5 保存食作り
さて、どうしたものか……。
打って変わって、拠点にて──。
リドゥは岩肌の床に胡座をかいて、各部位に分けられたイシノシ肉に頬杖をついた。
イシノシの巨体では引き摺ることもままならないのでいったん解体し、どうにか一部位も横取られることなく運び込めたものの、明らかに一日で食べきれる量じゃない。レッドドッグの分を除いてもだ。
かといって腐らせて廃棄は御法度だ。一度に多くの食糧を得たくて罠を張ったのに、残すんじゃあ計画が破綻しているも同然だし何より血肉となってくれる動植物に顔向けできない。
ならばどうするか。保存食にする。これに成功すれば最低三日は保つ見込みだ。
幸い材料には当てがある。早速集めてこようと思うが先ずは──、
「おぅい、レッドドッグさん」
呼びかければ相も変わらず身体を丸めている壁際の赤毛は、顔こそ動かさないものの、耳だけはこちらに向けてくれた。聞く意思はあると決めつけて続ける。
「今から食べきれないイシノシ肉をどうにかする物を集めてくる。その間誰も来ないよう見張っててほしい。もちろん、無償とはいかない」
僕は解体されたイシノシ肉を漁り、特に筋張ってなさそうな部位をレッドドッグの傍らに置いた。
「頼まれてくれるなら、この部位は好きに食べていい。どうだい?」
当然、言うことを聞いてくれるとは思っていない。留守にしている間に全部食べられていたって何らおかしくない。
だが、こちらが一方的に頼んでいるのだし、共同生活を始めて二日目。レッドドッグからすれば利害が一致しているだけで気の置けない仲になる必要はないのだ。どうせ一緒に住むなら仲良くなりたいが、こればかりは相手次第。徒に期待することじゃあない。
僕は壁に寄せていた荷を背負うと、相変わらず耳だけ向けてくれているレッドドッグに「それじゃあ行ってくる」と告げて拠点を後にした。
◇ ◇ ◇
ということで、集めてきた。
数十分後──、無事に目当ての材料を集め終えたリドゥはモンスターと遭遇することなく拠点に帰還していた。
イシノシ肉の山は最初に寄越した部位以外減っていなかった。レッドドッグはありがたいことに最初のひと塊で手打ちに、食糧を護ってくれていた。
完成したらまた美味そうな部分をあげよう。
そう自分に約束して、僕は保存食作りを開始する。
まず始めに保存用のモモ肉の脂身を取り除く。脂身が多いと余分な水分が残って腐りやすいのだ。
取れるだけ取ったら今度は干しやすいよう薄切りにしていく。分厚く切ってしまうと乾きにくく、結果として腐りやすくなるのでなるべく薄く切り分ける。
それが済んだところで、僕は拾ってきた材料を床に広げる。
そこから手に取ったのはショッパ草。その名の通り塩気を含んだ野草で、かの剛腕料理人──の孫の友達が『何でも口に入れちゃう期』に食べて「しょっぱい」と悶えたので調べてみたら大量の塩分が検出されたと学会で発表されるなり「海水煮詰めるより楽!」と瞬く間に全大陸での研究が始まり、流通したと聞く。いい加減な名称はそのお孫さんの友達が歳若かったのでご愛嬌。
これに薄切り肉を包んでいく。臭み抜きの香辛料があれば尚良かったが、そう都合良く自生していないので今回は我慢する。
この状態で一晩寝かせたら後は干すだけだ。加工は一区切りだ。
今からは気が早いが、完成が楽しみだ。
完成したらいいな。