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54 アバンリー

 時は少し遡る──。


 ◆ ◆ ◆


「なに……?!」


 森の片隅にて──、運んできたグレムの死体が、大きな戦闘の痕跡があった場所から回収した二つの首無し死体とともにクリエナの群れに喰われる様を茂みから見届けていたレリアは雷鳴みたいな大きな音を聞いた。

 音の発生源は先程死体を回収した場所だろうか? 今いる場所からはかなり距離が空いてるが、音量からして尋常じゃないことは確か。小包に入れたグレムの耳が懐にあるのを確認しながらレリアは駆け出す。


 そして、かなり走って現場に着いたレリアは茂みに身を潜めながら、最悪な光景を目にした。


 誰よりも大事な同期生リドゥが、どういう訳か新ギルド長・ジユイに馬乗りにされていた。


 ──リドゥ!


 と、思わず駆けつけようとしたその刹那、リドゥの首が斬られた。

 血を噴き出しで間もなく動かなくなり、そのまま耳を切り落とされるリドゥを見て、レリアは心臓が止まる感覚を抱き、その場にへたりこんだ。


 ──リドゥが殺られた。


 誰か嘘だと言ってほしい。どうしてリドゥが首を掻っ切られなきゃならない。グレムの「リドゥが殺人を犯しました」だってそれが残当になることを三人がしでかしたからなハズなんだ。


 ──あっ!


 取り乱している間にジユイがリドゥに再び手を伸ばす。トドメを刺すつもりだ!


 ──()めてッ!!


 レリアは足元にあった石を拾い、ジユイへ思い切り投げつけた。

 投擲するなり見つからないよう、レリアは出来る限り身をかがめてその場を走り去る。石が金属に当たる音がしたが、振り返る暇なんてない。

 それに、ジユイの実力評判を思えばこれ以上の関与は共倒れ。リドゥが最も望まない展開だった。


 ──どうか無事でいてくれ!


 レリアは奇跡が起こるよう涙目で祈りながら、前だけを見て走っていった。

 後ろから聞こえてきた数多の咆哮が、奇跡の予兆だと信じて。


 ◇ ◇ ◇


 時は戻り、ラネリア南門前──。


 今日も今日とて訪れる行商人への対応が一段落した門兵が、小休憩を取ろうかと同僚と話していたところを訪ねてきたギルド職員の応対を始めたときだった。


「うぉおッ!?」


 突如馬車の通り道──を少し外れたところに、何かが急速落下してきて、激しい土煙を撒きあげた。

 その中から現れたのは──、


「ソ、ソロマスター!?」


 同僚がギョッと身じろぐ。小休憩の駄弁り仲間だったリドゥをクビにしやがったというギルドの新たな運営長だ。

 そんな彼の左腕は肩から無くなっていて、傷口は凍っていた。

 あと、長髪から短髪になっていた。


「ソロマスター! その腕は?!」


 ギルド職員が心配して歩み寄る。しかし彼は一切言葉を介さず──、


「野菜クズでもシェフ次第か……」


 そう独りごちると、ギルド職員に目もくれず指示を送る。


「ギルドに通達。新方針『採調武三道』制度を緩和。一龍月20回以上の討伐依頼受注義務を月10回に減らし、上級冒険者には追加報酬を出して低級冒険者の監督をさせろ。低級冒険者を重傷・死亡させた場合は免停若しくは解雇すると張り出しておけ。それと──、」


 と、ソロマスターが続けた発言が、門兵にとっての致命打となった。


「リドゥの捜索は終了。頸動脈を割いてきた。死亡確認については後で詳細を伝える」

「な、なんと! あの殺人者を始末したのですか?!」


「? 何故罪状を知っている」

「ギルド内で広まっているのです。リドゥ・ランヴァーが殺人を犯したと騒いでる者がいると!」


 となれば、執務室を尋ねてきたあの青年しか居ない。やけに焦った風だったが、勝手に騒ぎ立てるタイプだったか。

 要らんことをしおって……!


 ジユイは舌を鳴らして、再び指示を出す。


「箝口令を敷け。知ってしまってる者にはリドゥに関する言及を禁止。奴に関する働きかけも俺の腕が完治するまで許さ、ん……?」

「ソ、ソロマスター? どうされました?」


 視界がぼやけてきたかと思えば、やけに足取りが覚束無い。というよりも、意識が遠のいてきてる?

