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36 二龍大戦① 〜87年100年来〜

「ギャォオオオオオ!!!!!!」


 先手を打ったのは荒天龍だった。

 咆哮を一つ空に轟かせると、猛スピードで滅喰龍の懐に潜り込み、鋭い牙で噛み付いた!

 しかし、滅喰龍はうんともすんとも言わない。それどころか依然余裕の表情だった。


「ふん! 早速心臓部を狙うとは積極的でよろしい! だがひと噛みで怯む我ではないわァ!!」


 滅喰龍は頭を捩り、魔力エネルギーを吐き出し、荒天龍の頭へ熾烈に浴びせる。一気に勝負を決めてきた!


「む?!」


 だが、滅喰龍は勝利に雄叫びを上げず、訝しんだ目を向ける。それもそのはず、荒天龍はすかさず頭部を翻して魔力ブレスを避けるなり魔力ブレスし返せば、舞った爆煙の中から感心する声が響き渡る。


「ほぉ! これを避けて反撃とは良き反射神経! 稚児ながら戦い慣れておるわい!!」

「抜かせ老龍! このまま稚児に殺られるがよいわ!!」

「「ゴギャァアアアア!!!!」」


 相対した二頭の龍が上空で畝り、噛み付き、魔力エネルギーを吐き出し、技の応酬を繰り広げ合う。静かな『見限られた森』は、龍が荒れ狂う悪夢の地と化した。


 それをリドゥは、どこか他人事のように眺めていた。


「すっげぇ……」


 今自分は、頂上決戦に立ち会っている。龍と龍が鎬を削る、上位冒険者でも一生に一度(まみ)えられるかの光景の目撃者になれるだなんて!


「うわっ!!」


 なんて涙ぐんでいたら、危うく流れ弾に当たりそうになった。一発でもかすれば致命傷通り越して即死なのだから、他人事気分でいられないと直ぐに切替える。


「にしてもさぁ……」


 と、体勢を立て直して空を見上げる。崩落した渓谷の遥か上空では、二頭の龍が勢い衰えることなく争っていた。

 ここで穿つ機を狙え──と言われたものの、本当にあれに混ざれるのだろうか? 今更ながらまた不安になってきた。

 だが、荒天龍が言う『会心の一手』を担わされた以上、ここで退けば荒天龍は間違いなく死ぬ。そしたら夢見が悪いし、何より森が今以上の大打撃を受けるかもしれない。そしたら拠点のモンスターを連れて集団引っ越ししなくてはならなくなるが、数が数だけに絶対ギルドに目をつけられる。

 まぁ、ギルド云々は龍同士の争い時点でほぼ確定している。とにもかくにも、逃げるわけにはいかないのだ。そうやむを得ない決意を再認識したときだった。


「ん……?!」


 僕は上空の異変に気付く。滅喰龍が声高らかに笑っているのだが……──。


「グワハハハ!!!! やるな稚児よ! 我がここまで喰らいつかれるのは87年ぶりよ! その足掻きに敬意を表し、本気を出すとしよう!!」


「やってみやがれドクサレ爺がぁ!!」


 荒天龍は青筋を立てて突撃した。

 だが、離れて観察している僕はそれが悪手だと直感する。荒天龍は頭に血が上って気付いていないが、奴は既に喉へエネルギーを溜めている!


「炎壊!」

「! かぁっ!」


 滅喰龍から仰々しく吐き放たれた炎の塊を荒天龍はすかさず魔力ブレスを放って破壊する。

 そこへすかさず滅喰龍は、相殺した折に生じた煙幕に紛れて顔を近付けると、荒天龍の顔面に紫色の液体を吹いた!


蒙毒(もうどく)!」

「ウゲェッ!? 何す……ぐブ……っ!!」


 荒天龍は言葉の途中で吐血。滅喰龍が吹いたのは即効性の毒だ!

 その隙に滅喰龍は、今度は岩石の塊を多数宙に生み出し、荒天龍を標的に定める。


岩斬(がんざん)!」

「ウグゥ……!!」


 降り注ぐ岩の雨! 荒天龍は頭部への直撃は免れたものの、全身へ諸に浴びて怯んでしまった!

 滅喰龍はそこを見逃さず、曇天へ魔力エネルギーを解き放ち──、


「そして──、傀雷(かいらい)!!」


 荒天龍へ巨大な雷を落とした!!


「ごほ……」


 全身から煙を噴き出して、荒天龍は地上へ落下してしまった。


「荒天龍!!」


 地上へ呼びかけるが返事はない。完全に気を失っているのか、そもそも聞こえていないのかは判断しかねるが、彼が倒れてしまっては作戦どころではない!


「グワッハッハ!」


 そこへ滅喰龍の笑い声が再び森に轟く。


「連撃放つも100年来か?! 久々に張り合えて愉しかったぞ! さて、ところで……──」


 が、瞬時に声を落ち着けると──、丘の上の僕を見下ろしてきた。


「そこの小童。貴様は何しにここへ来た? 他愛ないその身に目もくれとらんかったが、何故そこから逃げずに留まっておった?」


 言葉を間違えれば殺られる。生物としての本能がそう脳に訴えていた。

 自分一人でやるしか……──なんて甘えは直ぐ捨てる。単身挑めるとは酔っ払ってもほざける存在ではないことは姿を見た時から分かりきっていたし、それを目を合わせた瞬間改めて実感したからだ。


 もちろん、一人で動けば即死は免れないことも──。


 だから僕は、全身から噴き出す不快な汗に、恐怖でいっぱいいっぱいの身体を震わせながらも言ったのだ。


「──師の(いくさ)を見届けに参りました……!」

「何……?」

「彼は言ってました! 屈辱を晴らす姿をその目に焼き付けろと! 貴方を討ち滅ぼすために大地を歩き空を超え、ここまで来たのだと! 荒天龍、この名を憶えてますか?!」


 もちろん、荒天龍はこんなカッコつけた言い方は微塵もしていない。だが今は少しでも、彼が起きるまでの時間を稼がなければ!

 しかし、滅喰龍は「はん……」と鼻息を吐くと、無慈悲に切り捨てる。


「何を言うかと思えば下らん。喰らった者を一々憶える道理などないわ」

「……っ…………」


 あまりの言葉に、僕は絶句した。

 少なくとも僕は今まで、イシノシを初め、生きる為に殺めてきたモンスターは血肉にし、道具に加工してきた。それが殺した生命への礼儀だと心から信じている。


 だが、滅喰龍にはそれがなかった。喰らうだけ喰らって、後は忘れる。荒天龍を「唯我独尊傲慢龍」と罵ったりしたが、目の前の龍こそが真の唯我独尊・傲慢の権化だった。


「それにだ! 敗者に刻める歴史はない! 貴様も師と仰ぐ稚児の敗北を悔やみながら、儂の存在を冥土の土産にするが良いわ! ガァッ!!」


 滅喰龍は顎まで裂けた口を開いて、僕を喰らわんと突っ込んできた。


 あ、死んだ。


 確信したその刹那──。リドゥは三日前の出来事を、走馬灯のように思い出した。

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