貝殻をひたすら分ける。身は昼食の足しにするとして、本命は貝殻だ。
その貝殻をひたすら砕く。侮蔑してきたギルド冒険者たちへの怨念を込めながら粉々にしていき、それを出来る限りの高温で焼きたいわけだが──、
「レッドドッグさん。これを焼いてくれないかい? したら僕の分の肉を一つ分けよう」
「ゴォッ!!」
レッドドッグは火を吹いてくれた。
やっぱ対価の提示は大事だよね、なんて思いながら石皿に焼いてもらった粉微塵の貝殻に水を加える。これがまぁ熱いので触れるようになってから先程の灰の上澄みと混ぜて『材料①(正式名称は忘れた)』の完成だ。
最後に油と『材料①』を混ぜ続けてある程度の硬さになったら石の容器に流し込み、干し肉同様に一晩置いておく。
それが固まったら生活必需品──、『石鹸』の完成だ!
「ぶぃぁああ……!!」
全ての課題に区切りが付いて、リドゥは間抜けな歓声を上げる。一瞬目に入ったレッドドッグの顔が「なんだ今の声」と言っていた気がするがまぁいいだろう。
これで最低限の病気問題は気にせずに済む。怪我ばかりはどうしようもないが、下手に風邪なんかひいてぶっ倒れている間に「こんにちは」してきたモンスターにガブリンチョされるなんて真っ平御免だ。
そして何より──、水浴びだけだと肌がムカムカする。
うろ覚えの製法が正法に確立されるか、今から楽しみだ。