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解雇されたギルド冒険者は失踪先でモンスターと暮らす  作者: 丈藤みのる
第4章 〜ラネリアギルド騒動〜
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44 ラネリア市場

「さて……、先ずは場所取りだな」


 古巣に足を踏み入れたリドゥが最初に向かったのは市場の取締場だった。違法品を弾くべく、門番を突破しても魔法で再度チェックされなければ売ってはいけない決まりだと馴染みの露店から聞いたことがあるからだった。


 しかしそこで、早くも難題にぶち当たる。


「はい。鑑定終わりです。全品問題無しと判断されました。最後に場所取り料をお支払い願います」

「え?」


 思わぬ受付人の発言に、僕はは仮面の下でパチクリと瞬きする。


「ここ、料金必要なんですか?」

「あ、もしかして初めてです? ではご説明致します」


 受付人は手慣れた様子で説明を始める。


「此処──、ラネリアでは過去に審査を通過した行商人が魔法で違法品を隠し持っていた事件が起こっておりまして。その過ちを繰り返さぬよう先ずは門番で視覚的にざっくり、そして市場で魔法鑑定を受けてもらい、騒ぎを起こさない決意表明として代金を頂戴する。言ってしまえば、正式に商いをさせてもらっているという信用代を払ってもらう仕組みなのです。存じ上げてなかったでしょうが、こればかりは決まりですので……」


「マジか……」


 僕は面食らい、思わず天を仰いだ。

 しかも料金はちょうど金貨一枚。商売次第では容易く元を取れる金額だが、全財産を孤児に譲渡してしまった身ではとんだ大金だ。


「……ん? 金貨一枚?」

「? はい」

「ちょ、ちょっと待ってください」


 僕は背荷物を下ろし、ポケットを漁る。記憶通りなら確かここに──、


「あった!」


 僕はへそくりにと大家さんから貰った一枚の金貨を探し当てて、受付に手渡した。


「はい。確かに頂戴しました。それではこちらをどうぞ」


 僕は許可証代わりの立札を貰い、取締場を後にした。


 大家さん、ありがとう。心の中で感謝しながら僕は場所を決めると、指定の立札を構えて、馬繋場に……──赴いたが預けられなかったロイストを傍に繋ぎ止めて、品物を並べる。


 さぁ、商売開始だ。


 ◇ ◇ ◇


 二時間後──。


「全然売れねぇ……」


 あまりにも動きがなさすぎて、僕は途方に暮れていた。通り際にチラリと一瞥してくる者はいるがそれだけで、皆こちらと顔を合わせるなり視線を逸らして立ち去るの繰り返し。寄ってくるのは牛が珍しい子どもたちばかり。


 しかし当然だ。普段見かけない仮面装着者が見慣れない品物を並べてるんだから警戒するに決まっている。

 とはいえ、これでは服どころか服を作る道具も布も買えない。一体どうしたもんか。


 せめて服レシピだけでも手に入れたいけどなぁ……と溜め息を吐いたそのときだった。


「あら? リドゥさん?」

「え?」


 突如名前を呼ばれ、脊髄反射で顔を上げると、そこには何時ぞやに僕を治療してくれた古傷顔の女性が立っていた。


 瞬間──、周囲が「え、リドゥ?」と一斉にこちらを向いた。



「姉ちゃん、今リドゥって言ったか?! この仮面の兄ちゃんがそうなのか?!」

「言われてみれば、このウルフカットに見覚えがあるよ!」

「おい坊主! おまえリドゥなのか?! ちょっと仮面取ってみてくれ!」


 皆は口々に騒ぎ出し、顔を見せるよう要求してくる。急にどうした?

 だが今は騒ぎを収めることが先決。幸いにも『幻霧蛙の幻覚』は二回まで有効だが、果たして──?


「ほいっ……?」


 僕は画面を取って見せた。

 途端、人波は一気に引いたのだった。


「なんだ、他人の空似か」

「背格好とか似てたんだけどな」

「変に冷やかしてゴメンなぁ」


 そんな中、ポツンと残っているのが一人。古傷顔の女性だ。

 彼女は膝を折り、顔を寄せてくると、ひそひそ話を要求してきたと思えば……──、


「リドゥさん。貴方、幻覚魔法の使い手だったのですか?」


「え?」


 思わず古傷顔さんを見る。どういうわけか彼女にはお見通しらしい。


 ……ここは下手に誤魔化さない方が良いだろう。


「……なんでそう思うんです? えーっと……」

「……あぁ失礼、名乗ってませんでしたね。私はミーニャと申します」

「あ、ミーニャさん。改めまして、あの時は治療ありがとうございました」

「いえいえ。業務ですのでお気になさらず」


 お互いに頭を下げると、ミーニャは「それでですが……──、」と説明に移行する。


「私は心眼魔法の使い手でして、失明してからは体内の魔力で人物を特定しているのです。そんな中掘り出し物を探しに歩いていたら貴方を見つけて思わず声を掛けてしまった次第です。お騒がせしてすいませんでした」


