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35 雨天決行

 荒天龍に連れられたリドゥは、かの宿敵が潜んでいるらしい渓谷を一望できる丘の上で、風雨の空を見上げていた。


 ──遂に来ちゃったかぁ……。


 僕は惜しげも無く「はぁ……」と溜め息を吐く。天下無双直々の指導のもとで、自身の魔法『採掘』改め『消滅』に向き直せたのは得難い僥倖ではあったものの、やはり気乗りしなかった。


 だって、今から相対する者は、荒天龍から力を奪ったというではないか。


 いくら「最低限仕上がった」と荒天龍から太鼓判を押されてはいても、たかが人間の分際で龍からの指示を遂行出来るビジョンがどうしても湧かない。なんなら決行前の余波であっさり自分が消滅する可能性だって大いにあるのだ。

 たった一人の人間にどこまで出来るというのか? どうせならこちらが修練している間に、奴さんには引っ越していてほしかったが、今もこうして来ているのだから依然として潜伏中なのは悲しくも明白だ。


 それでも、僕は逃げずに決戦の地へ立ち、こちらが貸し出した着替えを魔改造して私物化してる荒天龍の後ろ姿をどこか冷静に見つめていた。


 当然、龍の戦に巻き込まれた以上は逃げられないという諦めもあった。しかし、それ以上に、荒天龍によって鍛え直された自身の力がどこまで通用するかも知りたくもあった。

 幸いにして『これ以上の豪雨は生活に支障をきたす』という大義名分もある。それがなければ生物に魔法を使ったりするものか。


 それでもやはり──、僕は気が進まなかった。魔法を再認識しての初陣が、イシノシでも刃牙獣でもない、未知数の敵なんだもん……。


「ところで荒天さま。貴方の力を奪ったっていうヤツとは何者なんですか?」

「んぁ? 滅喰龍」


 荒天さまはあっけらかんと答えた。


 滅喰龍──。

 血肉を喰らうことで対象の力を奪い、その力で多くの生態系を破滅へ追いやったとされる龍の名だ。その悪名は初めて観測されてから留まることを知らず、つい最近の12年前にも何処か遠い国を壊滅させたという。


「そうでしたか。お疲れさまでした」


 その名を聞くなり、僕は踵を返して、帰路へ着こうとした。

 しかし「待てやコラ」と襟元を掴まれた。しっかりは捕獲された。

 これに僕は抗議する。なんなら喧嘩する。


「聞いてないですよ滅喰龍だなんて! 他国のギルドが総出で挑んで勝てなかった厄災中も厄災じゃないですか!」

「だって喋ったら嫌がるじゃろお主! なんなら拠点もすっぽかし夜逃げしとったのが目に見えたわ!」

「誰が拠点捨てるもんですか! あんだけ採掘()っといて捨てるくらいならアンタを追い出すよ!」

「おー言ったなこの野郎! オッケ! これ終わったら追い出してみろ! ボコボコに返り討って泣かせてやる!」

「やってみろや! その代わり他のことで泣かしてやるからな! 具体的には飯に毒にも珍味にもならないただただ不味いもの混ぜてやる!」

「うっわ陰湿! 陰湿の極み! 仕返しが小物甚だしい!!」

「龍同士の喧嘩に巻き込むヤツに言われたくねぇぇええーーーー!!!!!!」


 僕は声を荒らげた。滅茶苦茶に騒いだ。ここまで怒りを顕にしたのは彼が初めてかも知れない。


 ──本当に、とんでもない出会いを果たしてしまった。


 内心色々と込み上げるものを感じながら、僕は「ん?」とふとした疑問を抱く。


「ところで荒天さま。その滅喰龍とやら、どうやってここまで来たんです? ギルドはどんな異変にも早期対処できるよう観測気球飛ばしまくってますが、目撃情報入ってませんでしたよ?」

「大方儂から強奪(パク)った力で暴風雨でも起こしながら飛んできたんじゃろ。悪天候時に飛ばす程人間も愚かじゃあるまい」

「なるほど……で、滅喰龍はあの洞窟に居るんですよね? だったら早く行かないと勘付かれちゃいますよ」

「そんな必要はないわい。此処から仕掛けるんじゃからの」

「此処から?」


 言われて僕は今一度丘の上から渓谷を一望する。まだまだ歩かなければならない距離なのに、一体何を考えているのだろう?


「お前さんを使うなら此処が一番適しておる。それにこれ以上近付いたら位置バレして初手ミスる」

「でしたら、その初手はどうぶつけるんです?」

「こうするんじゃ」


 荒天龍は口を膨らますと、ボッ──! と魔力の塊を洞窟めがけて放った。


 ──カッ!!


 瞬間、渓谷一帯の岩場と森が消し飛んだ。

 龍のひと吹きで一帯が不毛の地になるとは恐れ入った。激戦区になると想定し、イガマキ、フンコロガシを通じて一帯のモンスターを拠点に避難させておいて正解だった。


 そして──、洞窟方面から丘までドス黒い気配(オーラ)が伝わってきたかと思えば、滅喰龍が長い黒色の身体を(うね)らせて、僕らの前に君臨した!


「ギャゴォォォォオオアアア!!!!!!」


 雷鳴のような咆哮が大気を裂き、大地を震わせる。これが錯覚でも比喩でもなく、更には咆哮に呼応するかの如く雨雲が増々澱み、雨音はサーカス団のドラムの乱打を思わせる程に激しさを増した。

 お初にお目にかかる滅喰龍は怒りに震えていた。


「貴様だな?! 我が根城を潰したは! 何処の龍の骨とも知れぬが死に晒せ!」

「忘れてて結構! 無理くり思い出させてから奪い返してやるわい半端コピペ野郎がァ!!!!」


 そう中指立てた荒天龍も丘から飛び降りたかと思えば、真の姿──白い荒天龍へと戻り、上空に並び立った。


 ギルドが総力を挙げても観測叶うか怪しい、あまりに壮大で規格外で非現実的な目の前の光景に、思わず「はは……」と乾いた笑い声が出る。


 ──僕、生きて帰れるかな……?


 かくして今ここに、二龍の大合戦が始まった!!

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