 凍らされた故に出血はしていないから貧血はありえない。では何が原因だ?


 ……凍らされた?


 ジユイはある仮説を立てながら確信を抱く。

 荒天龍のやつ、回復阻害の魔法と一緒に遅効性の意識阻害も仕込んでいたな……!


 これに行き着いた瞬間──、ジユイは前のめりに倒れた。


「た、大変だ! 門兵、早く担架を!」

「はっ!」


 門兵は救護室へ向かいながら、並走する同僚に言葉を投げかける。


「ドリー……」

「……なんだ?」

「俺、ラネリア出るわ。おまえどうする?」

「…………転職先、一緒に探そうぜ」


 ◇ ◇ ◇


 一方で──、剛爪虎が拠点に帰るなり、拠点内は騒然となった。


「リドゥ! 酷い出血だ!」


 モンスターの一匹が驚愕しながら、地面に下ろしたリドゥの患部に超回復液かけた途端、あっという間に傷は消える。

 しかしリドゥは依然として目を覚まさない。処置までの時間が長過ぎたのだ。拠点を特定されまいと迂回してきたのが仇となった。

 脈だって回復する気配がない。このままじゃ本当に手遅れになってしまう!


 かくなる上は──!

 剛爪虎はリドゥを再び抱え上げた。


「お、おい! 何する気だ?!」

「決まってんだろ! 魔力源泉に浸けるんだ!」


 ザワっ──! と拠点内に動揺が走る。


「おまえ正気か?! どんな姿になるか分かんないし、俺たちモンスターみたく自我が正常に残ってると限らないかも──」

「だったら無謀にこのまま起きるのを待つってんのか?! 俺はゴメンだね! それなら一か八かに縋るべきだろ!」


 ──道を開けてくれ! 剛爪虎は螺旋階段を猛スピードで下っていく。

 リドゥの頭が揺れないようしっかり抱えながら、剛爪虎は独り言のように話しかける。


「リドゥ。おまえが滅喰龍と戦った場所に行ったとき、拠点に越してきて良かったと心から思えたんだ」


 しかし、リドゥは言葉を返さない。


「実は俺の嫁よ、妊娠してんだ。避難せずにあのまま居たら、間違いなく腹の子ごとお陀仏だった! けどおまえが避難先に受け入れてくれたから、嫁は安心して休めてるんだ!」


 だが、リドゥの腕は力無く垂れ続ける。

 剛爪虎の目に涙が滲む。


「だからよ、目ぇ覚ましてくれ……! 子どもの出産に立ち会って、俺たち家族の恩人だって紹介させてくれよ……!!」


 それでもリドゥは目を覚まさず、涙ぐんでるうちに魔力源泉の間に辿り着いた。


 俺たちが変貌したのは、魔力源泉の波に頭まで呑まれたからだとリドゥは言っていた。その通りならリドゥも頭まで泉に浸ければワンチャン回復だ!


「リドゥ! 健闘を祈ぶげぇ……っ!!」


 剛爪虎は足を滑らせて、リドゥを魔力源泉に放り投げてしまった。


 リドゥは魔力源泉に沈んでいった。


 ◇ ◇ ◇


 その頃──、リドゥは知らない天井を見上げていた。


 ……ここは何処だ?


「あら、坊や。お目覚めなのね」


 そこへ一人の女性が現れて、揺りかごから僕を抱っこした。


 もしかして、死ぬ前の走馬灯だろうか? とすれば目の前の女性は覚えていない母親か。

 にしては、あまり似てないような? 父親似なのだろうか、若しくは隔世遺伝?


 そう思考を巡らせていると、玄関からノック音がした。「はーい」と母親(?)が扉を開けば、ふくよかな女性が顔を見せる。


「どうもアバンリーさん。新しい紅茶を買ったのよ。一緒に飲まない?」

「あら、ベルリィさん。是非是非♪」


 ──アバンリーさん?


 僕の名字(ラストネーム)は『ランヴァー』で『アバンリー』ではない。というか、アバンリーってどこかで……──?


 あ……。

 リドゥは揺りかごに戻されながら、あの男の自己紹介を思い出した。



 ──俺はジユイ・アバンリー。ラネリアの新ギルド長だ。



 間違いない。ソロマスター・ジユイのフルネームだ。ということは……。


 これはジユイの記憶で、僕は今、彼の人生を追体験している?

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