52 蹂躙
ジユイが抜刀し、構える。
「ふっ……」
──なり、呼吸を整える間も置かずに距離を詰めて、大太刀を振るってきた。
「うぉっ!」
リドゥは咄嗟に刃牙獣の槍を構えて初撃を防ぎ、直ぐに放たれた二撃目に応対。金属と金属がぶつかり合う音が、何度も荒れた森に木霊する。
大太刀が両手で持つサイズにもかかわらず、彼はそれを片手剣と思い違える速度で振り回してくる。ただでさえ重い一撃に加えて手数まで稼げるというのは敵からすれば厄介極まりない。
更には──、
「ッ!!」
振り下ろし際に右手を離したと思った瞬間、目潰しまで仕掛けてくる。一撃力・手数だけでも捌くので精一杯なのに、攻撃手段まで自由自在は反則ではないか?!
しかも、明らかな身体能力差に防戦一方! 腕への負荷を考えるとこのままじゃジリ貧! 種は割れてるけれど『消滅』で逆転を狙うべきだ!
「! ふんっ」
「うぐっ!」
が、両手に魔力を纏おうとした途端に大振りの大太刀で吹き飛ばされてしまった。なんとか防げたものの、完全に反応されてる!
僅かでも魔力を纏えば直ぐさま距離を取らされる。これでは逆転の一手を仕掛けるどころじゃない!
「念には念だ」
ジユイは指を鳴らすと、宙に光球を複数生成し、僕の周囲を取り囲む。
「──『親愛ナル隣星・星屑』」
そう唱えられた途端、縦横無尽に展開された光球から無数の光弾が放たれた!
「うおおぁあぁ!」
これは捌き切れない! 僕は堪らず走り出して回避に専念する。消滅でワンチャン防げるかもだが、そんなんしているうちに胴体をたたっ斬られるのがオチだ!
しかし当然向こうは「逃げてばかりか?」と前方に回り込んで追撃してくる。そんなことしてる場合じゃないのに!
「あぐ……っ!!」
背中を焼けるような痛みが襲った。光線が直撃したのだ。ほれみたことか!
「後ろばかりではないぞ」
「ぐぅ……!」
それでもジユイからの斬撃は止まらない。
前からの攻撃だけでも紙一重なのに、後左右からの光線の対処に僕は徐々に遅れを取っていく。目に見えての嬲り殺し直通コース!
「あっ!?」
そして、光線が左手甲に当たって怯んだ隙を狙われ、遂に僕は槍を弾き落とされてしまった。
「終わりだ」
ジユイは振り切った大太刀をひっくり返すと、再度斬りかかり、切っ先をリドゥの胴体に直撃させた。
「!」
──が、それをリドゥは、両掌から血を流しながら掴み、しがみついてみせた!
「これしか手はなかった……!」
正直な話、失敗すれば両手ごと斬り飛ばされる博打だった。動体視力が鍛えられてて助かった!
「放せ」
当然、ジユイは大太刀をこれでもかと振り回すわ地面に叩きつけながら、光線をリドゥの腕に重ねて浴びせてくる。だが──、
「放すか──よッ!!」
僕は手の位置を届きうる場所まで伸ばすと『消滅』の魔力を両手に纏い、大太刀を根元からへし折った。
「はあッ……!」
「むっ……!」
即座にジユイを蹴り飛ばした勢いで離脱し、自身の得物を拾い直す。これで奴の武器は使い物にならない!
とはいえ、相手は槍をも弾く手刀に目潰しの速度から分かる高度な体術に、発生してから一つとて欠けずに浮遊し続ける光球から相当数の魔力の持ち主。長期戦が圧倒的不利なのは依然変わりない分、一気に畳み掛ける!
僕は最大限警戒しながら槍を構えて、ジユイの方へ振り返った。
「ぎゃ!」
──瞬間、頭部を斬り裂く感覚に僕は悲鳴を上げて仰け反った。
一体なんだ?! と視界端で捉えたそれは刀身が微かに残った大太刀だった。使い物にならなくなるなり投げつけてきたのだ。
「余所見してる暇はないぞ」
「ぐブっ!」
直後、迫ってきていたジユイに鳩尾を殴られ、前のめりになったところに頭を掴まれるや否や膝蹴りを喰らう。
ブッと鼻血が噴き出る。
「ふんっ」
「グゲッ!」
悶絶する間もなく殴打を立て続けに連発される。どうにか反撃しようにも当然徒手空拳の方が大振りの槍の速度を上回っているから、構えようにも腕を上げようとした傍から手刀で無理くり下ろされる始末。かといって──、
「よしてもらおう」
「アがあッ……!!」
いっそコチラも──殴り合いに持ち込まんと槍を掴む指を持ち上げたその刹那、指を折られてしまう。何もかもが読まれていた。
明らかに、大太刀を捌いていたときよりも戦況が悪化している。
「捨てるなら貰うぞ」
「なッ?!」
息も絶え絶えの中でそう言い放たれたと思えば蹴り飛ばされ、衝撃でまた槍を手放してしまう。
それをジユイは拾い上げると左手で軽々と持ち上げて、槍先を構えながら飛びかかってきた!
「ンっ!!」
僕は咄嗟に手をかざして槍を『消滅』させる。ごめん刃牙獣今まであり──、
──ピッ。
「が……?」
とう──。と続けようとしたその瞬間──、突然の切り裂かれる感覚を抱くとともに、首の左側面から激しく血が噴き出した。
一体何をされたのかとジユイの左手を見てみると、先程投げられた刀身が殆ど無い大太刀が握られていた。
ああ……そうか。
大太刀が落ちたところまで誘い込まれてたのか……。
それを理解すると同時に、僕の視界が暗転した。