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56 新生。そして……

「よっ」


 リドゥが額の角に少なからず驚愕していると、後ろから声をかけられる。

 ファランの声だった。飛び出した僕を追いかけてきたのだ。

 朧気な目覚め際を思い出すに、彼なりに心配してくれていたようだった。バカ弟子だと罵られた気もするが、それ以上に弟子と想ってくれていた事実がちょっと嬉しい。

 まぁ、彼のことだから覚えてないふりをふるだろうな。と想起を終えて振り返ると、ファランは軽く片手をあげて「よっ」としていて、他の皆んなもぞろぞろと入室してきていた。


 ファランはしたり顔で口を開く。


「どうじゃ。儂の言った通り生きとったじゃろ?」

「あぁ……まぁ確かに一命は取り留めましたけども。というか、首掻っ切られといてよく死ななかったなぁ……」

「いや、実際死んでたと思うぞ」


 ここでファランはしたり顔をやめて、真剣な顔つきになる。


「お主の魔力だって完全に一度途絶えとったし、心の臓だって明らかに止まっとったわ。寧ろよく息を吹き返したわい」

「じゃあ、どうして……──?」

「そりゃあお主、それのおかげに決まっとるじゃろう」


 そう言われながら指さされたのは、魔力源泉だった。


「一つ仮説を立てるか。お主は一度、生命を落としたな?」

「……でしょうね」

「この世に魂があるとしよう。魂が身体から抜ける前に外傷を癒したことで、一時的にでも閉じ込めるのに成功したとする。しかしそれはあくまで時間稼ぎにしかならん。ならばどうする?」

「……肉体に維持できるよう、完全に完治する必要がある?」

「その通り。じゃが、お主の肉体は一度完全な死を遂げたことで、その条件を満たせなくなった。だったら新しい身体を用意せねばならん」

「……それを可能にしたのが、魔力源泉だと?」


 うむ──。とファランは首肯する。


「この泉はこやつらモンスターたちを新たな身体に変異させたじゃろ? ならばぶち込まれたお主の身体も、魂を維持すべく一から作り直された──そう考えられんか?」


 十分に有り得る話。年の功も相まってか、即興の仮説にしては説得力がある。

 でも……──、


「これ……時間次第では死をも覆すってことになりません? そんなことってあるんですか?」

「だが、お主は実際に覆しとるではないか」


 それもそうだ。

 ファランの言うように、僕は今まさに、新たな存在に生まれ直す形で死から生還してみせていた。

 それ即ち──、


「僕、人間じゃなくなっちゃいましたね……」


 僕は明らかに作り物ではない己の角の生え際を搔いてみせた。

 今の自分は誰からどう見ても『人の形を成した異形』の他ならない。これで果たして『人間』と名乗れるかというと……正直自信がない。

 かと言って、別にモンスターとも言い切れない。紛うことなき『異端』だった。


 その事実と不安が、僕の心にズシリ──と重くのしかかる。


 自分が『異端』に傷付くのはギルドで慣れてると思っていた。実際同期一の落ちこぼれという『異端』に居たからだ。

 けれど、今回のそれは今までの比じゃない。自分はどの種族にも当てはまらない存在となったのだ。

 僕は今度こそ『独り』になってしまった。


「……ボッ!」

「あちゃあ!?」


 果てしのない孤独感に押しつぶされかけていたら右手に火を吹かれた。何回目だもう?!

 案の定の犯狼、レッドドッグを涙目で睨みつけると、彼は僕とファランの間を横切って──、

 魔力源泉へダイブした!


「ちょっ!?」


 リドゥも大慌てで魔力源泉へ飛び込み、水中を掻き分けて奥へ進む。後ろから「主よ、病み上がりに駄目です!」と叫ばれるが、構わず水中に手を伸ばせば握り返された。


 ──咥えられたじゃなく……?


 一抹の疑問を抱きながら地面に引っ張り上げると、レッドドッグは確かに爪が鋭利な五本指でリドゥの手を握っていて──、


 手を離せば、産まれたての子鹿のように足を震わせながらも、後ろ足だけで立ってみせたのだ。


 ──どうして今、自ら進化したんだ?


 ブルブルと身体を震わせて、僕以上の背丈でこちらを見下ろしてくるレッドドッグの名を思わず呼ぶ。


「レ……レッドドッグ……?」

「チ、ガ……う」

「!」


 名を呼ぶなり不安定な発声で否定される。だとすれば目の前に居る彼は誰だ?

 そんな不安が一気に押し寄せるが、全くの別人になったわけではないそうで……──。


「おレは、レッドドッグぢゃ、なくなっだ。けれド、人間デモない」


 レッドドッグはしゃがんで、僕と目線を合わせてくる。


「だがら、新ジい名前付げろ。そしだら……──」


 そして、優しく僕を抱きしめた。


「オまえも、新しぐ名乗ればいイ」


「 」


 ──そういうことか……。

 レッドドッグは口数が少ない。前からそうだ。思えば出会った当初だって食糧を狩猟()ってきて無言の同居協定を持ちかけてきたし、僕が色々と問題を抱える度に何かしらのアクションを唐突に起こして雁字搦めの思考から解放してきた。否、()()()()()()()

 それが僕には何よりありがたかった。ただ口で言うのではなく、確かな行動に移して示してくれるから僕は、彼の無言の主張を信じて受け取れる。故に彼は()()()()()()()実直で、誠実なのだ。