 ミーニャは再び頭を下げる。それで仮面越しでも正体を見破ってきたのか。


「で、話を戻すのですがリドゥさん。貴方、顔だけ何か魔法を掛けてますよね」

「ギクッ……!」

「図星ですね。動揺したのが魔力でも分かります。それで、どうなのですか?」


 これはお手上げだ。僕は正直に打ち明けることにした。


「……当たりです。仮面の下に『幻霧蛙の幻覚』を仕込んでるんです。それで顔を変化させとりました」

「そうでしたか。スッキリしました。ですが、それはよろしくないですよ。ここだけの話、魔法の性質上、市場の鑑定を手伝うことがあるのですが、貴方の魔力と仮面の魔力は色が違うので細工を見分けられてしまいます。そうなったら業務上、不審人物と貴方を捕えなければなりませんので、今後も来るなら控えるように」

「あ、はい。以後気をつけます」


 これは完敗だ。後ろめたい時は、彼女には基本近付かないようにしよう。今後があればだけど。


 ……あ、そうだ。


「ミーニャさん。唐突ですが、一つ聞いても?」

「よろしいですよ」

「では……──、行方不明の三人組、何か進展ありました?」


 かつて『見限られた森』でミーニャがレリア、ゴーダン、エウィンと捜索していた失踪者たち。一度関与を疑われた身であるが故に気になっていたが、しかし──、


「…………」


 彼女は気まずそうに、首を横に振るばかりだった。

 つまり、そういうことだろう。聞いといて申し訳なくなった。


 重々しくなった空気を入れ替えようと、ミーニャは無理くり話題を転換する。


「ところで……、此方には何を売りに? 自給自足してた気がするんですが?」

「あぁ、訳あって服が大量に必要となりまして。作り方分からないので、服作りの本と材料買うためのお金が欲しいんですよ」

「そうだったのですね。……では、こちらの毛皮、手触りを確認しても?」

「? どうぞ」

「では失礼。……あぁ成程。これはイシノシの毛皮ですね。ふむふむ……こちら一枚くださいな」

「え? 買ってくれるんですか?!」


 思わず聞き返すと、ミーニャは懐から財布を取り出し──、


「防寒着を新調したかったのです」


 それだけ言い残して、硬貨を置いて立ち去ったのだった。その後ろ姿の神々しさと言ったら!


 が、その救世主は「あぁ、それと──、」と直ぐに戻ってきて、また耳打ちしてくる。


「商いが終わり次第真っ直ぐ帰宅することを推奨します。先日貴方が住んでる森に調査隊が派遣されましたし、現在ラネリアでは、貴方にとってご不快極まりない動きが起こってますので」


 それでは御機嫌よう──。ミーニャは今度こそ人混みの中へ消えていった。


 僕が嫌がる動きってなんだろう? だが、調査隊は心当たりがある。


 荒天龍ファランと滅喰龍の頂上決戦だ。あんな大規模な戦闘があったのだから、いくら『触らぬ神に祟りなし』でもモンスターの分布変化と安全を思えば調査は必至だ。


 まぁ、その龍もモンスターたちも拠点に住み着いてんだけどな。


 とにかく、早く用事を済ませて戻らなければ。拠点の皆には最大限の警戒を呼びかけておいたが、やはり心配だ。そのためにも先ずは売れるだけ売らなければ!

 そう意気込んでいたら、風は間もなくこちらへ向いてきた。


「ほぉ、確かに良い毛皮だね。先程これを持った娘を見かけたが、尋ねてみた甲斐があったよ。土落としのカーペットにしたいから一枚くれないか」

「ありがとうございます!」


「防寒着にすりゃ高く売れそうだ。兄さん、二枚……いや四枚売ってくれ!」

「ありがとうございまぁす!」


 ここから立て続けに毛皮は売れていき、遂には十枚完売したのだった。後は手付かずの魔力鉱石だけだが──、


「……ぃぉぃぉいおいおい……!」


 魔力鉱石で陳列し直していたところ、明らかに学者然とした丸眼鏡の男性がもの凄い速度で迫ってきていた。

 丸眼鏡は前に立つと、断りも入れずに魔力鉱石を手に取った。一瞬強盗かと立ち上がりかけるが、丸眼鏡は鉱石を舐めるように眺めるなり大いにはしゃぎだした。


「信じられない! なんて純度の高い魔力鉱石なんだ! しかも丁寧な掘り方で形も抜群ときた! これなら停滞していた研究が捗るぞ!!」


 丸眼鏡は「これも、これも! こっちまで!!」と偉く感激している。あまりのテンションに若干押されながらも、何時でも取り押さえられるよう身構えていたら──、


「お兄さん、ここにある分全部売ってくれ! 金も奮発するから研究室まで運んでくれないか?!」

「マジか!?」


 想定外の大盤振る舞いに思わず叫んでしまう。これには周りの行商人も「偉いこっちゃ!」と仰天し、拍手喝采を送ってくれた。


「やったじゃねぇか兄ちゃん! 大儲けだ!」

「ロマンあるなぁ、おい!」

「これだから市場巡りは止められねぇぜ!」


「ありがとうございます! ありがとうございます! 行こうロイスト!!」

「ウモォ〜〜……!!」


 こうして、最初で最後の商いは、大盛況で幕を閉じたのだった。

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