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39 二龍大戦④ 〜雨過天晴〜

 龍と龍が、それぞれの角に魔力エネルギーを溜めて睨み合う雨天下にて──。


「おい、お主。ちと耳を貸せい」

「ん?」


 龍と龍が先手を見計らっているそのとき、荒天龍が唐突に、僕に小声で呼びかけてきた。

 予断を許さない状況下で何事だろう? 僕は嫌な予感を抱きながらも、律儀に耳を傾ける。


「なんですか? また無茶振りですか? 今度はどんな特攻をせよと?」

「話が早くて助かるわい。お主が折った角を見よ」


 ほれみたことか。

 しかし抵抗する暇がないのは明白。言われた通りに、こちらを見下ろす滅喰龍を見上げる。

 根元から折ってみせた左角部分からは、魔力が音を立てて流出していた。


「ガァァッ!!」


 滅喰龍の魔力の弾幕から逃れつつ、荒天龍はかき消されぬよう声を張る。


「あの通り、魔力が漏れているじゃろう! 魔力エネルギーの出力を制御できていない証拠じゃ!」

「? だったら片角だけに集中は出来ないんです?! 明らかに勿体ないじゃないですか!」

「お主は失った片腕を止血しながら戦えと申すか?!」


「──!」


 この言葉にリドゥは理解する。滅喰龍は現状、魔法を使う度に折れた左角から魔力を漏らし、余計に消耗する──云わば常時出血状態にあるのだ。


 つまるところ……──、


「……ワンチャン、ジリ貧に持ち込めると?!」

「それはあくまで保険じゃ! 悠長に逃げ回らんで一気に攻める! 彼奴は隻角になった今、放てる魔法も限られておるからの!」

「魔力の過剰漏れを懸念して?」

「それもあるが、おそらく魔法の数自体が減ってるんじゃ!角を喰らった際に分かったが、角に魔法情報を貯蔵しておったみたいでのう。隻角になったことで事実手数が半分になったと思えい!」


 二つある記録棚の一つを強奪したようなものか。


「それで魔法を取り戻せたんですね。正直どういう理屈かと思ってましたよ」

「うむ。一か八かじゃったが、上手くいって良かったわい」


 博打かい。


「……ん?」


 ここで僕の中に疑問が芽生える。荒天龍は何故、角が魔法の発動媒体であることをわざわざ話した?


 まさかと思うが……──?


「気づいたようで何より。もう一本も破壊するぞ!」


「はぁぁ?!」


 何を言っとるんだこの龍は?


「先程の魔法三つも喰らった左角には無かった! とすれば一部タネが割れとる右角を破壊すれば奴は魔法を完全に失う! やる価値はある!」

「あれは行き当たりばったり装ってたから頭に乗れたんでしょう!? 絶対警戒されてる手が二度通用すると思いますか?!」

「そこは考えておる! さぁ、振り落とされるなよ!」

「うわっ!!」


 荒天龍は言うなり、戦いに有利な上空目指して駆け上る。

 当然、滅喰龍だって上を取られたくない。こちらが動くなり「させるかァッ!!」と多種多様な魔力弾を放ってきた。

 それを荒天龍は「神風!」と、先程取り戻したばかりの凄まじい突風を口から放ち、滅喰龍へ飛ばし返した!


「ぬぅぅう!!」


 滅喰龍は全身に魔力弾を浴びて動きを止める。その隙に荒天龍は見下ろせる位置まで駆け上り──、


「お主、行ってこぉい!!」


 身体を翻して、僕を滅喰龍めがけて放り落とした!


「ギャァァァアアアーーーーッ!!!!!!」


 僕は盛大に情けない悲鳴を上げて宙を落ちる。何を隠そう、スカイダイビングさせられるとは聞かされていなかったのだ!


 何が「考えておる」だ馬鹿天龍! 僕が嫌がると分かっててはぐらかしやがったな! 祝勝会でゲテモノ食わせてやる! 絶対泣かす!!


 だが、今は恨み言より自分の生命だ! 身体を目一杯に広げて風の抵抗を増やし、体勢を安定させる。

 だがしかし、滅喰龍はそれを黙って見ているわけがない。


「何かと思えば二度目とは芸のないことよ! 今度は撃ち落としてくれるわァ!」


 滅喰龍の咆哮とともに、無限にも思える魔力の弾幕が僕を襲ってきた。


「やらせんわァ!」


 荒天龍はすかさず空気砲と氷塊を放ち、次々と相殺していく。なんなら数発滅喰龍に当てて「グぉお!!」とたじろいだ。


「今だァァア!!」


 僕は身体を折りたたみ、急速に落下。着地に備えた!


「むぅん!!」


 ──が、滅喰龍は頭を逸らし、僕を素通りさせたとさ。


「残念だったな小童! また角を折られぬ為ならば、多少の被弾、甘んじて受け入れるわ!!」


 なんてこったい!

