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28 四人組視点

 一方その頃、四人組は──。


「ところでミーニャさん。リドゥ兄ちゃんって内臓とか痛めてました?」


 情報を整理がてら一度昼休憩を取らんとキャンプ地を目指していると、一つ後ろを歩くエウィンが不意にそう尋ねてきた。


 ミーニャと呼ばれた古傷の女性は「え?」と振り返り、問い返す。


「どうして、そう思いましたか?」

「だってあの人、怪我は治ってるのに、会話中やたら目が泳いでたんスよ。脂汗も凄かったし、何処か目に見えないところでも庇ってたのかな? って」

「でしたか。ですが、それは有り得ませんね」


 ミーニャは『(⦿=瞳孔・角膜・虹彩)』を失った両眼を見開きながら、器用に足元の根を避けつつ続ける。


「私の『波動』は肉眼で見えないものを映し出します。これは光を失ってからも変わりないので、キズ等の異常を見落とすことはまず有り得ません」

「失明してるのに見えるってことスか? どういう原理です?」

「形あるものが光源で覆われているのを魔力で感じ取っているのです。それが生物であれば中心に球体を抱えておりますし、流血や傷口なんかは紅く光っているのですよ」

「……詰まるところ心の眼──もしくは失われた第六感ってやつッスか?」

「まぁ、はい。自分の言葉で落とし込めたならそれで良いです」


 どうも釈然としないでいると、先頭を行くゴードンが説明を付け加えてくる。


「ミーニャはその力で霧中に潜むモンスターなんかも暴いてみせるぞ。向こうが魔力・気配を遮断する術を持ち得ていればそれだけで虚を付けるし、闇夜の盗賊団だって単身壊滅させた実績もある」

「ひぇぇ……! 昔はブイブイ言わせてたって噂本当だったんスね!」

「まぁ失明を機に、現在は討伐依頼は程々に救援隊を中心に動いてますがね。負傷者とか傷口も、どれが急を要するか見た目で判断しないで済みますから便利ですよ。それはそうと誰ですかブイブイなんて噂流したのアイアンクロってきますから教えなさい」

「暴力反対!」

「後にしろ二人とも。──ところで話を戻すが、彼の目が泳いでいたのは俺も気になってはいた。ミーニャの言い分を聞くに、内臓も紅くはなかったんだろ?」


 そうなのだ。

 失明してからというもの幸か不幸か、『波動』は傷口だけでなく臓器の損傷にも色を与えるようになったのだ。五感が一つ減った影響だと思うが、これのおかげで一命を取り留めさせた者の数も少なくない。故にエウィンの疑問は不可解極まりなかった。


「そうなんですよね。となると、コミュニケーションを苦手としてるとしか思えませんが、会話がたどたどしいわけでもありませんでしたし……そこのところどうでしょう、知り合いっぽいレリアさん」


 ここにきてミーニャは、拠点を出てからずっと無言でいる最後尾のレリアに初めて話を振る。


 レリアは「あー……」と重い溜め息を吐いて切り出した。


「あんまり大きな声で言えることじゃないけど……虐められてたの、あいつ」

「え」


 ミーニャは思わず足を止める。エウィンが「わぷっ」と右肩に顔をぶつけてきたが、今は気にしてられない。


「うちの同期、『有能な性悪(チンピラ)』が残念ながらまぁ多くてさ。討伐依頼初陣でボコボコになって帰ってきたリドゥをこれでもかと嬲ってたんだよね。その所為で同期は勿論、善悪問わず実力者とか未来の有望株見るだけで身体震わせてんの。嫌でも自分と比べちゃうし、思い出しちゃうから」

「そんな……」


 想像を絶する真実に、陳腐な言葉しか出てこない。能力差はこの際置いとくとしても、同期運ばかりは天命が悪かったで片付けていい話じゃない。


「そ、その同期方は今も居るのですか?」

「いんや、クビになった。小賢しい奴は未だ潜伏(のこ)ってるけど、レイム上司のおかげでかなり減った方だと思うよ」


 ここでゴードンが口を挟んでくる。


「実際、酷いところではマシな方で被害者が自主退職。最悪殉職に見せかけて殺したなんて噂もあるぞ。寧ろ、リドゥは今までよく生きてたな?」

「見かけ次第話しかけてましたからね。あいつらだって私が居るところで茶々入れてくるような馬鹿じゃなかったし。結局、人が少ない夜間しか出入りしなくなって碌に会わなくなっちゃいましたが」

「そうだったか……。レリアなりに気遣ってはいたのだな」

「そりゃそうですよ」


 これにレリアは声を張る。

 彼女の抱える球体は、怒り、哀しみ、そして己への失意の色を帯びていた。


「周りがクソ過ぎたのもあるけど、あいつ善いやつでしたもん。一年前が最後でしたけど、マトモに会話できるというか、そうしたいと思える同期はアイツくらいでしたし。しょうもない冗談も飛ばし合えるし、一緒にご飯食いに行ったら食べ方綺麗だし。戦闘不得手と知ってからも自分なりにこなせる依頼探し回ってお得意先も手に入れて。昔一緒に行った採掘依頼だって滅茶苦茶丁寧に純度高いの沢山掘り当ててましたもん。なんなら『アリ』だとすら思ってました。というか好きでしたよ。けどさァ……ッ──!」


 と、ここでレリアの言葉が途絶える。

 その目からは、止め処無い涙が、光を帯びて溢れていた。


「今のアイツなりに居場所ができてるんじゃ、連れ戻せるわけないじゃん……! またしんどい思いさせるくらいなら、このままっ……放っといた方がッ、アイツなりに元気にやってけるじゃんよォ……!!」


 そう言って遂にレリアは、その場にしゃがんで膝を抱えてしまった。

 そんな彼女をミーニャはただ、そっと抱きしめるしか出来なかった。

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