 だから僕は、「……ありがとう」とだけ言って、レッドドッグの背中に腕を回して、胸元に顔を埋めた。

 ちょっと湿気ってた。


「主よ」


 暫くして発せられたロイストの声に、僕は目元を拭って振り返る。


「ちょうど良い機会です。素直にモンスターと言えなくなった我々に、新しい名を与えてくださりませぬか?」

「……そうね。なら折角だし、拠点の名前から決めようか」

「モケッ!」

「それは良い案です」


 風導が両手を上げ、アルラウネも両掌を合わせて賛同してくれる。他の皆んなも二人に同じのようだった。


「じゃあそうだな……。拠点の光源は月明かりと月光石に頼ってるわけだし、此処は『月光洞窟』としようか」

「「「異議なし!!!!」」」


「レッドドッグ。君は今日から……人みたく歩く狼で『人狼』のレッドドッグを名乗れ。個人名はレッドで」

「捻リないが、良しとしヨう」


 僕は笑顔で返した。


「風導。最初に出会ったやつから右順に並んで」

「「「「「モケッ」」」」」


 こちらの指示に従って風導は、スカーフェイスだった風導を初め、右から順に列を成していく。


「今日から君らは『樹精霊』の風導。右からイリ、ニマ、ミグ、ヨノ、ゴア、ムル、ナタ、ハツ、クム、……ディミドリで」

「変に捻るなバカ弟子」

「うっせガキ師匠」


「「「「ウェ〜〜イ」」」」」


 ファランに難癖をつけられるも、当の本人等は嬉しそうなので良しとする。


「イガイガ。僕にはなんて名付けてくださいますやろかイガ?」

「ごめん後にさせて!!」

「しょんなぁ」


 存在が素っ頓狂過ぎるイガマキには一旦引っ込んでもらい、とりあえず思いついたところから──と断りを入れてから名付けを再開する。


「ロイスト。君は『牛頭』のロイストだ」

「はっ! 後生大事に名乗りましょう!」

「それはそうと、ロイスト呼びはそのままで良き? この名前の響き好きなのよ」

「なんと勿体なきお言葉。是非呼びやすい方で」


「アルラウネさんは風導同様『樹精霊・花人(アルラウネ)』で。名前は……アウネさんで」

「アネでもよろしくてよ?」

「却下で」

「ぶぅ」


「剛爪豹は『豹人』かな。オスの方はのゴウで、メスの方はサイカで」

「ありがとうございます」

「なぁリドゥ、頼みがあんだけどよ。俺の嫁……サイカが妊娠してんだ。子が産まれたら一緒に名前考えてくれないか?」

「え、マジ?! おめでとう! いつでも相談来て!!」

「ありがとう! そんときよろしく!!」


「儂は?」

「荒天龍ファランと、もうあるでしょ」

「仲間外れかコノヤロウ!!」


 それからも拘ってるようないい加減なような名付けを長い時間行い、遂に全員に名を与え終えたリドゥは大きく息を吐いた。


「やっと終わった……。喉枯れそう……」

「リドゥさま。お水です」

「お、ありがとう……ぼぐぇぇえ……! あ、でもこの回復液ほんのり甘い気がする!」

「ピース♪」


「ところでリドゥはん。人狼だか牛頭だか名付けてたけど、自分のそういうのはどうすんねんイガ?」

「あぁ、そうね」


 僕は瓶を足元に置き、皆に改めて向き直る。


「皆んな。見ての通りこの月光洞窟で生まれ変わった僕は『月光人』を名乗ることにするよ」

「おぉ、それっぽい」

「やっぱシンプルが一番よ」


「ありがとう。そして提案なんだけど、僕たちの総称を考えようと思うんだ。何か意見があったら挙手して教えてほしい。……はいゴウ速かった!」

「『月光族』はどうでしょうか?!」

「ゴウ、それ丸パクリ」

「サイカさんの言う通りなので保留! 次! ……アウネさん!」

「此処で変異した私たち以外でも名乗れるのが良いと思います。此処で起こったことが、他の場でも起こらないとは限りませんし」

「じゃあ『月光族』は無しですな。呼称が限定的過ぎます」

「そんな!」

「なら魔力源泉に(あやか)ったらどうやろかイガ。魔力源泉なら月光洞窟以外にも湧いとるはずさかイガ」

「モケッ」

「はいイリ」

「モケモケ。モケケモケ。モケピロピーロ」


 と、イリが気付けば持ち込んでた翻訳プレートには『まりょくげんせんぞく』と書かれていた。悪くはないがちょっと長い。


「フンコー」


 そこへフンコロガシが出てきてプレートの上を歩いたと思えば、退いた頃には『ま       ぞく』となっていた。かなり端折られたが、しかし──、


「まぞく……魔族か。悪くないんじゃないか」

「めにょまにょぷにょめにょ。ぽみょみんちょ」


 プレートを覗き込んだり、書かれた内容を教えてもらったりする皆んなには好評のようだった。

 これは決まりで良いだろう。

 僕は「皆んな!」と注目を集める。


「色々と意見仰いだ結果、一番反応が良かったのは『魔力源泉族』の略称だった。もう少し考えたいなら続けるけど、どうする?」

「「「異議なし!!!!」」」


 じゃあ決まりだ──! 僕は高らかに声を上げる。



「ここに宣言しよう。僕たちの種族は魔力で生まれ変わったもの──通称『魔族』とする!」



 月光洞窟内から歓声が上がった。

言葉足らずでなければ届かないものがある──『アンテナラスト/10-FEET』


魔族が産声を上げた果てに第5章も一区切り。

明日からもよろしくお願いします!!(ブクマ・広告下の評価欄も押してくれると嬉しいです!!)

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