38 二龍大戦③ 〜執念〜
「ギャゴォォオオオオ!!?」
──走馬灯が終わりを告げたその刹那。滅喰龍は悲鳴とともに体勢を崩し、丘に激突した!
「どわぁっッ!?」
リドゥは衝撃に飛ばされながらも、どうにか体勢を立て直す。
何があったかと覗いてみれば、荒天龍がいた。どうにか意識を取り戻した荒天龍が滅喰龍の喉元に噛みついて、重力まかせにぶら下がり、攻撃の軌道をずらしてみせたのだ!
荒天龍は噛み付いたまま、器用に滅喰龍を煽る。
「儂を殺せたとでも思うたか!? とどめを刺さずに余所見とは腑抜けたものよのう!」
「ぬぅう! まだ生きておったのか?! このまま散れば潔かったものをしぶとく喰らいついてきおって!!」
「こちとら執念の男!! 力を奪われ逃げたあの日を思えば、一度の気絶で引き下がるものかァ!!」
「グォォオオオッ!!?」
荒天龍は減らず口を叩きながら滅喰龍を揺さぶり、何度と丘に叩きつける。当然丘は衝撃に耐え切れるわけもなく、次々と亀裂が走っていき、これ以上踏み止まるのは危険極まりない。
だが逃げ出す訳にもいかない。皮肉にもこの瞬間、作戦決行への条件が満たされた。
やるなら今しかない!
「南無三!!」
僕は先行きの成功を祈りながら、崩れゆく丘の上から滅喰龍の頭に飛び乗った!
当然、滅喰龍は「む?!」とリドゥに気づく。
「小童め、思わず我に飛び移ったか! 足場を選ぶ余裕もないとは情けなし! 子奴を今度こそ屠った後に潰してやるわ!!」
「殺られねぇよスカタン! 殺し損ねたのを悔やむがいいわァ! ガァ!!」
二頭の龍は再度荒々しい技の応酬を繰り出しながら再び天高く舞う。あまりの向かい風と激しさに今にも振り落とされそうになりながら、どうにか頭毛を辿って左角の根元にしがみつくが──、
「何をしておる小童! 我の角を休み場にするでないわぁ!」
逆鱗に触れたか、滅喰龍はこちらを標的に角の先端へ魔力エネルギーを溜め始めた!
それを荒天龍は見逃さず、巨大な氷塊を形成を開始! 氷塊の先端を尖らせると、
「気逸らし御苦労! おかげで隙が出来たわい! さぁ思い出せ滅喰龍! 貴様が喰い逃した幼き龍たる儂の名を!! ハァッ!!!!」
滅喰龍の喉元へ直撃させた!
「グォァアアッ!!!!」
これには滅喰龍も堪らず悲鳴を上げる。
狙うはココ!!
「今だぁ!!」
僕は『消滅』の魔力を両手に纏い、左角の根元へ伝播させた!
当然、滅喰龍は頭部の異常事態に目ざとく反応し、振り払わんと暴れ狂う。
「!? 何をする小童! 止めんかぁッ!!」
「させるかァッ!!」
そこへすかさず荒天龍は追撃し、大きく怯ませると、僕へ強く、力強く呼びかける。
「やれるぞお主、そのままいけぇ!」
「ッ……!!」
僕は奥歯をガチリ……! と食いしばる。
これだけ御膳立てされたなら、応えないわけにはいかない!
「だらっしゃぁぁあああーーーーッ!!!!」
僕は持ち得る限りの魔力を解放して、左角を壊死折った!
「ムォォオオオーーーーッ!!!?」
滅喰龍がここ一番の悲鳴を上げて、僕は「うわっ!」と振り落とされる。それを荒天龍はすかさず──華麗に無視して落下する左角をバクン、と丸呑み。
その刹那──。荒天龍の隻角が輝きを帯びるとともに、根元から再生した!
「しゃあッ! 戻ったァーーーー!!!! ……おぉ、そうだそうだ。ほいっ」
荒天龍は雄叫びを上げると、思い出したように墜落寸前の僕に上昇気流を送り、己の身体へ優しく着地させた。
僕は頭部へよじ登り、心からの──、罵倒を送った。
「てんめぇ荒天龍、ちょっと僕のこと忘れてたでしょ?! 地面のシミになるとこだったぞコノヤロー!!」
「間に合ったから良いじゃろが! 風の力だって奪われとったんじゃし!」
「それを先に言ってたらケチつけずに待ち忍んでたよ! 報連相大事!!」
「野菜で龍の腹が膨れるかむぉッ!?」
言葉の途中で荒天龍は咄嗟に回避行動をとる。炎の塊が飛んできたのだ。
見上げれば、滅喰龍が「ぐぬぅ……!」と歯ぎしりしていた。
「貴様ら、よくも我の角を折ってくれたな! 断じて許さ──ん……?」
ここで滅喰龍が何かに気づき、荒天龍の顔をじっと見つめる。
そして、感慨深げに声を昂らせたのだ。
「そうだ! 先の氷塊にその闘志溢るる目、覚えがあるぞ! 13年前に喰い損ねた荒天龍ではないか! 我に力の多くを奪われながら、今日まで生きていたとは思わなんだ!」
「死んでたことにされてたの儂?」
「今は触れんでおきましょ」
「再び挑んできたこと、感謝しよう! 疾うに諦め忘れていたが、喰い損ねたのが後悔だった! 角の破壊は水に流して、今度こそ喰ろうてくれるわァ!!」
「ゴダゴダ長いんだよ老害が! 喰えるもんなら喰ってみやがれェ!!」
「その怒りや良し! 我を超えてみせよ!!」
龍は互いに雄叫びを上げた。
戦いは遂に、最終局面へ移行する。