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32 驟雨襲来

 一方、その頃──。


 ラネリアの異変なんざ露知らぬリドゥは、ラネリアから遠く離れた『見限られた森』に構えた拠点で、いつもの朝を迎えていた。


 寝起きの日課となっている『イワビタン退かし』からの朝陽を浴びて意識を覚まし、朝食の準備に取りかかれば皆が率先して動き出した。

 リドゥが水汲みから帰ってくるまでに風導が薪木を組み、レッドドッグが火をつけているその間、フンコロガシが食糧庫のスライド式ドアを蹴り開けて、イガマキが人数分の食糧を持ち出す。出会ってから僅か一龍月で、自然とこのルーティンが確立されていた。


 その中で、皆にまじらず、離れた場所から静観する新メンバーが一匹と一羽居た。


 その一匹はグレアスネーク──。睨むことで獲物に強い暗示をかけて動きを停止させた隙に毒牙で仕留める生物で、イガマキに連れられる形で五日前に拠点に住み着いた。

 曰く、二十日前の嵐で住処が埋まってしまったそうで、且つ新たな住処も探しあぐねていたところを再会したイガマキに此処を紹介されたという。取り敢えず何故ヘビと知り合いなのか小一時間問い詰めたいが、あまりに不毛過ぎるので未だ聞けていない。


 もう一羽はノイズコンドル──。あまりの滑空速度に凄まじい風切り音を発することからそう名付けられている彼は、ある悪天候の日に突然換気窓へ突っ込んできたのだ。いやマジで。

 なんでも、風導の通訳を介せば、ゲリラ豪雨に対処しきれず墜落しかけたところで偶然拠点(ここ)を見つけ、力を振り絞って避難を試みたのだそうだ。

 ──が、途中で出てきたイワビタンが出入口を塞いでしまったので急遽舵を切った結果、換気窓に突っ込み嵌ったんだとさ。


 それが、四日前にあった出来事だった──。


 ヘビとコンドル。生態ピラミッド的に大丈夫だろうか? そう当初は懸念していたが、蓋を開けてみれば「おっす」「うっす」と適度な距離を保ち合っていた。

 とはいえ、どことなく「家族が居るなら連れてきとけ。区別つかねぇからな」「そっちこそ雛がいるなら気を付けなスカタン」的な空気を両者共に放っていたりする。それを踏まえて一言で言い表すなら『どつき合わないようにしてる犬猿の仲』といったところだろう。

 まぁ、仲良くしてくれるのが一番だが、空気が淀まないよう心掛けている以上こちらから言うことはない。今でこそ皆で食事を摂ってはいるものの無理強いする気はないし、後は自分なりの生活スタイルを確立してくれればそれでいい。


 とか何とか思考を巡らせるうちに、リドゥたちはほぼ同時に朝食を食べ終わり、洗浄がてら釣具も携え川へ向かう。


「「「「「モケッ」」」」」


 こちらが食器を洗っている間、川上に移動した風導たちは慣れた手つきで釣りをする。


 風導たちが大きく姿を変えてから今日で二十日……──。当時はどうなるかと思っていた新しい身体にもだいぶ慣れてきた様子だった。

 それと共に恩恵も生まれた。身体が大きくなったことで単純に筋力が増し、一度に持てる量が増したのだ。それによって狩った獲物を運び込むまでの往復数が減り、その分他の作業に時間を使えるようになっていた。


 と同時に弊害も生じた。身体が大きくなったことで今まで使っていた寝床が使えなくなってしまったのだ。

 具体的に言うと、木の枝代わりに乗っていた石棒が真ん中からボッキリと! 果てにはかなり窮屈になっていたので部屋を改装する羽目になったのには面食らったものだ。


 だが、そんな苦労は彼等を思えば些末な事でしかない。訳も分からず身体が変貌を遂げて途方に暮れて、一人にさすまいと全員で変わってみせた彼等を支え、見守っていくと決めているのだ。


「モケーッ!!」

「「「「モケケーッ!!」」」」

「ん?」


 そのとき聞こえた歓声に顔を上げると、風導たちは腕から溢れんばかりの大物を釣り上げていた。

 微笑ましいなぁ……なんて一人笑みを浮かべながら食器の水を切っていると──、


 ──ぽっ。


「!」


 鼻頭に、突然水滴が落ちてきた。

 空を見上げてみると先程の快晴は何処へやら? 洗い物をしている間に空は曇天一色となっていた。


 そして──、一気に驟雨(しゅうう)とは思えぬ土砂降りになったと思えば、雷まで鳴り響いたではないか!


「おいおい、マジか……!」


 大急ぎで食器を纏めて立ち上がる。ここのところ天気の急変多くないか?!


「風導! これデカくなる! 急いで帰ろう!」

「「「「モケッ!!」」」」


 大物を風導とともに急かせかと帰路に着く。

 程なくして予想が的中する。凄まじい豪雨に視界不良を起こし、歩き慣れた道にも関わらず拠点までが嫌に遠い。


「風導! 来れてる?!」

「「「「「……ケ……〜ッ!!」」」」」


 呼びかけてから間を置いて、微かな声が途切れ途切れに返ってくる。すぐ後ろを走っている筈なのにまともに聞き取れないなんて雨の絨毯爆撃もいいところだ。


「……ッ! 見えた!」


 息を吸っているのか水を吸っているのか区別つかなくなってきたところで、ようやく拠点のシルエットが見えてきた。

 先ずは風導だ! 全員の武士を確認しながら「入れ入れ!」と先行を促し、自身も後に続く。


「皆んな大丈夫?! 居る?!」

「ガゥル」

「イガー」

「フンコー」

「ゴォォン……」

「「「「「モケッ!!」」」」」

「シャー」

「クェェー」

「オッケ居るな! イワビタン、出入口塞いでくれ!!」


 構えていたイワビタンは待ってましたとばかりに「ゴゴォン……」と出入口に立った。


「待てや貴様ァ!!」


「え?」


 ──そのとき、確かにそう聞こえたと思った次の瞬間、イワビタンを突き飛ばしながら何者かが拠点へ飛び込んできた。


「うおっとっとごベぇ!」


 その勢いのまま何者かは焚き火に突っ込み、灰が盛大に舞った。


「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!?  早く冷やして──!」

「あー、構わん構わん。こんなもん熱いうちに入らん……て、 うん? そこに居るは人間か?」

「え?」


 その言葉と共に舞った灰が治まり、リドゥは目を見開く。

 そこで頭を掻いていたのは、片角が欠けた──龍頭人体の男性だった。

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