40 日々の変化は突然に(Lv100)
「滅喰龍はな。死戦を求めておった」
戦闘後、焼け野原と化した二龍大戦跡地、丘の下の森にて──。
ファランが変身時に脱ぎ捨てたという服を共に探していると、彼が不意にそう言ってきた。
「なんですか急に? アレが死にたがっていたとでも言うんですか? とてもそうは見えませんでしたけど」
「そういや、見てなかったかもか。お主が落っこっとる間、彼奴は満身創痍ながらも笑っとったのじゃよ」
「戦闘狂のとかではなく?」
「それもあろうが、そうじゃない。無意識じゃろうが、勝ちばかりの龍生に辟易しておったのよ」
「そういや超えてみせよとか言ってましたね。他者の魔法奪っといて何言ってんだとは思いましたが」
「相手のモチベーションにもしたかったんじゃろうな。怒り・屈辱ほど力を与えるものはない」
「だとすると、なんか勝ち逃げされた感ありますね。満足ゆく戦いをさせられてたと言うか……」
「ホントじゃよ。こちらからすりゃあ迷惑も良いところじゃ。悦るなら勝手に悦ってろってんじゃマジで……お、あった」
ここでファランがようやく見つけた服を絞る。雨曝しの所為ですっかりびしょ濡れだった。
リドゥは我が身を振り返る。
惰性と失意のままに過ごしていた五年間だったが、心のどこかで現状の打開を求めていた時期があった。自分なりに色々と働きかけたその結果、個人で入荷先の顧客を抱えたりと人との繋がりが得られた時は人知れずガッツポーズを取ったものだ。
それでも、挫折した戦闘に関与してなかったから結局は現状の延長線でしかなくて、程なくして虚しさが勝るようになったのは言うまでもない。
これを踏まえると、変化を欲していた滅喰龍の気持ちも少しは分かる気がした。他者の力を奪って煽って踏み躙ってきたのは間違いだとは思うが。
「さて──、そんじゃあ帰るとするかの。服を見つけた以上、此処に用はない」
「ですね。皆んな大丈夫かな……」
拠点出入口はイワビタンが守ってくれているが、それでもあの激闘だったのだ。此処から拠点までそれなりに離れているものの、余波が響いていないとは考えにくい。一刻も早く戻らなければ。
「寿命と戦闘以外では死ななそうな奴らじゃがな。ほれ、さっさと行くぞ」
「うーい」
僕は先行くファランの背中を追いかけて、帰路に着いた。
「ところで、帰り道どっちじゃっけ?」
「代われ!」
◇ ◇ ◇
数十分後──。
「あっ!」
やっとこさ拠点の岩場まで来るなり、僕は声を上げた。ファランの氷塊が拠点まで飛んできていたのだ。
更には岩場に亀裂まで入っていた。これは拠点内に影響出てるやもと不安が過ぎり、早急に岩場を駆け下りて、入口にある三つの小石を払い、イワビタンを出現させる。
「ゴゴン……」
「ただいまイワビタン。皆んなは無事? 早速中に入れてくれ」
「ゴゴォン……」
しかしイワビタンは退かない。それどころか目を細めて渋っているようにも見える。
もしかして、何か被害が出たのだろうか? 外から見る分には大丈夫そうだが、何処か水漏れしているのかも知れない。
「何かあったのか? イエスならゴゴン……、ノーならゴーン……と答えてくれ」
「ゴゴン……、ゴーン……」
しかしイワビタンは何方もオウム返し。上手く説明出来なかったようなのでもう一度伝える。
「違うんだ。そうじゃないんだ。ゴゴン……かゴーン……どっちかを言ってほしいんだ」
「ゴゴン……、ゴーン……」
それでもイワビタンは両方答える。一体どうしてしまったんだ?
頭を悩ませていると、「……のうリドゥ」とファランが割り込んできた。
「もしかしてコヤツ、イエスともノーとも言っとるんじゃないか?」
「え?」
「じゃから、おそらく死者は出とらんのじゃよ。だが、それはそうと無事と言っていいものか判断しかねる出来事もあった。儂にはそう聞こえなくもないぞ」
もしそれが本当なら、こちらの予想通り、何処か水没してしまったのかもしれない。それなら一刻も早く水を抜かなければ。
「オーケー、イワビタン。どうなのか判断するから道を開けてくれ」
「ゴォォン……」
イワビタンはようやく横にズレて、出入口を開けた。
「ただいま!」
「グル……」
「! モケッ!」
「「「「「モケ〜〜ッ!!」」」」」
声を投げると、レッドドッグと風導が出迎えてくれた。
しかし、他の住人たちは姿を見せない。下層にでも行ってるのだろうか?
なんて焚き火の広間を見回していると、風導が大慌てな様子で話しかけてきた。
「モケ、モケモケ! モッケピロピロパヨンパヨン!!」
「えぇ?」
要約すると、留守の間に皆んなに異常事態が起こったらしい。死者は出ていないようだが、無事だけど無事じゃないとはこの事か!
風導が食糧庫に向かって手招きすると、「フンコー……」とフンコロガシを筆頭に、拠点の仲間たちがぞろぞろと出てきた。
「ん?」
最初に姿を見せたフンコロガシに違和感を抱く。一回り大きくなっているような……? これにはファランも「脱皮するんかコイツ?」なんて首を傾げている。
「シュー……」
続いて出てきたのはリドゥ並に大きくなったグレアスネーク。下半身は蛇のままながら、人間の腕と五本指が生えており、顔立ちもどこか人間味を帯びていた。
あと……今気付いたけど、雌だったのねおまえ。
「……」
その後ろからはノイズコンドル。翼とは別に、グレアスネーク同様腕が生え、二足歩行になっていた。体毛は変わりないが、明らかに半人半獣と化していた。
横から「儂らよりデカくなってね?」なんて聞こえるが、今は触れないでおく。
そして最後、食糧庫からひょっこり顔を出したイガマキだった。
彼は人の頭部くらいに巨大化していた。真っ黒なウニ頭から一つ目を覗かせていて──、
「イガ……」
誰よりもスレンダーな長身で入ってきながら、気まずそうに「おいっす」と手を挙げたとさ。
「ぞろぞろだがだが……」
そこから更に、避難モンスターたちが怒涛の勢いで螺旋階段から上がってきたのだが、皆尽く巨体化なり腕が生えるなり半人半獣と化していた。
僕は大きく息を吸って、全て声に変えて発した。
「情報が多い!!!!」