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解雇されたギルド冒険者は失踪先でモンスターと暮らす  作者: 丈藤みのる
第4章 〜ラネリアギルド騒動〜
50/118

50 一線越えてまた一難

「リドゥさま。皆さん集まりました」


『焚き火の間』にて──。

 アルラウネさんの報告に、荷物纏めを止めて顔を上げると、拠点内に居たモンスターが一同に集まっていた。

 しかし、明らかに部屋に入り切らない者もいて、中には大柄な者の肩に乗っかったり持ち抱えてもらっているのもいた。また拡張工事するか?


 けど、今の問題はそれじゃあない。


「なんだなんだ」「フンコー」と好き好きに語り合うモンスターに顔を向けて、リドゥは一回拍手した。

 シン……と静まり、皆がこちらに注目する。

 僕は呼吸を整えて、改まって言葉を紡ぐ。

「……皆さんに集まってもらったのは他でもありません。話しとかなければならないことをしました」

「ガウ」


 一匹喉を鳴らしたレッドドッグ。目撃者で共犯たる彼だけは何を話すか察しているようだった。

 また一つ、深呼吸して僕は告白する。


「──先程僕は、人を殺しました」


「人を殺した?」

「うん。ロイストと二手に別れた後、街の冒険者が風導を痛めつけててね。怒り任せに殺った」


 モンスターたちはざわめきたつ。人を殺めた事実に困惑しているというよりも、生命の殺り奪りを日常としているモンスターとして、こちらがどうして頭を抱えているのか理解ってない様子だ。

 その中でロイストが挙手をして、案の定な質問をしてくる。


「それの何がマズイのです? 縄張りを荒らされれば怒るのは当然のことでございましょう? 思い詰めているようですが、何をお悩みなのです?」

「せやかてリドゥはん。増してや風導はんが虐められてたんやろさかい? だったら我忘れうて殺っつけるんはおかしうないで。僕だって風導は友達さかい。そんなん見たら僕かてなりふり構わず飛びかかるイガ」


 イガマキもロイストに続き励ましてくれる。励ましてもらってて悪いが、未だ見慣れない容姿と聞いたことないハチャメチャ訛りと申し訳程度の「〜イガ」で全然頭に入ってこない。


 はぁ……と頭を掻きながら、僕は説明する。


「人間界ではそうもいかないんだよ。これは個人の見解だけど、君らモンスターは仲間を殺られてもある程度は割り切ってるでしょ?」

「まぁ、そうですね。弱肉強食の世界に生まれた以上は仕方ないと思ってますし、その為に最小限の犠牲で済むよう集団で暮らしますからな」

「ところが──だ。人間同士でそれをすれば、指名手配といって、世界中に罪状が公開されて追われる身になるんだ」

「なんと。世界規模で制裁を下すのですか。我々だって報復に乗り出しはしますが、それはまた随分と過剰ですな」

「そういうものなんだ。……で、殺人を犯した僕は近々指名手配される」

「何故そう確信づいているのですか?」


 と、訊いてくるアルラウネさんに顔を向ける。


「最初に殺した奴が外部とやり取りできる魔法の持ち主だった。それで殺したことは多分筒抜け。当然この森で起こったことも」

「となればどうなるのです? リドゥさまの古巣の方々が報復に来るというのですか?」

「早ければ三日以内にもね。だから僕は当分の間身を隠そうと思う」

「そうなりますな。であれば最深部に隠し部屋でも作りますか?」

「いや? 此処を出て行く」


「は?」


 こちらの発言にモンスターたちがどよめく。

 それを僕は「だって当然だろ?」と諌めた。


「当分隠れると言っても、皆んなにはある程度出入り出来るようにしておきたい。というか拠点内だけで暮らすには食糧・環境整備、何もかも不十分。となれば僕と一緒に引き篭もるのは皆んなの生活にあまりにも悪影響だ」

「し、しかし……それを言ったら我々だって同胞が暴行を振るわれた時点で目をつけられています。未知の姿と化した我らもほとぼりが冷めるまで外に出ない方が身のためですし、なれば主どのだけが出て行く筋合いはございませぬ」

