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解雇されたギルド冒険者は失踪先でモンスターと暮らす  作者: 丈藤みのる
第4章 〜ラネリアギルド騒動〜
42/118

42 遠路道中

 ということで、六日後──。


 拠点モンスターにサバイバル葉っぱ服の支給後、人海戦術で拠点内の地下広場に土を敷き、地上から持ち込んだ種を植え終えたリドゥは、作った台車を引っ提げて、久々の街道を移動していた。


 荷台に乗っているのはイシノシの毛皮を始め、拠点拡張で手に入れた多量の魔力鉱石。今まで何となく捨てずにいたが、まさかこんな形で持ち運ぶとは思わなかった。全部とはいかなくても、これが上手く売れてくれれば服の資金になるし、且つ在庫も処理出来て一石二鳥だ。


 晴天の下、連れの牛型モンスターがゴロゴロ台車を引っ張っていく。心地よい微振動と木漏れ日も相まって台車がまるで揺りかご。場所が場所なら思わず眠ってしまいそうだ。


「主よ」

「んぁっ」


 そんな中、話しかけてくる声が一つ。

 うたた寝していた僕は寝ぼけ眼を擦って、こちらを見ている牛と目を合わせる。


「おや、舟を漕いでいましたか。本日は快晴ですし、少し荷台で横になられては如何でしょう」

「い、いや大丈夫。運転してもらってるんだし、何処で止まればいいか教えなきゃだから」

「左様ですか。気が変われた際は何時でもお声掛け下さい」

「う、うん」


 僕はポリポリと頬をかく。ここまで下手に出られるのは初めて故、なんかこそばゆい。


「それはそうと、なんだい? 何か用みたいだけど」

「あぁ、そうでした。臀部の具合は如何かな? かなりの長距離ですので負荷が大きいでしょう」

「ああ、それなら問題ない。おかげさまで痛くないよ。そっちも疲れたら何時でも休んでいいからね」

「了解しました」


 そう言って彼は、前方に向き直ったのだった。

 気遣ってくれた旅のお供は雷角牛ロイスト。先日の魔力源泉氾濫による強制進化が特に顕著だったモンスターの一体だ。

 何が顕著かというと、『重心の移動による二足歩行可能状態』『それに伴う前腕の自由化・指の生成』『脳の発達による言語の取得と声帯の変化』の三つだ。しかしそれだけなら他にも結構数居たりするが、では特筆すべき点は何かというと──、


「む? 主よ。周りを見てください」

「ん? あ……」


 思考を中断して顔を上げると、木々から顔を出す盗賊に囲まれていた。考え事をしているうちに近付かれたらしい。


「よぉ兄ちゃん。その荷台置いていきな」

「おい見ろよあの毛皮。高く売れそうだぜ」

「しかも魔力鉱石まであるぜ! あれを売れば当分遊べるぜ!」


 盗賊は既に荷台を手中に収めた体で品性に欠けた会話を弾ませ、下卑た笑顔を浮かべている。


 ただ、何故だろう? 大多数で攻められているのに全然怖くない。刃牙獣からアリの大群、更には古龍と対峙した影響で恐怖心が麻痺したのだろうか?


 否、それよりも、と備えていた刃牙獣の槍に手を伸ばすと──、


「主よ。ここは私にお任せ頂きたい」


 じりじりと盗賊たちが迫ってくる中、ロイストが名乗りを上げてきた。


「ん? つっても、かなりの数だよ。いくらロイストでも一人で捌くのは時間かかるだろうて」

「だからこそです。二人で対処して荷台を疎かにすればそれこそ相手の思う壺。何より──、」


 言いながら彼は足を折りたたんで地面に座り込むと、メキメキと前脚の蹄を五本指に変形させて、荷台と身体を繋ぐロープを解いて立ち上がった。


「少々身体を動かしたく存じます……!」

「に、二足になったぁぁあ!?」

「ブモォォォオオーーーー!!!!」


 ロイストは雄叫びを上げて、面食らう盗賊の迎撃にかかった。


 なんと彼は『変身』出来るのだ。前から立派な二本角に『帯電』して突撃する攻撃手段が特徴的なモンスターだったが、脳の急激な発達の影響か『魔法』が発現し、四足形態と二足形態を切り替えられるようになったのだ。


 その結果、全ての生物が会得し得る『魔法』と、モンスターのみが持ち合わせる『能力』とが合わさり、二つの力を使いこなす二刀流が誕生した。


「ぐぎゃぁぁあああーーーー!!!!」


 虚をつかれた盗賊たちは為す術なく、あっという間に蹂躙されたとさ。


「主よ。お待たせ致しました」

「あ、はい。お疲れさまです」

「さて……この者たちはどうします? 皆峰打ちで済ませましたが、ただ道端に転がしても目覚め次第過ちを繰り返すでしょう」

「憲兵に引き渡しましょう。取り敢えず一人だけ連れてって、残りは拘束して置いていく形で。重量増すけど大丈夫?」

「問題ありませぬ。では早いところ終わらせて出発しましょう」


 そう言ってロイストは、あちこちにすっ飛んだ盗賊を集め始める。その間に僕は縄を用意し、気絶しているところを片っ端から拘束していく。

 まさか盗賊を返り討ちにする日が来るとはなぁ……。僕自身は一切動いてないが。


 そして、全ての盗賊を拘束し終え、適当な一人を荷台へ積むと、ロイストは四足形態に戻ったのだった。


「では、行きましょうか。荷台との連結お願いします」

「うーい」


 荷台のロープをロイストに結びつけていく。これがしっかりしてないとすぐ解けるわ荷台が揺れるわで非常に苦労したから、丁寧に確実にやっていく。


 そんな中、僕は気になっていたことを聞いてみた。


「なぁロイスト。君はどうして僕をここまで慕ってくれるんだい? 君は龍と龍の戦いに巻き込まれた側だし、生活破綻したって恨みはしても、僕に忠誠を誓う道理はないはずだ」

「──……だからこそですよ」

「え?」

「荒天龍ファラン殿が仰っておりました。貴方様は度々起きていた異常気象の元凶・滅喰龍に二度も致命打を与えてみせたと。自分の目に狂いはなかった──と」


 何それ初耳。居ないところで自慢されるとこんなにも照れ臭いものなのか。


「それがどうして、慕う理由に?」

「我ら雷角牛は群れで暮らす生き物。群れの統率を図るべく、一際強いものをリーダーにして忠義を誓う習わしがあります。それが拠点(新たな住まい)ではリドゥ殿だったのです」

「ファランじゃなく? 実力ならあっちが遥かに上だけど?」

「彼は大人気ないから嫌です」

「──……それもそうか」


 この短期間でファランのクソガキっぷりを見抜くとは。雷角牛、鋭い。

 そんな会話をしているうちに、連結作業を終える。


「よし、終わり。それじゃ、残りもよろしく」

「任されました」


 僕たちは再びラネリアを目指して進み出した。

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