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解雇されたギルド冒険者は失踪先でモンスターと暮らす  作者: 丈藤みのる
第4章 〜ラネリアギルド騒動〜
48/118

48 南へ

「えらいこっちゃ……!」


 声を上げたのは記録者のべメス。ソロマスターの息がかかった者の一人だ。


 彼は冒険者の調査を纏める仕事をしていた。ここに配属されて最初こそ悪戦苦闘していたが、十年の年月を経た今となっては、膨大な調査内容を話された傍から書面に書き記すのも造作もなかった。


 そんな彼が目を丸くしたのは、龍が争い合ったという『見限られた森』へ調査に行った者の会話を記録していたときだった。

 三人組の一人、エレムが置いていったのは『土人形』。これを介せばリアルタイムで本体と周囲の会話が聞こえてくるという優れモノだ。

 それが「見たことないモンスターだ」と言い出した時は目を輝かせた。旨みのない森に未知のモンスターが居る。記録者としてこれほど胸が高鳴る報告はない。


 ──が、捕まえたのだろう会話が聞こえてきた際に異変が起こる。土人形の心臓部が欠けたのだ。


 土人形は本体のエレムの身体状況と連動している。土人形の表面が削れたら負傷、パーツが大きく欠けたら欠損と説明を受けていた。

 つまるところ、心臓部が欠けたということは、本体の心臓が抉られたということだ。


 まさか目の前に居ない人間の死を悟る日が来ようとは! そう思う暇もなく聞き捨てならない声が聞こえてきた。


「うわっ。リドゥじゃん(略)人殺しだ人ご──」


 ここで女性の声が途切れると同時に土人形が砂と化す。本体が力尽きた証左だ。

 動揺しながらも会話を書き移していた書面に目を通し、記憶を探る。


 リドゥ……リドゥ・ランヴァー。一龍月(一ヶ月)程前にギルドを解雇された、採掘ばかりのつまらない青年。捜索ポスターを張り出してるにもかかわらず一向に姿を現さない迷惑者の名前だった。

 途中までだが発言通りなら、奴がエレムを死に至らしめたことになる。これは紛うことなき犯罪だ。

 即座に席を立って廊下に飛び出す。図らずも殺人の立会人になった以上、黙っているわけにはいかない。


 向かった先は『ギルド長執務室』。

 べメスはドアを急ぎ叩き、「入れ」の声が聞こえるなり中へ飛び込んだ。


「失礼します! 記録課べメスより緊急報告です!」


 べメスを食べながら書類仕事をこなすソロマスターは一切顔を上げずに「なんだ」と要件を問うてくる。


「龍の出現地に出向いた冒険者の一人が殺されました! 容疑者はリドゥ・ランヴァー!」

「詳細を」

「こちらです……!」


 べメスは途切れた会話まで記録した書面を手渡して、客観的証拠を踏まえた説明を行う。


 ソロマスターは「ふむ……」と書面を眺めながら顎に手を当てる。何回か目撃している、思案時の癖だ。


「……おい」


 突如話しかけられ、「は、はいっ」と背筋を伸ばす。


「リドゥ・ランヴァーの魔法は非戦闘型だったよな?」

「え、えぇ。奴の魔法『採掘』はあくまで穴を掘るだけのもの。攻撃に使用するものでは断じてありません」

「では、奴は別の手段で冒険者を殺害したことになる。不意討ちとはいえ一撃で考えられる手段は……刃牙獣か」

「じ、刃牙獣?」


 一龍月前に『見限られた森』へ逃げ込んだモンスターだ。それがどう関係あるというのだ?


「こう思わんか? リドゥ・ランヴァーが森に居座ってるとして、そこに縄張り意識の強い刃牙獣が流れ着けば生活どころではない。どうにかして撃退もしくは討伐を目論む筈だ」

「は、はぁ。ですが奴の魔法は近接戦には──、」

「誰が近接戦を仕掛けたと言った?」

「ッ……!!」


 くだらない質問をするな──。ソロマスターは言葉にしていなくても、そう言ってきていた。

 全身から嫌な汗が噴き出す。


「穴掘り魔法と言ったな。その穴を大量に仕掛けて中にそうだな……長年培った穴掘りを応用して生成した鋭利な棘を何本も仕込めば、大方のモンスターには致命傷なり得る──ことを解雇後に自覚したとすれば?」

「あ……」


 それなら入念な準備を要する前提条件はあれど、十分勝負になる。


「それなら後は根性で罠まで誘き寄せれば討伐は十分可能。倒した刃牙獣の牙を武器にすれば大抵のモンスターと相対できる。刃牙獣の牙は武器として優秀だからな」

「は、はぁ」


 べメスの頬を汗が伝う。

 今聞かされている考察はあくまで可能性の話でしかない筈なのに、どうしてこうも説得力がある? まるで見てきた『事実』を聞かされているような気分だ。


「ふむ……」


 ソロマスターは再び顎に手を当てると、ぼそりと呟いた。


「──今一度会ってみる価値はあるかもな」

「え?」

「おい」

「は、はいっ」


 反射的に背筋を正すと、ソロマスターは机上を指差した。


「机に置いてある書類は全て目を通したから各部署へ持っていけ。俺は暫く出る」


 そう言ってソロマスターは立ち上がると、業務机横に立てかけてあった大太刀を手に取り、両開きの窓を開け放った。

 何事かと注目していると、彼は空を見上げた。



「『親愛ナル隣星(ソワレ)通信衛星(スタージャック)』」



 そう詠唱して暫く押し黙ると、「……そこか」と呟き、続け様に唱える。



「『親愛ナル隣星(ソワレ)流レ星(スターチャイルド)』」



 次の瞬間、ソロマスターは光となって消えてしまった。


「は?!」


 べメスは瞬きを繰り返す。今、何が起こった?

 もしや、窓から落ちた?!


 慌てて窓辺に駆け寄り下を覗くも、誰も居ない。じゃあ何処に──?


「あ」


 見上げると、一筋の光が空に軌跡を描いて飛んでいた。


 飛んでいった方角は、南。

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