「だったら目立たないよう、外の作業は進化若しくは変態してない子に担ってもらえばいい。それに──、」


 僕は皆の顔を一様に眺めて、断言する。


「ここ数日だけの付き合いだけど、自力で服の着方覚えたり、整備の問題見つけたりと、皆んな十分にやっていけてるよ。だから僕が居なくたって大丈熱ぅいッ!!」


 ──が、悲鳴を上げて盛大にすっ転ぶ。左目の死角からいつの間にか寄ってきていたレッドドッグが火を吹いてきたのだ。

 一体何事だ? 手の焼痛が落ち着くなり顔を上げると──、


「へぶっ!」


 目に見えて激昂しながら指を鳴らしていた風導に、頬を思い切りぶたれた。


「ぶぇっぼえっびべべべべ……!」


 そこに他の風導も近寄ってきて、各々好き勝手に殴り蹴ってくる。


「痛ァい!」


 更にイガマキまで躍り出てきて僕の手を掴んだかと思っていたら、自身の針山頭にぶっ刺したではないか。


「おぶぇぇぇええ……!!」


 そしてトドメに、先程までフンを転がしていたフンコロガシが、足の臭いを嗅がせてきましたとさ。


「リドゥよ」


 臭気に身悶えしていると、ファランがつま先で小突いてきた。


「子奴ら、お主が出て行くのに反対のようじゃぞ。ボコられた以上分かっとると思うがの」


「えぇ?」


 顔を上げて、皆を見る。

 全員ショックを受けているような、寂しそうな──とにかく納得いってない表情だった。


「で、でもファランさん。さっきも言いましたが、僕なしでも皆んなは生活していけますよ。草食モンスター向けの地下に植えた果樹だって順当に育ってるし、肉食用のイシノシは繁殖するまで時間の問題だし、環境整備だって自分で気付けるし──、」

「その環境整備は誰がやるんじゃ?」


「あ……」


 言われて初めて気付く。彼等ならどうにかするだろうと踏んで、それに見合う魔法があるかを完全に把握していなかった。


「お主は子奴らは自立の域に達してると思うとろうが、儂からすればまだまだ稚児じゃ。まだ飛べもしない雛鳥を旅立たせる親鳥がどこにおる?」


「そうですよ」


 と、ここでロイストが前に出てきて、僕の前に跪いた。


「ファラン殿の仰る通り、我々は今も未熟で、主さまを必要としておりますのに、我々のためにと去ってしまうのは悲しすぎます。どうか一人で抱え込んだりせず肩の荷を下ろす為にも、一緒に背負わせてはくれませぬか?」


「っ……」


 彼の言葉に、レッドドッグの森でのやり取りが脳裏をよぎる。彼が背負ってくれたのは置いといて他の皆に背負わせたくないは、信用してないのと同義じゃないか。


 ──本当に、何度も間違える。


「ッ……」


 僕は目尻をなぞり、皆に問いかける。


「……最悪、全員捕獲に動いてきますよ?」

「その時はひと暴れしてやりましょう」


 ロイストの宣言に、モンスターたちは揃いも揃って頷いた。


 ──本当に、恵まれてる。


「……それじゃあ皆さん。どうかよろしくお願いしま──」


 と、頭を下げようとした、そのときだった。


「うわっ!?」


 突然の地響きが拠点を襲い、僕は前のめりになった。仲間たちも各々困惑している。


「な、なんだ?!」

「リドゥ!」

「は、はい!」

「儂らが滅喰龍と死合った場所から強い魔力を感じる! 急に現れたぞ!」


 ──急襲。


 その二文字が可能性として浮かび上がってくるが、いくらなんでも早すぎる! 街から(ここ)まで一泊二日の距離だぞ?!


「此処は任せて見てこい! 滅喰龍相手に二撃入れたお主なら簡単に死なん! 儂が保証する!!」

「! ありがとうございますよろしく!!」


 リドゥは刃牙獣の槍を携え、現場へ急行した。

日常が急変を迎えたところで第4章一区切り。

明日からもよろしくお願いします。

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