 奴はこちらを着地させないことに意識を割いて、致命傷成りうる攻撃をわざと受けて怯んだフリをしていたのだ。思ってた以上に辛抱強かったのは想定外!


「ちくしょオオオオォォォォォ……!!」


 僕は悔しみながら地上へ真っ逆さま。迫り来る死を覚悟した。


「諦めるには早いぞォ!!」

「!?」


 ──ところへ、凄まじい上昇気流が身体を包み込み、滅喰龍の腹部へ押し上げた!


「そういうことか……!」


 風の中心に乗りながら僕は直感する。荒天龍がこれを見越して、上昇気流を発生させていたのだ。こちらが攻勢に立て直すことを前提で!


 一体どこまで信じてくれるんだ……!


「痛ッ!!」


 目尻を拭う暇もなく滅喰龍の腹部に激突する。上昇気流で押し流されそうになるが両爪を鱗に食い込ませ──、


「ぬっ!?」

「だったら応えるしかねぇじゃねぇかバカヤローーーー!!!!!!」


 リドゥは残りの魔力を全て引き出し、滅喰龍の腹部を抉ってみせた!


「ぐぉぉぉォォオオオーーーー!!!!??」


 今日一番の金切り声とともに、滅喰龍の腹部から激しく血が噴き出す。思った以上に抉れ、動脈まで破壊したのだ。


 これには荒天龍も大絶賛だ!


「大金星じゃお主! お主は二度も滅喰龍に致命打を負わせたぞ! 立役者になったと誇れ!!」

「それはそうと助けてぇーーーーッ!?」


 助けを乞う間にも僕はしっかり落下する。抉ったと同時に上昇気流の最高点に達して軌道から外れてしまい、賞賛を浴びるどころじゃないのだ。


「あ、うん」


 聞こえてきた荒天龍の声から程なく送られてきたは着地用の気流に、僕は懸命に入り、着地に備える。


 それを見届けてから──、急激な失血に息も絶え絶えな滅喰龍に荒天龍は睨みを利かせていた。


「さぁ滅喰龍よ、その魂にあの人間と儂の姿を刻むがいい! 人は荒天龍と呼んではいるが、空の王とは儂のこと! 貴様に背負える名じゃないわァ!!」


「……!! グォオオオ!!!!」


 滅喰龍は口角を上げ、最後の魔力を振り絞った。


 ◇ ◇ ◇


「ぐげっ……!」


 咆哮が轟き間もなく、僕は地上に不時着した。

 盛大に地面に身体を擦り、ヒリヒリ痛む胸元を撫でる。


 あのヤロウ……風の出力いい加減だったな。滅喰龍から目を逸らせない場面なのは理解しているつもりだが、おかげで身体の前面が痛いじゃないか。


 それはそうと、彼は大丈夫だろうか? 滅喰龍の腹を抉りはしても、簡単に事が進むとは思えないと上空を見上げれば──、


「うわっ……」


 そこにあったのは、滅喰龍を雨粒で撃ち抜き、雷で焼き焦がし、氷の刃で切り刻んだ身体を風でバラバラに裂き飛ばす荒天龍の姿だった。


 あまりにも凄惨だった。人によっては眩暈を起こすような最悪失神してしまいそうな。圧倒的暴力性が魅せる残酷極まりない光景だった。


 それなのに──、


「すっげぇ……」


 自分はそれを、何処か神々しく思えたのだった──。


「お、居った居った」


 ボトボトと地へ堕ちてく肉塊を見送りながら、こちらを見つけた荒天龍がゆるりと飛んでくる。


 荒天龍は人獣形態になって着地すると、満面の微笑みで、手を差し伸べてきた。


「お主の姿、儂の龍生に刻もう。名はなんと言う?」


 そう言った瞬間──、豪雨が止み、荒天龍に後光が差し込んだ。


「──……ッ!」


 彼の後ろ姿が眩しかったからとか、決してない。

 その言葉を聞いた途端、僕の目から涙が溢れだした。


 散々な日々だった。成功を夢見た冒険者生活に初手からつまづき、悪意に晒され、屈辱と諦念に苛まれ、果てには解雇された──、無価値だと切り捨てられた五年間だった。鍛錬期間を含めれば何者にも成れなかった十五年だった。


 そんな底辺の自分が、生物の頂点たる龍に認知された。名を覚える価値のある生物だと言ってもらえた。


 これ程嬉しい日が訪れることを、どうかあの時の自分に教えてやりたい。


「──……ッ! リドゥ・ランヴァーです!!」


 リドゥは喜びを噛みしめながら、荒天龍ファランの手を取った。

雨が過ぎ去り晴れたところで第3章完結です!

また明日からもよろしくお願いします!!(ブクマ・広告下の評価欄も押してくれると嬉しいです!!)

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