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58 新武器素材調達

 螺旋階段を昇っていると、前を歩いていたファランにリドゥは声をかけられる。


「ところでリドゥ。刃牙獣の槍はどうした? 護身用に持って出掛けてたじゃろ」

「あぁ……、ジユイとの戦闘でお釈迦にしちゃいました」

「え。壊されたんじゃなく壊したの? 勿体ねぇ」

「いやぁ、そうせざるを得なかったというかなんと言うか……つーことで今は手ぶらなんです」

「ふむ……。では先に武器を調達しようとするか。上の魔族に鍛錬内容伝えようと思うたがそれは後じゃな。連れてくだけ連れて一旦待機させるかのう」

「えぇ? そっちを後回しですか? 僕のは後で良いですよ。先ずは鍛錬内容を……──」

「たわけ」


 と言われながら、僕は頭をチョップされる。


「それでは皆に猶予を与えてしまうじゃろう。前もって覚悟を決めるのと、その場で覚悟を決める……どっちが限界を引き出せるかという話じゃ? はいロイスト」


 急に話を振られた身ながらも、ロイストは冷静に思案する。


「……断然後者ですな。事前に備えるのも勿論大事ですが、急に事が起こった方が、何とかしなければ! と土壇場への対応力が養われるというものです。ここでは『土壇場力』と呼びましょうか」

「その通り。大自然において事前準備など容易く覆されるもの。というかそんなん積極的にするのは人間くらいじゃ。それに……──」

「それに?」

「調達先と鍛錬場所、ちょうど被っとんじゃ」


 ◇ ◇ ◇


 魔族共々連れてこられたのは、ジユイと対峙した『二龍大戦跡地』だった。

 なるほど。一度森として死んだ場所なら確かに気兼ねなく鍛えられる所だった。

 その中心──、ジユイに一度殺された所には巨大なクレーターが生成されていた。規模からして追体験時に見た巨大流星によるものだろう。

 と、ここまで憶測を立てた矢先に疑問を抱く。ここで対ジユイを想定した鍛錬を積むとして、ここで調達する武器とは一体何を示すのだろう?


「……おぉ、あったあった」


 指眼鏡を覗いてたファランが何かを見つけ、広場の隅っこに歩いていき、軽々と拾い上げた巨大なそれは……──。


「角? ……あっ!」

「そう。滅喰龍の角じゃよ」


 滅喰龍──。ファランに言われるがまま戦闘に参加させられた末に屠った龍だ。あれから八日程立っているが、未だ土に還ってなかったとは。


「もしかと踏んでいたが、案の定残っておったわい。まぁ、儂の力を奪った分際で簡単に朽ちてたらそれこそ地獄の果てまでシバきに行ったがの」


 発言が物騒。

 けれど分からんでもない。認めてるかはともかく自分以上の実力を持っておいてあっさり転職されたり死なれたりして「じゃあそっちより下の自分は何なんだ?」と複雑な気持ちになるくらいなら……というやつだ。


「ほれっ」

「え? ぎゃあ!」

「主よ!」


 投げ渡された角の下敷きになりかける。危ねぇなコノヤロウ! 咄嗟にロイストが支えてくれなければ潰されていた。

 ありがとう──と感謝を述べて、地面に下ろしてもらう。


 滅喰龍の角は赤黒く禍々しかった。大きさはかなりのもので、長身のイガマキが寄りかかれる程。当時は感じる余裕もなかったが、意外とスベスベしている。


「それを武器に加工するとよい。前の得物の代わりにはなろうて」


 なんて豪華な使い道!

 龍鱗一枚でもちょっとした家を建てられる希少素材なのに、角となれば生涯遊んで暮らせる額になるはずだ。それをいつ壊れるとも知れない武器にしてしまおうとは贅沢ここに極まれりだ。


「良いんですかこんなの? めっちゃ大盤振る舞いじゃないですか」

「? 当たり前じゃろ。打倒の立役者はお主じゃし。好きにする権利はお主のもんじゃ」


 さも当然のように言ってのけるファランに「お、おぉ……」と返す他ない。そういうことならありがたく頂戴するとしよう。


「あ、そうそう。言っておくが……──」

「はい、なんでふぅん……」

「モケッ?!」


 何か付け加えようとしてきたファランに相槌を打ちかけたそのとき、僕は角に凭れ掛かるように倒れた。

 身体に力が入らない……? どういう訳かイガマキだって今にも白目を向きそうだし、ロイストすら心なしか脱力しているではないか。


「滅喰龍のことじゃし、何かしらの呪いがかかっていてもおかしうない──と言おうとしたが案の定じゃったわい」

「渡す前に言えやそういうことは!」

「だって渡した後に思ったんじゃし〜」


 うぜぇ……!


「しかしこれは……ふぅん。触れれば体力を持ってかれる感じかのう? 滅喰龍らしい呪いじゃわい。他に何か減った感じはしないか?」

「他……だと……魔力が少し抜けたような……?」

「魔力もセットで奪われるか。儂の見込んだ通り、武器にするには打ってつけじゃの。加工したら持ち手に『魔力断ち草』を巻くのを忘れるなよ」

「それ以前に、加工途中で魔力奪われ尽くしてグッバイになりそうなんですが?!」

「そこは奪われる前に加工しきらんかい!」

「いきなり雑!」

「雑なもんか! お主の『消滅』は両手に纏ってから段階的に、と出力最大になるまでが長えんじゃ! 向こうは本調子に至るまで待ってくれるのか?!」

「うぐっ……」


 思わず口を噤む。彼の言う通り、ジユイとの戦闘では大太刀を『消滅』させる以外は発動する暇すら与えられなかった。的を得ていてぐうの音も出ない。


「てなわけで、先ずは最初から最大出力にできなければ話にならんわい! 武器に加工しきるまで鍛錬に参加はさせん!」

「そんなぁ!」

「参加したくば早う作れ。つーことで鍛錬を始めるぞ!」

「「「え?」」」


 魔族の皆は面食らうも、ファランは知ったこっちゃない。魔族の「急過ぎません?!」を聞きながらも空へ跳ぶと問答無用で本来の龍の姿と化して空に君臨した。


「行き当たりばったりが儂ら自然界に生きる者の定石! ジユイの急な襲撃を想定して儂を相手取ってみせよ! 大丈夫じゃ、追い込むのは死を確信する一歩手前までにしてやるわい! ……多分」

「そこは断言してくれよぉファランの兄さん!」

「するわけあるかァ!」

「「「ぎゃーー!!!!」」


 ゴウ始め魔族たちは突風に吹き飛ばされた。


 鍛錬開始(約一名除く)!!

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