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34 致命的十年間

「そっかぁ……」


 指摘された真相に、リドゥは両膝を着いて、天井を見上げた。


 自分の魔法は『採掘』じゃない──。


 それに気付いた途端、多くの記憶が濁流の如く脳裏に蘇ってきた。

 最初に思い出したのは、魔法が発現した孤児時代。道端で転んだとき、手を着いた地面が変にえぐれたのを見て、自身の魔法の存在に気付いた。

 それからは無我夢中だった。『触れた部分が抉れる』魔法を使いこなせば貧困から脱却できると無闇に信じて、ひたすら練習と知識の収集に励む毎日。魔法本を正しく理解するべく、手始めになけなしの駄賃で買った文字の勉強本を擦り切れるまで読んだのは今でも記憶に新しい。

 その過程で冒険者の主活動『討伐・調査・採取採掘』を見聞きし、自身の魔法が『採取採掘に役立つ=採掘』だと致命的な思い込みをしてしまったのだ。


 それから10年後──。数え年16歳で冒険者登録試験を受けて、合格を得られたときの感激はよく覚えてる。


 その翌日、初めてのモンスター討伐依頼で同期生全員が討伐の証を持ち帰った中、自分だけがズタボロになって搬送された。

 一瞬だった。罠を仕掛けようと『採掘』に取り掛かった瞬間を狙われたのだ。自分の魔法が、一秒の停止が生命に関わる戦闘と相性最悪だと自覚するまでそう時間はかからなかった。


 その日から、僕を見る同期生たちの目が明らかに蔑みに変わった。レリアだけは変わらずに接してくれはしたが、その安寧を遥かに上回る強い嘲笑が心を蝕んでいき、遂に耐え切れなくなって、レリアの心遣いを無下にすると分かりながら独りになれる時間帯を選んだ。


 ──そして、一龍月前に実力不十分と解雇された。


 これら全てが、たった1回の勘違いによるものだなんてあんまりだ。


「なんじゃお主? 自身の魔法の本質を履き違えておったのか? 折角の魔法が勿体ない……どうした?」


 いつまでも天井を見上げているところを不躾に覗き込んできた荒天龍が、僕の顔を見るなり表情を正して聞いてくる。


 気付けば僕は、大粒の涙をボロボロ流していた。


「いやぁ……ホントに勿体ないことしたなぁって……。もっと早く気付いていれば鍛え方も違ったのかなとか。あの時だってワンチャン上手くいってたのかなぁ……」

「……あぁ、なるほど。既にしくじった後じゃったか。ドンマイじゃの」


 邂逅してから身勝手極まりない荒天龍ですら言葉を選ぶ始末。余程酷い顔をしているらしかった。


「モケ……」


 風導がぞろぞろ……と抱きしめてくる。気を遣わせてしまったようで、嬉しさ以上に申し訳なさがどっと押し寄せてくる。


 ──こんなに時を戻したいと思ったのは初めてだ。


「…………ボッ!!」

「うわっちイ!!」


 内心嘆いたその瞬間、急に左手を熱いものが襲い、僕は横に飛び退く。レッドドッグが火を吹いてきたのだ。


「ちょ、ちょっとレッドドッグ?! いきなり何すんのさ! 風導に当たったら危な──」


 声を荒らげながら振り向くも言葉を失う。真剣な表情でこちらを見つめるレッドドッグと目が合ったのだ。


「………………」


 レッドドッグは表情を崩さない。それどころかまるで──、


 ……あぁ、そうだ。レッドドッグだって悔やむ過去があるのだ。


 レッドドッグは一龍月前、傷を癒せる場所を欲した刃牙獣の襲撃に遭い、適わなかったどころか血を分けた家族を殺されている。それでも彼は塞ぎ込むでもなく機を狙った末に仇を討ってみせたのだが、討った直後は燃え尽きていた。今思うとあれは「あの時にどうにか出来てたら……」という後悔だったとも見て取れる。


 それでも彼は後を追うでもなく生きる選択をした。後悔した上で生を全うすると決意したのだ。


 だったらこっちだって、今更悔やんで泣き崩れるわけにはいかないではないか。


「……ありがとう。レッドドッグ。もう大丈夫だ」

「ガゥ」


 レッドドッグは短く吠えると定位置に戻り、荒天龍そっちのけで丸くなったのだった。


「風導たちもありがとう。元気出た」

「「「「「モケッ」」」」」


 風導たちもハグをやめて、再びぞろぞろ……と距離を置き、荒天龍とのやり取りを見守る姿勢に戻る。


 その途端──、荒天龍は遠慮なく口を開いてきたのだった。


「にしてもお主よ。今見ていて思ったが、魔法の出力(おっそ)いのう。あんなんじゃあ攻撃に転用したところで高が知れとるわい。避けられ小突かれハイ終了じゃ」

「言われずとも分かっとりますよ。立ち直った途端ズケズケ言ってきやがりますね」

「ホントのことじゃもん。今こうして喋っとる間も、もっとあぁすれば、こうすればってムズムズして仕方ないんじゃ。ということで、お主の魔法の使い方、儂が特別に教えて進ぜよう」


「はいぃ?」


 突然何を言っているんだこの人?

 こちらとしては大助かりだが、向こうのメリットが無さすぎる。一体何が目的だ?


「此処に住む間の駄賃と思えい。それに儂は未成熟な状態が嫌いじゃ。力半ばのクセにブイブイ言うとるヤツが大嫌いじゃ。だからいい加減に奪った力で調子に乗っとるヤツから力を取り戻し、本来の儂に戻るんじゃ」


 とどのつまり、独り善がりのお節介焼きということらしい。


「つーことで、教えるからには全力で身につけろ。そんでヤツを仕留めに同行させる」


「ハイ出たァ!!」


 どうせ裏があるんだと思ったよこの荒天龍! 僕は詳しいんだ!


「なんじゃ貴様、無償で教えを乞えるとでも思ったか? 図々しいやつじゃのう」

「さっき居候代と言ってたでしょうが! もう自分の発言忘れたか長命種?!」

「確かに言うとったな。それはそれじゃ!」

「無責任だ! 横暴だ! 唯我独尊傲慢龍に改名してしまえ!!」

「ちょっと長いから嫌じゃ」

「ケェえええーーーーッ!!!!」


 リドゥは言葉にならない怒りを放った。


「ところで服ない? 全裸はキツい」

「持ってねぇのかよ!!?」


 ◇ ◇ ◇


 そしてコテンパンに鍛えられた五日後、決戦当日──。

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[一言] レッドドッグもいい奴!! 漢(雌かも?)は黙って、立ち振る舞いで語る!
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